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DQ3 そして現実へ…  (リュカ伝その2)

作者:あちゃ
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祝福は心の中で

<ランシール>

闇夜も深くなり、既に日付が変更された頃…
ランシールの神殿では、誰も眠ることなくアルルの帰りを待ち続けていた。


(ガチャ…)
洞窟へと続く扉のノブが回り、奥からアルルが姿を現す。
「お帰りなさい、試練は………!!」
神官がアルルに試練の結果を聞こうとした時、彼女の後ろから現れた人物に驚き言葉を失う。

しかし、それは神官だけではない。
ウルフ達も信じられない物を見るように、驚き固まっている。
ビアンカとマリーだけは、冷静さを持っているが…それでも驚いている。
「よう!どうだった?ブルーオーブは手に入った?」
「えぇ、バッチリ!」
アルルは手にしたオーブを掲げ見せウインクをする。

「そっちの色男はどうだ?良い女をナンパ出来たのか?」
「ええ!美女の匂いを辿ったら、彼女に出会いました。最高に良い女です!」
アルルの腰に手を這わせ、引き寄せて自慢しながらウインクするティミー。

「じゃ、万事OKって事ね。…待ちくたびれて疲れたよ!宿屋に帰ろうぜ!」
「父さん…1つ困った事が…」
「どうした?」
「僕の度し難い方向音痴は、治らない物ですかねぇ?」
「う~ん…一晩寝れば治るんじゃね?」
「じゃぁ安心だ」


「ちょっと待ちなさい!!」
アホな会話をしながら、神殿を出て行こうとするリュカ達を、やっと思考が動き出した神官が止める。

「こ…この試練は、勇者が1人で行う事に意味があるのです!にも関わらず、何故アナタは一緒に洞窟へ赴いていたのですか!?」
混乱と憤慨が混ざり合った声で、アルルとティミーを怒鳴る神官。

「私は1人で試練をやり遂げました」
「僕は美女の匂いを求め彷徨った末に、直ぐそこで彼女と出会いました」
いけしゃあしゃあと言い切る2人。
「何の問題も無いじゃん!」
そしてそれを最大限に援護するリュカ。

「な、何を言っているのですか!貴方の息子さん…ティミーさんでしたね。ティミーさんは、地球のへそへと通じている、この扉から戻って来たのですよ!高く険しい絶壁に囲まれた、洞窟の方から帰って来たのですよ!」
「それが?…コイツ、すげー方向音痴なんだよね!きっと迷いに迷って、洞窟の方へ行っちゃったんだよ!」
半ば笑いながら話すリュカ…

「迷った!?迷って行けるような所ではないのです!何かイカサマをしたに決まってます!そ、そんな勇気…私は認めませんよ!」
顔を真っ赤に染め上げ、震えながら怒りを露わにする神官。
リュカ・ティミー・アルルを指差しながら、ヒステリックに叫び散らす。

「黙れクズ!!『私は認めない』だと?この試練は、神が与えた試練だろ!お前の許可など必要ではない!それとも何か?お前が神なのか?」
空気を揺らす程の怒号で怒りをぶつけるリュカ。
彼の声で、遠くの犬が遠吠えをする。

「わ、私は…」
先程まで真っ赤だった神官の顔が、今では真っ青に変わってしまった。
「神が与えた試練なら、神が彼女の勇気を審査する!お前はただの門番だろ…偉そうに俺の子供達を批評するな!」
空気を張りつめさせるリュカの怒りに、何も言えなくなる神官…
今彼の頭にあるのは、リュカが自分に何もせず立ち去ってもらう事だけ…
最早、試練における不正などどうでも良くなっている。



神殿を出てウルフがティミーに近付き声をかける。
「ティミーさん…どんな方向音痴になれば、この絶壁を超えられるんですか?」
「何…父さんに勢い良く放り投げてもらえば簡単さ!」
ティミーが絶壁と建物の境で、他より低くなっている箇所指さし、肩を竦めて説明する。

「よ、良く無事でしたね…着地はどうしたんですか?」
「壁の向こうは砂漠地帯でね…スクルトを重ねがけしてダメージを軽減した。…尤も、丁度モンスターの一団の上に落ちたから、ものっそい痛かったけどね」
その場に居た皆が驚きながら、リュカとティミーを交互に見る。

「どうしよう…リュカさんとティミーさんの区別が付かなくなってきた!」
「ちょ、ウルフ君…大変失礼な物言いだよ!」
そんな台詞にみんなが笑い出す。
「うん。流石は我が息子!」
ティミーの肩を抱き、嬉しそうに呟くリュカ。
そして全員宿屋へ着き、待ち続けた疲れを取り除くかの様に眠りにつく…






誰もが寝静まった夜明け前…
ティミーは隣で静かに寝息を立てるアルルを、起こさないようにベッドを抜け出し、服を羽織り冷たい空気を吸いに宿屋の外へと出て行った。
つい先程まで、愛しいアルルと男女の事柄を行っていたティミー…
未だに夢心地で、思い出すと顔が火照ってしまう。
宿屋の外で、うっすらと白けてきた空を眺め、大きく息を吐く。

「大人の仲間入りおめでとう」
不意に後ろから声をかけられ、慌てて振り向くティミー!
「と、父さん!い、何時からそこに…?」
そこにいたのは彼の父…リュカが優しい笑顔で佇んでいた。

「お前が出てくる数分前………僕とビアンカの部屋は、お前がさっきまで居たアルルの部屋の真下なんだ。お前の行動は読みやすい…ベッドの軋む音が止んだから、ここでお前を待っていた」
辺りはまだ薄暗く、リュカからは分からないが、ティミーの顔は真っ赤に染まっている。

「で、どうだった…初めての感想は?」
「ど、どうしてそう言う野暮な事を聞くんですか!?…ただ、1つだけ言えるのは…柔らかくて良い匂いがしました…」
「そうだ…女の子はみんな柔らかくて良い匂いがする…アルルのように、幼い頃から剣術訓練をしていた娘でも、柔らかくて気持ち良いんだ!」
まだ記憶に新しい、彼女の感触を思い出すティミー。

「ムラムラして来ちゃった?」
「………はい」
「ふふふ………行けよ!今頃ベッドで寂しがってるぞ」
リュカは顎で宿屋の中を指し、部屋へ帰る事を息子に薦める。
ティミーも黙って頷くと、宿屋へ入ろうとする…が、立ち止まり気付いた事を報告する。
「父さん…僕もアルルと親密になり、多少は男女の色恋事を理解してきて気付いたのですが…」
何やら戸惑いながら話すティミー…リュカも怪訝そうな顔をしている。

「別にその場を見たわけではないのですが…マリーとウルフ君も、既に男女の…その…アレを行っていると思います…」
「はぁ?」
ある意味、思ってもいなかった事を言われ、困惑するリュカ…
「でも許してあげてください!確かにマリーはまだ8歳ですが…ウルフ君は本当にマリーの事を愛してます!それに彼は良いヤツなんです…彼にならマリーを任せられます!だから…」
まるで自分の事のように真剣なティミー。

「…あ、あぁ…分かったよ…でも、この事は此処だけの話しにしような!」
リュカは右手で顔の右半分を押さえながら、ティミーに口外しないように釘を刺す。
そしてリュカの態度を勘違いしたまま、愛しい彼女のベッドへと戻るティミー。


「アイツ…今更なのかよ…」
どこか抜けている息子に、溜息が出てしまうリュカ…
ともあれ、着実に成長している息子に、心から祝福する父の姿もそこにあった。


 
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