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ハッピーネクタイ

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第二章

「着けましたらそのプロジェクトは大成功で」
「それでなんだ」
「このネクタイを着けていたからだと思って」
「それからだね」
「次の大事な仕事の時も着けましたら」
 そしてことに挑めばというのだ。
「また成功しまして」
「それで尚更だね」
「これは縁起のいい、妻が贈ってくれた幸運の」
「ネクタイだね」
「そう思う様になりまして」
「今もだね」
「大事な仕事の時は」
 まさにというのだ。
「着けています」
「そうしているんだね」
「はい」
「成程ね、ではこれからも」
「着けていきます」 
 仁科は自分の右手をそのネクタイに添えて笑顔で話した、それは仕事の時だけでなく。
 娘が交際相手を連れて来る時もだった、スーツを着て。
 そのネクタイを着けてからだ、妻の奈央もう四十代後半だが色白で肌は瑞々しくやや面長の顔には皺がなく大きなはっきりした二重の目と赤い大きめの唇と長い黒髪の小柄な妻が言ってきた。
「やっぱりなのね」
「ああ、大事な時だからな」
 妻にネクタイを着けてから答えた。
「このネクタイを着けるよ」
「そうするのね」
「それでね」
「あの娘が連れて来る人と」
「会うよ」
「大事な時だから」
「そうするよ」
 こう言ってだった、妻の若い頃そのままの外見の娘が連れて来た彼と会った、その彼はしっかりした人物でこれなら大丈夫だと思った。
 それでだ、彼が帰ってから妻に話した。
「やっぱりこのネクタイは」
「あなたにとって幸運のネクタイね」
「奥さんが贈ってくれたね」
「そうなのね」
「だからこれからもね」
「着けるのね」
「大事な時は何時でもね」
 笑顔で言った、ただ結婚式の時は和風だったので彼は紋付羽織袴だった。そのことを残念に思ったが娘の白無垢姿に幸運を感じた。そしてそれからの二人の結婚生活と初孫の男の子次の女の子を見て彼はこれ以上なくそれを感じたのだった。ナクタイはまだ彼の首にあった。


ハッピーネクタイ   完


                 2023・2・24 
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