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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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ラウラ・ボーデヴィッヒ

ドゴォン!

「ぷあ!」

 レールカノンの弾丸をギリギリで避けて、その砲弾が巻き起こした砂煙から脱出。
 続いて連射される弾丸も『オーガスタス』で防ぐ!

「くぅ!」

 レールカノンの直撃で『オーガスタス』の表面が少しへこみ、殺しきれなかった勢いで私の体が少し後方に飛ばされる。
 流石にあの口径の弾丸を正面で防ぎ続けるのはきついですね!

 その時、私と同じように煙の中から抜け出してくる影が二つ。
 セシリアさんと鈴さんです。
 二人とも一部の装甲を失っていますがまだまだいけますね。


―警告、警告!―


 ISの警告が終わる前に砂煙を切り裂いて6本のワイヤーブレードが私たちに襲い掛かってきました。
 ワイヤーブレード相手に盾では相性が悪すぎますね。私は『オーガスタス』を量子化しつつ両手で突撃銃と散弾銃を引き抜きます。
 切り裂かれた砂煙の先には漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』が一瞬確認できました。

「こなくそぉ!」

 襲い掛かるワイヤーブレードを掻い潜って『双天牙月』を両手に持った鈴さんが突撃をかける。

「ああ、もう! カルラさん援護を!」

「はい!」

 セシリアさんが射出していたビットを一度止めてライフルでの狙撃に切り替える。
 私も左手の『エスペランス』の散弾で接近してくるワイヤーブレードを迎撃しながら右手の『ハディント』でボーデヴィッヒさんを狙い撃ちます。

『まともな連携も取れないで私に勝てるとでも思っているのか!』

 ボーデヴィッヒさんが両手からプラズマ手刀を展開して鈴さんを迎撃する。こう接近戦になると射撃しずらいことこの上ない。下手したら鈴さんに当たってしまう!

「セシリアさん! 援護お願いします!」

「お任せを!」

 私も接近戦に行くために両手の武装を腰に戻しつつ、右手で腰の『マリージュラ』を掴んで一気に降下する。
 ボーデヴィッヒさんがそれを感じたのか私にワイヤーブレードが集中しますけど……

『させませんわ!』

 私に当たりそうになったワイヤーブレードはセシリアさんの正確無比な射撃で弾き飛ばし道を開いてくれます!

『落ちろぉ!』

『はっ』

 鈴さんが得意の連続攻撃を仕掛けられない訳。それはボーデヴィッヒさんが両腕から展開している二刀流のプラズマ手刀の他にもう一つ。

『ぐっ!』

『落ちるのは貴様だったようだな』

 いきなり鈴さんの動きが停止する。
 AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)、慣性停止能力。名前の通り全ての物体の慣性、つまり動きを停止させることが出来るドイツの第三世代兵器。
 理論の上では実弾兵器はほぼ無効化でき、一対一の接近戦において相手の動きを止められるということはその時点で決着を意味する特殊兵装。

「させません!」

 ゼロ距離でレールカノンを鈴さんに向けたところに向けてエネルギーを展開した『マリージュラ』をボーデヴィッヒさんの頭部に向かって振り下ろす。

「ふん」

「な……!」

 ほとんどこちらを見ないで避けられた!?
 そう思った瞬間、ほぼ零距離でボーデヴィッヒさんの冷たい目と視線が一瞬合った。
 感情の篭らない……なんて……冷たい目なんでしょう…

「カルラ! 離脱!」

 鈴さんの言葉に咄嗟に距離を取る。
 鈴さんが『龍咆』をボーデヴィッヒさんに向け、発射。
 しかしボーデヴィッヒさんが右手を鈴さんの方に向けただけで、いつまでも衝撃砲の砲弾は炸裂しない。

「無駄だ、この『シュヴァルツェア・レーゲン』の停止結界の前ではな」

「く! こうも相性が悪いだなんて!」

 鈴さんの言葉から『龍咆』を撃っているけど全て無効にされているのでしょう。AICの特性上、鈴さんの『龍咆』は相性が最悪です。
 衝撃砲は以前一夏さんにも話したとおり空間自体を圧縮してそれを撃ち出す空気砲と同じ原理の兵器。
 ならばその勢いが止まってしまえば……その衝撃は元の空間に戻り圧縮された空気は楔を解かれてすぐに霧散してしまう。つまり鈴さんの砲撃は今、実体兵器よりも効き目がないということ。

「名前ばかりの第三世代など私の敵ではない!!」

 離脱しようとしていた私と鈴さんに6本のワイヤーブレードが迫る。 

『私を忘れてもらっては困りますわね!!』

 先ほど止めていたビットが私と鈴さんが離れたことで再度動き出し、4方向からボーデヴィッヒさんを狙う。

「ふん、理論値最大稼働のブルー・ティアーズならいざ知らず、この程度の完成度で第三世代型兵器とは笑わせる」

 ビットから放たれるレーザーの嵐を避けながら再びボーデヴィッヒさんが左右の腕を突き出す。
 AICによってビットは全て沈黙し空中で動きを止められてしまった。

『動きが止まりましたわね!』

 その瞬間を待っていたのか、セシリアさんが『スターライトmkⅢ』を構えているのが目に入って……まずい!

