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展覧会の絵

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第十一話 ノヴォデヴィチ女子修道院のソフィアその二

 その何かは首がなかった。首は卓の上に置かれていた。ただしだ。
 耳も鼻も目もなくだ。頭には無数の釘が打たれていた。座っている何かには首がなかった。そしてその死体の腹も割かれていてだ。
 内臓が引き出されそこに色々なものが放り込まれ。内臓は全て床にぶちまけられていた。
 心臓は踏み潰されていた。何処までも無残な有様だった。
 その首を見てだ。私服の刑事が言った。
「藤会のドン、野田一郎だ」
「そうですね、全国規模の広域暴力団組織藤会の組長の」
「野田ですね」
 制服の警官達も刑事の言葉に応えて言う。
「それがこんな有様ですか」
「無茶苦茶な殺され方しましたね」
「内臓引き出されて首斬られて」
「目も鼻も耳もないって」
「幾ら悪い奴でも」
 この野田という男が悪人なのは間違いないというのだ。
「この有様はないですね」
「これ切り裂きジャックですかね」
 十九世紀のロンドンを騒がせた連続猟奇殺人鬼の話も出た。その正体は今も謎だ。
「何かサイコ殺人っぽいですけれど」
「幾ら相手がヤクザでも」
「これはないですよね」
「一体どれだけ殺されてる?」
 刑事は血の海の中で苦々しい顔になってだ。後ろにいる警官達に問うた。
「この事務所の中で」
「ええと。二十人位ですね」
「ざっと見たところですけれど」
「それだけ殺されてます」
「事務所の武器庫が破られてます」
 このことが述べられた。
「それでそこの刀や銃を使って、みたいですね」
「殺していったってのか」
「どうやら」
「そうか。しかしな」
 刑事はその野田の首を見ながらまた言った。
「これはないな」
「そうですね。とてもこれは」
「有り得ませんね」
「一体どれだけの間にこれだけの人間をここまで惨たらしく殺したのか」
「何処のどいつがこんなことをしたのか」
「それが問題ですね」
「これをやった奴はだ」
  どうかとだ。刑事は言った。
「確実に何かおかしい。それにだ」
「ええ、殺しなれてますね」
「多分これまでの数件の猟奇殺人もですね」
「今回の事件の犯人ですね」
「そいつがやりましたね」
「間違いなくな。殺し方が尋常じゃない」
 刑事も言う。
「他に気になるのはこれだけの殺しをどれだけの時間をかけてやったかだ」
「一人一人。二十人も苦しませ抜いて殺す」
「それをどれだけでやったかですね」
「普通はここまでできないからな」
 そもそもだ。人を一人殺すことさえとだ。刑事は言った。
「一人や二人でも大変だがな」
「二十人位ともなるとそれこそですね」
「尋常な時間じゃ済みませんからね」
「ああ。事務所の監視カメラとかに何かないか?」
「潰されてます」
 それもだ。ないというのだ。
「どうやら真っ先に潰されました」
「そうか。指紋等は残っているか」
「いえ、靴型の類もです」
「ないか」
「随分周到な犯人らしくて」
 そのせいでだ。証拠らしきものはだというのだ。
「一切ありません」
「そうか。とにかくな」
「はい、この事件の捜査ですね」
「はじめましょう」
 こう話しながらだ。警官達はその無残な死体の回収と事務所の掃除をはじめたのだった。
 この藤会本部虐殺事件は忽ちのうちにニュースになった。それも全国区でだ。誰もがこのことを聞いて唖然となりだ。話題はそれで持ちきりになった。 
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