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おっちょこちょいのかよちゃん

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256 その結びは仮初か

 
前書き
《前回》
 戦争を正義とする世界の強敵・ヴィクトリア女帝を葬り七つの泉によって杖を進化させたかよ子は翌日、本来の目的である藤木の奪還に向けて出発する。そしてそれぞれの者も各々の目的の為に出発した。その一方、杉山はレーニンと共に紂王の屋敷に訪れ、そこに保管されている杯の能力(ちから)を吸い取った。そして藤木とりえの結婚式に出席した。祝言では藤木とりえは中国式の礼服を着せられており、祝いの酒を飲み交わし、その場には藤木からりえへの贈り物としてピアノが現れた!! 

 
 藤木とりえの結婚式は続く。
「それでは来賓達に賛辞の言葉を頂こう」
 紂王が進行を担う。まず一人の男が立ち上がる。
「それでは私から行こう」
 一人の男が立ち上がった。
「私はチンギス。私も愛する妻・ボルテとは『向こうの世界』から愛を誓い合ってきた。その二人の者も私と妻のように愛し合って欲しいものである」
(愛し合えるなんてバカバカしいっ・・・。私は本当はっ・・・!!)
 りえはふとレーニンの方を見る。
(す、杉山君っ・・・!!)
 しかし、敵側に寝返った男子の事を今は本気で好きになれるのかとりえは思った。また別の人間が立ち上がる。
「我が名は(せい)。まさか杯の所有者がこの小童(こわっぱ)と結ばれるとはな。これで杯は此方の世界の物となる上に新たな戦力になる事を祈ろう」
 また別の男が立ち上がる。
「私は煬帝(ようだい)。貴様らの結びはこの世界の繁栄の一種になる事を願おう。永久(とわ)の愛を誓うが良い」
(馬鹿馬鹿しいっ・・・!!)
 りえは聞いているだけで反吐が出そうな気分だった。
「私はエルデナンド。この度は結婚をおめでたく申し上げよう。剣は取られたにしても折角杯がこちらの物になったのだ。そしてこの世界で祝言が見られるとは気持ちがいい」
 エルデナンドは座る。次々と来賓の挨拶が来る。そして最後に・・・。
「私はこの世界の長・レーニンだ。この度は私も招待し、そしてこのような最高の祝言になった事を感謝致す。そして今私に力を貸しているこの少年も挨拶がしたいという」
 そしてレーニンの姿が変わる。
「す、杉山君っ・・・!!」
「杉山君・・・?」
 りえも藤木も戦争を正義とする世界の長の変化に改めて驚く。
「お前ら、また会えて良かったな。ここでの生活を楽しむんだな。藤木、俺はお前が無事でよかったぜ。りえ、お前も乙女らしい服で似合ってるじゃねえか」
「杉山君っ・・・」
 りえは一瞬、杉山の誉め言葉に照れた。しかし、どうしても心の底から嬉しいとは思えない。
「あ、ありがとう・・・!!」
 一方、藤木は何の疑いもなく杉山に礼をした。
「それでは来賓の皆様、ご賛辞の言葉ありがとうございます。それでは食事とい致しましょう。食堂の方へ宜しくお願い致します」
 皆は進行係の遊女の言葉で食事の場所へと移る。

 かよ子達は本来の目的に戻る為に羽根を東の方へ飛ばす。
「はて、儂らはこれからどうするんじゃっけ?」
 友蔵はもう本来の目的をすっかり忘れていた。
「おじいちゃん、アタシ達は藤木を取り返しに行くんだよ・・・」
「おお、そうじゃった、レッツゴーじゃ!」
「もう進めてるよ・・・」
 かよ子は力なくツッコミを入れた。
(兎に角、この杖は強くなれたんだ・・・!!)
 かよ子は思う。藤木を連れ帰し、レーニンに手を貸した杉山を取り返そうと。
「はあ~、あの泉、綺麗だったなあ~、たまちゃんにも見せてあげたかったよお~」
 かよ子はふとたまえやとし子など学校の友達を思い出した。
「うん、たまちゃん達、今どうしてるだろうね・・・?」

 こちらはかよ子達が元々いた生前の世界。たまえはこの日も親友のまる子の他、大野や杉山、かよ子などがいなくてがらんとした3年4組の教室にいた。
(はあ、寂しいな・・・)
 たまえはため息をした。と、同時にため息をした者がいた。
「え?」
 はまじもまたため息をついていたのだった。
「はまじも元気ないね」
「ああ、穂波もか?」
「うん、まるちゃんやかよちゃん、大野君や杉山君達がいない日が続いて寂しくて・・・。はまじも?」
「ああ、いつも隣にブー太郎がいたからな・・・。あいつもその異世界で頑張ってるのかなって思ってよ」
「そうだよね・・・」
「それにマラソン大会も近えしよ。あいつら休めて羨ましいよな」
(え、そこ・・・?)
 たまえは心の中ではまじにツッコミを入れた。

