スピナゾンまんじゅう配給所の椿事【完結】
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ディック氏が後を追うが雲をつかむような話だった。
ディック氏が後を追うが雲をつかむような話だった。
「サリーシャは無事か?! あいつなら知っておろう」
扉からもう一人。現寮長のグスマンが飛び込んできた。そして俺を指さす。
「お父様、彼をご存じなのですか」
ハルシオンの問いかけを無視して俺は彼女に訊いた。「ハル、サリーシャは今どこに?」
「サリーシャは地下室よ。この子ったらとぼけてばかりで全然口を割らないのよ。早く助けないと大変なことになる」
ハルシオンは魔法具をこぶしでしばき倒している。
「いててて。公益通報者にこの仕打ちはないでしょう」
グルッペだ。なぜハルシオンが封じているのかわからない。
ともかく俺達は地下室に向かった。「サリーシャ!大丈夫か!」
俺は扉を開けた。
部屋の中は暗くよく見えなかったが「サリーシャ!サリー!」とエリファスが叫んだ。すると、「お、オプス先生!エリファス!」
ハルシオンの歓喜の声とともにサリーシャが飛び出した。
「よかった、間に合った!」エリファスが胸を撫で下ろす。
「心配かけてごめんなさい。私もまさかここに監禁されるなんて夢にも思っていなくて、本当に怖かった」
そう言ってサリーシャは涙ぐむ。エリファスが抱きしめると二人はわんわんと泣いた。
俺はホッとして微笑んだが、次の刹那。何かが足元をすり抜けた。
それは「きゃー」と叫んでどこかへ逃げてしまった。「なんだ、今のは?」俺はきょろきょろした。
「きっと地縛霊だよ。悪霊に取り憑かれて苦しんでいるから悪霊除けを貼ってあげたけどね」とオプスがいったが「オプス教授も取り憑かれているのに大丈夫なのか」と俺は思ったものの口にはしなかった。
「あっちこっちに札を張ってあるから安心していいぜ。それよりさっさと出よう」
ディック氏がドアを開けるとその向こう側に立っていたものにギョッとした。それは血まみれの女性だったからだ。その女性はこちらに気づくとにやりと笑いかけたが途端に苦しみだしたかと思うと身体を引きちぎるようにバラバラになり崩れ去った。「ひゃあ」と悲鳴を上げて尻餅をつくエリファスとサリーシアの背中にそっと手を置くとディック氏は俺たちを立ち上がらせて出口へと誘導した。「ここ入ったら、出るときが大変だったよね」
オプスが思い出を語る。俺達には見えないものを見通せるエリファスは俺の腕をつかんで怯えている。
「ほら、エリファスしっかりするんだよ」と俺。
「ううん」彼女は首を振って歩き出した。
>「どうせみんな死ぬんだから」< *
そんな呪詛が地下室を駆け巡った。こぶし大の黒曜石がどこからともなく投げ捨てられ、床に点字を形作る。そして数秒後にバラバラとはじけ飛び、また文字をつづる。
それを十回くりかえして消えた。
俺は思わずエリファスの手を握った。「え?」と振り返るエリファスに向かって、俺は言った。「そんな事は絶対にない。君を死なせたりしない」俺達は旧寮を出ることができたが「これからはもっと気を付けなけりゃいけないね」「うん。油断禁物だ」そう話しながら旧寮を振り返ると――
背後で轟音が起こったかと思うと建物全体が激しく揺れた。俺は慌てて旧寮に戻った。「これは一体……」オプス教授の顔色が変わる。
旧寮は跡形もなく崩壊しつつあった。壁が崩れ屋根が落ちていく。
「【急災遮絶】」
俺はレベル5マジックで退路を確保した。結界ごしに砂塵がなだれうつ。
誰の手を引いているのやらわからない。振り向きもせず無我夢中で走った。
ドォンと強烈な日差しが迎え入れてくれた。青空がもう茶けている。
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