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スピナゾンまんじゅう配給所の椿事【完結】

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グスマンは少し間を置いて答え始めた。

「ま、そこは後で考えるとして、他に不審な男は見かけませんでしたか」俺はグスマンに尋ねた。
「ええ、何だ?何でも聞いてくれ」
俺達は聞き漏らすまいと耳をそばだてた。
グスマンは少し間を置いて答え始めた。「この一か月くらいの間だと思うんだけどね、夜中に妙な声が聞こえるようになったんだ。声っていうのは女の声だ。何か呪文のようなものをつぶやくと、女の悲鳴のような音が聞こえてくる。それが何とも不吉でな。俺の他にも何人か聞いたって言ってたから間違いないと思うんだが、みんな怖がって近寄らないから正体がわからなくて困ってるんだ」
「それはどんな声でした?」
俺は質問を続けた。
「う~ん、俺もはっきりは覚えていないんだがな。何だか不気味な感じだった。まるで地獄から響いてくるような」
するとオプスが青ざめた。「やっぱり『土地の因縁』のしわざよ。とても根深い集団な怨念が――そう、土壌に染み込んだ怨恨みたいなものが霊障を引き起こしている。そいつがグルッペを操っている」
「どういうことですか。オプス教授」
エリファスが追加説明を求めた。
オプスはまくし立てる。
「おそらく私たちの研究を潰そうとしているのだわ。特にハルシオンの発見は地縛霊たちの成仏と早期転生をうながす。そうなってしまえば、この土地に執着している怨霊集団は滅びてしまう。だからディック氏とサリーシャを操って魔導査察機構と学校を対立させようとした」
「となるとサリーシャが危ない。君は彼女の御子息だろう? 居場所に心当たりは?」
ディック氏に俺は即答した。「俺がサリーシャの立場なら旧寮に行くはずです」
「よし。じゃあ俺は旧寮に行ってみる。君はオプス先生と一緒に行動してくれ」
ディック氏は俺達に指示を出した。「ハルシオンは地下の実験室です」
俺は彼に場所を教えた。
「では、くれぐれも注意して…」
二手に分かれようとした瞬間、ディック氏の顔が引きつった。「お…お前…」
現れたのは意外や意外、ディック氏の妻キャロウェイだ。目の余白が真っ赤に光っている。
「下がってください」
俺は咄嗟に殺気を感じた。そしてディック氏をさがらせた。「こいつはベルフェゴールよ。女性不信や流産を司る悪魔だわ」
オプスがスカートの裾を押さえながら身構える。確かに奴はディック氏の奥方ではない。
牛の尾にねじれた二本の角、顎には髭を蓄えた醜悪な姿をしており、便座に座っている。
ベルフェゴールは重低音の裏声で吼えるように言った。「ディックよ。私は苦しい不妊治療を強いられている。お前のせいだ。お前が種なしのせいで私は『孫の顔が見たい』という姑の期待に応えられないでいる」
「だったら、嫌だとはっきり、エリファスに直接そう、言ってくれ。」
ディックはぶるぶると震えた。ベルフェゴール――ディック夫人だった者――はきっぱりと否定した。
「いいや。あの姑はお前を溺愛している。私のいう事など信じる者か」
「だったら、一緒に謝りに行こう。俺から母さんにきちんと説明する。『種なし息子』で申し訳ありませんって」
ディック氏が必死で説得するがベルフェゴールはかぶりを振った。「もう遅い。魔導査察機構の怠慢とノース教授の癒着。二大醜聞は英国じゅうに知れ渡るだろう」
「待ってください!」
そこにハルシオンが駆け込んできた。「待ってください!」
ハルシオンが駆け込んできた。ドアが開け放たれ突風が黒髪をなびかせる。
「おおおおおお。メデューサ! なぜ、貴様がここに。ぐぉぉぉ」
ベルフェゴールは意味不明な捨て台詞を吐いて消滅した。
「キャロウェイ、待ってくれ」 
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