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イタリアの忍法でぱっちり治す!ミウダウモンの眼精疲労(WEBスペシャル!)【完結】

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布製のカバー

それから彼は私の前に立ったまま包みを開いた。中には何か大きなものが入っていて、それを床の上に広げた。布製のカバーのようなものがついた機械装置だった。その機械装置はいくつかの部品に分かれていてそれぞれが複雑な形状をした金属の箱に入っていた。それらのパーツはどれも小型だが精密なものばかりである。私はしばらくのあいだそれらに見入ったあとで訊ねてみた。
「これは何だい?」
「ラジオ受信器だよ」と青年は答えた。しかしどう見てもそれらは金属製というより肉片である。少なくとも私にはそう見えた。しかもそれらがアンテナのような突起物もなく空中に浮かんでいる様は何とも不気味だった。
「ラジオ受信器だって? これがかい?」
「そうだよ。これを使えば世界じゅうどこでも聞けるんだぜ」
「どこへ行けば買えるのかね?」
「どこにでもあるさ。ただ売っている場所は限られてるけど」
「君はこれをいくつ持っている?」
「売るほどさ。何なら在庫を見ていくかい?」
嫌だというのに彼は無理やり倉庫に案内した。馬蹄形のトンネルで人がちょうどかがんで通れる高さだ。彼は先頭に立って手招きする。私は恐る恐る首を突っ込んで1秒で逃げ出した。ラックに頭がい骨が並んでいた。そこで目が覚めた。
時計を見ると午前三時だった。
夢の中の出来事にしてはあまりによくできていた。第一こんなものをどうやって手に入れたらよいのかわからないし、それに何よりもあれだけの大きさのものが空を飛ぶはずがない。しかし現に目の前にあったのだ。
もちろん夢の話など誰にも信じてもらえない。私は一人で考え続けた。もしかするとあの青年は現実に存在するのではないか? 何らかの方法であのささみの山まで行ったのだろう。私は仕事もそっちのけで検索した。
まず、夢判断だ。普段はオカルトを信じないたちだが見た夢の内容が内容だけにアクロバティックな手段も視野に入れている。それに夢判断は深層心理学の裏付けがある。それでさっき見た悪夢を整理してキーワードを列挙する。・馬蹄形トンネル・頭蓋骨・肉片・ささみ・海・夜店・白身・夜店、以上だ。一つ目はトンネルだ。心理学によると未来の展望を暗喩しているというが、さっきのトンネルは行き止まりだった。倉庫に使われている。そして頭がい骨を地面に置く行為は反道徳を意味するという。当たり前だ。丁重に葬られるべきだろう。それが積み重ねてある。したがって夢を総合的に解釈すると、こうだ。不道徳の貯蔵庫が私の前途を塞いでいるのだ。次にラジオ部品だ。解釈によればラジオは無意識からのメッセージを象徴するという。そして最も問題なのが部品というキーワードだ。部品は組み立てられるのを待っている。つまり計画性の象徴。そして、部品を買うという行為は準備の着手。最後に私は嫌だというのに無理やり手招きされた。ということはまとめるとこういうことだ。
どこかで何かとんでもない組織犯罪が計画され、すでに着手済み。それも広範囲にわたる大規模なもので(部品は多くの人出がかかる。そしてパーツはユニット単位でラジオの部分部分を構成する)
「こ、これは…悪夢というにはあまりにも写実的だ。そして、正夢だとしたら私も否応なく巻き込まれるということか」
私は身震いした。この児童文学者こと陸人・手塚堂が犯罪組織にとってどんな利用価値があるというのだ。私は東北の小さな漁村に生まれた。幼少から病弱だったため、漁師の跡目を継ぐ候補からは外されていた。実家は弟が継いだ。私は親戚をたらい回しされ最後に両親の離婚調停が成立した時点で孤児院に入れられた。親は二人とも私の親権を放棄した。そして私は苦学を重ねて地元の大学を卒業してようやく小さな出版社に就職できた。観光客向けのガイドブックを作りながら仕事の合間に執筆している。受賞歴も出版経歴も未だにゼロ。さっさと都会に出て言ったあいつとは雲泥だ。そういえば思い出した。豪血セモノピアの記事を依頼されたことがある。気持ち悪いので編集長が没にしてくれたがもし企画が通っていたらまた人生も違っていたのだろうか。「とにかく、情報を集めなくては」
私は、図書館や書店に駆け込んだ。そこで豪血セモノピアの関連書籍を探したが見当たらない。インターネットで検索しても出てこない。それどころか、関連する情報が見つからない。まるで、誰かに消されてしまったように。
「そんな馬鹿な」
私は唖然とした。無いわけがない。それならば出版社勤務の強みを活かす。取次店や出版流通会社を当たって発注書や販売履歴を調べればいい。絶版本まで調査範囲を広げてみれば一冊ぐらい引っかかるだろう。私は、それらの本の出版元に電話したり、直接出向いたりしたが収穫はなかった。
「おかしい。絶対に何かあるはずだ」
私は必死になって探し回った。
「この辺でいいのかな」
青年は、立ち止まった。 
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