| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第27話:ゼスト・グランガイツ


あれは,そう。俺がまだ士官学校の生徒だったころだったな。
長期休暇で実家に戻っていた俺は,姉ちゃんが弁当を忘れたとかで
母さんから姉ちゃんの職場まで弁当を届けるように言われたんだったな。

電車を乗り継いで地上本部に入ると,迷子になっちまって,
いろんな人に道を聞きながら姉ちゃんのところにたどり着いたころには
とっくに昼休みの時間だった。

せっかく弁当を届けてやったってのに,姉ちゃんは遅いって俺を殴るし。
でも,その時姉ちゃんの隊の隊長さんがよくしてくれて,
俺が士官学校に在学中って言ったら,訓練を見てくれて。
結局仕事を終えた姉ちゃんと一緒に帰るハメになったんだったよな。



俺は回想から意識を浮上させると,目の前にいるもう死んだはずの男を
まじまじと見つめた。

(・・・間違いないよな・・・)

その時男が口を開いた。

「・・・貴様は誰だ。なぜ俺を知っている」

「あんたは覚えてないかもしれないが,俺は一度あんたに会ってる。
 あんたの部下で8年前に作戦中に死んだエリーゼ・シュミットの弟だ」
 
俺は自分でも意外なほど冷静に目の前の男と話していた。

「シュミットの弟・・・あの時弁当を届けに来た子供か・・・」

「覚えていてくれて光栄だよ。じゃあ,おとなしく俺についてきてもらおうか」

「断る。俺にはまだやらねばならんことがあるのでな」

「そうかよ。じゃあ・・・いくつか教えてもらいたいことがある」

「・・・何だ」

「8年前,あんたの部隊は単独で突入作戦を実行に移した。
 結果として全滅したわけだが,あれはなんだったんだ?」

「あの時俺たちが突入したのは,ジェイル・スカリエッティのアジトの一つだ。
 そして,ナンバーズによって全滅させられた」
 
「ナンバーズ?」

「スカリエッティの戦闘機人達のことだ」

「戦闘機人だと!?」

「そうだ・・・むっ,時間か・・・」

ゼストはそう言うと踵を返して立ち去ろうとした。
俺は,ゼストを止めようとレーベンを振りかぶった。
だが,その手前で何かにはじき飛ばされ,木に叩きつけられた。

「がはっ・・・」

ゼストは倒れた俺に向き直ると,俺に向かって口を開いた。

「・・・お前の姉はまだ死んではいない」

「・・・なん・だ・と・・・」

俺はそこで意識を失った。



目を覚ますと目の前にはオレンジ色の空が広がっていた。

「・・・あ,気がついたのね。よかったわ」

シャマルの声がする方を見ると,6課の出動メンバー全員が揃っていた。
俺は痛む頭を押さえながら上半身を起こすと,シャマルに状況を聞いた。

「ガジェットを全滅させたのにゲオルグくんから返答がないから,
 エリオとキャロに探しに行ってもらったのよ。
 そしたら,森の中で倒れてるあなたを発見して,ここまで運んだというわけ」

「すまん,クッ・・・」

俺は立ち上がろうとしたが頭がふらつき,倒れそうになった。
そこへエリオが俺を支えてくれた。

「だめですよ,ゲオルグさん。まだ横になってないと」

エリオはそう言って俺を心配そうに見つめていた。
そんなエリオの頭を俺はグシャグシャとなでると,
ふらつく足でなんとか歩き始めた。

話をしているはやてと隊長・副隊長陣のところに行くと,
なのはの肩に手を置いた。
なのはが”にゃっ!”と愉快な声を上げてこちらを振り向いた。

「ゲオルグくん!?まだ寝てなくて大丈夫?」

なのはが心配そうに俺の顔を見上げて言った。

「大丈夫・・・とは言えないけど平気だよ。でもちょっと肩貸して」

俺はなのはに笑いかけながらそう言うと,はやてのほうに向き直った。

「はやて。申し訳ない,戦闘中に気を失ってしまうなんて・・・」

俺がそう言うとはやては心配そうな顔を俺の方に向けた。

「そんなことより大丈夫かいな。シャマルが頭を強く打ってるって言ってたで」

「平気だよ。それより・・・」

俺が話そうとするとはやては手のひらを俺の方に向けて話を遮った。

「話は隊舎に戻ってからにしよ。とりあえずは撤収。ヘリも来たしな」

はやてが空を指さして言ったのでそちらを見ると,ヴァイスの乗ったヘリが
着陸しようとしていた。



ヘリが隊舎に着くと,俺は担架に乗せられて医務室に運ばれた。
そこで,改めてシャマルの診察を受けることになった。
頭を打ったということで,頭部の検査を一通り受けたあと,
ベッドで寝ている俺のところにシャマルがやって来た。

