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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第85話:B・R


翌朝・・・。

訓練施設の前で4人の若者を目の前にした俺は高らかに宣言した。

「皆さんにはこれから殺し合ってもらいます!」

俺の声の余韻が朝の空気に溶けて行く中、スバル達4人の
表情は凍りついていた。
隣に立つヴィータの方を見ると俺の方を見てあんぐりと口を開けている。

(あれ?ひょっとして俺・・・スベった?)

俺の背中を冷たいものが流れ落ちる。
この場の空気に耐え切れなくなった俺は、大きく咳払いをすると
努めてにこやかな表情を作って、4人の顔を見た。

「というのは冗談で、今日はお前ら4人にバトルロイヤルをやってもらう」

俺がそう言うと、フォワードの4人は揃って首をかしげると
互いに目を見合わせる。

「バトルロイヤル・・・ですか?」

4人を代表するかのようにティアナが尋ねてくる。

「そ、バトルロイヤル。知らない?」

「いえ、バトルロイヤルは知ってます。ですが・・・」

「なんでバトルロイヤルかって聞きたそうだね」

「ええ・・・まあ・・・」

「それはな・・・面白そうだからだ!」

俺が少し胸を張ってそう言うと、真剣に話を聞く態勢になっていた
ティアナはガクッと肩を落とす。

「面白そうって・・・」

「え?面白そうじゃない?バトルロイヤル。誰が一番強いのか!?みたいな」

俺が明るい口調でそう言うと、ティアナは怪訝な顔をする。

「・・・ゲオルグさん、なんか人変わってません?」

「そんなことないぞ。なあ、スバル。お前も面白そうだと思うだろ?」

俺はバトルロイヤルという言葉を聞いた瞬間から笑顔を浮かべていたスバルに
話を向ける。

「はいっ!ね、やろうよ!ティア」

ノリノリで話しかけるスバルに呆れたのかティアナは頭を抱えていた。

「はいはい、わかったわよ・・・。それより・・・」

ティアナはそう言って先ほどから何も喋っていない2人に目を向ける。

「エリオとキャロはいいの?」

ティアナの質問にエリオはすぐに頷く。

「はい。僕らってお互いに個々で戦ったことってないので、
 一度やってみたいとは思っていましたから」

「そう。じゃあキャロは?」

「はい。わたしもいいです」

キャロは控えめにそう言うと、こくんと頷く。

「よしっ、決まりだな。じゃあルールを説明するぞ。
 舞台は廃棄都市区域を設定する。お前らはそれぞれ4隅からスタートだ。
 攻撃判定はいつものとおり、シールドを抜けて攻撃が当たったら撃墜だ。
 何か質問は?」

俺が話を終えると、スバルが手を挙げる。

「何か優勝商品とかないんですか?」

「・・・欲しいのか?」

「はいっ!」

「じゃあ、優勝者には俺が何かおごってやろう。食いもんじゃなくていいし
 制限金額も無しでいい。ただし、常識の範囲内でな」

「ホントですか!?これは燃えてきたよー!」

スバルが拳を握りしめて気合を入れている。

「・・・ただし、最初に撃墜された奴には、罰として1週間
 俺の仕事を手伝ってもらう」

俺がそう言うと、先ほどまで気分上々だったスバルがピシリと固まる。

「・・・マジですか?」

「マジだ。容赦なくこき使うからそのつもりで」

「・・・これは・・・負けられない・・・」

罰があるとなると急に悲愴な雰囲気が漂ってくる。
キャロなどはまだ自分がそうと決まったわけでもないのに泣きそうな表情だ。
そんななか、ティアナだけが飄々とした雰囲気を纏っていた。

