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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第76話:ロンゲスト・デイ


数日して、すでにはやてをはじめとして6課の全員と、協力を申し出てくれた
部隊には説明を終えた、対ゆりかご作戦案を眺めていると端末が呼び出し音を
鳴らした。ボタンを押すと、差し迫った表情のはやてのが画面に現れる。

「ゲオルグくん!今すぐ艦橋に来て!」

「あ?何かあったのか?」

「ええから早く来て!直接説明するから」

はやてはそう言うと通信を切ってしまった。
俺は小さくため息をつくと、副長室を出て足早に艦橋へと向かった。
艦橋に入るとすぐに、異様な空気に包まれていることに気がついた。
はやての周りにはフォワード部隊の隊長・副隊長が全員集合しており、
全員が深刻そうな表情を浮かべている。

「どうしたんだ?そんな深刻そうな顔を並べて」

軽い調子でそう言うと、俺はその場にいる全員からギロリと睨まれてしまった。

「チャラけてる場合やないねん。今、ロッサから連絡が入ったんやけど、
 スカリエッティの隠れ家を見つけたみたいや」

「な!?マジか?」

さすがにあっけにとられた俺に向かってその場の全員が真剣な表情で頷く。

「場所は?」

「ミッドチルダ東部の森林地帯。洞窟の周囲に警戒センサーが設置されとって
 不自然に思ったロッサが接近したらガジェットに迎撃されたって。
 今もシャッハと一緒に戦闘中や」

「・・・よく見つけたな。さすがは査察部ってとこか」

「ま、そうやね。で、すぐにフェイトちゃんには現地に飛んでもらう」

「了解。でも、大丈夫か?フェイト一人で」

「判らん。でも、いつゆりかごが動き出すか判らん状況ではそれ以上に
 出せんって」

苦虫をかみつぶしたような表情ではやては言う。

「大丈夫だよ、ゲオルグ。ヴェロッサさんやシスターシャッハもいるんだし」

「馬鹿かお前!相手はスカリエッティだぞ」

フェイトに向かって怒鳴りつけると、はやてが厳しい目を向けてくる。

「ならどうすんの?ゲオルグくんの案は?」

「・・・シンクレアを連れてけ」

「シンクレアくん?そやけど、対ゆりかご戦で・・・・」

「あいつは員数外。予備戦力としてしか考えてなかったから問題ない」

はやては俺の提案を聞き、目を閉じて一瞬考えるとすぐに目を開いて
フェイトを見た。

「フェイトちゃん。ゲオルグくんの言うとおりシンクレアくんも連れてって。
 相手が相手やし、警戒して悪いことはないやろ」

「うん。じゃあゲオルグ、シンクレアを借りて行くね」

「ああ。それとフェイト」

「うん?」

「・・・必ず生きて戻れよ」

フェイトは一瞬笑顔を見せかけたが、俺の剣幕に普段と異なるものを感じたのか
真剣な表情で俺を見た。

「うん。必ず」

そう言って艦橋を出たフェイトを見送ると、俺たちは艦長席の周りで
お互いの顔を見合わせた。

「さ。これで向こうさんがどう出てくるかやね」

「このままスカリエッティが捕まってくれればいいんだけど・・・」

なのはが不安そうな表情でついさっきフェイトが出て行った扉を見つめる。

「そんな、甘い考えは早めに捨てておくべきだぞ、なのは」

シグナムがなのはに向かって厳しい言葉を投げかける。

「おい、シグナム・・・」

ヴィータがシグナムをたしなめようとするが、なのははそれを手で制した。

「ううん。いいの、ヴィータちゃん。ありがと、シグナムさん」

なのははそう言ってシグナムに向かって笑いかける。

「だが、これで一気に情勢は流動的になったな。すぐにも
 スカリエッティがゆりかごを動かす可能性もある」

俺がそう言うとはやてが肩をすくめて口を開く。

「そんなんは今までかて変わらへんかったやん。どうあれ、私らのやることは
 一緒や。ゆりかごを止めて、スカリエッティ一味を全員検挙。それだけや」

はやての言葉にその場にいた全員が頷いたとき、艦橋にアルトの声が響いた。

「部隊長!ミッドチルダ東部の森林地帯に巨大なエネルギー反応です!」

「映像をスクリーンに出して!」

はやての指示に応じて艦橋正面の大きなスクリーンに木々に覆われた大地が
映し出される。

「なんもねーな」

ヴィータがそう言った瞬間、スクリーンの中の木々が不意に次々と倒れ、
地面が盛り上がりはじめた。
盛り上がりはみるみるうちに広がっていき、やがてその中から
紫色をした巨大な物体が姿を現す。

