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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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成長

 
前書き
先週でダイヤのエースが終わったの忘れてて普通にマガジンで読もうとしてましたww 

 
マウンドに集まる桜華学院の選手たち。その輪の中にベンチから伝令を受けた少女が駆けていく。

「ヒット打たれただけであんなに動揺します?」
「今まで打たれてなかったわけだからね、まだ一年生なんだからしょうがないんじゃない?」

動揺しているエースを落ち着かせるためのタイムであることが本部席から見てもわかる。しかしそれだけに、なぜたった一本のヒットで彼女がここまで乱れているのかよくわからないといった様子。

「初回以降のヒット……あの子しか打ってないんだな」
「あぁ、そういえば……」

スコアブックを見ながら町田がそんなことを言う。ヒットどころか莉愛以外のランナーを許していなかったソフィア。それが突然の乱調……

「ここまでの試合も二回以降はランナーをほとんど許していない。それがあいつなりのプライドだったのかもな」

完璧な投球をし続けていただけにそれが崩れたことで彼女の自尊心が揺らいでいるのかもしれない。

(そんなあいつをどうやって立て直す?この場面を任せられる投手もいないだろうし……)

ベンチには監督と部長の他に選手が一人しかいない。伝令に向かっている少女を合わせても控えは二人しかいないことになる桜華学院。そんな彼女たちにソフィアと同等の投手がいるとは思えない。

(リュシーは肩をやっちまってるらしいしここまで登板する気配もない。ここはソフィアに託すしかないだろうな)
















リュシーside

「お疲れぇ」
「カミュ、なんだって?」

カミュからの伝令を受けたひまりがマウンドへとやってくる。まぁ今言えることなんて落ち着けとか何か安心できるような言葉だけだろうけど。

「『ソフィアてめぇぶっ飛ばすぞ』だって」
「「「「「……」」」」」

違った、思ったより強い言葉が飛んできてさすがの私たちも言葉を失う。

「ウソウソ、たぶん冗談だよ」
「たぶんなんだ……」
「実際に言ったんだ……」

まさか指導者からそんな言葉が出るはずないと思ったけど、カミュじゃ普通に言ってそう。てか絶対言ってるし何なら思ってそう。

「『リュシーを全国に連れていくんだろ?』だって」
「!!」

次の言葉を聞いた途端、俯いていたソフィアの顔が上がった。彼女は全員を見回した後、私の方へ視線を向ける。

「頼むよ、ソフィア」
「……うん!!任せて!!」

完全に意気消沈していたソフィアの目に光が戻ってきている。それを見て全員が大丈夫だと確信し、輪を解く。

「ちゃんとリードしてあげてね、お姉ちゃん」
「からかわないでよ、ひまり」

腰に手を回しながら他の誰にも聞こえないような小声で話すひまりと目が合い自然と笑ってしまう。同点のピンチとは思えないほど落ち着いていることに自分でも驚いていた。

(私を全国に連れていく……か、相変わらずというか何というか)

守備位置に戻りマウンドを慣らしている妹の姿に視線を向ける。どうやら打たれたショックはないようでリュシーもホッと一息。

(そういえばソフィアなんだっけ、カミュを連れてきてくれたのは)

逆転のランナーを許している状況にも関わらずベンチで余裕の表情を崩さない指揮官。とても自分たちを勝利に導こうとしているようには見えないが、彼の手腕はわかっているため不安も不満もない。

「ソフィア、落ち着いたみたいですね」
「あぁ、そうだな」

一方こちらはマウンド上で普段通りの様子に戻っているソフィアを見ながら安堵した部長とカミューニ。しかし青年は初めから信頼などしていなかったかのように振る舞っている。

(当然だろ。あいつが本気になったら誰も追い付けない。それだけの才能があいつにはあるんだから)

