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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第34話:ヒミツの作戦


俺とはやてが情報部を訪れてから1週間と少し経ち,
シンクレア・クロス一尉が今日,機動6課に配属されてくる。
もっとも人事異動の時期でもないのに情報部からの異動があっては
余計な注意を引きかねないということで,偽装された身分での配属だが。

かくして俺は,はやてから新人を迎えに行くよう仰せつかり,
自分の車で転送ポートまで来ていた。

俺が柱にもたれて待っていると,シンクレアの姿が見えたので
俺の方から声をかけることにした。

「ツァイス三尉か?」

俺がそう声をかけると,シンクレアは俺の顔を見た。

「はい。シンクレア・ツァイス三尉です」

「俺は機動6課副部隊長のゲオルグ・シュミット三佐だ。
 時期外れで申し訳ないが,うちの部隊長がわがままでね。よろしく頼む」

「いえ。私の方こそ魔導師でもないのに遺失物管理部に行けるなんて光栄です。
 よろしくお願いいたします,シュミット三佐」

「俺のことはゲオルグと呼んで構わないよ」

「判りました。では私もシンクレアと呼んでください,ゲオルグさん」

「判った。じゃあ行こうかシンクレア。車で来てるから」

俺はそう言うと,シンクレアを連れて車に向かった。
車に乗り込むと,シンクレアは一つ大きく息を吐いた。

「ふぅ。なんか変な感じですね。俺,手に汗びっしょりなんですけど」

「悪いな。無理言って来てもらった上に偽名で生活なんて」

「いえいえ,これも仕事ですしね。しかし,ゲオルグさんって
 いい車乗ってるんですね」

「そうか?ま,独身彼女なしの上に仕事が忙しいとなれば,
 こんなところにしか金を使えないんだよ」

「ゲオルグさん彼女居るじゃないですか」

「とっくに別れたよ。もう1年以上前だぞ?」

「そうなんですか?もったいない,可愛い子だったじゃないですか」

「いやいや,性格は最悪だった。凄いわがままでさ。
 それよりお前の方はどうなんだよ,例の彼女」

「おかげさまでうまくやってますよ」

「それはよろしいことで」

そんな雑談を交わしながら車を走らせ,30分ほどで隊舎についた。



隊舎に着いた俺とシンクレアは,部隊長室に向かった。
部隊長室に入ると,シンクレアははやての前に仁王立ちした。

「本日付けで作戦部より異動で着任しました,シンクレア・ツァイス三尉です。
 よろしくお願いいたします。」

「機動6課部隊長の八神はやて二佐です。こんな時期に異動してもらって
 申し訳ないけど,期待しています。
 部隊付の参謀という立場になるので,よろしく」
 
シンクレアの着任挨拶にはやてが返答すると,はやてがにっこり笑った。

「シンクレアくん,よう来てくれたな。早速話をしたいんやけどええかな?」

「もちろんですよ。はやてさん」

シンクレアがそう答えると,はやてはソファに座るように言った。

「で,シンクレアくんにはどこまで話してたっけ?」

はやてが俺を見ながらそう言った。

「何も話してないよ。シンクレアが知ってるのは,表向きの話だけ」

「そやったっけ?ほんなら,最初から話さなあかんね」

それから,俺とはやてはたっぷり1時間ほどかけて,
機動6課結成の舞台裏からスカリエッティと最高評議会の疑惑に至るまで,
これまでに掴んだ情報とそこから俺たちが推測したことをすべて話した。

