| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第81話:屋上の密談


10分後・・・
俺とはやて・フェイトは屋上にいた。
俺はベンチに腰を下ろすと入院衣のポケットからタバコを取り出し
口にくわえて火をつける。

「ゲオルグ、ここ病院なんだよ」

俺の前に立つフェイトがたしなめるような口調で言う。

「1本くらい勘弁しろよ。ずっと病室に缶詰めだったんだ」

そう言って肺に吸い込んだ煙を空に向かって吐き出す。
数分かけて一本吸い終えると、携帯灰皿に吸殻を収めてポケットに押し込む。

「久々に吸うとやっぱりちょっとクラっとくるな・・・」

「いっそのことこれをきっかけに禁煙したらええんちゃう?長生きしたいやろ」

俺の隣に座ったはやてが口元に薄笑いを浮かべて言う。

「ご忠告は真摯に受け止めさせてもらうよ。
 ま、長生きしたいなら今の仕事から足を洗うのが一番だけどな」

「それはごもっともやね」

肩をすくめて軽い冗談で返すと、はやては小さく声を上げて笑いながら
同じく冗談を返す。
ひとしきり軽いやり取りを終えたところで俺は意識を切り替える。

「で?なのはに要らない気を使わせてまであいつのいないところでしたい
 話ってのはなんだ?」

俺がそう言うと、はやてとフェイトも真剣な表情になる。

「いろいろあるんやけど、まずはなのはちゃんの話からやね。
 なのはちゃん、ああ見えて結構重症らしいんよ。
 えーっと、ゆりかごの中での話ってどこまでしたっけ?」
 
「なのはとヴィヴィオが戦ったって話しか聞いてないぞ」

「そっか。実際のところは私も現場にいたわけやないからわからんねんけど、
 レイジングハートの記録によると、ヴィヴィオがレリックと
 融合させられてたらしいんよ」

「レリックと融合!?なんで?」

「ユーノくんの話は覚えてる?ゆりかごの起動には古代ベルカの王族としての
 特殊能力が必要やって」
 
「ああ、覚えてる」

「ヴィヴィオは聖王のクローンやけど、そのままでは特殊能力は
 発現してへんかったんよ。で、スカリエッティはヴィヴィオに
 その特殊能力を発現させるためにレリックと融合させたんやないか?
 っちゅうのが本局の推論。まだ確証はないけどな」

「・・・なんつーマッドな発想だよ」

俺は両手を強く握りしめて、何とか怒りを抑え込む。

「そやね。加えて、なのはちゃんを敵と思い込ませる催眠も掛けられてて
 結果として、助けに来たなのはちゃんと戦闘になった・・・」

はやてはそこで一旦言葉を切った。
はやての顔を見ると、その横顔には辛さと怒りが入り混じったような
なんともいえない表情をしていた。

「で、ヴィヴィオとの戦闘では相当な無理をしたみたいで、
 ゆりかごから出てきて、アースラに戻ってきたときには
 自分では立てへんくらいやったんよ」

「そうなのか・・・。でも、空戦魔導師が5人はついてたはずだろ?
 そこまでなのは一人に負担がかかったのか?」
 
玉座の間に突入する高町隊には、なのはのほかにAランクの
空戦魔導師を5人つけたはずなのだ。
にもかかわらず戦闘後に自分では立てないほどの高負荷な
戦闘になったというのが俺には理解できなかった。

「えっとな、玉座の間につくまでの間はほとんど他の空戦魔導師が
 ガジェットとかとの戦闘をこなしてたんやけど、それで、
 なのはちゃん以外は玉座の間に着くまでにほとんど魔力を
 使い果たしてしもうたんよ。
 まあ、あとはヴィヴィオにかけられてた催眠もちょっと・・・な」

