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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第15話:避難は計画的に

俺とグリフィスが会議室に入ると,既に出席者が揃っていた。
ちなみに,俺・グリフィスの他には,シャマルとザフィーラ,
通信・整備・輸送の各代表数名ずつ,またバックヤードスタッフからも
何人か出席している。

「遅れてすまない。それでは始めようか,グリフィス」

「本日の議題は,隊舎における緊急事態発生時の対処計画の協議です。
 具体的には,非戦闘要員の退避計画と限られた戦力での
 迎撃計画,それぞれの立案となります」

グリフィスがそう言うと,シャーリーが手を挙げた。

「質問なんですけど,緊急事態発生時の対処計画の必要性と,
 なぜ前線要員がいないのか。以上,2点について教えてください」
 
グリフィスを見ると,助けを求めるように俺を見ていたので,
俺が答えることにした。

「質問に質問で返す形になってすまないが,シャーリーは入局してから
 基本的に地上勤務は初めてか?」

「そうですね。入局してからずっと本局の所属です」

「本局ではこんな計画を立案する必要性がないんだが,なぜかわかるかい?」

「いえ」

「本局のある空間にはいわゆる身元が明らかでない人間が存在しないから,
 必要ないんだよ。テロの危険性なんてものは考慮する必要ないからね。
 だが,機動6課は本局所属とはいえ,ミッドの地上部隊だ。
 隊舎も地上にある以上,テロの標的となる可能性は否定できない。
 故に,我々も緊急事態への対策計画は必要不可欠なんだ。
 ちなみに地上本部所属部隊は非常事態発生時の対処計画立案は必須事項だ」

俺は一旦言葉を切って,先を続けた。
 
「あと,前線メンバーがこの場にいない理由だが,
 これは,われわれ機動6課の編成が通常よりも
 小規模であることに起因してる。
 つまり,前線メンバーが出撃するときには,基本的に全員が
 出動することになるために,警備・防衛のための戦力を
 隊舎にほとんど残せないことになる。最悪のケースを想定するなら,
 前線メンバー不在の状況でも実行可能な計画を立案する必要がある。
 これが,この場に前線メンバーがいない理由だ」
 
俺がそう言うと,シャーリーは納得したように頷いた。

「他に質問は?」

俺がそう問うと,整備のメンバーの手が上がった。

「この席に,八神部隊長が同席されない理由は?」

「八神部隊長も,有事となれば前線メンバーとともに
 出動することが多いだろう,というのが正式な理由だ。
 が,実際は外回りが多すぎて時間が取れないというのが理由だな」

俺が苦笑しながら答えると,メンバーから軽く笑い声が聞こえた。

「他になければ,本題に入ろうと思うが構わないかな?」

俺が室内を見回すと,全員が頷いていた。
それを確認すると,グリフィスに目で先に進めるよう合図をした。


・・・夕方。
俺は疲れた表情のグリフィスにコーヒーの入ったカップを手渡した。

「お疲れさん。どうだい,感想は?」

俺がそう問うと,俺に目を向けてからうつむいてしまった。

「疲れました。すいません,度々助けていただいて・・・」

グリフィスは本当に疲れたようで,普段よりも声に力がなかった。

「いやいや,助かったのは俺の方さ。会議運営をグリフィスがやってくれた
 おかげで,俺は考えることに集中できたからな」
 
だが結局,会議で決まったことは多くなかった。
1つは,各隊メンバーのうち戦闘経験のある人間のリストを作成すること。
これは,いざという時に使える戦力を明確にしておくためだ。

2つめは,緊急事態への対応用として,小火器類の装備を整えておくこと。
これには,異論もあったが保管体制をきちんと整えることと,
所持資格をきちんと取得したものだけが,使用すること,
そして,真に必要であると部隊長か副部隊長が認めて許可したときのみ
使用することとして,合意することができた。