全員が守備位置に戻りプレーが再開しようとしている中、青年は一年前のことを思い出していた。



















カミューニside

ソフィアが野球をやり始めたのは去年、俺たちが選手権地区予選の準決勝を終えた直後だった。

「やったぁ!!決勝進出だぁ!!」

荷物を持って球場の外へと向かっている俺たち。その先頭を歩いている水色の髪をした小柄な少年はまるで優勝したかのようにはしゃいでいる。

「おい、まだ決勝が残ってるだろ」
「でも優勝候補に勝ったんだよ?明日は楽勝じゃん」
「あれ?そうなの?」
「まぁ秋春と優勝校らしいからな」

金髪の少年と紫髪の青年は今日の対戦相手の情報を把握してなかったらしく困惑気味。昨日あれだけミーティングしたのにこいつらは……

「油断するな、明日は春の準優勝校だぞ。今日みたいなど素人丸出しのプレーしたら負けるぞ」
「仕方ねぇだろ、ど素人なんだから」

仲間たちが沸き立つ中、一人だけ冷静さを保っている長身の少年。二個下とは思えないほどの体格のよさと風格も相まって年上と言われても疑わない。

「これからどうすんの?」

水髪の少年の問いを受けて全員がこちらを見る。俺は実質的な監督も担っているため、その辺の指示も全部俺が出すことになっている。

「今さらやれることもないし、今日は帰っていいよ。俺は次の試合を見てーーー」
「カミュ!!」

球場から足を踏み出したそのタイミングで俺を呼ぶ声がしたためその声の方へと視線を向ける。そこにいたのは銀髪の見覚えのある少女。

「あれ?ソフィアじゃん」
「知り合いか?」

フランスで幼馴染みの一人であるソフィア。そんな彼女が嬉しそうに手を振りながらこちらへと走ってくる。

「決勝進出おめでとう!!」
「いつ日本に来たんだ?」
「一昨日」
「へぇ」

なぜこいつが日本に来たのかこの時は皆目検討がつかなかった。しかし、昨日がこいつの姉であるリュシーの試合があったと後に聞き納得したのをよく覚えてる。

「てかシリル大活躍だったね!!」
「でしょでしょ!?この大会のMVPは俺かなぁ」
「えぇ!?そんなに頑張ってるんだぁ!!てかなんで二人は野球やってるの?」
「諸事情により」
「この大会だけ手伝ってるだけだ」

昔馴染みが多いため話に華を咲かせている面々。だが、わざわざこの試合を見に来ただけとは思えない。

「で?何の用で来たんだ?」

あまり盛り上がると本題を忘れるんじゃないかと思い声をかける。すると彼女はポンッと手を叩いて答えた。

「そうだ!!カミュ!!ソフィアに野球教えて!!」
「……はぁ?」

あまりにも突然のことに変なことが出てしまった。そう言った彼女の目は真剣そのもの……なんだが……

「いや、お前じゃ無理だろ」

ソフィアは運動神経、勉学、趣味嗜好、全てに置いて高い潜在能力を常に見せていた。それは姉であるリュシーよりも常に優れていて周りからはチヤホヤされているんだが、そのせいか如何せん何事も長続きしない。

サッカーを始め男子を圧倒したかと思えば一週間後にはバスケへ移行していたり、パティシエになると言い出してケーキ作りを始めたかと思えば次の日には覚えることがなくなったと言い別のことを始めるような奴だ。

(あえて言わないが、野球を続けられるとは思えない)

姉のリュシーが留学ついでに野球をしているはずだが、フランスにいた頃にソフィアも一度チャレンジしている。初めから二人とも高い能力を見せていた故に指導者たちは大喜びだったが、年上の男子すらも楽々越えてしまったことで興味を失ったのかソフィアは一ヶ月も経たずにチームを抜けてしまった。

「大丈夫!!今回は絶対続けられる!!自信ある!!」
「いやいや、絶対無理だろ」
「あいつが続けられたところなんか見たことないもんな」

謎の自信を覗かせているソフィアに対し周りも同様の反応を見せている。しかし、一度言うと始めるまでは言うことを聞かないことをよくわかっているためここで拒否しても時間の無駄であることも承知していた。

「来月甲子園大会がある。その後一回帰国するからその時にまだやる気があるなら教えてやる」
「えぇ!?それまで何かやることないのぉ!?」
「じゃあ死ぬ気で走り込んでおけ」
「わかった!!あ!!もう行かないと飛行機行っちゃうから!!じゃあね!!」

