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イタリアの忍法でぱっちり治す!ミウダウモンの眼精疲労(WEBスペシャル!)【完結】

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イタリアは治安が悪い

イタリアは治安が悪い。特にローマは犯罪検挙率が低くすりやひったくりが横行している。日本人旅行者はカモにされているので鞄を肌身離さずしっかり持っておくことだ。ところでローマには七つの丘があるが八番目の存在はあまり知られていない。それはコロッセオだ。古代ローマ帝国時代の円形闘技場だ。現在は博物館として使われている。その内部に潜入すると観客席の下に地下通路があった。そこにはかつて奴隷たちが収容されていたらしい。今もそこに囚われたままの奴隷がいるという噂がある。だが、噂にすぎないだろう。なぜなら、彼らはすでにこの世にいないのだから……。その代りにコソ泥やチンピラがいる。これら小悪党にもヒエラルキーがあって階層の底辺になるとすりになり損なって階段の手すりでリスを獲ったりやすりで手垢をこすり取って食べている。そんな悲惨な食生活に耐えかねた彼らはいつか復讐することを夢見ている。そして今日もスリをする。
そんな彼らに忍び寄る影があった。その正体は謎の怪人Kである。Kは音もなく近づいて彼らの背後に立ったかと思うと突然襲いかかってきた。Kは彼らが持っている財布を奪い取るとすぐにその場を離れていった。Kはローマ警察の交通巡査だ。昼間は公務員、夜は生活保護者の不正を取り締まる正義の味方なのだ。
Kはその後も犯罪者を見つけては襲って金品を強奪していった。そしてある時は列車強盗団を襲撃して彼らを皆殺しにしたこともある。Kは自分が何をしているのかよくわかっていなかった。とにかく悪いことをしている連中を見ると居ても立ってもいられなくなるのだ。
「おい、貴様何をしている?」
突如現れた男に声をかけられた男は驚いて振り返った。見るとそこには黒いマントに身を包んだ男が佇んでいた。年齢は二十代前半といったところだろうか。顔立ちは非常に整っており、まるでモデルのようだと思った。
(誰だこいつ?)
そう思ったものの、すぐに思い出した。そうだ、確かこの男は自分が連れてきた患者ではないか?ということはこいつが例の精神科医なのだろうと思い至った男は彼に声をかけた。
「ああ先生でしたか。ちょうど良かった実は今先生の話をしていたんですよ」
「ほう私の話ですか」
「ええそうですとも実は先生が連れて来たという患者さんのことなのですがね……」
そこまで言いかけたところで男の動きがピタリと止まった。
瀬戸内海の奥地に豪血せとものピアという謎のプラントが存在する。そこでは会員制のフリーズドライささみ工場があって興味がそそられる。ただし入会は十五年待ちで特殊な招待状が無いと申し込めないという。SNSに漏れ伝わる話ではささみは得も言われぬほど極上の味でしかも安価だというから一口噛って見たいものだ。しかし私はこの奇怪な植物を眺める代りにある人の話を記憶の底から引き出した。その人は私の友人であった時分に「私の郷里では毎年七月一日の晩になると夜店の屋台が出る」と言ったことがある。その時彼は「もっともそれは私の知っている限りで、まだ一度も出たことがない。今度出たら君にも知らせようと思う」と言った。
あれから何年経っただろう? 彼の消息はまだわからない。私は彼が故郷に帰ったものと信じている。
そして今日、私が見たあのささみの山! 夢か幻かそれとも本当にあったことなのか。とにかくあのささみの群れだけは事実だ。それが証拠には私自身いまこうしてささみのことを考えているではないか。
私はあの奇妙なささみの山について考えた。もしあそこに人がいるとすれば彼らはどこから来たのか。また何をしているのか。どうしてあんな所に住みついたのか。そして彼らが毎日食べているのはどんなささみなのか。そんなことを想像しながら眠りについた。すると不思議なことに私は夢を見た。いやこれはむしろ回想と呼ぶべきかもしれない。
ある晴れた朝のことだった。私はいつものように仕事場に出て机に向かった。窓の外は一面の海である。青い空の下に水平線が見える。風はなく海鳥の声だけが聞える。静かな朝の情景だった。
その時突然ドアが開いた。一人の男が部屋に入って来た。背の高い痩せぎすの男だった。年齢は二十歳前後であろう。髪を短く刈り込み浅黒い顔色をしていた。灰色の眼が大きく輝いている。男は手に紙包みを持っていた。
「おはようございます」とその青年は言った。よく通る声だった。「失礼ですがあなたが陸人・手塚堂さんですか?」
私はうなずいた。
「ああよかった!」と相手は大きな声で言いながら部屋の中を見まわした。「ここでいいんだね。さっき地図を調べたらここが一番近いみたいだから……でもちょっと遠いかな」 
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