イタリアの忍法でぱっちり治す!ミウダウモンの眼精疲労(WEBスペシャル!)【完結】
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
本は読んだ覚えがないのに?
「ここでいいんだよな」
彼はあたりを見回しながら言った。
「そうだよ。ここでいいんだ」
私はうなずいた。
ここは滋賀県の琵琶湖の湖岸である。
周囲には人影もない。
「ここが君の言う場所なのか?」
「ああ、間違いない」
「しかし、ここには何も無いぞ」
「いや、あるさ」
「どこに?」
「それは言えない」
「何故だ?」
「理由がいろいろあるんだ。まあ、気にしないでくれ」
「わかった」
私は、納得はしなかったがそれ以上追及はしなかった。
「それより、これが見えるかい?」「何がだい?」
私は、彼の指差す方向を見た。
そこには、何か大きなものが浮いていた。
「これは?」
「何に見える?」
「何というか……肉塊?」
「そうだね」
「君はこれをどうしたい?」
「食べる」
「君はこれを食べられるのか?」
「ああ、食べれる。しかし、まだ調理はしていない。これから調理する。その前にあなたにも手伝って欲しい」
「どういうことだい?」
「私は、これを食べる。しかし、あなたは、これを食べてはいけない」
「どうして?」
「理由は、たくさんある。たとえば私が全部食べてから、その権利はあなたに移動する。そういう風にするべきだと思うんだ」「なんだかよくわからんな」
「そのうちに、理解できるようになる。今はそれだけ知っていてほしい」「ふーん」
「ところで、君はここに来てどれくらいだい?」
「今日が初めてだが、どうしたらいいのかな」
「さっきも言ったけど、この肉片を持って、家に帰ってくれ。そして冷蔵庫に入れれば大丈夫だから」
「本当に?」
「約束しよう」
「どうやって?」
「それを説明する前に一つ頼みたいことがある」
「なんだい?」「このことは秘密にしておいてくれないかな」
「誰に?」
「家族でも友人でも誰でもいいんだが……」
青年は口ごもった。
「よくわかんないが……とりあえず、分かった」
その時である!青年の顔色が変わった。
「まずいな。時間がない」と青年は不吉な言葉を言い出した。「あなたを巻き込みたくないのだが、どうしたものだろう。あなたはこの肉を持ち帰り、そしてそれを誰にも見せないように、そしてあなたの部屋の隅にでも置いてほしい」
「ちょっと待て、俺だけ逃げるのか」
「そうじゃない。あなたには生きていて欲しい」
「何を言っているんだ!」
私は叫んだ。
「説明が難しいが、あなたに危害を加えるようなことはないから」
「何を言っている!」私は再度叫んだ。「それに私はここで死ぬのは嫌だ」と言った時、私に異変が起きた。
身体中の力が抜けた。
全身の血液が急速に冷たくなった気がした。
「な、何を!」と私が叫ぶと彼は、微笑んだ。
私の意識が遠のく中彼は言った。
「すまなかったな。私はもうすぐ行かなければならない。それともう一つ言っておくことがある。この世界の真実についてだが、私はこの世界で起きること全てを体験して来た。だが、あなたは何も知らないほうがいい。知るべきではないからだ。私はもうそろそろ行かないとならないようだ。さあ行きなさい」
私はその声を聞きながら、自分の身体が、氷のように固まっていくのを感じた。私の視界が暗くなっていく中彼は言った。
「私は、また、会うことになる」
その声が消える頃私の意識は完全に途切れた。
私は目が覚めた。私はベッドの上で寝ていた。夢を見ていたのか。
しかし妙に生々しい感覚が残っていて私は気分が悪かった。しかし何を見たのか思い出せなかった。夢の記憶などそんなものである。
しかし不思議なことが二つあった。あの巨大な白いものを持った男の人は誰なのだろう。
それに私は何故図書館にいたのだろう?それも図書館の机に座って本を読んでいた。本は読んだ覚えがないのに?あれは何だったのだろうか?そしてもう一つの奇妙な出来事として私は見知らぬ男と話していたことを覚えている。彼は私のことを陸人と言っていたようだったが、私は彼に名前すら告げていなかったはずである。しかも私が最後に見た風景、それが何と、あの瀬戸内海だったのだ。
一体私はどこであの青年と会ったのだろうか?それが不思議だった。
しかしそれよりも私は自分が生きていることに安堵した。あの男は私に何を伝えようとしていたのだろう?だが今はそれを考えていてもしょうがないことである。とにかく命があってよかったと思った。時計を見ると午後五時頃であった。今日は、夕方までアルバイトをして、その後家に帰り食事や風呂を済ませてから小説を書いていたところだった。
私の部屋の本棚にある『白身魚』とタイトルが書かれた本が妙に目についた。私はそれを手に取り、中を開いてみた。
ページ上へ戻る