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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第138話:刮目すべき、父の姿

 突如として空を割って姿を現したチフォージュ・シャトー。

 雲を突き破るなどと言うレベルではなく文字通りガラスの様に空を割って建造物が下りてくると言う状況に、人々はパニックを起こしていた。

「お父さんも、早く逃げてッ! それと逃げ遅れてる人達の誘導をッ!」
「ひ、響はどうするんだよッ!?」
「私は……」

 洸に問われ、響は降下してくるシャトーを見る。直感で分かった、あれがキャロルの仕業である事が。
 いよいよキャロルが最後の戦いを挑んできたのだ。ならば、それを迎え撃たなくてはならない。

「私は、戦わないと……!」
「そんなッ! 響がそんな危ない事ッ!?」

 危険に身を投じようとする娘を洸が必死に引き留めようとする。

 もしこの時、まだ洸に本当の意味で響の父に戻ると言う決意が固まっていなければ、或いはシャトーの画像をテレビ局に売って金に出来ないかとみっともない姿を見せていただろう。
 だが決意が固まった今、洸が第一に考える事は大事な我が子の身の安全であった。

「やっと響とちゃんと向き合えたんだぞッ!? それなのに、その家族に響が居ないなんて事になったりしたら、俺は何の為に……!?」

 今更ながら洸は、響を、家族を放って逃げ出した事を激しく後悔した。掛け替えのない娘がこんな危ない事に首を平然と突っ込もうとしている。否、これまでにもこういう事に何度も首を突っ込んできたのだと考えると、それだけで洸の肝は震えあがった。もしその戦いの中で、響の身に何かあったり命が失われる様な事があったりしたら……

「逃げよう響ッ!!」
「お父さん……ありがとう」

 逃げ腰の発言かもしれないが、それでも響は今の洸の姿を嬉しく思っていた。今の父は娘の背に隠れて自分の罪を有耶無耶にしようとしている情けない男ではない。1人の娘を危険から遠ざけ守ろうとしている、正真正銘父親としての姿だ。本当は自分だって逃げたいのだろうに、その気持ちを必死に押し殺して響を守ろうとしているのが彼の笑っている膝から察する事が出来る。

 失われたと思っていた父が帰ってきてくれたことに、響は場違いな嬉しさを感じずにはいられなかった。
 しかし…………

「でもゴメンね、お父さん。私、行かなきゃ……」
「な、何で……?」

「皆を守る為にッ! それが私のやりたい事だからッ!」

 それでも尚揺るがない響の心。いや、帰ってきてくれた父にだからこそ見せたいのだ。今の自分の姿を。仲間達と培ってきた、成長した自分の姿を。

「――――なるほど、それがお前の父親か」
「あっ!?」

 そこに突如として別の少女の声が響く。弾かれるように響が声のする方を見上げると、そこには弦楽器の状態のダウルダブラを手に空中に佇んでいるキャロルの姿があった。

 チフォージュ・シャトーが姿を現したこの状態で、キャロルまでもが出てきた事に身構える響。対して洸は、空中に少女が佇んでいると言う光景に一瞬慄き数歩後退ってしまった。

「な、何だあれ? 女の子が、浮いてる?」
「早く逃げてお父さんッ! ここは私が――」

 ここに洸が居ては戦えないと、響が逃がそうとしていると徐にキャロルが錬金術で砲撃を飛ばしてきた。弱い威力の砲撃は響と洸を纏めて吹き飛ばすような理不尽なことはしなかったが、その分速射性に優れており瞬間的に響の手からギアのペンダントを弾き飛ばす事は出来た。

「あっ!? ギアがッ!?」

 吹き飛ばされ、何処かへと転がっていくギアペンダントを目で追う響にキャロルは更なる追撃を放とうと右手に錬金術のエネルギーを溜めた。

「最早お前に拘る理由も無い。計画が最終段階に入った今、お前の存在は邪魔だ。ここで一思いに、父親と共に葬ってやる」
「くっ!?」

 ギアがあるならともかく、生身であんなのを喰らってはただでは済まない。だが訓練を受けている自分はともかく、戦いにおいては素人以下な洸であれを咄嗟に回避するのは難しいだろう。となれば響が彼を守るしかないが、悲しいかな子供と大人、それも少女と成人男性と言うウェイトの違いでは厳しいと言わざるを得なかった。

