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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第38話:隊舎への帰還


俺とシンクレアが最高評議会と思しき連中の監視を始めて1週間,
設置した機器をすべて撤収して,隊舎へと戻った。

一度,自室に戻って制服に着替えた俺は,すぐに部隊長室に向かった。
部隊長室に入ると,事務仕事をしていたはやてが顔をあげた。

「ゲオルグくんやないか・・・」

「ただいま戻りましたよ。部隊長殿」

俺がおどけた口調で言うと,はやてはおもむろに立ち上がって,
俺の方に向かって歩いてきた。
はやては俺の正面に立ってうつむいている。
その様子を見て,俺は何かあったのか心配になり尋ねようとしたとき,
俺の左頬に衝撃があり,俺は床に倒れ込んでしまった。

「遅い!2日で戻るって言ってたやんか!」

俺が痛む左頬を押さえながらはやてを見上げると,
はやてが右の拳を握り,鬼の形相で俺を見下ろしてそう叫んだ。

「ごめん。でも・・・」

俺がはやてに向かって言い繕おうとすると,はやては両の眉を跳ね上げる。

「でもやない!帰還が遅くなるならそう言ってくれんと心配するやろ!
 私はええよ。事情を知ってるんやから。そやけど,ほかのみんなが
 どんだけ心配してかわかるか?」
 
「ごめん・・・」

俺がそう言いながら立ち上がると,はやては俺に抱きついてきた。

「・・・無事に帰ってきてくれてよかったわ。めっちゃ心配したんやで」

「心配してくれてありがと,はやて」

俺がそう言うと,はやては俺に笑顔を向けた。

「友達を心配するんは,当たり前やろ」



「で,予定よりも5日も引っ張った甲斐はあったんかいな?」

はやては俺がソファーに座るやいなや,そう聞いてきた。

「まあね。当初の予定とは違ったけど」

「そういえば,誘拐したのはどこにおるん?」

「誘拐は実行不可能だったよ。ま,そのへんも含めて話そうか」

それから,俺は1週間の監視の結果得られた情報をはやてに説明した。
最高評議会の会話を盗聴した結果,やはりあの気味の悪い脳のオブジェが
最高評議会の構成員であり,彼らが今の体制の元を作り上げた人々の
なれの果てであった。
つまり,最高評議会は伝説の3提督よりも前の時代の人々であり,
100年以上にわたって,今の世界を支配し続けてきたことになる。
また,”無限の欲望”ことジェイル・スカリエッティは最高評議会の
意向によって作られた人工生命体らしく,人造魔導師に関する研究資金を
最高評議会がスカリエッティに提供していることもわかった。
さらに,地上本部の実質的支配者であるレジアス・ゲイズ中将が,
詳細は不明ながらも最高評議会と暗いつながりを持っていることもわかった。

俺が映像を交えながら話を終えると,はやては大きく一つ息を吐いた。

「・・・えらいもん掴んでしもたな。ゲオルグくんはどう動けばええと思う?」

はやては自分の足元を見つめながら弱々しい声で俺に尋ねてきた。

「少なくとも,最高評議会とスカリエッティが繋がってる証拠は掴んだ。
 この事実だけでも,最高評議会にとっては政治的な致命傷になりうると思う。
 だから,この事実を盾に最高評議会に対して秘密裏に接触を持つのは
 可能だと思う。ただね・・・」

俺は一旦そこで言葉を切った。

「何なん?」

はやては,俺の顔を見つめて先を促す。

「どうやら最高評議会側でもスカリエッティの狙いは掴みかねてるみたいでさ。
 俺たちが本当に必要としてるのは,スカリエッティの今後の動きについての
 情報だろ?だから,危険を冒して接触を持つほどの価値は今のところは無い
 っていうのが俺の考え」
 