最後に,非常事態への対処訓練を前線メンバーを敵役として実施することだ。
まぁ,今日の成果としてはこれで十分だろう。
あとは,各隊からのリストをもとに,迎撃・退避の計画を作成して,
俺やグリフィスの仕事は完了だ。
・・・まぁそれが大変なのだが。

「グリフィス。はやてへの口頭での報告は俺の方でやっておくから,
 議事録を作って,今日の出席者と各隊長陣に送っておいてくれ」
 
「事前にゲオルグさんにチェックをお願いできますか?」

「もちろん,送っておいてくれれば確認するよ。じゃあ,よろしくな」

俺はそう言うと,グリフィスの肩を叩いて部隊長室に向かった。


部隊長室に向かう途中で,シャーリーに出会った。
俺は,非常事態訓練についてシャーリーに相談しておきたいことがあったので
シャーリーに話しかけた。

「シャーリー,今いいかい?」

「あ,ゲオルグさん。いいですよ」

「あのさ。さっきの会議で話した訓練なんだけどさ,
 訓練スペースに隊舎を再現してやれないかな?」

俺がそう言うと,シャーリーは少し考え込んでから口を開いた。

「大丈夫だと思いますよ。スペースは十分ありますしね。
 データの準備をやっておきましょうか?」

「頼むよ。悪いね,新人のデバイス製作もあるのに」

「いいえ。でも,今度なにか美味しいものでも奢ってくださいね」

「それくらいなら,全然OKだよ。ありがとう」

(これで訓練実施の目処もついたな・・・)


部隊長室の前につくと,俺はブザーを鳴らした。
中からはやてのどうぞという声がしたので,ドアを開けて部屋に入った。

「ゲオルグくんか,お疲れさん」

「はやてこそ,今日は地上本部だっけ。お疲れ様」

「うん。ありがとう」

俺は,今日の会議についてはやてに簡単な報告をした。
それを聞いたはやては嬉しそうに笑った。

「ほんまにゲオルグくんさまさまやね。
 私には,そんな発想はなかったもんなぁ」

「ん,そうか?まぁ,俺も陸にいたことはないから探り探りだったけどね。
 まあ,グリフィスが助けてくれるからできたんだよ」

「謙遜しすぎやって。ゲオルグくんがいてくれるから,
 私は,安心して外と話をしにいけるんやで」

「それはどうも。でも,はやても特に地上本部からの
 風当たりが強いって聞いたぞ。大丈夫か?」

「うん。まぁ,今日はちょっと疲れたかな」

「そっか。あんまり無理はすんなよ。んじゃ,俺は部屋に戻るわ」

「うん。おやすみ,ゲオルグくん」

「ああ,おやすみ」


自室に戻ると,俺は姉ちゃんの日記帳を開いていた。
前に実家に戻ってからは,ほぼ毎日開いている。
読むというよりは眺めるといった感じだが。

《マスター,今よろしいですか?》

レーベンが話しかけてきたので俺は日記帳をしまった。

「なんだ?レーベン」

《マスターは,カリムさんの予言にあった”無限の欲望”が
 ジェイル・スカリエッティだと考えておられるのですよね?》

「ああ」

《さらに,ジェイル・スカリエッティは最高評議会と密接につながっていると》

「そっちはさすがにまだ自信がないよ。まぁ,クレイの情報待ちだね」

《でも,マスターはつながっていると考えているのでしょう?》

「まあな」

《・・・はやてさん達にお話しにならなくてよいのですか?》

俺はため息をついた。

「あのなぁ。こんな荒唐無稽なことを,何の証拠もなしに言って
 誰が信じると思うんだ?」

《例のメモと合わせればはやてさんは信じてくれそうですが》

「・・・俺はまだ話す気は無い」

《では証拠が見つかったら話すんですか?》

「さあな」

《またマスターは一人で抱え込むつもりなんですか?》

いい加減俺も腹が立ってきた。

「うるせぇよ,レーベン。もう黙ってろ」

《・・・はい。判りましたマスター》

俺はそのまま眠りについた。


 
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