「ん?ティアナは怖くないのか?罰」

「はい。別に・・・」

そんなティアナの様子にスバルが茶々を入れる。

「そりゃティアはゲオルグさんが大好きだもんね。
 1週間も一緒にいられるなら、願ったり叶ったりでしょ」

「うっさいわね。そんなんじゃないわよ。第一、ゲオルグさんには
 なのはさんっていう恋人がしっかりいるでしょ」

さすがにとりとめがなくなってきたので、俺は手を叩いて話を止める。

「いいからさっさと始めるぞ。お前らさっさと行け!」

俺がそう言うと、4人は訓練スペースの中に散っていった。
4人の背中が見えなくなったところで、ヴィータが話しかけてくる。

「で?おめーの狙いはなんだよ」

「は?なんのことだ?」

「おめーのことだから意味もなくこんなことはやらねーだろ」

「ん?レクリエーション的な要素が欲しいと思ったのは本当だよ。
 ここまでかなり辛い戦いが続いたしな」

「ふーん。で?狙いはそれだけじゃねーんだろ」

「あいつらはさ、お互いの手の内を知り尽くしてるだろ。
 そういう相手と、しかも単純に敵と味方っていう関係だけじゃない状況で
 どう考えてどう動くかを見てみたかったんだよ」

俺がそう言うと、ヴィータはなるほどというように何度も頷いていた。

「やっぱ、お前ってちゃんと考えてんのな」

感心したように言うヴィータに向かって俺はニヤっと笑ってみせる。

「ま、お仕事ですから」



ヴィータと協力して、4人の様子を逐一追えるように訓練スペースの
監視システムの設定をしていると4人から配置についたとの連絡が入る。
モニターには思い思いのやり方でこれからの戦いに向けた準備をしている
様子が映っていた。

スバルは元気に準備運動をしながら。
ティアナは目を閉じて戦術を練るように。
エリオはじっと訓練スペースの中央を見つめて。
キャロは小さな姿のフリードとコミュニケーションを取って。

こんなところにも個性が出るもんなんだなと感心していると、
ヴィータが俺の背中をつつく。

「お前は誰が最後まで残ると思ってんだ?」

「さあな、それはわからん。ただ、スバルが真っ先にやられるのは
 勘弁して欲しいな」
 
「ん?なんでだ?」

ヴィータは俺の言葉に疑問を感じたのか首をかしげて尋ねてくる。

「この先1週間の仕事の捗り具合を考えると胃が痛くなる・・・」

俺がそう言うと、ヴィータは声を上げて笑った。
俺はそんなヴィータにちょっと反感を覚える。 

「俺にとっちゃ笑い事じゃないんだけどな・・・。
 ところで、ヴィータはどうなんだ?」

「あたしか?あたしは意外とキャロが残るんじゃねーかと思ってるぞ」

「ほぅ。根拠は?」

「あいつは誰にも狙われなさそうだからだ」

表情から見るにヴィータは至って真面目に答えているのだが、
俺はその答えに笑いを堪えられなかった。

「くくくっ・・・そうきたか・・・なるほど、それは確かにそうかもな」

「・・・あたしは真面目に言ってんだけどな」

「悪い悪い。そんな切り口もあるんだなと思ってさ。勉強になります」

俺がそう言って頭を下げると、ヴィータは不機嫌そうに顔をそらした。

「さてと、無駄話はこれくらいにしてそろそろ始めるか・・・」

俺は4人との通信をつなぐ。

「そろそろ始めるけど準備はいいか?」

俺からの通信に対して、

「いつでもいいです!」
と、元気に返事をしたのは南東角からスタートからするスバル。

「準備OKです」
と、冷静に返すのは北東側にいるティアナ。

「はいっ!」
と、拳を握りしめて短く返す南西角のエリオ。

「はい、大丈夫です」
と、控えめに返してくるのは北西角からスタートのキャロだ。

4人からの返事を確認して、俺はヴィータの方を見る。
ヴィータも俺の方を見て頷く。

「よしっ、じゃあバトルロイヤル。時間無制限1本勝負。始め!」

俺が芝居がかった口調でそう言うと、4人は一斉に動き始めた。
俺とヴィータはモニターでその動きをチェックする。

「おっ!やっぱスバルはそー来たか・・・」

ヴィータの声に反応して訓練スペース全体の魔力反応を表示する戦術モニターに
目を遣ると、南東にある点が北に向かって真っすぐ移動しているのが見えた。
明らかにティアナを狙う動きだ。
スバルを追跡しているサーチャーからの映像を見ると、ビルに挟まれた
細い道を高速で移動している姿が映っていた。