 それでも何とかできないかと思考を巡らせる響だったが、彼女が考えを纏めるよりも先に洸が動き出した。

「う、うわぁぁぁぁぁぁッ!!」
「えっ!? お父さんッ!?」

 突然洸が叫びながら走り出した。響が止める間もなく走り去っていく洸を、最初キャロルはゴミを見るような目を向けていた。
 が、走る道すがら洸が足元に落ちているコンクリート片などを拾ってキャロルに投げつけるのを見て彼女の洸を見る目が変わった。

「このッ!? 此畜生ッ!?」
「何のつもりだ?」
「俺は、何処まで行っても響の父親だッ! その事からは逃れられないって、今更ながら気付いたッ! だったら、最期の瞬間まで父親としてッ!!」

 洸は恐怖のあまり逃げようとしたのではない。響からキャロルの目を逸らす為、自らが囮になろうとしているのだ。

「行くんだ響ッ!!」
「お父さん、ダメッ!?」
「邪魔だ」
「うわぁぁぁぁぁぁっ?!」

 しかし所詮は一般人の脚力。走る速度など高が知れている。案の定、キャロルの砲撃により洸は足を取られ、大きくスッ転んでしまった。
 幸いキャロルの砲撃は洸に直撃する事は無かったが、余波だけでも彼には十分すぎるダメージとなった。日常では感じる事の無い痛みに、洸は顔を顰めて手足を藻掻くように動かす。

 それでもまだ彼は諦めていないのか、手近なところに落ちている石やら何やらを拾ってはキャロルに投げつけていた。

 このままでは父が危ない。響は急いで視線を巡らせ、キャロルにより弾かれたギアペンダントを探した。

「ッ! あった!!」

 目的の物は直ぐに見つかった。響は急いで駆け出し、落ちているギアペンダントを拾いギアを纏おうとした。
 それにキャロルが気付き、彼女は洸から響に視線を移すとまだギアを纏っていない彼女に砲撃を放とうとする。

 そこに洸がキャロルに抱き着き、攻撃を中断させた。

「くっ!? 貴様、離せッ!?」
「誰が離すもんかッ! 響は、俺の娘は絶対にやらせないッ!!」
「こ、のぉっ!!」
「ぐぇっ?!」

 しつこくしがみ付き、狙いを定めさせようとしない洸に業を煮やしたキャロルは一瞬の隙を突いて彼の腹を殴り、怯んで拘束が緩んだ瞬間に足元に砲撃を放ち爆風で洸を吹き飛ばした。

「がはっ?!」
「お父さんッ!? くっ!」

 ギアペンダントを拾った響は、洸を助けるべくギアを纏おうと聖詠を口にしようとした。だが彼女がギアを纏うよりも、キャロルが洸に砲撃でトドメを刺す方が早かった。

「消えろッ!」
「ぁ……」

 放たれた砲撃が洸へと飛んでいく。洸はそれを諦めの目で見つめ、直後に起きた爆発で彼の姿は見えなくなった。

「そ、そんな……お父さん?」

 父の姿が爆炎で見えなくなった瞬間、響は聖詠を途中で止め呆然と父が居た場所を見つめていた。父の死を認めたくなくて、でもあの状況で父の生存は絶望的で、響はその場に膝をつきそうになる。

 呆然と洸が居た場所を響が見つめていると、風が吹いて煙が流されていった。

「――――え?」
「何ッ?」

 煙が晴れた先に広がっていた光景に、響とキャロルが同時に声を上げた。

 そこにあったのは無残に吹き飛ばされた洸の姿ではなく、金色に輝く六角形の障壁だった。キャロルが展開するものとは違う、魔法陣の様な障壁。
 それを展開しているのは、響が良く知る魔法使いである颯人でも、透でも、ガルドでもない。白いコートに白いソフトハットを被った見知らぬ人物だった。その人物が、障壁を張り洸を守っていた。

 響は彼の事を知らない。しかし守られている洸は、その男に一度会った事があった。

「あ、アンタは……」
「男子三日合わざれば刮目して見よ、と言うが……なかなかどうして、立派に父親をやっているじゃないか」

 顔は帽子の鍔で隠れて見えないが、その男性……ウィズが満足そうな顔をしているのは声だけで分かった。
 ウィズは障壁を消すと、右手の指輪を着け替え帽子の鍔の下からキャロルを睨み付けた。対するキャロルは突然の乱入者に苛立ちを露わにする。