「なんか,途方もない話ですけど・・・今ある状況証拠からは
 ゲオルグさんとはやてさんの推測が当たってると考えるのが
 しっくりきますね。残念ながら」

俺とはやての話を聞き終わったシンクレアは,
大きく一度深呼吸をしてからそう言った。

「でだ,シンクレアには俺と最高評議会への潜入をやってもらう。
 目的は最高評議会の連中への尋問による,スカリエッティの情報収集だ」

俺がそう言うとシンクレアは天井を仰いだ。

「マジですか。まぁほかのことはとりあえず置いといても,最高評議会の
 連中なる方々はどこにいるんです?」
 
シンクレアの言葉に対して俺はニヤリと笑った。

「そこで取り出したるは,こちらの図面です」

俺は少し芝居がかった口調でそう言った。

「話は変わるが,管理局中央の庁舎は何階建てか覚えてるか?」

俺がそう言うと,はやてとシンクレアは首を傾げた。

「ん?確か,地下2階・地上30階やったんちゃうかな」

「そんなもんですよね」

「そのとおりだよ。でもな,この図面は管理局中央庁舎の地下3階なんだ」

俺がそう言うと,はやてとシンクレアは口を大きく開けていた。

「なんやて!?そんなもんどうやって手に入れたんや」

はやてがそう言うとシンクレアはうつむき加減に俺を見た。

「情報屋ですか・・・。相変わらず危ない橋を渡りますね」

「他に手がないんだからしょうがないでしょ」

「情報屋って・・・。盗んだんかいな!?」

「まあね。で,話を戻すと,この地下3階なんだけど,地下2階からの
 エレベータでしかつながってない。しかも,だだっ広い部屋が一つだけなのに
 電気と通信の回線だけは異常にたくさんつながってるんだよ。怪しいよね」

俺がそう言うとシンクレアは図面を真剣に見始めた。

「エレベータでの潜入は無理でしょうね・・・この通気孔から行きますか?」

「さすがシンクレアだね。俺もそのつもりだった」

「んじゃ,決まりですね」

「ああ。セキュリティ関係は気にしなくていいと思うしね。
 ステルス使えば大丈夫でしょ」

「そうですね。じゃああとは決行日ですか」

「ま,その前にもうちょっと情報を集めようや。
 そのへんを任せたいんだけど大丈夫か?」
 
「もちろんですよ,任せて下さい」

「よし,じゃあ今日のところはこんなもんだな」

俺がそう言うと,はやてが手を挙げた。

「先生。質問なんやけど」

「なんだ?」

「2人だけで大丈夫なん?」

はやてが心配そうに聞いてきたので,俺は殊更軽い口調で答えることにした。

「大丈夫!俺らはその筋のプロだから。任せんしゃい」

「そうですよ。俺とゲオルグさんはこんなことばっかりやってたんですから」

俺に続いてシンクレアがそう言ったので,はやては少し安心したようだった。

「ほんなら,2人に任せるわ。私は予言にあった”死せる王”と
 ”かの地より蘇りし翼”についてユーノくんに調査を頼んでみる」
 
「そうだな。どうもそこだけは意味不明だからな」

「よっしゃ。ほんなら今日のところはこんなもんやな。2人とも頼むで」

はやてのその言葉で,俺たち3人の謀議は終了となった。



俺はシンクレアと一緒に部屋を出ると,寮の自室を整理するという
シンクレアと分かれて,副部隊長室に入った。
副部隊長室には俺の机の横に,少し小さめの真新しい机が置かれている。
ここが,シンクレアのオフィスになるわけだ。

俺が書類仕事に手をつけ始めると来客を告げるブザーが鳴った。
俺がどうぞと返事をすると,シャーリーが入ってきた。

「シャーリーか。どうした?」

「以前お話のあった携帯用AMFC発生装置のプランについてなんですけど,
 2案持ってきました。遅くなってすいません」

シャーリーはそう言うと2枚の紙を俺の机の上に置いた。

「1案は使用者の魔力エネルギを使用するタイプです。
 要は,普通にAMFCの魔法を発動させるのとあまり変わりありませんね。
 2案は魔力エネルギの供給源としてカートリッジを使うタイプです。
 こちらは,カートリッジ1発あたりの稼働時間は約5分です」
 
「両者の利点と欠点を説明してくれるかい?」

「使用者の魔力を使用するタイプの場合,デバイスに装置を
 組み込むことができますので,そこが利点ですね。
 また,使用者の魔力量にもよりますが,稼働時間は長いです。
 ただし,使用者の魔力特性がAMFCとの相性が悪いものであれば,
 魔力消費が激しくなりますから,戦闘への影響は少なからずあると考えます」

「装置として効果と稼働時間を計算できないのは辛いのと,
 AMFCを使ってるだけで,魔力を消費するのはいただけないね」
 
「はい。で,もう一方のカートリッジシステムを使用する場合ですが,
 こちらは,専用の筐体が必要になります。手のひらに収まる程度です。
 ですが,AMFCを使用していても使用者の魔力を消費しませんし,
 カートリッジシステムを使用することで,デバイス用のカートリッジを
 そのまま使用できますから,エネルギー切れになっても,
 カートリッジの再装填で再稼働できます」

「よし,カートリッジ案で行こう。試作にどれくらいかかる?」

「とりあえず1つ作るのに1週間下さい。そこでテストしてみて
 問題を洗い出せれば,前線メンバー全員分を用意するのに
 3週間ってとこです」

「トータルで最短1ヶ月か。判った,頼むよ」

「はい,判りました」

シャーリーはそう言うと,部屋を出ていった。
 


 
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