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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第98話 激突!イッセーVSメルク!重力の魔窟、ヘビーホールに向かえ!

 
前書き
 今回二代目が初代に拾われたとか、メルクの星屑が砥石であるなどの情報が欠けていますが仕様です。メルク編が終わるころにはちゃんと明かされますのでご安心ください。


 後小松役の小猫も同行しますが二代目に自信を付けさせるのはメンバー全員でする予定なのでお願いします。


 二代目に『ルキ』というオリジナルの名前を付けました。この作品では彼女は自身を二代目と名乗っていないので彼女の名前を呼ぶ際に困るのでオリジナルの名前を付けました。


 因みに名前の由来は包丁で切る → きる → ルキ という安直な感じです。 

 
side:ゼノヴィア


 私達は小猫の包丁を直してもらう為に研ぎ師メルクに会いに来た。だがまさかメルク殿の正体がこんな若い男性だったとは……噂とはあてにならないな。


「本当にあなたがメルクなんですか?失礼ですが想像していたイメージとは違うというか……」
「どんなイメージをしていたんだい?」
「もっとこう、屈強な肉体をしていて『構わぬ!最後にこの俺の側にいれば!』とか言う世紀末覇王のようなイメージがあったんだけどなぁ」
「生憎そんな屈強な肉体はしてないんだ」


 イッセーが語ったイメージを聞いてメルク殿は溜息を吐いた。私は鷹の目のような鋭い目つきをした強い男性をイメージしていたな。


「私は全身銀色の鎧を纏ってダイヤモンドのように硬い剣を両腕から出す悪魔みたいな超人だと思ってたわ!」
「わたくしは長い長髪で義手に剣を付けて『う˝お˝ぉい!』という口癖のある男性だと思っていました」
「わ、私はお魚さんみたいで少し怖いけど『お体に障りますよ……』と相手を気遣える優しい人だと思っていました」
「好き勝手言ってくれるね……」


 イリナ、朱乃、アーシアのイメージを聞いたメルク殿はさらに大きなため息を吐いた。


「そうよ、貴方たち。いくらなんでも失礼だわ」
「リアスさんはどういうイメージをしていたんですか?」
「えっ?美形だけど認めた相手にしか包丁を作らない頑固な人だと思っていたわ。顔に×のような傷があったり武器の事になると早口になったりしていたら好ポイントだったわ」
「君も変わらないよ」


 イッセーの質問にリアスは自身の願望ともとれるメルクという人物の想像を話す。だがそれを見いていたメルク殿はリアスも同じだと言った。


「いくら滅多に姿を見せないからって好き勝手にイメージしすぎだろう……」
「やっぱり人が嫌いなんですか?」
「まあね。それに静かに集中して作業がしたいんだ」


 小猫の問いにメルク殿は肯定する。やはり職人だから集中するためにこんな辺境に仕事場を構えているのか。凄いな。


「仕方ない、俺の仕事場に案内するよ、ここまで来てくれた人は久しぶりだし、それに職人に大事なのは体格じゃなくて腕だろう?実際に俺の腕を見てもらえば納得するはずだ」
「そりゃそうだ。じゃあお言葉に甘えてメルクさんの仕事場を見学させてもらおう、貴重な体験だからな」


 メルク殿の問いにイッセーはそうだなと返した。まあ確かに職人に必要なのは腕の良さだ、私でも知ってるほどのメルクと言う名の凄さを存分に体験していこうじゃないか。


 メルクに案内されて工房の中に入ったが……これは一体なんだ!?


