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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第51話:少女の真実


8月になり,空調を効かせている隊舎の中に居ても,少し動くと汗をかく
くらいの暑さになってきた。

携帯用AMFC発生装置のテストは順調で,運用面の問題も出し尽くし
そろそろフォワード陣の訓練にも導入しようとしているようだ。

戦闘の方は,ヴィヴィオを保護した時の戦闘以来1か月以上も大規模な戦闘は
発生しておらず,時折思い出したかのように少数のガジェットが出現する
程度のものだった。

俺はフォワード陣の訓練に参加した後,シャワーを浴びて朝食を食べるべく,
食堂に向かった。
空いている席に座って朝食を食べ始めると,隣に誰かが座るのを感じた。

「早いねゲオルグくん」

声のする方をみるとなのはが座っていた。

「なのはが遅いんだよ」

「女の子には色々あるんだよ。髪を乾かすのだって時間かかるし」

「じゃあ切れば?」

「いいの?切っちゃって」

「別に俺の好みに合わせる必要ないだろ。切りたいなら切れよ」

俺がそう言うと,なのはは少しむくれた顔をした。

「冷たいなあ。ま,いいけどね」

なのははそう言って俺に向かってにっこり笑って見せると,
自分の朝食に手をつけ始めた。それを見て俺も食べるのを再開する。
しばし,2人で並んで座り無言で食べ続けていると,
正面に誰かが座るのが見えた。

「おはよう,お2人さん」

「おはようございます。なのはさんにゲオルグさん」

俺が顔を上げると,はやてとリインがいた。

「「おはよう」」

「ユニゾンかいな」

「「そんなんじゃないよ」」

「・・・もうええわ」

はやては呆れたような声でそう言うと,自分の朝食に手をつけ始めた。

「そやけど,2人ともよう朝からそんなに食べるなあ。
 見てる私の方が胸やけしそうや」
 
「そうか?朝から動いてるからこれくらい普通だぞ」

「だね。毎朝これくらいだよ」

俺となのはが口ぐちにそう言うと,はやては無言で首を横に振った。
その時,俺の前にある朝食を見ていたなのはが口を開いた。

「あ,そのお芋おいしそうだからひとつ頂戴」

「いいぞ。ほれ」

俺は自分のフォークで芋をひとつ突き刺すと,なのはの方に向けた。
するとなのはは,芋にかぶりつき美味そうに咀嚼する。

「いい塩加減だね。ゲオルグくんも代わりに何かいる?」

「じゃあその肉一切れくれ」

「えーっ,お芋とお肉じゃ等価交換にならないよ」

「何かいるか?って聞いたのはなのはだろ」

「ま,そうだけど・・・しょうがないなあ,じゃあはい」

なのははそう言い自分の皿の上にある肉を一切れ突き刺すと,
俺の方に向けた。俺は,それにかぶりつく。

「げ,ソースが垂れた」

「あ,ごめんね」

なのははそう言うと,テーブルの上にある布巾で俺の制服に落ちた
ソースをふき取っていく。

「ありがと,なのは」

俺はなのはにそう言うと,また自分の朝食を食べ始めた。

「なんかあったんか?2人とも」

はやてが目を丸くして,俺たちの方を見ていた。

「ん?なんで?」

「いや,なんか2人の関係が前と全然違う気がするねんけど」

はやての言葉に俺となのはは顔を見合わせた。

「そんなことないよな」

「うん。別に変わりないよね」

俺達はそう言ったが,はやては納得いっていないようだった。

「どない思う?リイン」

「わからないです」

「そっか。あ,フェイトちゃん!ちょっと!」

はやては通りかかったフェイトに向かって手招きした。

「どうしたの?はやて。あ,おはよう。なのは,ゲオルグ」

「「おはよう」」

俺となのはがフェイトに挨拶を返していると,はやてがフェイトに向かって
話しかける。

「フェイトちゃん。この2人の関係が前と全然違うんやけど,
 何があったか知らん?」
 
はやてはそう言って,俺となのはのさっきの行動をフェイトに説明していた。
それを聞いたフェイトはきょとんとした顔をしていた。

「え?別にそれくらいいつも通りだよ」

「は?」

はやては,理解できないというように口を大きく開けていた。

「いやいや,私が知ってる2人はこんなんちゃうで?」

「はやてがなのは達と一緒にご飯食べたのはいつ以来?」

フェイトがそう聞くと,はやては腕組みをして考え込んだ。

「最近私,朝遅いからなあ。先月の初めくらいかなあ」

はやてがそう言うと,フェイトが得心いったという顔をした。

「じゃあそう感じるかも。7月の初めならまだ2人が付合い始める前だよね?」

フェイトが俺達の方を見てそう言ったので,俺となのはは頷いた。

「へ?どういうこと?」

はやてが混乱している様子でそう言った。

「なのは。はやてに言ってないのか?」

「ゲオルグくんの方がはやてちゃんと一緒にいる時間長いでしょ?」

「いやいや,そういう話は女性どうしでするもんじゃないの?」

「だって私はやてちゃんと会う機会少ないもん」

「2人とも,ストップ!」

俺となのはが言い合いをしていると,はやてが割り込んだ。

「つまり,なのはちゃんとゲオルグくんが付き合ってるってこと?」

はやてが早口で尋ねてきたので,俺となのはは頷いた。

「え?はやては知らなかったの?」

フェイトがとどめを刺すようにそう言うと,はやては勢いよく立ちあがった。

「知らんわあああああああ!!」

はやての絶叫が食堂にこだました。



・・・その夜。

夕食を食べた後に副部隊長室に戻ると,シンクレアが待ち構えていた。

「あれ?シンクレアだ。なんか久々に顔を見た気がするよ」

「それはゲオルグさんの人使いが荒いからですね」

「・・・そんな皮肉を言うためにわざわざ帰って来たのかね?」

俺がそう言うと,シンクレアは首を振った。

「ゲオルグさんから言われてたヴィヴィオちゃんのDNAパターンの
 件ですけど,ヒットしましたよ」
 
「すいぶんかかったね」

「俺,頼まれたときにそう言いましたよね」

「そうだっけ」

俺がそう言うと,シンクレアがため息をつきながら首を振った。

「ゲオルグさんは”聖王”ってご存知ですか?」

「当然だね。古代ベルカの王のことだろ」

俺がそう言うと,シンクレアは頷いた。

「じゃあ,10年程前にあった聖骸布紛失事件はご存知ですか?」

「知識としてはね,それがどうしたの?」

「あの事件のあと,聖王の遺伝子が裏社会に出まわったらしいんですよ。
 つまり,聖骸布に付着していた遺伝子を何者かが培養したってことですね」
 
「まさか・・・」

「ええ,そのまさかです。ヴィヴィオちゃんのDNAパターンは
 その時に出まわった聖王のものと完全に一致しました」

「つまり,ヴィヴィオは聖王のクローンと?」

「そうです」

俺は小さく息を吐くと,シンクレアの顔を見た。

「シンクレア」

「はい」

「この件は,はやてに報告しておいてくれ。フェイトやなのはも交えて
 対応を協議する。はやて以外には話すなよ」

「了解です」

シンクレアはそう言って部屋を出て行った。

 
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