「あれが・・・ゆりかご」

「で、でけー・・・」

なのはとヴィータが唖然とした表情でスクリーンの中の巨大な宇宙船を
見つめながら呟く。

「ちっ・・・向こうさんもなかなか打つ手が早いな」

「ゲオルグくん。感心してる場合やないやろ!
 なのはちゃんもヴィータも、ゆりかごのデータは事前に見てるんやから
 ボーっとせんと!
 ゆりかごが現れたんやからこっちも迅速に動かな!」

はやての叱咤する声に全員が我に返り、対ゆりかご作戦を実行に移すべく
動き始めようとする。
が、そのとき再びアルトの声が艦橋内に大きく響いた。

「待ってください!ゆりかごから通信が送られています。どうしますか?」

「スクリーンに出して」

はやてがそう言うやいなや、スクリーンに眼鏡をかけた女が大写しになる。

「こいつは・・・」

俺は、頭に血が上りはじめるのを感じ、ギュッと両手を握りしめる。

『時空管理局のみなさぁん。ご機嫌いかがかしらぁん』

女の甘ったるいしゃべりが俺の神経を逆なでする。

『今からドクターと私たちの夢のはじまりを見せて差し上げるわぁん。
 そ・し・て、こちらがその要ですぅ』
 
その時、スクリーンの映像が切り替わり、俺にとって見慣れた少女の姿が
映し出される。だがその四肢は大きな椅子に固定され、左右で色の違う瞳には
恐怖が浮かんでいた。

『怖いよ・・・ママ・・・パパ・・・。いやぁぁぁぁぁ!』

次の瞬間、映像は終わりスクリーンは闇に包まれた。

「ヴィヴィオ・・・」

声のする方に目を向けると、なのはが待機状態のレイジングハートを握りしめ
目を見開いて何も映していないスクリーンを見つめていた。

「なのは・・・」

俺が肩に手を置いて声をかけると、なのははゆっくりとこちらを向いた。

「ゲオルグくん・・・ヴィヴィオが!」

「ああ、そうだな。だからなんだ?お前がこれから助けに行くんだろ」

感情を押し殺してそう言うと、なのはの目に光が戻る。

「・・・・・・うん!」

そのとき、アルトが悲鳴のような声を上げる。

「廃棄都市区域に複数の戦闘機人の反応です。
 クラナガン市街から至近に多数のガジェット出現。
 ゆりかご周辺にも多数のガジェット反応。
 他に、数か所で多数のガジェットが出現しています!部隊長!」

「さ、ここからは一秒も無駄にできひんよ!
 文字通り世界の命運はこの一戦にかかってるんやからね!
 みんな、全力で行くで!」

はやての言葉に応じてなのはをはじめとする全員が艦橋を出る。
俺はそれを見送ると、正面のスクリーンに映し出された戦況に目を向けた。

「ゲオルグくん、私も行くわ。あとこれ・・・貼っとき」

はやてはそう言って俺に一枚の絆創膏を差し出す。
受け取ろうとした手から、血がぽたりぽたりと落ちていた。
見ると、爪が手の皮膚を突き破ったのか手のひらから血が溢れていた。

「ありがとうな、はやて。あと・・・気をつけて」

「うん。ほんならね」

はやては最後に笑顔を見せて艦橋を出て行った。

俺ははやてから受け取った絆創膏を貼ると、艦長席に座り目を閉じた。
大きく一度深呼吸をして目を開く。

「アースラ前進!ゆりかごから500m圏内につけろ!
 シャーリー!AMFC発生装置は問題ないな!」
 
「はい!いつでも起動できます!」

「よし!AMFC出力全開!」

「了解!」

シャーリーが操作すると同時に、スクリーンに映ったアースラを中心とする
半径1kmの円が描かれる。これが、AMFCの有効範囲というわけだ。

「副部隊長!第218・335両航空隊から出撃準備完了との連絡です」

「わかった。218はゆりかご後方、335はゆりかご前方に誘導してやれ。
 あと、AMFC有効圏内から絶対出るなと伝えろ」

「了解しました」

アルトが航空隊との通信連絡を取っている間に他のオペレータからも
報告が入る。

「陸士108部隊のナカジマ3佐から通信です」

「繋げ」

手元のスクリーンにナカジマ3佐の顔が映し出される。

『ん?八神はどうした?』

「出撃しました。今は俺がアースラの指揮を」

『そうか。うちはいつでも出られるぞ。誘導してくれ』

「了解です。クラナガンの港湾地区に地上型ガジェットの集団が出現してます。
 これを抑えてください」
 
『了解した。また連絡する』

「待ってください。クラナガン港湾地区はアースラのAMFC
 有効圏外なんです。なのでくれぐれも無理はなさらないでください」

『判った。まあ、心配するな。じゃあな』

ナカジマ3佐との通信を終え、俺は艦長席の背もたれに身を預けると、
戦況を示す正面のスクリーンを睨みつけた。
戦いはまだ始まったばかりだ・・・。


 
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