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超地球救済戦記!断罪王Ω〈オメガ〉~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!バカで愚かな人類は身長170センチ以下の無職童貞ニートの俺が全員滅亡させる‼~

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第百十三話 20××年 海 その2

第百十三話 20××年 海 その2

報告書 
5月7日、夕方ごろ、『断罪刀』を所持した『実験体2号』と『実験体5号』と『実験体6号』が『ブレイズ』の本部を襲撃。
『実験体5号』が『ブレイズ』の軍人達との戦闘中に断罪刀との適合率低下により『怪物』になる。
『怪物』になり暴走した『実験体5号』は敵対する『ブレイズ』の軍人達だけでなく『実験体2号』と『実験体6号』を殺害し、逃走。
この戦闘により『ブレイズ』は事実上、壊滅状態になった。
             *
俺が昼寝をしている間に姿を消したヤヨイちゃん。
海に行きたいと言っていたヤヨイちゃん。
そして、俺の目の前にはその海がある。
俺は着ている服を全部脱ぐ。
背後から通行人の悲鳴が聞こえる。
そして、リュックサックからとりだした海パンを、はく。
俺は海に潜る。
「ヤヨイちゃんを助けなくちゃ」
5月の海はまだ冷たかった。
「冷たくて死ぬかと思った」
俺は一度、砂浜に戻る。
「俺、何してんだ?」
よく考えろ、俺は少なくとも2時間以上は昼寝をしていた。
「もう手遅れかも知れない」
仮に、海中でヤヨイちゃんを見つけることに成功しても生きている可能性は低い。
「でも、助けなくちゃ」
もう一度よく考えろ、ヤヨイちゃんを探している途中で海に溺れたら、俺が死んでしまう。
「でも、俺は、死にたくない」
そうすれば、ヤヨイちゃんが俺の命を守る為に海に入った意味がなくなる。
「そうだ、俺が死んだら天国のヤヨイちゃんが悲しむ」
お前は臆病者だ。
「そうだ、俺は、臆病者だ」
お前は口ではヤヨイちゃんのことを心配しつつも、結局は死ぬのが怖い臆病者だ。
「俺は死にたくない、だから自分が臆病者であることを正当化するためにヤヨイちゃんの願いを利用して生き延びようとしている最低野郎だ」
臆病者は臆病者のために自分の命を犠牲にしたヤヨイちゃんのためにもとっとと家に帰れ。
「家に帰る...」
でも、家に帰ってもヤヨイちゃんはいないぞ。
「そうだ、ここで逃げたらヤヨイちゃんはもう二度とあの家に帰ってこないんだ」
俺はもう一度、5月の海に潜る。
冷たい、逃げたい、帰りたい、死にたくない。
俺の脳が今すぐ、ヤヨイちゃんを見捨てて家に帰れて警告してくる。
それでも俺は海を泳ぐ。
ヤヨイちゃんを探して。
仮にもうヤヨイちゃんが海に溺れて死んでしまっていたとしても、ここでヤヨイちゃんを探すのを諦めたら、俺はアカリさんに合わせる顔がないし、なによりヤヨイちゃんを見捨てたことを一生後悔するだろう。
ヤヨイちゃんはきっと今の俺を見たら怒るかもしれない。
ヤヨイちゃんはきっと、『怪物』になった自分が俺を殺してしまうことを恐れていたから、自殺目的で海に入ったんだと思う。
これで、俺が溺れ死んだらきっとヤヨイちゃんに怒られる。
俺はもう泣きそうだった。
俺は息継ぎのために顔を海中から海面に出す。
「ずいぶんと泳いだな、俺」
後ろを振り向くと、砂浜がずいぶん遠くに見える。
それに、寒くて凍え死にそうだ。
あと、めちゃくちゃトイレにいきたい。
おそらく、砂浜まで泳いで戻る体力はもう俺には残されいないだろう。
つまり、俺は多分、死ぬのかもしれない。
そう思うと、なんだか、もう死ぬのが怖くなくなってきた。
俺は背後の砂浜から視線をそらし前を向く。
少し先の海面に人が仰向けの状態で浮いている。
「ヤヨイちゃん...?」
間違いない、海に浮かんでいるのはヤヨイちゃんだ。
「ヤヨイちゃぁぁぁぁぁん!」
俺は叫びながら泳ぐ。
俺は海に浮いているヤヨイちゃんにたどり着く。
「友助さん、私、死ぬのに失敗してしまいました」
「よかった...生きてて」
「私、小さいころに『組織』の色んな実験で自分の体が強化されてるの、忘れてました」
「よかった...本当に」
「よくないですよ、『組織』にモルモットされたせいで、私は自殺も出来ない、友助さんも守れない」
