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お箒ぶな

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第一章

                お箒ぶな
 岩手県の方に伝わる話である。
 巻取りの茂兵衛が山に行って仕事にかかろうとしていた、色黒で面長の小さな目を持つ中年の男である。 
 その彼が共に薪取りに来ている従弟の五郎に言った。
「まずは休むか」
「一服か?」
「仕事前にな、今日も頑張るが」 
 その前にとだ、自分と違い四角い顔で大きな目を持つ従弟に話した。
「まずはな」
「一服か」
「村から山までずっと歩いたからな」
 それでというのだ。
「今はな」
「そうか、じゃあ煙草吸うか」
「そうするか」
 二人で話してだった。
 丁度そこにあった石にそれぞれ腰を下ろしてだった、煙管を出して煙草を吸いはじめた。そうするとだった。
 茂兵衛は向かい合って煙草を吸う五郎の背中にあるものを見付けて言った。
「凄いのが見えたぞ」
「何が見えたんだ?」
「ぶなだ」
 この木だというのだ。
「それが見えたぞ」
「ぶなか、どれだけあるんだ?」
「結構あるがそのうちの一株からな」
 煙管で煙草を吸いつつ話した。
「箒みたいに太いのや細いのが出ているんだ」
「枝がか」
「ああ、あれを取ったらな」
 そのぶなの枝達をというのだ。
「今日はそれでいけるぞ」
「今日の仕事はか」
「だから煙草を吸い終わったらな」
 こう言ってだった。
 茂兵衛は実際に煙草を吸い終わると五郎と共にだった。
 ぶなの木の方に向かってそうしてだった。
 薪を切り取りにその多くの枝があるぶなの木に斧を入れたが。
 すると斧を入れたそこから赤い樹液が噴き出た、茂兵衛はそれを見て仰天した。
「おい、何だこれ」
「人の血そっくりだぞ」
 五郎もそれを見て言った。
「こりゃ普通の木じゃないぞ」
「ああ、こんな木を切ったら祟りがあるぞ」
「そうだな、じゃあこの木は切らないでおくぞ」
「他の木を薪にしてとっとと退散するぞ」
 こう話してだった。
 二人はそのぶなの木から離れてだった。
 他の木から薪を取ってそうして昼飯前には山を下りた、村人達は二人が帰って来るのが遅くてそれで問うた。
「今日は随分早いな」
「いつも夕方に帰ってくるだろ」
「一体どうしたんだ?」
「何かあったのか?」
「何かあったから早く戻ってきたんだ」
 茂兵衛が村人達に答えた。
「とんでもないぶなの木があったんだ」
「ぶな?」
「とんでもないっていうとどんなのだ?」
「ちょっと話してくれるか」
「ああ、実はな」
 茂兵衛だけでなく五郎もだった。
 そのぶなの木のことを話した、すると村の神社の神主が言ってきた。
「それはどう聞いても普通の木ではないな」
「神主さんもそう思うか」
「真っ赤な血みたいなのが出たからな」
「どう聞いても。明日その木のところに案内してくれるか」
「ああ、そうするな」
「そのうえで見てくれ」
 二人もそれならと言ってだった。
 そうして次の日に神主をそこに案内するとだった。
 確かにその枝の多いぶなの木はあり。 
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