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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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フェアリー・ダンス編
新世界編
  決断

 
前書き
ソードアートオンライン~黒の剣士と紅き死神~のメインヒロインがついに明かされます!

え?もう分かってるからいい?

そんなことは気にしない!
 

 




次々と繰り出される強烈な拳を逸らし、防ぎ、受け流す。

2人のHPは偶発的なヒットで徐々に減っていくのか、HP残量は互角だ。


「せやぁ!!」


自己強化の魔法により攻撃力とスピードを格段に強化された拳がレイに迫る。


「……ほっ」


それを先読みしていたレイは、突き出された腕を掴み、アルセの重心を崩し、首の後ろに肘を落とす。

ガスッ、と音がしてアルセは地面に叩きつけられるが、魔法の効果により大したダメージにはならない。

一見、互角に見えたこの戦いは実はレイが圧倒している。ALOはプレイヤースキル重視のゲームだ。つまり、数値的ステータスより、身体技能が重視される。その点、この世界で彼と互角にやりあえるのは彼の義妹だけかもしれない。

だが、彼も彼の義妹もこの世界で本気で戦うことはしない。それが相手にとって不快であっても決してすることはないだろう。何故なら――――


「くっ……」


自分にバフを再度かけて限界までの自己強化。これ以上はシステム的に不可能だ。


「はあぁぁぁぁぁぁ!!」


流星のごときスピードでレイにぶつかっていくアルセ。その攻撃は今だに勝負を諦めていない。

それにレイは満足そうに微笑むと、初めて構えをとる。

右足を引きながら左手を突き出す。アルセの拳とその手が激突し、パァアン、と音がして攻防が瞬時に入れ替わる。

腕の円運動がアルセの拳を巻き込み、威力を消し去る。

完全な停止を強いられたアルセは硬直し、大きな隙ができる。間を置かず、レイの背負い投げが決まり、勝敗は決した。






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「やー、参った参った。レイ君強いねー」

「当然だ。ウサミミなんかやるか」

「ともかく、これでやっと3人だね」

決闘を終えた俺達は先程の酒場に戻り、パーティー結成の祝杯をあげていた。二回目だけど。


「ただね、あの小娘。ちょっとかわいそうなやつなんだ」

「え、ヴィレッタが?」


聞いたことないとばかりにセインが声をあげると。アルセは険しい顔をして頷いた。


「知らないのも無理はないよ。あいつ、結構古株だしね。あんたよか数ヵ月は先に始めてたよ」


かくいう彼女もそうとう古参のようだった。

そしてさらに声を低めると、まだ見ぬヴィレッタについて話始めた。


「あの子がまだ初心者だったころ。ちょうどサラマンダーの領主が先代のいけすかない野郎になったの」

「《ガルシア》だっけ……」

「あーあ、止めてくれ。名前も聞きたくない!!」

「何したんだよそいつ……」

初心者(ニューピー)狩り」


アルセが吐き捨てるように言った。その手ては怒りのあまり震えていた。


「ちょうど、ALOのユーザーが増えてきて領主選出やら領土防衛やらが本格化してきたのもその時期さ。分かりやすく言うと、力が全ての戦国時代さ」

「なるほど。で、そいつはその被害者って訳か……」

「そう。ただ、そんな生易しい言葉で片付けられるような。事件じゃ無かった。……《無限キル》プレイヤーの蘇生に莫大なMPや高価な触媒が必要になったのもこれが原因さ」

「……たしか、それまでは簡易の蘇生ならそんなにかからなかったんだよね?」


アルセはこく、と頷くと手に持った酒をぐいっと飲んだ。


「ああ。話を戻すと、ヴィレッタはサラマンダーに捕まって牢屋に幽閉された挙げ句、殺されちゃあ蘇生されってんのを繰り返されたのさ。ちょうど、『ゲーム内で女性プレイヤーを殺すのは最大の快楽』とか言ってたやつらが大勢居たしね」