「貴様もな」

『へ? きゃああああああああああああ!』

 その狙撃への移行も読んでいたのでしょう。
 私と鈴さんに向かっていたはずのワイヤーブレードの1本がいつの間にかセシリアさんの真下に。それがセシリアさんの右足を絡めとり、そのまま地面に叩きつけた。

「よくも舐めた真似をぉ!」

 鈴さんがワイヤーブレードを弾いてボーデヴィッヒさんに向かう。『龍咆』が効かないのであれば鈴さんの攻撃方法は近接戦闘しかない。
 でもそうなるとワイヤーブレードはほとんど私一人で請け負うことになるんですけど!

「私があいつを倒すまで頼むわよ!」

 貧乏くじですよそれ……まあやりますけど!

 右手の『マリージュラ』を一度腰に戻して、再び両手に『ハディント』と『エスペランス』を構えてワイヤーブレードの迎撃を開始する。

 しかし鈴さんの攻撃の鋭さは青龍刀を連結してからの回転攻撃があるからこそです。相手は二刀流、更には大口径のレールカノンと私の撃ち漏らしたワイヤーブレードも使える。
 こうなるといくらISの性能、操縦者の腕が同様でも受けに回るしかありません。
 予想通り鈴さんは押され気味で、押し負けることはないでしょうが攻めきれていない状態です。

『そろそろ決めるか』

『やれるもんならやってみろってのよぉ!』

 二人がそう言った瞬間、私の背後から巨大な煙が立ち上がる。見ると右足を縛られたままのセシリアさんがワイヤーブレードで引っ張られていくところだ。私も『ユルルングル』という同系統の武装を使っているから分かる。

 これからやろうとしていることが!

「く……!」

 間に合わなければ鈴さんにセシリアさんが叩きつけられて、動きの止まった二人にレールカノンが直撃する!
 『マリージュラ』のエネルギー展開時間は残り10秒程度、ここで使えばボーデヴィッヒさん相手には使えなくなりますが……剣は捨てましょう!


―ブースター全開、『マリージュラ』エネルギー最大展開―


 引っ張られていくセシリアさんに追いつくと右足のワイヤーブレードにいつもの1,5倍程度の長さのエネルギー刃を展開した『マリージュラ』を振り下ろす。一瞬の火花と共にワイヤーブレードが焼き切れてセシリアさんが解放されました。

「きゃ! ゴホン……助かりましたわカルラさん」

「どういたしまして! 鈴さんは!?」

 これで『マリージュラ』はしばらく使えません。ボーデヴィッヒさん相手にはもう使う機会はないでしょう。再び背腰部に『マリージュラ』を戻し…

―警告! 敵IS急速接近!―


「な!?」

 いつの間に!?
 そう思った瞬間には既に漆黒のISが目の前に出現している。

 先ほどまで鈴さんの相手をしていて今ここにいるということは……まさか『瞬時加速』!?
 鈴さんの相手をしながら行ったということですか!?

「邪魔をするな」

 ガァン!

「きゃあ!」

 考える間もなく頭部に『シュヴァルツェア・レーゲン』の全体重をかけた回し蹴りを食らって弾き飛ばされた。

「この……!」

 何とか地面に激突する前に体勢を整えて着地する。


―敵弾接近!―


 息つく間も無くISが警告を出す。辛うじて避けると……一瞬前までいた場所にレールカノンの砲弾が炸裂して大穴を作り出した。

「甘いな」

「くぅ!」

 そしてそれを見る間もなく聞こえる相手を見下す冷徹な声。
 私の頭上からは迫り来る回避不能のワイヤーブレードが3本。

 動きを……読まれた!?

「こ……のぉ!」

 直撃する刹那、一瞬体を捻ったことが功を奏したのか、ワイヤーブレードの直撃は回避に成功。
 その代わりに左足の『アドレード』が装甲ごと吹き飛ばされ、両腰の『ハディント』と『エスペランス』が真っ二つになり中の弾薬に引火して爆発する。

「ぐ……うあ!」

 いくら絶対防御があるとはいえ爆発の余波と衝撃までは消せません。爆風で体が前に押し出されてその衝撃が全身を襲う。
 姿勢制御も間に合わず甲高い金属音と共に仰向けに倒れこんでしまいました。


―現状確認。シールドエネルギー残量150、ダメージレベルB-、『ハディント』『エスペランス』損失、『アドレード』一機破損、『マリージュラ』再稼動まで後35秒、残存武装……― 


『あ……がっ!?』

「鈴さん!」

 鈴さんの左肩の衝撃砲がワイヤーブレードに貫かれて爆散し、その余波で鈴さんが弾き飛ばされるのが見えた。

 そう、今は現状なんてどうでもいい!

