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たどん王国の激ひみつ【完結】

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魔族の男

 
前書き
海原悠真が、魔族の男にキスを誓ったという。突然の出来事に戸惑っていると、魔王軍の幹部を名乗る魔族が現れた。魔族は「お前が好き。だから殺して標本にする。わたしのコレクションにする」と語った。 

 
「これって!チョモランマ星の万能治療装置じゃない! ちょっと!こんな高価なものを…エベレスト先生、気でも狂ったの?」
沙世子の理解がついていかない。
するとサンダーソニアは涙を流しながら言った。
「エベレスト先生はね。
沙世子に惚れてたのよ。
でも、彼にはフィアンセがいるし、教師と生徒は結婚できないから、せめて命を助けてあげたいって」
その言葉に沙世子は泣き崩れた。
そして鼻水を垂らしながら「ありがとう。
エベレスト先生大好きよ。
私、病気を治してサンダーソニアと幸せな結婚生活を送ります」と誓った。
「もちろんよ」サンダーソニアは沙世子の手を握りながら言った 沙世子はサンダーソニアに抱きつきながら「これからよろしくお願いします」と言って泣いた それを見てサンダーソニアももらい泣きして「こちらこそ、末永くよろしくね」と言った。

「…ええっと、そういうお二人のなれそめでありましてぇー…」
結婚披露宴でエベレスト先生が仲人の挨拶をしている。
その横にはウエディングドレスを着た二人の女生徒。
サンダーソニアと沙世子が佇んでいる。
二人共とても幸せそうだ。
「……ええ、この二人はぁー、同じ文芸部でして、仲良くなりましたが、沙世子さんが持病を抱えておりましたところ、サンダーソニアさんの魔法によりぃ、病を克服しましてぇー、晴れて結ばれることになりましたあ!」会場から大きな拍手が起こる。
「それでは、誓いのキスをお願いしまーす」
おわり。
「…………」
「どうしたんですか? 先輩?」
「いや、なんでもない」
「そうですか?」
「うん」
「じゃあ、行きましょう」
「わかった」
俺の名前は海原悠真。
どこにでもいる普通の大学生だ。
今日は大学のサークルでハイキングに来ていたのだが、山道の途中で休憩を取っているうちに眠ってしまい、目が覚めたらそこは異世界だった。
目の前には見慣れぬ服を着た女の子がいて、彼女は俺を勇者様と呼んでいた。
そして、ここは魔王に支配された世界らしい。
どうやら俺は神様に選ばれて、伝説の剣と共にこの世界に召喚されたようだ。
突然の出来事に戸惑っていると、さらに別の女性がやってきた。
彼女もまた勇者だと名乗った。
どうやら俺は勇者パーティの一員として迎え入れられたようで、これで魔王討伐の旅に出られることになったのだ。
しかし、旅に出てからというものの、なぜか女性しか現れないし、何かとトラブルに巻き込まれることが多かった。
「本当に男はいないのかよ」と聞くと、「私達だけよ」と答えが返ってきた。
しかも、彼女たちは全員とんでもない美少女揃いである。
そんな状況で旅を続ける内に、いつの間にか俺はハーレム状態になっていた。
そんな日々が続いて一ヶ月ほど経ったある日、とうとう魔王軍の幹部を名乗る魔族が現れた。
奴の名はアスタロトというらしい。見た目は人間の少女の姿をしていたが、その力は凄まじかった。
俺たちは苦戦を強いられたが、最後はなんとか勝利することができた。
だが、代償として仲間の一人が犠牲になってしまった。
こうして俺の初めての冒険が終わった。
「ふぅ~」
自室に戻ってベッドの上に寝転がり、天井を見上げる。
(なんだかすげえ長い夢を見ていたような気がする)
ぼんやりと記憶が甦ってくる。
「ん?」
右手を顔の前に持ってきてじっと見つめると、小指の付け根あたりが少し膨らんでいた。
