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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第2部
ダーマ
  イグノーの遺志

「な、なんで姉上のところに……!?」
 思わずマーリンも驚いて声を漏らす。なぜなら、イグノーさんの杖が突然光り出したかと思うと、ひとりでにシーラのもとへと向かったからだ。杖は彼女の目の前まで来るとピタリと止まり、さらに強い光を放った。
《自ら強さを願い、知識を求める者よ。これは汝が持つに相応しい。さあ、受け取るがいい》
 突然、杖がシーラに語りかけてきた。しかもこの声は、イグノーさんの声だ。杖はシーラに受け取ってもらいたいのか、彼女の目の前で水平のまま停止している。
「あ……あたしが受け取ってもいいの?」
 おずおずと、シーラはイグノーさんの杖を掴んだ。その瞬間、杖からこれまでにない光がシーラを包み込んだ。
「シーラ!!」
「あの光……、転職した奴が放っていたのと同じだ」
 ナギが茫然としながら呟く。
「ばかな……、あの光は、まさか!!」
 何かに気づいたのか、焦ったように大僧正が叫びだす。
 やがて、青白い光が収束すると、何事もなかったかのようにシーラが杖を持って立っていた。
「だ……大丈夫? シーラ」
 私が尋ねるが、シーラはぼんやりと杖を眺めたまま動かない。すると、彼女に呼び掛けるかのように再び杖に光が灯った。
《我を手にするに相応しい職業へと汝を変えた。だが、我に出来るのはここまでだ。これからは自分の意思で道を選び、知識を得よ。それが賢者としての汝の生き方だ》
 そこまで言うと、杖は完全に光を失った。
「賢者……? あたしが……!?」
 まるで夢でも見ていたかのように、シーラは杖に向かって呟く。
「ば……、ばかな!! どうして!! なんで姉上が!?」
 大僧正だけでなく、今度はマーリンまでもが動揺のあまり声を荒げる。その様子を見て、ユウリとナギは揃って鼻で笑った。
「あんたが尊敬しているお祖父様とやらは、どうやら姉の方を選んだようだな」
「……っ!!」
 ユウリの言葉に、悔しそうに唇を噛むマーリン。あれだけシーラを罵倒してたんだ、同情の余地はない。
「なあ、今までさんざんシーラをバカにしてきたんだから、一言くらい謝ったらどうだ?」
 ナギも、今までの鬱憤が溜まってたかのように、マーリンに詰め寄った。それはまるで立場が逆転した
「待って、二人とも!」
 だが、二人の間に入って止めたのは、シーラだった。
「マーリンは父様の後を継がなきゃならない立場なの。あたしの代わりに色んなしがらみや重圧を背負わされてる。だから……もう何も言わないで」
「シーラ……」
 辛い目に遭っていたのはシーラのはずなのに、彼女はマーリンをかばうように訴えている。そんな彼女の様子に、二人はこれ以上マーリンを責めるのをやめた。
「別に、お前が良いならいいんだけどよ……。でも、本当に良いのか?」
 ナギの問いに、シーラは小さく頷いた。彼女がそう決めたのだから、私たちはそれに従うしかない。
「ふん。なら、早くここから出るぞ。目的も果たせたようだしな」
 身動ぎしない僧侶たちに目もくれず、ユウリは一足先に歩き出した。私も早くここから出ようと、シーラに声をかける。
「そうだね、行こう、シーラ」
 私が手を伸ばすと、シーラは遠慮がちにその手を取った。私は今度こそ放さないよう、しっかりと手を握る。
「じゃーな。あんたらのお望み通り、もう二度とここには来ねえから」
 最後にナギが皮肉めいた口調でそう言い残し、私たちはこの場所から離れようとしたのだがーー。
「ま、待ってください! あのぅ、差し支えなければ、入り口の扉の修繕費をお願いしたいのですが……」
 いい雰囲気をぶち壊すかのように私たちに言い放ったのは、門番のノールさんだった。入り口の扉っていうと、あの時……。
「あっ!!」
 そう言えば、シーラたちが外にいたとき、ユウリが呪文で扉を壊したんだった!
