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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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互いの思考

 
前書き
コロナの濃厚接触者になったから時間が有り余っていたはずなのに全く進められなかった……
ずっと寝てました←陰性でした 

 
莉子side

「莉子ちゃん、切り替えて行こっ!!」
「あぁ、悪い」

ヘルメットを外し守備の準備をしている優愛からの声かけに無表情で答える莉子。その声のトーンの低さから気落ちしているのがわかる。

「落ち込んでる暇ないよ、莉子」
「!!」

優愛と共にネクストでヘルメットを外している莉子。そんな彼女にグローブを持ってきたのは陽香だった。

「無理しないでよ、歩くのもしんどいでしょ?」
「莉子が落ち込んでるみたいだから励ますくらいしとこうかなって」
「むっ……」

図星を突かれ言葉を失う莉子。その姿を見て大笑いしていた優愛だったが空気を読んだ葉月に首元を掴まれ守備に連れていかれる。

「まだ1点差だよ、全然逆転できるからね」
「あぁ、わかってる」

帽子とグローブを受け取り守備へと向かう莉子。気持ちが切り替えられたようにも見えたが、まだ重そうな身体を見て陽香は彼女を呼び止めた。

「莉子!!」
「何?」
「私、このチームでもう一回投げたいよ」
「!!」

思わぬ言葉に思考が止まる。それだけを言った陽香はヘルメットとバットを持つとまだ痛む足を引きずりながらベンチへと戻る彼女を見て唇を強く噛む。

(そうだよな……お前が一番悔しいよな)

マウンドに上がることも試合に出ることもできないエース。この大会のために全てを捧げてきただけにその悔しさは計り知れない。

(いや、それはあいつらも同じか)

試合に出ることができない者、ベンチに入ることすらできなかった者……その中で選ばれ試合に出ているのに不甲斐ないプレーをしている自分が腹が立った。

「よし……行こう!!」

一度クラブを叩き守備へと駆け出す。踏み出された足が先程よりも軽いのが彼女自身もよくわかった。
















莉愛side

「ラストだよ」
「ありがとうございます」

プロテクターを着け終わり投球練習中のボールを受け取る。チャンスの後のこの回は重要な回になる。それはマウンドにいる瑞姫もわかっているようで高い集中力を維持していた。

(そりゃそうだよね。だってこの回はあの二人からなんだもん)

円陣から離れ打撃の準備を進めている二人の留学生。銀髪の少女が満面の笑みで話しているのを黒髪の少女は静かに頷きながら聞くに徹している。

(でもこの二人なら小細工はしてこない。逆転はされたけど瑞姫の調子は悪くない。むしろ回を追うごとに上がってきている。これなら二人を抑えることもできるかもしれない)

ソフィアさんは三振とライト前へのヒット。前の打席はフォークを捉えられたけどとても長打を打てるようなスイングじゃなかった。

(でもリュシーさんの前にランナー出したくないなぁ……となるとコースを広く使っていくしかない)

運良く今日の審判はストライクゾーンが横に広い。これをうまく使っていけばこの二人を抑えることも十分にできる……はず。

『六回の表・桜華学院の攻撃は3番・ピッチャー・ソフィア・バルザックさん』

数回素振りをした後打席に入るソフィアさん。リードしているけどそれにしてもノリノリの姿に違和感がある。

(何か狙ってる?それともピンチを凌いだから気分が上がってる?)

これだけノッテると考えられる展開は二つ。どんなボールにも対応してきて痛打されるかボール球の見分けが付かずに引っかけるか。

(どっちにしても容易にストライクから入るわけにはいかない。初球はボール球で入るしかない)

ただしここは内角から入る。この人に外角のボール球なんて見せ球にすらならない。厳しく攻めていってこそ勝機が生まれる。

「おっと」
「ボール」

ソフィアさんが仰け反るほどのインハイへのストレート。これで腰が引けてくれたら楽なんだけど……

(そんなわけないよね)

打席の立ち位置は変わることなく構え直している。今の避け方を見てもこちらが厳しく攻めてくるのをわかっていたみたいだった。

(向こうはこっちの配球を読んでるみたいだしよほど予想外な攻め方じゃない限り対応してくるはず。ここは球数を使ってもいいからとにかく厳しくいく!!)

