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ハッピークローバー

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第五十九話 夏の盛りでその七

「どんな奇麗な人でもなってたらでしょ」
「嫌になりますね」
「だからよ」
「声をかけられてですね」
「相手がしつこかったりしたら」
 そうした場合はというのだ。
「言えばいいわ」
「それで相手は逃げますか」
「ほぼ確実にね」
 そうなるというのだ。
「だからね、使われたくなかったら」
「色気のない仕草をして」
「声をかけられてしつこかったら」
「そうしたことを言えばいいですね」
「百点の美人もマイナス百点になるわ」
 そこまで評価が一変するというのだ。
「実際性病持っているとね」
「どんな美人も声をかけないですね」 
 富美子は真顔で応えて述べた。
「本当に」
「エイズでなくてもよ」
 あまりにも有名なこの性病でなくともというのだ。
「梅毒とか淋病でもよ」
「誰も声をかけなくなりますね」
「近寄ることもね」
 このことすらもというのだ。
「なくなるわよ」
「そうした意味では効果てきめんですね」
「梅毒も怖いでしょ」
「はい、昔は死にましたね」
 富美子は真顔のまま頷いて答えた。
「ペニシリンなかったら」
「そうだったし感染すると厄介でしょ」
「斑点とかできもの出来て身体が腐って」
「もう身体ボロボロになってよ」
「頭がおかしくなったりして」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「死ぬのよ」
「本当に怖い病気ですね」
「そんな病気持っていたら」
「誰も声をかけないですね」
「若し自分がなったらって思ったら」
 その梅毒にだ、イタリア戦争でのフランス軍はナポリの官能的な娼婦達が梅毒を持っていると知らず楽しみそうして感染し戦争出来る状態でなくなり撤退したという。
「嫌でしょ」
「絶対に」
「だからどんな美人でもね」
「そうした病気になるとですね」
「声かけられなくなるしインキンって言ってもね」
「皆去りますか」
「そうよ、効果てきめんだから」
 店長はまた言った。
「あんた達もいざって時はね」
「そう言うといいですか」
「そうよ、まあそれで周りで噂になるかも知れないけれど」
 インキン持ちと、というのだ。
「けれど身の安全の為にはいいでしょ」
「はい、確かに」
 富美子は今度はそれはという顔で頷いた。
「そうですね」
「襲われたら一生ものになるかも知れないけれど」
 それでもというのだ。
「疑われるのは一時で」
「事実じゃなかったら」
「自分が気にしなかったらね」
「それで済みますね」
「そうよ、噂は噂で」
 それでというのだ。
「それを鵜呑みにするならね」
「それならですか」
「もうそれまでだし」
 そうであってというのだ。 
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