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展覧会の絵

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第十三話 ベアトリーチェ=チェンチその六

「けれどね。彼女が処刑されたのは」
「邪悪な父親のせいだから」
 だからこそだ。この絵にも邪悪が存在しているというのだ。
「そういうことだよ」
「成程ね。邪悪ね」
「邪悪はそこには存在していなくてもね」
 さらに言う十字だった。
「その外にいたりもするからね」
「じゃあさ。この絵じゃなくても現実にも」
「そうだよ。存在しているものだよ」
 まさにそうだというのだ。十字はこう和典に話していく。
「そして神はそうしたものも御覧になっておられるよ」
「キリスト教の神様は全知全能だったね」
「うん、唯一にしてね」
「だからなんだね。全部見ているんだね」
「そして悪人は裁かれるよ」
 こうなることもだ。十字は言った。
「どんな悪事も。神は御覧になられているよ」
「ということは」
 十字のその言葉からだ。和典は今彼等がいる神戸はおろか日本中を騒がせているその騒動について話した。彼の話とその話が一つになったのである。
「あの最近起こっている暴力団の事務所のことだけれど」
「あの連続殺人事件だね」
「殺人っていうかね」
 それどころではないとだ。和典は難しい顔になって述べた。
「あれって殺戮だよね」
「殺戮だね」
「うん、虐殺とかそういうのじゃない。話を聞いてると」
 そうした状況だとだ。和典はマスコミの報道やネットでの書き込みを見て知った知識から十字に話した。
「首斬ったり内臓引きずり出したり。目をくり抜いたり」
「それが殺戮だっていうんだね」
「うん、何か死体はばらばららしいし」
 そうしたこともだ。和典は聞いていた。
「それでももう何十人も殺されてるよね」
「らしいね」
 十字は真実に対して頷いた。
「そしてそれがなんだね」
「ヤクザだからね。相手は」
 和典はその殺戮に対しては引いていた。しかしだ。
 ヤクザが殺されている、そのことに対しては素っ気無くこう言うだけだった。
「ヤクザってのは悪いことするからね」
「それはイタリアでも同じだよ。むしろね」
「イタリアはマフィアだったよね」
「カモラというものもいるよ」
「そういえばそうだったかな」
「どちらにしても同じだよ。犯罪組織だよ」
 名前とルーツが違うだけでだ。同類だというのだ。
「許してはいけない組織だよ」
「イタリアは日本よりも酷いんだ」
「日本の比じゃないよ」
「えっ、そこまでなんだ」
「ナポリやシチリアはあらゆることに彼等が噛んでいるんだ」 
 それこそだ。イタリア南部の経済は彼等が牛耳っていると言っても過言ではない程なのだ。彼等の根絶はイタリアの課題だが全く進んでいない。
「ムッソリーニは彼等を排除できたけれどね」
「ムッソリーニね」
「そう、彼位だったね」
「ムッソリーニって悪い奴じゃないの?」
 和典はムッソリーニについては教科書の知識から話した。ファシスト党を率いて弾圧政治を行い他国も侵略したうえで毒ガスまで使った独裁者だ。少なくとも教科書ではそうなっている。
 だが十字はだ。そのムッソリーニについてこう言った。
「少なくともヒトラーやスターリンよりはね」
「ましだったのかな」
「彼は確かにファシストだったよ」
 その語源にもなっている。
「それでもね。弾圧はしたけれど穏やかで」
「ナチスやソ連よりも?」
「遥かにましだったよ」
 そうだったというのだ。 
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