 状況確認を後に回して緊急起動。全部位のブースターをフル稼働で一気にボーデヴィッヒさんの真下まで移動する。まだ私は『瞬時加速』が使えないのでこれが精一杯の加速!

 両手を交差させて両肩の突起部分を掴むと同時に武装拘束を解除……

「いっ……けええええええええ!」

 両腕を振るってその突起を左右に投擲した!
 風を切る音と共に飛ぶ『それ』はボーデヴィッヒさんのいる場所の左右を抜けて後ろへ飛んでいってしまう。

『な、何をやってんのよあんたは!』

『遊んでる場合じゃありませんのよ!』

 分かってますよ!
 二人の声にそう思いつつも鈴さんの方向に近寄るのは忘れません。

「鈴さん、突撃!」

「ああ、もう! あんたも人使い荒いわね!」

 そう言いながら鈴さんが再度突撃する。
 投擲したのはエネルギーブーメラン『カイリー』。ブーメランの名前の通り、投擲すれば撃ち落とされない限り必ず持ち主の手に戻ってくるように設定された武装。
 風を切る音共に『カイリー』が私の所に、つまり直線上にいるボーデヴィッヒさんに向かって飛来する。

『ふん、ブーメランか。そうやって自分たちで気を引けば当たるとでも思ったのか?』

 ボーデヴィッヒさんは『カイリー』のことを知っているのでしょう。そう言うと自分の後ろに二本のワイヤーブレードを守るように展開します。

 私は鈴さんのほぼ真後ろに影になるように位置取る。ブーメランはばれているでしょうけど……そもそもそれが当たるとは思っていませんからね!

「鈴さん回避!」

『へ? ……って危な!』

『何!?』

 鈴さんが慌てて回避すると同時にボーデヴィッヒさんに飛来していた『カイリー』が左右ギリギリを通過して(・・・・)私に戻ってくる。
 『カイリー』は手に持つことでエネルギーナイフとして接近戦で使うことの出来る。戻ってきた『カイリー』を両手で掴み取ってエネルギー刃を展開したまま、ブースターを全開にして突撃する!

「はああああああ!」
 
「意表をつけば攻撃が当たるとでも? 遅すぎる!」

「う…!」

 突進の途中で私の体の動きが完全に停止する。隙を突いたはずなのにAICに捕らえられた。流石ですね……

「貴様はISより曲芸士がお似合いだ」

「く……!」

 レールカノンの砲口が大きな金属音と共に私に向けられる。

 でもそれが有効なのは私が一人の場合だけなんですよね。
 なんで私が鈴さんと一緒に突撃したか分かってないんですか?

『貰いましたわ!』

「ち、鬱陶しい!」

 レールカノンの発射直前にボーデビッヒさんが回避行動を取り、その場所にビットのレーザーが通り過ぎる。

「私もいるって……言ってんでしょうがぁ!!」

「この! 雑魚共がぁ!」

 回避先を読んで『双天牙月』を鈴さんが振り下ろし、ボーデヴィッヒさんがそれを忌々しげに展開したプラズマ手刀で受け止めた。

 その途端、体を縛っていた感覚が消えた。
 動ける? え、どうして?

『やはり貴様から落ちるか赤いの!』

『やれるものならやってみろってのよぉ!!』

『そろそろフィナーレと参りましょう!』

 再び空中で交差する黒と赤と青のIS。今は考えるより行動ですね。
 私も爆風でAICに対応できる『ミューレイ』をオープンし再度戦線に加わろうとした瞬間……

『何をしている貴様ら!』

 アリーナのスピーカーから聞きなれた声が響き渡りました。

 この声は……織斑先生?

『模擬戦をやるのは構わん。だが最終安全装置を解除してやるとなれば容認しかねるぞ。この戦いの決着は学年別トーナメントまで預からせて貰う。全員さっさとISを解除しろ』

「教官がそう仰るなら」

 ボーデヴィッヒさんはその声を聞くと今までの猛攻が嘘だったかのように静かに地面に降りるとISを解除しました。

『では学年別トーナメントまで一切の私闘を禁ずる。さっさと戻れ』

 私たちも地面に降りてISを解除します。ボーデヴィッヒさんはそれを見てアリーナの出入り口へと引き返していく途中で一……

「は、命拾いしたな」

 そう言って去っていきました。

「こっちの台詞よ」

「まったくですわ」

 ボーデヴィッヒさんがアリーナから去り、見えなくなった途端……

「あー、ゴメン。もう無理かも……」

「私もそろそろ限界ですわね……」

「じ、実は私も……」


ドサドサドサ


 私たち3人はほぼ同時にその場に倒れこんでしまいました。

 助かった……で、いいんですよね?
 それにしても、3対1であれって……強すぎですよ。 
 

 
後書き
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