| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第46話:監査


最近はすっかり日常の一部になった,フォワードの訓練を終えて
食堂で朝食を食べていると,放送で部隊長室へと呼び出された。
俺が部屋に入ると,はやては頭を抱えていた。

「どうしたんだよ,はやて」

「地上本部から監査が入るって連絡があったんよ」

「監査?なんでまた」

「6課は高ランク魔導師をいっぱい抱え込んどるから,
 戦力制限が規定通りに運用されとるかどうかの監査やて」

「それなら,本局から監査が入るのがスジだろ?」

「そうなんやけど,6課は地上部隊やから地上本部もまるっきり
 無関係っちゅうわけやないし,ちょっと無理はあるけどスジは通るんよ。
 ま,所詮は表向きの理由やろうけどね」

「というと?」

「この前の戦闘では派手にやったからなあ,目についたんやろ。
 で,ちょっと調べてみたら私とかフェイトちゃんみたいな犯罪者もどきが
 上層部におる上に,高ランクの魔導師がゴロゴロしとって気に入らんから
 少し嫌がらせでもしたろと思ったんとちゃう?」

はやては少し苛立った様子で,ため息をついた。

「なるほどね。しかし監査か・・・これはちょっと厄介かな」

「そうなんよ。6課はぱっと見ツッコミどころ満載なんやけど,
 ちょっとほじくり返されたらやばいもんがゴロゴロしとるから」

「主に俺の部屋だな」

「そやからゲオルグくんを真っ先に呼んだんよ。・・・大丈夫やろな?」

「そのへんは抜かりなくやってるから,たぶん大丈夫だよ」

「シンクレアくんは?」

「あいつは調べ物で本局」

「そっか。ま,居らん方がええよな。ほんなら頼むよ」

「はいはい」



・・・午後。

俺とはやては隊舎の玄関で地上本部からの監査官を待っていた。
しばらくすると,黒塗りの公用車が目の前に止まった。
ドアが開いて,眼鏡をかけたいかにもキャリアウーマンといった風体の
女性士官が歩いてきて,俺達2人の前で止まった。

「今回,機動6課の監査を担当します,オーリス・ゲイズ3佐です」

「機動6課部隊長の八神はやて2佐です」

「同じく副部隊長のゲオルグ・シュミット3佐です」

「本日は,戦力運用が規定に則って適正になされているかの監査です。
 ご連絡が直前になり申し訳ありませんが,よろしくお願いします」
 
ゲイズ3佐は感情を感じさせない声でそう言うと,眼鏡をくいっと持ち上げた。

「理解しております。では先ずはこちらへ」

はやてはそう言うと,ゲイズ3佐を隊舎の中へと招き入れた。
部隊長室へと向かう道すがら,はやてが口を開いた。

「ゲイズ3佐はレジアス・ゲイズ中将とはどのようなご関係で?」

「娘です」

「そうですか」

あっという間に会話ともいえない言葉のやり取りは途切れてしまった。
それから,俺達3人は無言で隊舎の廊下を歩いて行く。
部隊長室に入ると,俺とはやてはゲイズ3佐と向かい合ってソファーに座った。

「それでは,まず人員配置と指揮系統に関する資料を確認させていただきます」

ソファーに腰かけるやいなやそう言ったゲイズ3佐に資料を手渡すと,
ゲイズ3佐は資料に目を通し始めた。

資料を読んでいたゲイズ3佐が資料から顔を上げたのは10分ほどたった
後だった。

「質問しても?」

「ええ,どうぞ」

「機動6課の幹部陣はほぼ全員が八神2佐の知人で固められていますが,
 理由をお聞きしたいですね」

「新設部隊な上に,本局所属でありながらミッドの地上部隊という特殊性から
 人集めに苦労しましてね。やむなく知り合いを頼ったんです」

はやてがにこやかにそう言うと,ゲイズ3佐はくいっと眼鏡を持ち上げて,
はやての目を見つめた。

「そうですか,それは大変でしたね」

言葉だけは,はやてを気遣うような言葉に聞こえるが全く温度を感じさせない
冷え切った声でそう言うと,ゲイズ3佐は再び資料に目を落とす。

その後,ゲイズ3佐から戦力運用や6課の戦闘についての質問がいくつか
あったが,はやては無難な答えを返していた。

部隊長室でのやり取りが終わると,各所を案内することになった。
発令所・格納庫・訓練スペース・デバイスルームなどを2時間ほど
かけて回った後,部隊長室に戻った。
部隊長室に戻り,再びソファーに座ると,ゲイズ3佐は口を開いた。

「本日は部隊運用・戦闘に関する資料一切と各施設を見せていただきました。
 今日拝見した限りにおいては,規則に従った適正な部隊と戦力の運用が
 なされているようですね」

「はい」

「ですが,些か過剰ともいえる戦力を機動6課が保有しているのは事実です。
 先日の戦闘でも一時的な能力リミッタ―の解除を実施されています。
 これらの処置については規則を順守し適正に運用するようにお願いします」
 
