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アトラスの願い

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第二章

 袋に入った何かもあった、アトラスはその彼を見て若しやと思った、それで彼に対して大声で呼びかけた。
「そこの若者よいか」
「その声は」
「アトラスだ」
 彼は自ら名乗った。
「知っていよう」
「あのアトラス神ですか」
「そうだ、そしてそなたはペルセウスだな」
「はい」 
 青年はペガサスに乗り空を駆りつつ応えた。
「私がペルセウスです」
「そなたに頼みがある」
 こう言うのだった。
「いいだろうか」
「私にですか」
「だからここに来てくれるか」
 ペルセウスに対して呼び掛けた。
「これから」
「私でよければ」
 ペルセウスも応えてだった。
 ペガサスを彼の前までやった、そして空を駆る馬を着地させ下馬し神に恭しく挨拶をしてから彼を見上げて問うた。
「それでお願いとは」
「そなたその袋にメデューサの首を持っているな」
 ペルセウスが腰に下げている袋を見つつ問い返した。
「そうだな」
「そうですが」
「その首を見せてくれ」
 こう言うのだった。
「今な」
「あの、メデューサの首はです」
 ペルセウスはアトラスの申し出にそれはという顔になって応えた。
「見ますと」
「石になるな」
「死してです」 
 首だけになってもというのだ。
「まだその顔は恐ろしく」
「見れば石になるな」
「そうなりますが」
「そうだ、石になりたいのだ」
 アトラスは自ら言った。
「そうなりたいのだ」
「それは何故ですか?」
「わしはこの通りだ」
 アトラスは自分のことを話した。
「常に天球を支えているな」
「この世の天を」
「こうしてな」 
 見ればそうしている、とてつもなく巨大な身体の双肩に大地と同じだけ巨大な天球を支えて持っている。
「持っているが」
「それがですか」
「もう辛いのだ」 
 ペルセウスに苦しい顔で話した。
「この身体ではな、だからな」
「石になってですか」
「楽になりたい、石になればだ」
 その身体にというのだ。
「これ以上はないまでに硬く動く必要もなくな」
「ただ支えるだけで」
「楽になる、だからだ」
「これからはですか」
「石になりたいのだ、務めがあるにしてもな」
 それをしなければならないがというのだ。
「出来るだけな」
「楽にですね」
「したいのだ、いいだろうか」
「そこまでお辛いのですね」
「重い、私の身体を以てしてもな」
 アトラスは苦悶の顔で答えた。 
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