 ユウリも今ごろになって気がついたのか、首筋に汗が伝い落ちる。
「……走るぞ」
 一言そう言うと、ユウリはものすごい早さでこの場から駆け出した。まずい、これは置いていかれたら修繕費を請求されるパターンだ。
 私はシーラを腕を引き、星降る腕輪の力を発揮すると、すぐにその場から離れた。ワンテンポ遅く気づいたナギも、持ち前の俊足でユウリに追い付く。
「おいコラ、オレたちを置いて先に行くなよ!!」
「バカザル!! こういうときにしか役に立たないんだから、代わりに払っとけ!!」
「ふっざけんな!! てめーがぶっ壊したんだから、てめーが払えよ!!」
 二人に再会できて嬉しいはずなのに、この二人の言い合いを見ていると頭が痛くなる。
 それでも、またこうして四人で行動を共にすることが出来ることを、どれ程待ち望んできたことだろう。
 後ろを振り向けば、さっきまで涙を流していたシーラが、以前の明るい笑顔の彼女に戻っている。
 ユウリも結局二人を見捨てることはしなかったし、ナギは相変わらずだ。
 やっと、再会したんだ。
 ようやく実感が湧いてきた私は、この喜びを噛み締めながらダーマの神殿を後にしたのだった。



「はあ!? オーブ? ラーミア? サイモン? いっぺんに説明されても困るんだけど?」
 ところ変わってバハラタの小さなレストラン。ここは初めてこの町に来たときに一度訪れている。確かあの時はナギがスープを頭から被っちゃったんだっけ。
 対してナギとシーラは半年近くこの町にいたからか、ここにはもう何十回と通っているらしい。二人が入ると、オーダーも取らずにすぐ二人が食べたいものを調理してくれるほどまでに、二人はここの常連となっていた。
 今回も二人のおすすめメニューを頼んでおり、料理が来るのを待っている間、この半年間私たちが何をしていたかを二人に話すことになったのだが。
「サルでもわかるように説明したはずだが、それでもわからないのか、このバカザルは」
「うるせえ!! 途中からお前の自慢話になったから、耳塞いじまったんだよ!!」
「まあまあナギちん、あたしがちゃんと聞いといたから、後でかいつまんで説明するよ」
「すごいね、シーラ!! ユウリの自慢話、ちゃんと聞いてたんだ!?」
 私が感心すると、こめかみに青筋を立てたユウリが私の髪の毛を引っ張った。
「痛い痛い痛い!!」
「そこは別に感心するところじゃないだろ」
「相変わらずだね……。ミオちんたちは」
 私とユウリのやり取りを見て、半ば呆れたように言い放つシーラ。うう、結局半年経ってもユウリからの扱いが変わらないのってどうなんだろう。
「要するに、魔王の城に向かうには不死鳥ラーミアの力が必要で、ラーミアを復活させるには残りのオーブを見つけないと行けないわけだね?」
「……賢者のお前は話が早くて助かる」
「ふっふーん☆ もっと褒め称えていーんだよ♪」
「前言撤回だ。前と少しも変わらんな」
 ユウリとシーラのやり取りも、相変わらずで懐かしい。
「お待たせいたしました。本日のおすすめランチです」
 感慨に耽ったところで、ようやく料理が運ばれてきた。再会記念と言うことで調子に乗って注文をしてしまい、普段よりもたくさんの料理がところ狭しとテーブルに並べられている。
「すいませーん、ボトルキープしてるお酒、全部出してくださーい!!」
「お前……、酒場でもないのにそんなことしてたのか」
 ユウリが呆れと尊敬の入り交じった表情でシーラに視線を移す。
 そんな中、私は目の前に出された料理に思わず感嘆の声を上げる。
「うわああ!! 何この厚さ!! こんなお肉食べきれないよ!!」
「んじゃあ半分オレにくれよ。ここ何日もまともな食事してねーんだ」
 私が返事をするより早く、ナギは私のお皿に載っている分厚いポークソテーにフォークを突き刺すと、そのまま豪快に噛み千切ったではないか。
「えっ!? ちょっ……嘘でしょ!? 今のは言葉のあやだよ!? ほんとに食べきれない訳じゃないんだけど!?」
「だったらんなややこしいこと言うなよな! ほれ、返す!」
 いやいや、そんな歯型つきのお肉を返されても困るんだけど。しかも半分どころか、三分の一くらいまで減ってるし。ああでも、もったいないから食べようかな。
「それで、次のオーブのアテはあるの?」
 私が葛藤している横で、飲みかけのウイスキーの蓋を開けているシーラが、一人黙々と食べているユウリに尋ねる。
「ホビットのノルドに聞いた話では、サイモンの仲間が故郷であるジパングという国にオーブを持って帰ったらしい」
 サイモンさんの仲間の一人であるアンジュさんは、パープルオーブを持って、自身の故郷であるジパングに帰ったという。逆にいうと、その一つだけしか手がかりがない。レッドオーブは海賊に奪われたし、イエローオーブに至っては、私の師匠であるフェリオが持っていたとされるが、そのオーブの行方は誰もわからないままだ。
