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テレモンピュール探偵事務所

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昨日の一件については、調査会社を通してすべて解決済みであるという内容だった。

 
前書き
昨日の一件については、調査会社を通してすべて解決済みであるという内容だった。
その涙は、探偵に対してのものなのか、それとも自分に対する同情の念からなのかはわからない。
女がどんなに尽くしても、あの男は何も変わらなかった。 

 
今日も定時を過ぎても仕事を続けるつもりだ。私はパソコンに向かうと、まずインターネットに接続した。メールボックスを開く。昨日受信したばかりのメッセージの中に見慣れないアドレスを見つけた。
差出人は、Kさんとなっていた。私は早速、中身を確認することにした。
Kさんというのは、例の女のことである。彼女が探偵の事務所を訪れ、調査結果の報告を受けたことは知っていた。その内容についても知っている。しかし、送られてきた内容までは知らなかった。だから少し興味を覚えたのだ。
ファイルを開きながら何気なくディスプレイの表示時刻を確認した。午前九時五十七分だった。
私は慌ててメールの内容に目を通した。内容は簡潔なものだった。昨日の一件については、調査会社を通してすべて解決済みであるという内容だった。瑠璃を殺した犯人は別にいるということが書かれてあった。また、私が事件の関係者であることについても触れてある。ただし、犯人の名前などについては伏せられていた。これは当然であろう。犯人の正体を知っている者は、探偵と私の二人しかいないからだ。
私は続けて添付されている写真を見た。そこに写っていたのは、若い男女の写真であった。どうやら二人が一緒に撮った記念撮影らしい。男性の方は背が高く、ハンサムな顔をしていた。どこかで見たことのある顔だと思ったが、どこで見かけたのか思い出せなかった。私は更に画面をスクロールして、文章を読み進めた。そこには探偵と彼女のやり取りが記されてあった。
私はそこで手を止めた。──探偵は彼女に、犯人は自分のことをよく知っていたと答えたようだ。つまり、彼が瑠璃を殺害した犯人だということだろう。
女はそれを聞くと、涙を流したという。その涙は、探偵に対してのものなのか、それとも自分に対する同情の念からなのかはわからない。あるいは、別の理由があったのかもしれない。いずれにせよ、女の心の中で何かが変わったことだけは間違いないだろう。
女がその後、どのような行動を取ったのか、それは私にはわからない。
しかし、あの男を殺すに至った経緯は理解できる気がする。
おそらくあの男への殺意は、以前から女の心の中にあったに違いない。それが今回の件で一気に膨れ上がったのではないだろうか。その結果、彼女は男を殺すという凶行に及んだのである。
では、何故そこまであの男のことを嫌ったのか? 理由はいくつか考えられるが、最もわかりやすい理由としては、男の態度にあるのではないだろうか。男は常に傲慢な態度を取っていた。他人の意見に耳を傾けようとせず、自分の考えばかりを押し通そうとした。そればかりか、自分は他人とは違うのだという優越感に浸りきっていた。そのような男の性格が、やがては女の心に大きな負担を与え続けていたのである。
女はきっとこう思っていたはずだ。あの男は自分が支えてあげなければ、何もできない人間なのだ、と。しかし、現実は違った。女がどんなに尽くしても、あの男は何も変わらなかった。相変わらず我が強く、他者の忠告を聞き入れようとしなかった。次第に女は疲れ果てていった。それでも、女はあの男から離れなかった。むしろ、以前よりも強く依存するようになった。
それはなぜか? 女にとって、あの男が唯一の拠り所になっていたからに他ならない。たとえ、周囲からはみ出すような存在であっても、彼女にとってはかけがえのない存在であったのである。 
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