「スバルは戦術家としてのティアナの強さを一番知ってるからな。
 戦術云々の争いになる前に叩いておかないとどうにもならないっていう
 判断なんだろ」

「だな。まー、ティアナもスバルがそう考えるのはお見通しだった
 みてーだけど・・・」

ティアナが映るモニターを見ると、手近なビルの一室に身をひそめている
姿が映る。

「ただ隠れてるだけ・・・か?」

俺は戦術モニターに目を走らせる。
見ると、ティアナの周りで小さな魔力反応が無数に飛び回っていた。
疑問に思った俺は、ティアナがいる辺りの映像を呼び出す。
そこに映ったのは、小さな魔力弾があちこちのビルの外壁に
ぶつかっている映像だった。

「ティアナは、何やってんだ?」

攻撃用にしては威力が小さすぎるし、そもそもスバルはまだ射程圏外だ。
ティアナのやっていることの意味を理解しかねた俺はモニターの映像に
目を凝らす。

「おいゲオルグ。サーチャーの反応が増えてるけど、おめーが追加したのか?」

「は?俺は増やしてないぞ」

ヴィータに向かってそう答えながら俺は戦術モニターに目を走らせる。
見ると、ティアナの隠れているビルの周辺の外壁に埋め込まれるように
小型のサーチャーが設置されていた。その数20超。

「ん?この場所って・・・。」

俺はじっと小型サーチャーの配置を眺めると、あることに気がついた。
確認のために、戦術モニターでティアナの魔力弾が着弾した地点を確認する。
すると、魔力弾の着弾地点と小型サーチャーの設置地点が見事に一致していた。

「そういうことか・・・。あいつ、なんつー器用なことを・・・」

俺が感心しながらそう言うと、ヴィータが首を傾げて俺を見る。

「何かわかったのか?」

「ティアナはサーチャーを小さい誘導型の魔力弾の中に仕込むことで、
 自分自身は動くことなく周囲に観測網を作り上げたんだよ」

俺がそう言うと、ヴィータは驚きで目を丸くしながら自分でも
戦術モニターを確認する。

「ホントだ・・・。魔力弾の着弾地点とサーチャーの反応がある地点が
 一致してやがる。器用なヤツだな・・・」

「まったくだよ。ところで、ライトニングの2人はどうしたかな?」

そう言って俺は戦術モニターの表示範囲を訓練スペース全体に広げる。
すると、南西から北東に向かって高速で移動する点と
中央からやや北西よりの地点で動かない点が見つかった。

「どうやらエリオもスバルと同じ結論に至ったみたいだな」

俺はそう言いながらエリオを追跡するサーチャーの映像を確認する。
そこにはストラーダの柄につかまって上空を飛ぶエリオの姿があった。

「おーおー、早えーな。こりゃティアナの観測網に引っ掛かるのは
 スバルと同時くらいか」

ヴィータはエリオの移動速度の速さに感心するように声を上げる。

「そうだな。しかし、これは見ものだぞ」

俺の言葉にヴィータが頷く。

「だな。いきなり三つ巴の戦いになるっつーことか・・・」

「で、不気味に沈黙を守るキャロ・・・か。キャロはエリアサーチで
 3人が戦闘状態に入りつつあるのは把握してるだろうしな」

「キャロはなんで動かねーんだろうな?」

ヴィータは首を傾げながら俺の方を見る。

「キャロはフリードに乗っかれば移動速度も速いし、攻撃力も高い。
 でも、必然的にあのでかい図体をさらすことになるからな。
 他の連中から見ればいい的になる。
 だから最初は身を隠すことを選んだんだろうな。
 幸いなことに、あいつは自分で敵を察知できる能力もあるし」