 アープの塔で手に入れた山彦の笛を使えばオーブのある場所がわかるので、とりあえず新しい場所や町に着いたら吹くようにはしてるのだが、ただ闇雲に使うだけでは相当骨が折れる。なので使うにしても、ある程度目星をつけなければならない。
「そっか、じゃあ、次の目的地はジパングだね☆」
 その二つのオーブのことも二人に話し、改めて次の目的地をジパングにすることで決まった。
「で、ところでジパングってどこ?」
「……」
 シーラの直球な質問に、ユウリは無言で返す。
「おいおい、知識豊富な勇者様よお、まさかジパングがどこにあるのか知らないってのか?」
 ナギが癇に障るような物言いでつっかかる。もう、ナギってば、半年たっても学習しないんだから。
「おいバカザル。表に出ろ。最大級のベギラマを味わわせてやる」
 案の定、ユウリの逆鱗に触れてしまったようだ。けれどナギはユウリの挑発などどこ吹く風で、手元にあるオレンジジュースを呷る。
「そ、そう言うナギは知ってるの?」
「バカ言うなよ、ミオ。オレが知ってるわけないだろ?」
 ダメだこりゃ。こうも自信たっぷりに開き直られると、何も言えない。
「このバカザルに意見を求めるな、鈍足」
 ユウリにまで釘を刺される始末だ。私は呆れてしまい思わずため息をつく。
「えっと、だったら、ほんのちょっとだけ心当たりがあるんだけど……」
「? どしたの、ミオちん」
 私は、ホビットのノルドさんがジパングのことを話していた時、気が付いたことを皆に話した。
「あのね、私の名前なんだけど、『ミオ』って名前、お父さんがつけてくれたの」
「なんでいきなりお前の名前の由来を聞かせられなきゃならないんだ」
 すぐさまユウリに突っ込まれるが、私はあえてスルー。
「それで、なんでその名前を付けたの? って昔お父さんに聞いたら、『その名前はな、昔立ち寄ったジパングという国の言葉で、一番綺麗な響きだったからつけたんだ』って言ってたの」
「!?」
「確かミオちんのお父さんって、世界中を旅する商人だったよね? じゃあジパングにも行ったことがあるんだ」
「うん。その時は小さかったから特に気にしなかったけど、うちのお父さん、結構いろんなところを旅してたみたい」
 今思えば、一人で世界中を旅してるなんて、随分と無謀な気がする。それでも半年に一回はちゃんと家に帰ってくるんだから、実はお父さんはただ者じゃないのかもしれない。
「ジパングについても場所とかは全然聞いてなくて……。ただ、『ミオ』っていう言葉の意味が、『水』とか『海』に関することだけは聞いたんだ」
「海……。てことはジパングって、島国かもしれないね☆」
「……どうしてそう言える?」
 シーラの発言に、疑問を投げかけるユウリ。
「だって、ミオちんのお父さんが自分の子供に名付けるくらい印象に残ってたくらいだもん、きっとその国の人たちにとって水や海ってのは、かなり身近な存在だったかもしれないよ。だからきっと、海とかかわりが深い国なんじゃないかなー、って思って」
「……俺もお前と同意見だ。おそらくジパングは、島国か、俺たちがまだ到達していない大陸にあるのだと思う」
「てことは、その辺りを探すってことでOK?」
「ああ。今回は長い旅になるかもな。……ところで、それが本来のお前か?」
 すらすらと推理するシーラの姿に、ユウリは訝しげに尋ねる。
「これからは、自分を偽るような生き方は捨てようって決めたんだ♪ とゆーことで、これがホントのあたしだよ☆」
 そうユウリに笑顔で言うシーラだが、よく見ると若干手が震えていた。
 ユウリはしばし考えるようにシーラを見据えていたが、やがて口を開いた。
「バカ二人の相手をしなければならないのが俺だけじゃなくて、正直助かる」
「ちょっと待て!! バカ二人って、オレとミオのことか!?」
 それは何に対する怒りなのだろう、私はナギを横目で見る。
「ダメだよユウリちゃん! バカはナギちん一人だけだから!! ミオちんはただ単にものすごく鈍いだけだから!!」
「シーラ……。それ全然フォローになってないんだけど……」
「なんだよ、シーラまでオレをバカ扱いするのかよ!! せっかくガルナの塔で助けてやったのに!!」
「何言ってんの、塔の最上階から平気で飛び降りられちゃうなんて、頭がバカじゃないとできないよ!!」
 そうやってみんなと言い合うシーラは、以前の遊び人シーラとはまた違う明るさが感じられる。
 きっと今の言葉は、シーラにとってはとても勇気のいることだったのだろう。自分らしく生きること、それを私たちに伝えること、それが彼女が変わるための第一歩だったのかもしれない。

 
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