不思議に思って触れてみると、プニッとした感触がある。
そのまま手を持ち上げて、蛍光灯の光にかざすと――、
「なっ!?」
なんとそこに、透き通るような肌色の肉塊がぶら下がっていた。
慌てて左手に持ち替えて確かめてみても、そちらにも同じく肉塊が付いている。
どちらも親指より一回くらい小さく、ぷっくりと盛り上がっており、よく見れば脈打つようにドクンドクンと動いている。
(えっ……これってまさか、あれだよな?)
心臓が高鳴る中、恐怖心とストレスで血圧が上がる。これは妖獣ドミノ満月だ。凶悪なスライムの一種で、体内に取り込んだ相手を養分にする性質を持っている。つまり、今の状況を説明すると、俺は妖獣に取り込まれてしまっているということだ。
「うっ」
急に吐き気が込み上げてきたのでトイレへと駆け込む。便器の中に顔を突っ込んでしばらく吐いていると、次第に落ち着いてきた。「ハァ、ハァ……とりあえずは助かった」
安堵のため息を漏らすが、状況は最悪だった。もしこのまま死ぬようであれば、ミイラ化した状態で見つかることだろう。そうなれば家族に心配をかけてしまうかもしれない。
いや、もしかしたら死体は発見すらされず、ドミノ満月の養分になっていたかもしれない。早く倒さなくては。幸いにして武器は手元にある。「……やるしかない」
覚悟を決めると、ゆっくりと立ち上がった。そして部屋に戻るためドアノブに手をかけた。
「おっと」
扉に鍵が掛かっていることに気が付く。急いでいるので、足を使って強引に開けようとするが開かない。仕方なく窓から外に出ようと窓際へ向かう。
「マジかよ」
カーテンを開けると絶句した。
なんと外が見えない。完全に真っ暗になっている。まるで夜にでもなったかのように。
いや、実際に夜の闇が世界を覆っているのかもしれない。
「おいおい、妖獣に寄生されている影響か」
もしかして体内時間も狂ってしまったのだろうか。そう考えると焦りが増してくる。こうしている間にも体は少しずつ溶け出しているはずだ。一刻も早く助けを呼ばなければ。
スマホを充電しっぱなしにしていたのを思い出した俺は、慌てて電源を入れた。するとそいつは節足動物の擬態だった。カサコソとゴキブリの様にスマホが逃げ回る。
「くそっ」
悪態をついてから画面をタッチするが反応がない。バッテリー切れのようだ。「チッ」
思わず舌打ちをしてしまう。こんな時になんてこった。俺は苛立ちを抑えながら、他の連絡手段はないかと鞄を漁る。中から触手が出てきた。首に絡みつく。「ぐえっ」と声が漏れた。気管が絞めつけられ、呼吸ができない。意識が遠のいていく。「が、がばぁ……!」
必死に振り払ってから、今度は自分の頭を叩いた。脳味噌が激しく揺れる。「よし」
痛みによってどうにか我を取り戻した。深呼吸をして気分を落ち着かせる。「……はあ」
ため息をついた。ダメだ、もうどうすればいいのかわからない。俺は途方に暮れた。
そこでふと思い出す。そういえばあの時、誰かの声を聞いた。お前が好き。だから殺して標本にする。わたしのコレクションにする。喜べ、と言っていた。もしかしてあいつは、この状況を把握していたのではないか。そう考え、すぐに頭を振る。いや、きっと聞き間違いだ。そもそも俺のことを好きだと言ってくれる物好きな奴がいるはずが……。「悠真くん」
唐突に名前を呼ばれ、心臓が飛び跳ねた。口裂け女が俺の名前を呼ぶ。そんな、どうしてここに。
「ずっと待ってたんだよ」
彼女は言った。「でもなかなか来てくれなかったから、つい殺しちゃった。あはは、ごめんね?」
笑いながら謝っているが、その目は全然笑っていない。
「ねえ」
彼女は続けて問いかけた。「キスしよう?」
答えを待たずに、唇を重ねられる。 
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