「……何処にでもいるんだな。そういうやつら」

「……まさか、SAOでも?……それは流石に……」

「いや、居たんだよ。殺したら本当に死ぬと分かってて殺したやつらが大勢。殲滅作戦が提案されるぐらいな」

「「…………」」

「いや、すなまかった。続けてくれ」

「サラマンダーのそう言った仕打ち……いや、他種族にも居たな。とにかく、そういった行為が露見したのは些細なことだった」


何事も悪事は隠し通せることではない。大方、善良なサラマンダーのプレイヤーが見かねてGMに突き出したのだろう。


「あたしが胸くそ悪いガルシアにキレてサラマンダー領に殴り込みに行くと、まあ、あるわあるわ証拠が。領主館にいたやつらを全員血祭りにして人質を全員解放して……いやー、あの時は最高だったね!!まあ、同時にそのせいで『領土内では他種族からの攻撃は効かない』ってルールが出来ちゃったんだけどさ」


ここに人外の化物あらわる。誰か助けてくれ。シリアスな話が一気にスプラッタになった。


「コホン、というわけでいたいけなヴィレッタちゃんは今のような歪んだ子になっちゃった訳ですよ」


最後はともかくとして、なるほど確かにそれは悲惨だと解った。


「そういえば、具体的にそいつは何してんだ?PKか?」

「似たようなものかな。協力な魔法で複数の人数を一辺に葬るんだよ。情け容赦なく。『力が全てよ』ってね」

「なーる……」


その日はそれで解散ということだったが、2人は今年中にログインするのは難しいらしい。


「ごめん。1日一回は入るだけ入ってみるから。急ぎの用事が出来たらメッセージ送って」

「全く、このご時世になっても無線が入ってない家ってどうなのよ……」

「ありがとう。2人とも。また来年な」


別れの挨拶をして、時刻を確認すると、夜の7時だった。

俺もここいらで切り上げることにして、手近な宿に入るとログアウトした。






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現実に復帰して大広間に行くと、丁度夕飯の仕度が整いつつある所だった。

沙良も一足先に帰ってたようで、席に着いている。

俺は何時も座っていた蓮兄の向かいの席に向かおうとして、ピタリと足を止めた。

蓮兄の席は上座に座る当主から向かってすぐ左側。次期当主の一位が座る席だ。そしてその向かい、当主から見て右側は二位の席。はす向かいに三位―螢の義姉にあたる人物が座る席は空席。そして、二位の席の隣は四位。沙良の席だ。

俺はさらに下座、使用人達が席につく、部屋を一区画離れた席に着く。

それを見た使用人達は驚きのあまり、ピタッと動きを止めた。

その時、上座、祖父が声を発した。


「馬鹿者、そんな所にいたら邪魔じゃろう。お前の席はここであろう」


そう言って指差すのは二位の席。


「爺さん、俺はそこに座る資格はもうない。今から万全な状態になったとしても、沙良の足下にも及ばない。それ以前に、その地位はもう捨てたはずだ」

「おい、螢。お前、弱くなって、万全じゃなくて、全身筋肉痛で今日、俺とやりあえたじゃないか。俺は結構本気でやったぜ?なのにお前は()()()も耐えたじゃないか」

「……………」

「お兄様、貴方は自分を僻みすぎです。お祖父様がもう許して帰ってこいと仰ったのは次期当主候補の二位に戻れと言っているのです。この家の敷居を跨いだ瞬間からもう貴方は……また家族の一員になり、私の兄になったのです。」

「……まったく。敵わんな、沙良には」


立ち上がって席に沙良の隣に着くと、爺さんが「頂きます」と言って食べ始める。

全員が唱和し、夕食が始まった。






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暗闇に包まれた道場に1人で立つ。

呼吸を整え、姿勢を正す。

遠くで何かがコト、と落ちた音を合図に動き出す。


バッバッ、タンッ。


水城流の基本の動きである『型』の演舞。準備体操代わりに用いられる簡単なものだ。

が、


「くっ……」


左手を振り払う動作の時にバランスを崩し、演舞が途切れる。


(……無様だな)