「何だ貴様はッ!? 新手の魔法使いかッ!!」
「あぁそうさ。しがない魔法使いだよ」
〈ドライバーオン、ナーウ〉

 ドライバーを装着し、レバーを操作してハンドオーサーの左右を入れ替える。颯人達と同じ手順でウィズは変身した。

「……変身」
〈チェンジ、ナーウ〉

 魔法陣に包まれ、ウィズの姿が白い魔法使いの姿へと変わる。それを見てキャロルは思わず目を見開いた。

「貴様がッ!?」
「ウィズさんッ!?」

 キャロルだけでなく響もが、変身したウィズに驚きを隠せなかった。どちらも魔法使いとしてのウィズの姿は知っていても、変身していないウィズの事は見た事が無かったのだから無理もない。顔は見えなかったが、それでも今のS.O.N.G.の中で変身していないウィズの姿を知っているのはアルドを除けば響だけであった。

 ウィズが変身すると、それを合図にしたようにまずクリス達が透と共に魔法で転移してきた。

「悪い、遅くなったッ!」
「クリスちゃんッ!」
「およ? あれは……」
「ウィズさん?」

 合流してきたクリス達が響の傍に並び立つ。それにやや遅れて、ギアを纏った奏達3人も合流した。

「待たせたなッ!」
「すまない、こちらは道が混んでいて少し手間取った」
「大丈夫だった?」
「はいッ! 私も、お父さんも……」

 響の視線を追った先に、彼女の父とウィズが居る事にガルドも目を丸くした。

「ウィズ? 何故ここに?」
「気にするな。それより、後の事は任せたぞ。私は彼を安全な場所へ連れていく」
〈テレポート、ナーウ〉

 ウィズが転移魔法で洸と共にその場から姿を消した。恐らくは、本部の潜水艦へと向かったのだろう。あそこなら確かにここよりは遥かに安全だ。

 これであとこの場に居ないのは颯人のみ。だがその颯人の行方を知る者は誰も居なかった。

「おい、あのペテン師は?」
「それが、あのデカ物を始末した後姿が見えなくなって……」
「大丈夫だって、颯人ならその内来る。今はそれよりも……おいキャロル!」

 これで状況は奏達の方に大きく傾いた。シャトーが姿をこうして現した以上、もう世界の分解とやらが始まるのは時間の問題なのだろう事が容易に想像できる。
 それは先程翼が倒したファラの証言からも明らかだった。

「やってくれたじゃないか? アタシらに人形達を倒させることが、お前の計画の一部だったとはね」
「えっ!? 奏さん、それどういう意味ですか!?」
「言葉通りよ。あのオートスコアラー達は、呪われた旋律を纏ったギアで倒される事を目的にしていたのよ」

 魔剣ダインスレイフの呪いをその身に受けたオートスコアラーにより、世界分解の為の譜面を手に入れる。それこそがキャロルの計画の最大の要であった。
 仮にダインスレイフが欠片ではなく完全な状態で遺っていれば、こんなまだるっこしいことはしなくて済んだであろう。作り上げたオートスコアラーをキャロルが自らの手で魔剣を使って切れば済む話だった筈だ。

 故に、この計画はキャロルにとっても賭けだった。特に呪いの力を必要としない奏や、魔法使いの存在は計画にとって大きな障害であり、その為にハンスやジェネシスと手を組むことを選んだ。

 だが最早計画は最終段階。後はシャトーの機能により世界が分解されるのを待つだけ。

「もう止めよう、キャロルちゃん!!」

 そんな状況でも、響はキャロルを戦い以外の方法で止める事を諦めなかった。彼女は、人と人とが分かり合えることを知っているし信じている。だから止まらない。彼女が彼女である限り。

「本懐を遂げようとしているのだ! 今更止められるものかッ!!」

 しかしある意味で追い詰められたキャロルに、響の言葉は届かない。計画の達成は目前、そしてハンスにはもう時間が無い。自分をこれまで支え続け、愛してくれていた彼に報いる為に、キャロルにも留まると言う選択肢は存在しなかった。

 そうしてキャロルはダウルダブラを身に纏う。己の計画を阻むすべてを排除し、悲願を達成する為に。

 今ここに、キャロルとの最後の戦いの幕が切って落とされようとしていた。 
 

 
後書き
読んでくださりありがとうございました。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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