スピナゾンまんじゅう配給所の椿事【完結】
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サリーシアは飛び退くと「私は、私は」と言って詠唱を続けた。
「我は汝に命ずる、この者の動きを止めよ」
すると巨人の身体が一瞬硬直したが、すぐに動き出す。
巨人はサリーシアの方へ向かってきた。
サリーシアは飛び退くと「私は、私は」と言って詠唱を続けた。
すると巨人の身体が徐々に硬化していった。
「今のうちに!」俺達が走り出そうとしたとき、 突如として大地が隆起すると無数の手が生えてきて、俺達の足をつかんだ。
俺達はそのまま空中に持ち上げられ、地面に叩きつけられた。
「エリファス、サリーシア、無事か?」もうもうと土煙が立ち込め、各自の認識にも深い霧がかかっていた。
いわゆるブレインフォグという症状である。
限度をこえる魔力を行使した際に大自然が調和を取り戻そうと懸命にもがく。
その過程でおきる見当識障害だとも短期記憶に干渉して認知をゆがめ、現実を都合よく編集する作用だとも言われている。
ともかく、しばらく全員が立ち眩みや吐き気を催してその場にしゃがみ込んだ。
*
「うっ」俺はうめき声を上げた。全身が痛む。
「大丈夫ですか?」
俺はゆっくり目を開いた。サリーシアが俺の顔を覗き込んでいる。
「ああ、なんとか」俺は立ち上がってあたりを見回した。ここはどこかの建物の中らしい。
「エリファス教授は?」
「あそこにいます」サリーシアが指差す方を見ると、エリファスが倒れていた。
「大丈夫かい?怪我はない?」
俺はエリファスに駆け寄った。
「うん、大丈夫」エリファスはそう言って立ち上がった。そして「オプス教授がいないわ」とつぶやく。
俺とエリファスは顔を見合わせた。「オプス教授はどこに行ったのかな」
「私を助けに来てくれたはずなのに」エリファスは俯いた。
「エリファス教授は僕が探してくるよ」
俺はそう言うと、部屋を出ようとした。
すると、背後で扉が開いた。
「おやおや、これはどうしたことだい」
そこに現れたのはノース教授だった。
「ノース教授!」エリファスが駆け寄り抱きつく。
「お嬢さん、元気そうで何よりだよ」
そう言ってノースはエリファスを抱きしめた。
「先生、オプス教授がいなくなったんです」
「うん、わかっているよ」
「え?」
エリファスがきょとんとする。
「あのね、さっきオプス教授から連絡があったんだよ」
>「どうも、ありがとうございました」「いえ、お気になさらず」<
各自が携帯している翡翠がメッセージを同報している。
「え?」
俺はきょとんとした。「どういうことですか?」
「オプス教授から聞いたんだよ。君たちが旧寮にいるってね」
俺は「オプス教授はどこに?」と尋ねた。
「旧寮の地下に閉じこめられているって」
「地下?」
「うん、オプス教授がいうには、旧寮の地下は巨大な迷宮になっていて、その最深部に地縛霊がいるんだって」
「じゃあ、その幽霊を説得して連れ出せば」
「うん、旧寮を元通りにできると思うんだけど」
「わかりました。俺が行ってみます」
俺はそう言って旧寮に向かった。
旧寮に入るとオプス教授が待っていた。
「おお、来たな。こっちだ」オプス教授は俺の手を引くと、どんどん進んでいった。
そして、階段を下りるとそこには巨大な石造りの部屋が広がっていた。
部屋の中央には大きな祭壇のようなものがあり、その手前には棺桶のような箱が置かれている。
「これが地縛霊の寝床だ」とオプスが言った。
「ええと、それで、どうやって説得すればいいのでしょうか?」
俺は恐る恐る訊いてみた。
「うーん、それがなぁ」
「え?」
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