そう言って,ゲイズ3佐はたちあがった。
到着したときと同じように無言で俺達3人は玄関へと歩いて行く。
玄関前に止まっている公用車の前でゲイズ3佐が立ち止まり,
俺とはやての方を振りかえったかと思うと,右手を上げて敬礼した。
俺とはやてが返礼すると,ゲイズ3佐は公用車に乗り込み去って行った。

俺とはやては公用車が見えなくなるまで玄関先に立っていた。
公用車が見えなくなると,俺とはやてはお互いに顔を見合わせて,
同時に大きく息を吐いた。

「なんとか乗り切れたな」

「ああ。一連の違法行為が露見しなくて助かったよ」

「まったくや。あんなもんが見つかってしもうたら,私らがクビになるだけでは
 済まんからね」

はやてはそう言うと隊舎の中へ戻ろうとする。
俺が動かずにいると,はやては振り返って声をかけてきた。

「ゲオルグくんは行かへんの?」

「タバコ吸いたいから」

「そっか。吸いすぎはあかんよ」

はやてはそう言ってヒラヒラと手を振ると,隊舎の中へと消えた。
俺は,玄関前の階段の隅の方に腰を下ろすと,胸ポケットからタバコを
取り出し,薄暗くなった空に向かって煙を吐き出した。

1本を吸い終わり,もう1本吸おうと胸ポケットに手を伸ばした時,
玄関前に見覚えのある1台の車が止まり,運転席から執務官の制服を着た
フェイトが降りてきた。

「こんなところで何やってるの?ゲオルグ」

「ん?たそがれてた。なんかちょっと疲れちゃって」

「大丈夫?仕事のしすぎじゃない?」

フェイトが心配そうに俺の顔を覗き込む。

「いや,そういうんじゃなくて,気疲れしたっていうか・・・」

俺がそう言うと,フェイトが何かを思い出したように手を打った。

「そういえば,地上本部の監査があったんだっけ。お疲れ様」

「いや。受け答えは全部はやて任せだったし,俺はその場に居たってだけ
 なんだけど,なんかね・・・」
 
俺はそう言うと,立ち上がってズボンについた砂埃を払った。

「非合法活動にどっぷり漬かってきたせいか,監査とか査察って聞くと,
 妙に緊張しちゃってさ。情けないね」

俺がそう言うと,フェイトは何かを考えるようにしばらく地面を
見つめていたが,何かを決意したかのように俺を見て口を開いた。

「ねえ,ゲオルグ。少しドライブにつきあわない?」



俺は,フェイトの車の助手席に座っていた。
しばらくして,フェイトが意を決したように話し始めた。

「この前ゲオルグが教会で話してくれたことってさ,調査そのものは
 非合法なんだよね?」

「そうだね」

「なんで,そこまでしたの?」

フェイトにそう聞かれて,俺はどう答えるべきか少し迷った。

「なんでだろうね。たぶん,憎かったからかな」

「憎かった?」

「うん。俺の姉ちゃんがスカリエッティに殺されたんだって知った時に,
 スカリエッティを殺したいと思うほど憎んだんだよ」

「うん」

「で,スカリエッティと最高評議会の間につながりがある可能性が高いって
 知った時に,スカリエッティに向かってた感情が最高評議会に
 向いちゃったんだと思う」

「うん」

「だから,あんな無茶な調査を実行に移したんだろうね。
 それがどれだけ周りに迷惑をかけるかも考えずに」

「迷惑だなんて。それに結果として最高評議会が犯罪者とつながってるのは
 事実なんでしょ?」

「まあね。でも,俺達はあくまで時空管理局の職員であって,
 命令には従わなくちゃならない。それはとりもなおさず
 上層部のことを絶対的に信じなきゃいけないってことなんだよ」

「うん」

「そういう立場に居るのに非合法な手段まで使って自分の憎しみを晴らそうと
 しているんだってことに気づいてさ。最近どうしていいかわかんないんだよ」

「そっか」

「俺,局員やめようかな・・・」

俺がそう言うと,フェイトは車を脇に寄せて停めた。

「本気?」

「半分くらい」

「なんでやめようと思うの?」

「自分のやろうとしていることに自信が持てなくなったから。
 自分が自分の欲望のためだけに機動6課のみんなを巻き込もうとしている
 と思ったから」
 
「そっか」

フェイトはそう言うと,黙り込んでしまった。
しばらくの間,車の中を沈黙が支配した。
やがて,フェイトが口を開いた。

「私は,ゲオルグがやっていることが間違いとは思わない。
 たぶんはやてもクロノもなのはも騎士カリムも同じだと思う。
 だから,あの時ゲオルグを誰も責めなかったんだよ」

「そうかな?」

「そうだよ。だって,あの場でゲオルグを逮捕することだってできたんだよ。
 でも,そうせずにゲオルグのやってることを黙認した。
 それは,みんながゲオルグのことを認めてくれたからじゃないかな」
 
「でも,みんなを巻き込んじゃって・・・」

「違うよ。ゲオルグがやったことは重犯罪者のスカリエッティを捕まえるための
 情報収集。そのためにちょっとだけ法を踏み越えちゃったけどね」
 
「ありがと,フェイト」

「どういたしまして」

そう言うとフェイトは車を発進させて隊舎に向けて走らせた。
車窓から見えるクラナガンの夜景がやけに滲んで見えた。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