 結婚式は続く。そして次は食堂に移り、食事の時間としていた。藤木やりえは遊女達や来賓達と共に様々な料理を食べていた。りえは周囲の人物が皆敵と思うと全く落ち着かない。かといって今この場で異能の能力(ちから)を出しても返り討ちにされるだけと解っているのでただ紂王や妲己の命に従うしかなかった。
「りえちゃん、これ美味しいよ」
 藤木は寿司を皿に取って食べる。
「お寿司って僕んちじゃあまり食べなかったからなあ・・・。あ、これ豚の角煮だ。ここに来てから前にも食べた事があるぞ」
「へえ・・・」
 りえは黙ってそのまま食べ続ける。藤木は食事を楽しんでいる様子だった。だが、りえは杉山の方を見る。
(杉山君・・・、アンタはここで本当に私と藤木君を結婚させるつもりなのっ・・・!?でも私はアンタ達と違って『そっち側』に寝返る気はないからねっ・・・!!)
 そして食事が終わり、デザートが運ばれる。ゼリーやケーキが運ばれた。
「うわあ!」
 特にケーキは上品にも二段重ねとなっている白い生クリームのショートケーキだった。
「それでは今の世の祝言で大事な儀式とされるものを行います。新郎新婦はこの『けーき』というお菓子に『ないふ』という短刀で入刀を行うと聞きます。それではお二方、こちらをどうぞ」
 藤木とりえは一本のナイフを遊女から渡された。
「りえちゃん、一緒に持って切ろうよ」
「え、ええ・・・」
 そして二人はケーキを入刀した。
「お二人が永遠に結ばれる事を祈りましょう」
 杉山は思う。
(あいつ、やっぱり乙女だな・・・)
 そして暫くの休憩が入り、式を行った会場へと戻った。
「それでは新郎新婦からのお言葉をお願い致します」
「え!?」
 藤木は急に言われて緊張した。
「な、何の言葉も用意してないよ・・・!!」
「そんな焦る事でもない。今の気持ちを伝えれば良いのだ。一言だけでもよいぞ」
「は、はい・・・」
 藤木は何て言えばいいのか解らないまま立ち上がった。
「あ、あの、僕は・・・、前の世界にいた時は、ひ・・・、卑怯だの、卑怯者とばっかり言われて辛かったです・・・」
 藤木は言葉がつっかえながらも喋り続ける。
(藤木君・・・、そんな暗い事を・・・)
 りえは藤木が暗い話を始めたので場違いではとも思った。
「でも、ここに来て、紂王さんや妲己さんに救われて、可愛い女の子達と遊べて、そして・・・」
 藤木はまた数秒ほど黙った。
「夏休みに会ったこのりえちゃんとまた会えるなんて嬉しい・・・です!!だって、とっても可愛いし・・・、ピアノ、上手だし・・・!!」
 そして藤木は赤面していた。
「何しろ、その、りえちゃんは乙女で、天使です・・・!!」
(天使・・・!?)
 りえは夏休みに会った時も最初は幽霊と間違えられ、実際に姿を見られると藤木には天から舞い降りた天使と言われたものである。
「それでは安藤りえ嬢の番だよ」
 妲己は告げた。りえは黙って立ち上がった。
「・・・」
 りえは言葉が浮かばず、数秒黙ったままだった。
「何も言葉が浮かばないのかしら?」
 妲己は尋ねた。
「・・・私は、まさか藤木君とこんな所で会うとは、意外です。ええと、藤木君と喜ばせるようにできたらと思います・・・」
 りえはそう言って座った。だが、その言葉は勿論本心ではない。
(私は本当は杉山君がっ・・・!!でも、藤木君を何とか私達の方に引き戻さないとっ・・・!!)
「それでは本日はお越しいただきましてありがとうございました。今、敵の世界との戦いは続いてはいますが、この世界の勝利を祈りつつ、お二人の幸せがいつまでも続くように願います」
 こうして式は終了した。

 式が終わり、元の服に着替えた二人は紂王に告げられる。
「さて、婿殿に嫁殿、これからは夫婦なのだからこれからは一緒の部屋だ」
「ええっ!?」
 りえは声が出てしまう。
「不服かね?」
「嫌なら別の部屋にしても良いぞ。その代わり、お嬢には地下の蔵で住んで貰って水も食べ物も与えずに飢え死にしてもらおう」
「うっ・・・!!」
「りえちゃん、僕は君とがいい!僕は今度こそ君を守りたいんだ!!」
「・・・分かったわよ」
 りえは渋々従う事にした。二人が通された部屋は最上階に当たる五階の部屋だった。りえが監禁されていた部屋よりも広く二人部屋で、二人で寝れるような寝台、応接用の椅子と机、テレビにラジオといった今時の家具まで完備されていた。そして藤木からのプレゼントとされたピアノも既にその場に置いてあった。
「それでは仲良くな」
 紂王と妲己は退出した。りえは黙って窓の方を見る。誰か助けに来てくれないかと思ったがそうもいかない。
「・・・りえちゃん」
「え?」
「さっきはありがとう。僕もりえちゃんを幸せにしてみせるよ!」
「え?うん・・・」
(あの言葉は本気じゃないわ・・・)
「僕は本気だよ。りえちゃんを幸せにしたいって。だからりえちゃんの好きなピアノを弾かせてあげたいと思ったんだ」
「藤木君・・・」
 りえは仮初の結びと思っていても藤木はそう思っていなかった。
「また弾いてくれるかな?夏休みに弾いていた曲を」
「う、うん・・・」
 りえはピアノに向かい、『亜麻色の髪の乙女』の演奏を始めた。

 時は進む。それぞれが目的達成の為に動き続けて行く。 
 

 
後書き
次回は・・・
「武則天の側近」
 りえのピアノの伴奏を聴いていた藤木は上手だと感激していた。その頃、かよ子達とは別で藤木の捜索に当たる笹山は武則天の側近である姚崇と張説と共に進んでいた。そんな彼女の元にも敵の人間が襲撃して来た・・・!! 
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