「検査結果を見る限り,頭蓋骨にも脳にも損傷や障害はなさそうね。
 まぁ,軽い脳震盪でしょ。まだ頭は痛む?」

「いや,寝てる分には全然」

「じゃあちょっと体を起こしてくれる?」

俺はベッドの上で上半身を起こしたが,ホテルの庭で目を覚ました時のような
頭痛やふらつきはなかった。
俺は少しぼーっとする頭を振ると,シャマルに大丈夫だと伝えた。
シャマルは黙って頷くと,医務室のドアを開けた。
すると,隊長・副隊長陣とフォワードの4人が立っていた。

「もう面会謝絶は解除ね。でもまだ頭がぼーっとしてるみたいだから今日は
 念のためにここで寝てもらうわね」

シャマルがそう言うとドアの前に立ってた連中が医務室に入ってきて,
俺の座っているベッドの横に並んだ。
俺は,みんなの方を見ると頭を下げた。

「今回は俺の判断の甘さで迷惑をかけてしまって済まない。
 作戦の前線指揮官として責任を感じてるよ」

俺がそう言うとヴィータが珍しく心配そうな顔を向けてきた。

「んなことねーよ。ゲオルグが仕切ってくれたからあたしたちが迷いなく
 動けたんじゃねーか」

「そうだな。ゲオルグが一人で調査に出た時も我々は戦闘中だった。
 他に選択肢が無かった以上やむ得ない判断だ」

ヴィータに続いてシグナムも俺をかばってくれた。

「2人とも,ありがとうな」

次にフォワード4人が俺の前に立った。

「あの,すいません。私たちが力不足だったためにこんなことに・・・」

スバルがうつむいてそう言うので,俺はスバルの頭をガシガシとかき回した。

「別に俺が負傷したのはお前らのせいじゃない。
 ただ俺に油断があったからだよ。だから,気にすんな。いいな!」

俺がそう言うと4人とも力なく頷いた。

「さ!もう夜も遅いし,ゲオルグくんはけが人なんだから
 早く寝かせてあげなくちゃね」

シャマルがそう言ってなのはとフェイト以外の全員を部屋の外に追い出した。
あとに残ったなのはとフェイトはうつむいている。

「なのは,フェイト。心配かけてごめん」

俺がそう言うとフェイトが顔を上げた。

「ほんとだよ。私,本当に心配したんだからね。
 もうこんな無理はだめだよ,ゲオルグ」

「・・・善処するよ」

「ダメ。ゲオルグは昔からいろんなことを一人で抱え込む癖があるんだから。
 もっと私達を頼ってよ。いい?ゲオルグ」

「了解」

俺がそう言うとフェイトは医務室を出て行った。
あとには,俺となのはだけが残された。

「なのは・・・」

「ゲオルグくんはさ・・・」

俺がなのはに声をかけようとすると,なのはが口を開いた。

「随分前に私に怒ったよね。無理しすぎだって。でも,私は本当の意味で
 ゲオルグくんの言ったことを理解してなかったよ。
 で,今回ゲオルグくんが戦闘中に倒れたって聞いて,
 声をかけても全然返事してくれなくて,やっと判ったんだ。
 無茶して,周りに心配をかけるっていうのがどれだけ悪いことか。
 だから,今までゴメンね。ゲオルグくん」

なのはが小さな声でそう言った。
俺はなのはに近づくと軽くデコピンを食らわせた。

「なーに殊勝なこと言ってんだ。そんなこと言ったって
 どうせなのははいざとなったら無茶するに決まってるだろ。
 なら,俺は俺のできることをするだけだよ。なのはが傷つかないようにね。
 んなことより,今日は心配かけてゴメンな。あと,心配してくれてありがと」

俺はそう言うとなのはの頭をやさしくなでた。

「うん!どういたしまして!」

そう言ってなのはが見せてくれた笑顔は,これまで見た中で最高の笑顔だった。



シャマルが帰ってきて電気を消していったあと,
サイドテーブルの上のレーベンが話しかけてきた。

《マスター,なのはさんに惚れましたね?》

「なっ・・・んなわけないだろ!」

《誤魔化してもだめですよ。あと,なのはさんも多分マスターに惚れてますから
 これで両想いですね。おめでとうございます》
 
「う,うるせえな。黙ってろよ。ったくなのはと俺はそんなんじゃないの!」

《はいはい。判りました。そういうことにしておきましょうか。
 そんなことよりも,マスター》

急にレーベンの声に真剣味が加わった気がした。

《もう皆さんに黙っておくことはできないのではないですか?》

「・・・そうだな。どう話すか考えないとな・・・」

そうして,夜は更けていった。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