「よかった、生きてて...」
どこからか空襲警報に似たサイレンの音が大音量で聞こえてくる。
次に、警察官を名乗る男性の声が大音量で付近に『怪物』が出現したので、市民は今すぐ警察の避難誘導に従って地下のシェルターに避難しろと支持してくる。
その指示がもう一度繰り返される。
俺はその時、杉本さんから『全て』を聞かされたことを、後悔していた。
俺が何も知らなければ、サイレンの音と共に何度も繰り返されているこの警告を、映画の撮影かなにかと勘違いできたかもしれない。
だってそうだろう?
空襲警報に似たサイレンの音に警察の口から大音量で『怪物』なんて言葉を聞かされたら、みんな怪獣映画の撮影だと勘違いするに決まっている。
きっと誰も、本当にこの世界に『怪物』がいることなんて信じないだろう。
でも、俺はもう、聞いてしまった、あの日、杉本さんの車の中で。
俺はもう見てしまった、断罪刀との適合率が低下した影響で『怪物』になりかけていたナガツキちゃんの姿を。
そして、俺と同じく、ヤヨイちゃんも気づいていた。
今、大音量で繰り返し流れているサイレンの音と警察の放送が真実であるということに。
「友助さん、戻りましょう、砂浜に」
「俺、もう泳げないかも...」
「じゃあ、私もここで友助さんと一緒に海に溺れます」
「わ、わかった、が、がんばって泳ぐから砂浜に戻ろう!」
俺とヤヨイちゃんはなんとか砂浜までたどり着くことができた。
「もう真っ暗ですね...友助さん、私、着替えるので、5分ほど、目をつぶっていてください」
「は、はぁいっ!」
俺は目をつぶっている間、考えていた。
どうしてヤヨイちゃんが急に海から砂浜に戻ることを決断したのか。
もしかしてヤヨイちゃんは『怪物』になってしまったかつての仲間と戦うために...。
「終わりました...」
「学校の制服!」
「なにか珍しいですか?」
「い、いえ...でも、もしかして、ヤヨイちゃんさぁ...」
「安心してください、帰りましょう」
帰るって、どこにだよ...。
俺はあえて、帰る場所についてヤヨイちゃんには聞かなかった。
俺達に帰る場所がないことぐらい、ヤヨイちゃんもきっとわかってるはずだから。
「そっか、それじゃ、今度は俺が着替えるから...」
「わ、わかってます、着替え終えたら、声をかけてください...」
「終わった」
真夜中に着替えを無事終了させた俺とヤヨイちゃんは横に並んだまま夜道を歩く。
「私...!」
「もう、いいよ、謝らなくてもさ」
俺はヤヨイちゃんの手を握る。
「と、友助さん...!」
「俺、ヤヨイちゃんが海で死んでしまったんじゃないかって思った時、やっと自分の本当の気持ちに気づいたんだ...」
「友助さん...後ろに下がっていてください」
「ふぇ?」
俺とヤヨイちゃんの目の前には血塗れの『怪物』がいた。
血塗れの『怪物』の背中には断罪刀が2本刺さっていた。
ヤヨイちゃんが何かに気づいたかのように口を開く。
「あれは...断罪刀『如月に『水無月』...ということは...」
「じゃあ...あの『怪物』は...!」
「サツキちゃん...」
「ど、どうして、こんなことに...警察は...自衛隊は...いったいなにやってるんだ?」
血塗れの『怪物』の右手が伸びて、ものすごい速さで俺に向かってくる。
空気中から断罪刀『弥生』を抜刀したヤヨイちゃんが『怪物』の右手を断罪刀で切り裂く。
しかし、次の瞬間には『怪物』の左手が伸びて、ヤヨイちゃんの左腕を切り裂いていた。
「友助さん...私、もう友助さんを守ってあげられないかもしれません...」
わかってる。
仮にこの状況から生き延びることができても、将来、ヤヨイちゃんも、今、目の前にいる『怪物』になってしまうことぐらい。
それでも、俺は言わなくちゃいけない。
今、逃げずにこの場でそれを言わなきゃ、きっと後悔すると思うから。
誰かにちゃんと説明できるような理由なんて、きっと必要ない。
そうだろ、ヤヨイちゃん。
ヤヨイちゃんは右手だけで断罪刀を握った状態で『怪物』と戦っている。
『怪物』の左手がヤヨイちゃんの腹部をつらぬいた。
ヤヨイちゃんの動きが止まる。
血塗れのヤヨイちゃんに向かって俺は言う。
「ヤヨイちゃん、好きだ」







 
 

 
後書き
次回もお楽しみに 
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