キャリーケースをゴロゴロと転がしながら走り去るソフィア。嵐のような少女の姿を見ていた仲間たちは顔を見合わせていた。

「どうしたんだ?あいつ」
「急に野球やりたいなんて……珍しいよな?」
「……なんかあったな、こりゃあ」

あいつのことをよく知っている面々は何かがおかしいことは理解していた。しかしそれが何なのかわからない。調べようにもまだ大事な決勝戦を残している俺たちはすぐにそれに着手することもできなかった。

(本気だとは思えないが……大会が終わったら帰国してやるか)

それから約一ヶ月後、甲子園大会を終え遅めの夏休みをもらった俺たち。その期間を利用し久々に帰国すると、黙々と走り込みをしているソフィアの姿があった。
一ヶ月も何かが続いた彼女の姿を見たことがなかった俺たちは驚愕した。周りの人間に聞いても雨の日も毎日続けていると聞きますます疑問が深まり、彼女に問いかけた、

「ソフィアが……お姉ちゃんを全国に連れていくの」

その時だった。大会の最中にリュシーが肩を壊してしまったと聞いたのは。

















ノーアウトランナー一、二塁。ピンチではあるが落ち着きを取り戻したソフィアを見ればこの程度のピンチは何てないことだと思ってしまう。

(チームの勝利を優先したあまり自身の異常に気付けなかったリュシー。その姿を見たからこそ、ソフィアはあいつを勝たせたいと思ったんだろうな)

あいつが本気であることを察した俺はあの日から練習メニューを与えてやらせ続けてきた。定期的な報告でも飽きることなく続けられることに感心しつつ、俺自身もある決意を固めた。

(この大会でお前ら二人を全国に送り出してやる。そのために俺はプレイヤーを一度休業してるんだ。生半可な真似するんじゃねぇぞ)

俺の睨みに気が付いているのか、リュシーが一度こちらを見てからソフィアにサインを送る。この場面、理想はゲッツーだが最悪1点は取られたって構わない。次はソフィアからだ。すぐに勝ち越せる……はず!!

そんな思考をしている俺だったが、リュシーは慎重なのか二球続けてスプリットが外れて2ボールとなってしまう。

(おい、リュシー)

カウントが悪くなると甘いボールが狙われやすい。相手は打席の最前部に立っている。ムービングは通じない。かといってこのカウントでは厳しいコースは振ってこない。

(ここは球数を使ってもいい。甘くは入れるなよ)

ムービングを際どく、ただしストライクに入れていくしかない。最悪満塁でも構わない。そう思っていたがリュシーは思わぬ行動に出た。

(中腰?)

サイン交換を終えると中腰に構えたリュシー。それがどういうことなのかすぐに理解できた。

(高めのストレート?なんで?)

見送られればさらに窮地に追い込まれる。それなのにここでなおもボール球を要求する意味がわからない。そう思っていたが、ソフィアの投じたボールを見た瞬間にその考えすら間違っていたことに気付かされた。

ガキッ

真ん中高め……コースもストライクだったこともあり打者である新田は打ちに出た。しかしソフィアのストレートの伸びが勝り打球はショートへのポップフライに終わった。

「打者の打ち気を読みきっていたのか。こりゃあ俺の読みが甘かったな」

間近で打者を観察できるポジションであるキャッチャー。リュシーはそれを理解し、生かしていたからこそボール先行からの高めのストレートを選択し、ソフィアもそれを信じて投げ抜いたわけか。

(成長してるな、二人とも)

まだまだ甘い自身の読みを反省しつつ、どんどん成長していく二人を羨ましく思う。いや、二人に限らずこの緊張感あるグラウンドに立てている少女たちが輝いて見えた。

(この大会が終わったらすぐ練習再開しねぇとな。あぁ、早く野球がやりてぇなぁ)














 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
試合も佳境へと向かっておりますが何とか更新のペースを保てるように頑張りたいと思います(*・ω・)ノ 
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