イタリアの忍法でぱっちり治す!ミウダウモンの眼精疲労(WEBスペシャル!)【完結】
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するとさっきの料理人が包丁を抜いた。
「さて……」と私は言った。そのあとで「さて」ともう一度言った。それから私は考えた。しかしここでいくら頭を悩ませようと仕方がないということに気づいた。何しろ今の私にできることと言えば何かの機械を動かしながら何かを聴くことくらいである。そして、私はラジオの受信回路に耳を傾けてみた。
「……さて、ここで、一つ皆様にお知らせです。豪血せとものピアから素敵なプレゼントがあります」
それを伝えると人々はどよめいた。とにかくこんなみょうちきりんな場所から一刻も早く出たい。それが総意だ。
「抽選で一名様を豪血せとものピアへご招待」
おおっ、と歓声があがる。「おい、待ってくれ。一名ってどういうこった?落選した奴はどうなるんだ?」一人の男が叫んだ。彼は姿格好から料理人であると分かる。エプロンのポケットから包丁の鞘がはみ出ている。「そいつが、俺たちをここに連れて来たんだろ?」男はそう言うと、「俺らはどうすればいい?」
「もちろん、参加される方がいれば全員、ということですが」私はにっこりと笑っていった。
その男はしばらく黙っていたが「よし。じゃあ俺が参加する」と言った。そのあとに何人もの男達が続く。「まあ、待ちなさい」私は言った。「そんな、大勢が行ってどうしようというんだ。わからないか? 君らはデスゲームという言葉を聞いたことがあるか。私は抽選という事はそういう事だと思う。だって、外れた奴はどうする?座して死を待つのか?」
するとさっきの料理人が包丁を抜いた。「おれもそう思ったよ。陸人・手塚堂さん。あんたの記事、読んだことがあるよ。アニメ『みちのくデスゲーム』と東北漁協連のコラボキャンペーン紹介記事だったかな」
するとサラリーマン風の中年男が言いすてた。「馬鹿馬鹿しい。俺は帰るぜ」
ポケットからスマホを取り出してタクシーを呼んだ。次の瞬間、彼の眼前にふわっと無人のタクシーが現れたではないか。
車体に「豪血せとものピア」と書かれている。「もう、ゲームは始まっているのよ!」
主婦がサラリーマンを突き飛ばしてドアをあげる。「キャーっ!」
彼女は背中から血しぶきをあげてのけぞった。深々と包丁が刺さっている。「あんたが呼んだんだろ。乗りな」
料理人がサラリーマンに乗車を促す。
「お、おう」
「あんたが当選者だ。たっしゃでな」
料理人が微笑むとサラリーマンは「あ、あんがとよ…」と言った。
しかし、これが遺言となった。ドアが閉まるスキをついて包丁が飛んできたのだ。パシャっとフロントガラスに内側から血しぶきがへばりつく。サラリーマンは頸動脈を切られていた。
「あんたねえ!よくも佐々塚さんを!」
釣り目の女が殺された主婦を抱きかかえている。
「待ってくれ!」料理人は女性陣に取り囲まれた。「なんだ?なんでこんなことになったんだ?」サラリーマンの太めな男は困惑した顔で言う。
「おい!みんな落ち着けよ!」サラリーマンがいうと全員動きを止める「俺の話を聞いてくれ!頼む!俺は、その佐々木って人を知らん。俺は関係ない!」すると一人の男が立ち上がって叫ぶ「おおおお前らが殺したんだろ!!」彼はそのまま倒れた「くそっ……ちくしょう……ちくしょぉおおお」彼は床を拳で叩いた。その声を聞き全員が彼に注目した。
彼は続ける。「お前らが殺して、死体をバラバラにしたんだ!」彼は再び倒れ、意識を失った。彼は佐々木が持っていたナイフを持っていた。それを目にしていた者は多いはずだ。
しかし、誰も否定しなかった………………..。
その後、彼が言ったとおり、佐々塚がバラバラ殺人をしたということになり、「デスゲーム事件」と呼ばれるようになった。
「お客さん着きました」運転手の声で目が覚めた。「ありがとうございます」と礼を言うと「はい、こちらこそ」と返事をして走り去って行った。
私は車から降りて歩き始めた。
タクシーに乗ったのは正解だったようだ。
運転手はこう言った。
「報道によると、豪血セモノピアは廃鶏のキューティクル(皮)を冷凍保存し、それを米国に輸送し、キューティクルクリームとして販売しているとのことです」
「知っている。みちのくデスゲームのコラボキャンペーン商品の一つだった。パウダー状のものもあれば、既製品のものもある。」
「そんな会社がどうしてデスゲーム事件なんかと関りが…」
私は言った。「記者会見では知らぬ存ぜぬの一点張りだったな。ネットのまとめサイトによればグレーゾーンのビジネスをやっているそうだが、そこのまとめ主は逆に名誉棄損罪で刑事告訴されて有罪判決が出ちまった。だから本当にウラがないか、警察とグルなのか」記者は答えた。
そして走行中にも関わらず運転手の首がくるッと後ろを向いた。「ねぇ、お客さんもグルなんじゃないですか」
「知りませんよ! 俺だってそんな記事書いた覚えはない!」
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