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黒尊仏

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第三章

「御仏が教えられたのだ」
「そうなのですね」
「左様」
 仏も言ってきた。
「それを教えたまででな」
「それでですな」
「目を潰すつもりはなかった」
 最初からというのだ。
「見えるものは見えると言い」
「見えないなら見えぬ」
「知ってることはそう言いな」
「知らぬならですな」
「そう言うことこそな」
 まさにというのだ。
「正しきこと、それをしてこそじゃ」
「人ですな」
「これでこの者は前よりもよくなった」
 仏は義敦に半右衛門を見つつ話した。
「そなたも頼りにしていいぞ」
「これまでも頼りにしていましたが」
「そうしたところがであるな」
「どうしても気になっていました」
「そうであるな、しかしな」
「これからは」
「それもなくなる」
 この度のことでというのだ。
「心から反省したからな」
「それ故に」
「あの、何か」
 ここでだ、半右衛門は義敦に驚きを隠せない顔で言ってきた。
「それがしにも御仏が」
「見えるか」
「今は」
「これはまたどうして」
「そなたもそこまでの者になったということ」
 仏は半右衛門に笑顔で話した。
「この度の反省でな」
「そうなのですか」
「人は反省する度によくなるもの」
「過ちに気付いて」
「左様、だからな」
 それでというのだ。
「私が見える様になった、ではこの反省を忘れぬ様」
「はい、以後知ったかぶりをしたり見栄を張ることはしませぬ」
「その様にな
 仏はこう言うとその場を後にした、そして義敦は。
 ブナの実を食べてだ、半右衛門に笑顔で話した。
「美味いぞ」
「それは何よりですな」
「そなたも食せよ」
「では」
 半右衛門も頷いてだった。
 彼も周りの者達も実を食べた、彼は一口食べてから言った。
「確かに美味いです」
「ではこの美味さと共にな」
 義敦は彼の言葉を受けて述べた。
「今日のことは忘れずに」
「そうしてこれからも励んでいきましょう」
「この世のことにな」
「それがしこれまで以上に殿にお仕えします」
「宜しく頼むぞ」
 半右衛門の言葉に笑顔で応えた、そうしてだった。
 皆でブナの実を食べた、それは確かに美味かった。
 この話は今も秋田県に残っている。黒尊仏とブナの実に伝わる古い話である。何事も知ったかぶりは見栄はよくないということであろう。


黒尊仏   完


                   2022・7・14 
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