テレモンピュール探偵事務所
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そして何とか気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと席を立った。
前書き
そして何とか気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと席を立った。
それから手洗い場に行き、鏡の前でもう一度自分の顔を見つめた。
すれ違いざまに会釈をすると、そのままオフィスを出て行った。
私はそのまましばらく身動きが取れなかった。そして何とか気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと席を立った。それから手洗い場に行き、鏡の前でもう一度自分の顔を見つめた。顔色が悪いような気がした。
私はハンカチを取り出すと、それでそっと汗を拭った。そして再び席に戻った。
私はもう一度、
「嘘に決まっているじゃないか」と言った。
自分に言い聞かせるように何度も何度も同じ言葉を繰り返した。しかし、いくら否定しても頭の中から消えてくれなかった。むしろその言葉はどんどん膨らんでいくばかりだ。このままではいけないと思い、気分転換のために窓の外を見た。ちょうど太陽が沈みかけているところだった。空は淡い紫色に染まっている。
「綺麗だな」
私は無意識のうちに呟いていた。
次の瞬間、急に吐き気が込み上げてきた。私は慌てて洗面所に駆け込んだ。そして胃の中のものを全て吐き出した。口の中に嫌な味が残っている。私は何度か口をゆすいだ。そして水を飲むと、近くにあった椅子に腰を下ろした。ふと、顔を上げると、
「あ……!」
思わず声が出てしまった。目の前に洗面台があって自分の姿が映っているのだが、その姿が瑠璃の姿にそっくりだったのである。
いや、違う!これは私だ!間違いなく私だ!私以外の何者でもないではないか!どうして気がつかなかったのだろう? 私はその場にしゃがみ込むと、頭を抱えた。
「瑠璃……」
小さく呟くと同時に涙が溢れ出してきた。嗚咽を漏らしながら泣き続けた。どうしていいかわからなかった。ただ怖かったのだ。自分が自分でなくなるような気がしてならなかった。このまま気が狂ってしまうかもしれないと思った。だが、どうすることもできないのだ。今はとにかくこの恐怖に耐え続けるしかない。
どのくらい時間が経ったのだろうか?気が付くと、
「大丈夫ですか?」という声が聞こえてきた。顔を上げると、そこには見知らぬ女性が立っていた。心配そうに私の顔を見つめている。年齢は二十代後半といったところだろうか?長い黒髪がよく似合っている美しい女性だった。服装は白いブラウスを着ていて、
「あの……大丈夫ですか?」
「え?」一瞬、何を言われているのか理解できなかった。
「気分が悪そうでしたので」
「ああ、大丈夫ですよ」
私は笑顔を作って答えた。すると彼女も微笑み返してくれた。その表情を見て安心したのか、彼女はゆっくりと歩き出した。すれ違いざまに会釈をすると、そのままオフィスを出て行った。
「今の人って誰かしら?」近くにいた女性の同僚が話しかけてきた。
「さあ、わからない」
「何だか美人だったわね」
そう言って彼女は微笑んだ。
私もつられて笑った。その瞬間、頭の中にかかっていた靄のようなものが消えていくのを感じた。まるで霧の中から抜け出したような感覚だ。私は立ち上がり、背伸びをした。そして椅子に座り直すとパソコンの電源を入れた。そして仕事に取りかかった。不思議と集中力が増している気がした。
気がつくと午後七時になっていた。フロアに残っている社員の数は少なくなっている。ほとんどの者が退社した後だった。もちろん探偵の姿もなかった。
今日は定時で帰れそうだ。そう思った矢先、電話が鳴った。私はすぐに受話器を取った。
「はい、こちら人事課です」
『あの……』若い女の声だった。明らかに困っている感じだ。『すみません、そちらに電話をするように言われたのですが』
「どなたですか?」
『ええと』相手は口ごもっている様子だった。『ちょっと待ってくださいね』と言って少し間を置くと、小さな声で『雨宮さん』と言った。
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