「で、他の3人が戦い疲れてきたところを一網打尽・・・か。
 侮れねーな」

ヴィータはそう言ってビルの一室で蹲っているキャロの映像に目を向ける。

「いや。俺ならもっと手っ取り早い手を考えるね。条件次第だけど」

俺がそう言うとヴィータはバッと俺の方を振り返る。

「そりゃどーゆー手だ?」

「安定してヴォルテールを召喚できるなら、3人が戦闘状態に入った瞬間に
 ヴォルテールを召喚して、一気に薙ぎ払う」

「うわ・・・反則くせー。さすがは6課イチの反則ヤローだな・・・」

ヴィータはそう言って嫌なものでも見るような目を俺に向ける。

「そんなに褒められたら照れるじゃねえか」

俺が冗談めかしてそう言うと、ヴィータは本気に取ったのか
呆れたように俺を見る。
俺は、さすがにそんな目線に耐えられなくなり、一度咳払いすると
真剣な表情を作る。

「ま、キャロがそんな手を使うとは思えないけど・・・って、
 2人がティアナの観測網にかかったな」

「ホントだ。お、ティアナが幻影を使いだした・・・」

モニターに映るティアナの本体は全く動いていないが、
接近してくる2人に合わせるかのように、その進路上に
ティアナの幻影が姿を現し、幻影が射撃を始める。

「・・・俺んときと同じ手か・・・」

「ゲオルグんとき・・・?」

何を言っているのか判らないのかヴィータはまた首を傾げて俺を見る。

「前にティアナとマンツーマンで訓練してた時期があったろ。
 そんときの模擬戦で一回使ってきたのと同じ手だな」

「ふーん・・・」

「でも、あの射撃は通常のよりも威力が半減くらいなんだよ。
 だから牽制くらいにしかならないし、幻影だってバレる可能性もあるんだ」

「じゃあ、ダメじゃねーか。なんのためにそんなめんどくせ―ことしてんだ?」

「ああいうのの目的は行きつくところ一つだよ」

「は?なんだよ、その目的って」

「相手の行動を自分の思い通りに誘導することだ」

ヴィータは俺に向けた目を大きく見開く。

「っつーことは・・・罠か!?」

「ご明察。たぶん2人を誘導した先に設置型バインドでも仕掛けてるんだろ。
 で、高威力の射撃かダガーモードで撃墜ってハラだろうな。
 っと、スバルはたぶん罠にハマるな」

そう言って俺は再びモニターに目を向ける。
幻影からの射撃に対して、スバルは弾き飛ばしながら幻影に向かって一直線に
向かっていく。
 
『でやぁぁぁぁっ!』

ずいぶん引いた位置にあるサーチャーにまで届くような声を上げて、
スバルは幻影に向かって拳を突き出す。
次の瞬間、ビルの屋上にいたティアナの幻影は掻き消え、
スバルの攻撃はビルに命中して屋上を破壊し大きな砂煙を上げる。
それは、ティアナの本体が隠れているビルの屋上だった。

その時だった。訓練スペースの監視システムが警報を鳴らす。

「何だ?・・・え!?巨大な召喚反応だと!」

ヴィータの声に反応して俺はすぐさま戦術モニターに目を向ける。
すると、スバル達3人がいるあたりに巨大な何かが召喚されつつあった。

「・・・ウソ・・・だろ・・・」

俺とヴィータが目を丸くして見つめるモニターの先にあるもの。
それは真竜・ヴォルテールの姿だった。
ヴォルテールは大きく息を吸うようにその巨体をそらすと、
次の瞬間に、巨大な炎をその口から吐き出した。

「・・・マジでやりやがった・・・」

撃墜判定を告げるウィンドウ相次いで表示される。
俺はしばし呆気にとられていたが、我に返ると4人に通信を送る。

「訓練終了。勝者はキャロ。って・・・キャロ以外には聞こえてないか・・・」

モニターには笑顔を浮かべてフリードに跨るキャロと、
ヴォルテールの攻撃によって気絶した他の3人の姿が映っていた。

 
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