「なんだよ」

「ヴィヴィオのパパとママを殺したのがなのはちゃんって
 思い込まされてたみたいやねん。そやから・・・」

「ヴィヴィオの攻撃がなのはに集中したってわけか。納得・・・」

「んで、とりあえずは身体を休めるためにも1か月程入院してもらうことにした
 ってわけなんやけど、今後後遺症が残る可能性もあるんやて」

「後遺症?」

「魔法を使おうとすると全身に痛みが走ったりすることもあるかもって。
 つまり、最悪なのはちゃんは2度と飛べへんようになるかもしれんってこと」

「そんな・・・」

「まあ、当面はそこまで酷い後遺症はないやろっていうのが医者の見解やけど、
 今後、同じような無理をすればそうなってもおかしくないって」

「そっか。まあ、なのははもう十分戦ったんだし、そろそろゆっくりしても
 いいと思うけどな」

「それをなのはちゃん自身がよしとするかはまた別問題やから・・・」

「だな・・・」

俺は2本目のタバコに火をつけると、真っ青な空に向かって吐き出す。

「まあ、なのはちゃんに子供でもできれば・・・とは思うけど。
 そのへんはどうなんです?」
 
はやてはニヤニヤと笑いながらマイクを突き出すようなポーズで
俺に尋ねてくる。

「茶化すなよ。俺だってなのはとのことは真剣に考えてるんだから」

そう言って軽くはやてを睨みつける。

「ゴメンゴメン。まあ、子供云々の話は冗談としても、
 今後もしなのはちゃんがそうなった場合には、
 ゲオルグくんの役割は重要やから、そこは理解しといて」
 
「判ってる。ただな・・・」

俺はそう言ってもう一度空を見上げて煙を吐き出す。

「どないしたん?」

はやてが俺の顔を覗き込むように見る。

「俺自身まだ迷いがあるんだよ。本当に俺はなのはに相応しい人間なのか」

「それは、ゲオルグくんの過去について言ってんの?」

はやての問いに俺は無言で頷く。

「そこはよう口出しせえへんねんけど・・・。私見を言わせてもらうとな、
 ゲオルグくんは自分のやったことに対して自分自身に責任を
 被せすぎなんちゃうかなと思うわ」

「どういうことだよ?」

「だって、私らって時空管理局っていう組織の歯車として動いてるわけやろ。
 その中には、なのはちゃんみたいに人を育てるのが役割の人もおれば
 ゲオルグくんみたいに暗殺とかをやるのが役割の人もおるわけやんか。
 で、それぞれの個人にどの役割を割り当てて何をやらせるかっていうのは
 組織の論理なわけやん。
 そこで起こったことに対して個人が100%の責任を負う必要は
 まったくないと思うんよ。
 まして、課せられた役割を果たすためにやったことならなおさらな」

「はやての言ってることは理解できるつもりだよ。でも・・・」

「感情がついていかへんのやろ?」
 
俺が頷くと、はやては雲ひとつない青空を見上げる。

「難しい問題やとは思う。けどな、例えば私の出身世界では犯罪者に対する
 死刑制度があるんよ。じゃあその死刑を執行する人って、その罪を背負わな
 あかんのやろか。もっと言えば、戦争で人を殺したらその罪を背負わな
 あかんのやろか。私は違うと思うねん」

「はやて・・・」

俺がはやての方に顔を向けると、はやては俺の肩に手を乗せてにっこりと笑う。

「まあ、それでもゲオルグくんが自分を許されへんのやったら私が許したる!」

「ありがと・・・はやて」

目の前のはやての顔が滲んでいく。

「なんやねん。ゲオルグくんは泣き虫やなあ。ええよ。
 私でよかったら肩くらい貸したるから」

はやてのその言葉をきっかけに俺ははやての肩に顔を押し付けて泣いた。



しばらくして、俺が落ち着くとフェイトがハンカチを差し出してきた。

「悪い。みっともないところを見せて」

「いいよ。友達でしょ」

俺は、フェイトのハンカチで涙を拭くと両手で自分の頬をパンと叩いた。

「もう、自分の過去のことで悩むのはヤメた!
 ありがとな、はやて、フェイト」

「ええって」

「私はハンカチを貸しただけだし」

2人は柔らかな笑顔をで俺を見ていた。つられて俺も笑顔になる。

「さて、今日の話は以上?」

俺がそう言うと、はやてとフェイトは急に表情を曇らせてお互いの顔を
見合わせる。
そして、はやてが俺に向かって真剣な表情を向けた。

「ゲオルグくんが大丈夫ならもう少しええかな?」

「まだあるのか?」

「あと2つほど」

「盛りだくさんだな、で?」

はやては一度大きく深呼吸すると、俺の顔を見る。

「ほんならまず1つ目な。
 結果だけまず言うよ。レジアス・ゲイズ中将が拘束されたんよ」

「は!?」

それは俺の想像をはるかに超える話だった。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