次はフォークを低めに入れる。本来なら追い込んでからなんだけど、その前に痛打されたら意味がない。カウントが悪くなってもいいからここは攻めていく。

「おわっ!!」

ストライクからワンバウンドするほどのボールゾーンまで落ちていくフォーク。それをソフィアさんは強振していくがバットは空を切る。

















カミューニside

「あれ?待てのサインじゃなかったんですか?」

後ろから不思議そうな声で問いかけられる。向こうはストライクを容易には取ってこないから甘いボール以外は振るなと伝えておいたんだけどな。

「サインの見落としだろ?いつものことだ」
「いや、少しは怒りましょうよ」

冷静に見せているが本当は腸が煮えくり返りそうだよ。ただ、ここで感情的になるのは意味がない。今必要なのは追加点であって選手たちの動揺はいらない。これでソフィアが出塁しなかったらボッコボコにすればいいだけだからな。

「なんか怖いこと考えてます?」
「気にすんな」

予定なら2ボールになるはずだったが1ボール1ストライク。こうなると先に伝えておいた配球はあてにならない。

(次は外の際どいところにストレートで来ると思ってたがここはもう一球変化球か?問題はフォークなのかスライダーなのかだけど……)

今の空振りを見ればフォークでまた来るんじゃないだろうか。スライダーだと投げ損なえば打たれかねないが、フォークならボールに外れる可能性もある。

(だが試合も終盤。握力を使うフォークなら抜けてくる可能性もあるぞぉ)

待球は解除。甘く入れば打ってもらって構わない。よほどのボール球じゃない限りは!!

テイクバックに入った瞬間に握りが見えた。二本の指で挟んでいるのは明らかにそれの握り。問題はどの程度の高さに来るのか……放たれる瞬間を見届ける。

(さっきと同じ高さ。振るなよソフィア)

その願いは通じなかった。前の回の奪三振で変な方向にノリが出てしまったのかまたしても動き始めているバッター。ボール球三つで追い込まれようとしている彼女に苛立ちが爆発しそうだったその瞬間ーーー

キンッ

ワンバウンドするほどのボールを金属バットが捉えた光景に目を丸くした。














第三者side

「サード!!」

引っ掛けた打球。フラフラと打ち上げられたそのボール目指して三人の少女が駆け出す。

「バックアップお願いします!!」
「わかった!!」

この打球にもっとも近いのは優愛。彼女は落下点目掛けて脇目も振らずダッシュすると、見えていない白球目指してダイビング。

「くっ……」

最短距離で飛び込んだはずだった。しかし打球は無情にも優愛のグラブを掠めることもなく地面へと落ちる。

「ストップストップ」

果敢に二塁を狙おうとしたソフィアだったが莉子と明里がカバーしていたこともありオーバーランをするに止まる。

「莉愛!!」

ノーアウトランナー一塁。ここで迎えるバッターはリュシー。そのタイミングで真田はタイムをかけ伝令を向かわせる。

「敬遠ですかね?」
「いや、それはないだろう」

前の打席リュシーは申告敬遠。その直後に蜂谷が野手を前進させてからの右中間へのライナーでランニングホームランを放っている。それにこの試合までの蜂谷の得点圏打率の高さも頭に入っているであろう明宝が無闇にランナーを増やすとは思えない。

(ただ、最悪歩かせてもいいと割り切った攻め方はしてくるだろうけどな)

ラッキーとはいえランナーが出た桜華学院。これ以上の失点は避けたい明宝はリュシーと蜂谷は警戒して挑まなければならない。

伝令がベンチへと戻りマウンドにバッテリーを残し明宝ナインがポジションへと戻っていく。その様子を見てカミューニは眉間にシワを寄せる。

(チャンスを生かせず直後にピンチ。なのに大した指示もしてないってことか。キャッチャーが残ってるってことはこの後の攻め方は選手に任せるってことか)

ベンチから指示が出れば最後にバッテリーが残る必要はない。ただ指示通りに攻めればいい。しかしそれとは違う動きをしている少女たちを見てカミューニは不快感を持っていた。

「リュシー、トドメを刺してやれ」
「ってことは勝負ってこと?」
「あぁ、間違いない」

少ない可能性ではあるが敬遠も十分にあり得た。しかしバッテリーが綿密にミーティングをしているということは敬遠とは考えられない。これから強打者に立ち向かうに向けての打ち合わせであることは言うまでもない。

(ノーアウト満塁で下位打線を抑える確率に賭ければいいものを……その判断、間違いだったと後悔させてやる)

笑みを浮かべ勝利を確信している青年。長いタイムが解けポジションへと散る選手たち。5回の表、試合の流れを決めかねない大勝負が始まろうとしていた。



 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
vsリュシー第三打席目です。前の打席が敬遠なので実質的には二度目になりますが…… 
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