| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

蓬莱人

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章

               蓬莱人
 平安の頃のことである。
 都に唐の服を着た女がやって来た、その話を聞いてだった。
 歌人の在原業平は興味を持ってその女のところに行ってだった。
 そうしてだ、その女に尋ねた。見ればかなり美しい女だ。
「一ついいか」
「何でしょうか」
「そなたは急に都に姿を現したが」
 言うのはこのことだった。
「唐の者か、服を見るに」
「いえ、蓬莱です」
 女は微笑んで答えた。
「そちらから来ました」
「蓬莱!?」
「はい」
 業平に微笑んだまま答えた。
「そちらから来ました」
「まさか。蓬莱とは」
 そう聞いてだ、業平は戸惑った。
 そしてだ、こう女に言った。
「私もその島のことは知っているが」
「知られていますね」
「あの秦の始皇帝が探し求めた」
 そのこの世のものとは思えない整った顔で話した。
「不老不死の霊薬を求め」
「徐福殿がですね」
「左様、蓬莱にあると言い」
 始皇帝が求めた不老不死の霊薬がだ。
「それであの国を発ったが」
「蓬莱に向かわれましたね」
「そうだったとある」 
 業平は史記に書かれていたことから述べた、学問の中で史記を読みそのうえで知ったことである。そこから言うのだ。
「その蓬莱からか」
「私は来ました」
「まさか」
「その蓬莱はですね」
「あの徐福という者は実は知っていた」
「蓬莱という場所はですね」
「ないとな」
 その様にというのだ。
「始皇帝を騙し多くの財を得て」
「一族郎党と、ですね」
「何処かに移り住んだという」
「そう言われていますね」
「そうではないのか、そして徐福殿は」 
 その彼はというと。
「あくまで言われていることだが」
「この国にですね」
「来て」
 そうしてというのだ。
「住みそしてだ」
「お亡くなりになった」
「その様だが」
 こう言うのあった。
「違うのか」
「さて。どうでしょうか」
「煙に撒くか。だが私もだ」
 業平は微笑んで話す女に神妙な顔になって述べた、二人は業平の邸宅に入りそこで話をしている、そこで向かい合って話している。
「人と話すことは好きだからな」
「それでそのお話からですか」
「何かと聞き出せる」
「だからですか」
「そなたが幾ら煙に撒こうともな」
「お話をですか」
「聞き出す、そなたは果たして何処から来たか」
 このことをというのだ。
「そうしよう」
「それでは」
 女も応えた、そうしてだった。
 業平は女に何かと聞いた、それこそその頭と耳そこに目まで加えて女の言葉の全てを見極めにかかった。そして。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