―――あの出来事があってから、こんな基本すら出来ないほど、俺は弱くなってしまった。


「木綿季……」


助けると誓った少女。俺の世界に色を塗ってくれた恩人。

そして、初めて好きになった人―――――

4年前に出会い、すぐに会えなくなってしまった。忘れられず、追いかけた。

そして、知ってしまった。彼女いや、彼女達の秘密を。


『だったら、俺が2人を助ける』

『え……?』

『だから、待ってろ。俺が行くまで死ぬな。死んだら怒るからな!!』

『……はぁ、無茶苦茶言ってるよ、螢』


そう言って彼女は笑った。


「くそ……!!」


ガンッ、という音を立てて拳を床に叩きつける。力の無い、自分が疎ましい。約束の1つも守れない自分が……情けない。


「爺さん、そこで何やってんだ」


俺が、倒れた辺りから祖父が壁の向こうに立っているのは知っていた。


「何、ワシも寝る前に運動しようかと思ってな」

「じゃ、勝手にやってろ」

「待て」


この分だと組み手をやらされる可能性が大いにあると踏んだ俺は、さっさと逃げようとしたが、叶わず、捕まってしまった。


「お前が悩んでいるのは重心のズレであろう」

「……だったらなんだ」

「お前の『それ』は修練したところでどうなるというものではない。きちんとした解決法がある。それをすればお前は本来の力を取り戻すこともできよう……どうじゃ、やるか?」


本来の力……本当にそんなものがあったのかすら最近は自信がない。仮想世界のようにそれは幻想でしかないのではないか……そんな気さえした。


「……本当に、そんなことが可能なのか?」

「可能だ。お前は『天才』だろう?こんなところで燻ってると……大切な人も助けられぬぞ」

「…………」


それは可能性という名の起爆剤。絶望の涙で湿気ってしまった自分を奮い起たせる僅かな希望。

それに、俺は――――





「……お願いします。俺にもう一度、生きる力を……守るための、助けるための、力を下さい」

「……よかろう。でもまあ、とりあえずは目の前の問題を片付けることだな。精進せよ」

「……はい」





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Side 水城冬馬


……まったく、世話のかかる孫じゃ。

だがまあ。あの茅場とかいう若造に揉んでもらったのはやはり正解だったようじゃな。


「……相変わらず、お人が悪いようですね、お祖父様」

「……陰行が上手くなったのう、桜」

「あら、褒めても何も出ませんよ。……そういうお祖父様は随分と衰えましたね。(欠陥品)ごときに悟られるとは」

「……いくら孫とは言え、螢にもしもの事があったら許さぬぞ、()()桜」

「おかしな事を仰るのね?お祖父様、螢は山東家が買った兵器ですのよ?分家の分際でそれを盗ろうとするとは……清月様がお聞きになられたらさぞかしお怒りになるでしょう―――」


何時の間にか降り下ろされている木刀。そもそもそれを出した瞬間も判らなかった。


バシッ。


冬馬はそれを1ミリも動けずに受けた。

――否、防御は間に合っていた。


「『水城流対物理防御術・亜式、不動金剛』ですか……特技はまだ瞬時に使えるようですね」

「……去れ、わしは身内で争いとうない」


「……争いですか……それでは一方的な蹂躙をされないよう、頑張ってください」


そう言い残すと、彼女は去っていった。

彼女こそ水城家次期当主候補暫定三位にして、山東家の次期当主の妻になる予定の女性だ。


「ぬぅ………」


防御は完璧ではなかった。平気なふりをして、何とか隙を見せなかったが、バレたかも知れぬ……。


同時に、悟った。自分はもう長くはない……。


孫達だけは守らねばならぬ……。

だが、


「螢、全てはお前に掛かっている。わし亡き後、お前が、皆を……」


まずい、少し疲れたようだ。


手を廊下の壁に掛けながら、冬馬は寝室に向かっていった。




 
 

 
後書き
と、いう訳でした。分かっていた人、よく読んでくれてありがとうございます!


 
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