「ふーん。そんなら,当面は静観するしかないっちゅうことか」

「そうなるね。あとは騎士カリムの予言とか他の線から探るべきかな」

俺がそう言うと,はやてはソファーの背もたれにもたれかかって,
さっきよりも大きな息を吐いた。

「そっちは,ユーノくんに調べてもらっとる最中なんやけど,
 相変わらずクロノくんがしこたま資料請求しとるらしいから,
 まだちょっと時間はかかると思うわ」

「そっか,あの人も懲りないな」

「いつかユーノくんがキレてクロノくんに殴り掛からんか心配やね」

はやてがそう言うと,俺たちは大声で笑いあった。
笑いが落ち着いたところで,はやてがもう一度真剣な顔で俺をみた。

「ところで,さっき見せてもらった映像に映っとった女やけど,
 素性は割れたん?」
 
「いや,データベースには該当者なし」

「その女はどこまで知ってるんやろか」

「さあね。ただ,最高評議会の連中が女の前では会話をしないところを見ると
 俺たちが必要としてる情報は握ってないと思うけど」
 
「女を攫ってくることはできひんかったん?」

「攫うの自体は簡単なんだけどね。あとの処理が難しいかな。
 最高評議会に察知されたら終わりなわけだし」
 
「ま,しゃあないか。以上?」

「そうだね」

俺がそう言うと,はやては立ち上がった。

「ほんならご苦労さんでした。シンクレアくんにもありがとうって
 伝えといてくれる」

「シンクレアには直接言えば。まだ6課に居てもらうつもりだから」

「そうなん?」

「まあね。今回欲しい情報を取りきれなかった以上,
 また同じようなことをする必要があるかもしれないからさ」

俺ははやてにそう言うと,立ち上がってドアに向かって歩き出した。
ドアを開けようとしたとき,背後からはやてが声をかけてきた。

「そういえば,なのはちゃんとかフェイトちゃんを筆頭にみんな心配してるで。
 ちょうど昼時やから,みんな食堂におるやろ。ちゃんと挨拶しときや!」

「へいへい」



俺は部隊長室を出るとその足で,昼食をとるために食堂に向かった。

食堂につくと,なのはが一人で食べているのが見えたので
ちょうどいいと思った俺は,なのはに声をかけることにした。
そっとなのはの背後に忍び寄った俺は,なのはの左肩に手を乗せた。
が,いつものように愉快な声が聞こえて来ない。
不思議に思った俺はなのはの横顔を見た。
なのはは,焦点の合わない目で,宙を見つめていた。

「おい!なのは!」

俺が立ち上がって強めに声をかけると,ゆっくりとした動きで
なのはは俺の顔を見た。

「ただいま戻りましたよ」

俺がそう言うと,なのはの目に光が戻ってきた。

「・・・ゲオルグくん?」

「おう。ゲオルグくんですよ」

そのとき,なのはの目から涙がこぼれ落ちた。

「・・・なのは?」

俺は予想もしなかった出来事になのはの名前を呼ぶことしかできなかった。

「・・・心配したんだよ。いきなりいなくなっちゃって。
 はやてちゃんに聞いたら2日ほど出張を頼んだって言ってたのに,
 3日たっても戻ってこないし・・・」

「なのは。心配かけてごめん・・・」

俺がそういった瞬間,俺の右頬になのはのビンタがさく裂した。
少しバランスを崩した俺がなのはを見ると,少し赤い目をしたなのはが
妙にすっきりした顔で座っていた。

「あー。すっきりした!」

「・・・いきなり殴るなよ」

「心配かけた罰だよ」

「ったく,はやてといいなのはといい,俺の扱いが雑だろ!」

「はやてちゃんにも殴られたんだ。しょうがないね」

「しょうがなくねえよ。ま,はやてはグーだったからなのはの方がましだけど」

俺がそう言うと,何かツボにはまったのかなのはが大笑いした。
俺がなのはに張られた右頬を抑えながらなのはの正面に座ると,
なのはは少し真剣な顔で俺の顔を見た。

「本当に心配したんだからね」

「御心配をおかけしてすみません」

俺はそう言って深く頭を下げた。

 
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