「傷だらけじゃないか!?」


 工房の床や壁には無数の切り傷がありまるで戦場のようだった。


「うおぉぉぉぉっ!?」
「わあぁぁぁぁっ!!」


 するとアザゼル殿と小猫が同時に声を荒げた。び、びっくりしたぞ……


「すげぇ!?こんな珍しい素材は初めて見た!?」
「す、凄いです!あのメルク包丁の研ぐ前の刃をこの目で見られるなんて!?」


 アザゼル殿は壁や台の上に置かれた素材を、小猫は壁にかかっていた包丁の刃を見て驚いていた。


「目の良い二人だね。俺の包丁の良さが分かるのかい?」
「そりゃあもう!貴方の包丁が乗っている雑誌は全部見ましたし、実際に売られている所に見に行った事もあります!」
「俺は包丁の事はよく知らねえがこれらの素材が滅茶苦茶レアなモンだってことは分かるぜ!コイツを使えばあの人工神器や武器が作れるかもしれねえな……!」


 メルク殿の問いに小猫は興奮した様子で答えて、アザゼル殿は包丁の良さは分からないらしいが、その素材には強い関心を集めていた。


 私も包丁には詳しくないが、あの刃の鋭さには心が惹かれてしまうな。メルク殿は武器は作らないらしいから惜しく感じてしまうよ。


「あっ、もしかしてこの刃ってあの『千徳包丁』ですか!?数千種類の食材を自由自在に切れるというオールラウンダーの包丁!一本500万円はするメルクさんの代表作ですよね!」


 小猫は壁にかかっていた研ぐ前の包丁の刃を言い当ててしまった。凄いな、私にはすさまじい切れ味のある刃にしか見えないぞ。


「触るな!」
「えっ?」


 だがメルク殿はそれを見て血相を変えて叫んだ。小猫はメルク殿の叫びに驚きそちらを見るが、運悪く包丁の刃が小猫の方に倒れてしまった。


「小猫ちゃん!」


 イッセーが間に入って小猫を庇うが、その際に掠めたのかイッセーの腕から血が噴き出した。


「んなっ!?かすっただけで俺の腕が切れた!?」


 そのまま地面に落ちていった刃は石材で出来た床にすっぽりと突き刺さってしまった。


「落ちただけで石の床にめり込んじゃったわ!?」
「信じられねえ切れ味だ。どんな研ぎ方をすればあんなにも切れるんだよ……!」


 イリナとアザゼル殿もあまりの切れ味に驚いているようだ。あれは並みの名刀など足元にも及ばない切れ味だぞ……!


「済まない、忠告が遅れた。それは『ワーナーシャーク』の歯で作った刃だ、切れ味はすさまじいし触れただけで切れてしまう。ここにあるのは危険なモノばかりだ、あまり迂闊に触らないでくれ」
「い、いえ……わたしの方こそ申し訳ありませんでした」


 メルク殿は小猫に謝るが彼女にも非はあったので小猫も彼に謝った。


 その後私達はしばらくメルク殿の工房を見学していた。イッセーは何故か外に出たが多分トイレだろう。


「凄いです!こんなにも沢山のメルク包丁をタダで見ることが出来るなんて思ってもいませんでした!」
「どうだい、俺の腕は信じてもらえたかな?」
「はい!素晴らしい包丁ばかりでした!」


 小猫はすっかりメルク殿を信頼したようだな。私のデュランダルも頼めば研いでくれないだろうか?いや、そもそもいくらなんだ?


「遅くなったな」
「あっ、先輩!何処に行ってたんですか?」
「ちょっとな」


 するとそこにイッセーが戻ってきた。


「さて、そろそろ君たちの依頼を聞こうじゃないか。ただ俺は忙しいから包丁の注文だったら3年は待ってもらう事になるけど……」
「えっ!?そうなの!?」
「まあ自慢じゃないけど俺も忙しいからな。せっかくここまで来てもらって悪いんだけど、順番は守らないといけないだろう?」
「それはそうだけど……」


 リアスは納得できない表情を浮かべていた。確かに割り込むのはいけないことだが小猫の事を考えるとだな……


「取り合えず依頼の内容だけでも聞いてくれ。俺達の依頼の内容はこの子の包丁を直してほしいって事だ。小猫ちゃん」
「はい」


 イッセーはメルク殿に目的を説明をして小猫が折れた包丁を取り出した。


「これは……!」
「えっと、どうかしましたか?」
「いや、凄いなって思ったんだ。ただの普通の職人が作った何の変哲もない包丁だけど魂を感じるんだ。本当に大事に使われていて丁寧に手入れをされてきた思いやりと感謝がこの包丁から伝わってくる。それに何故か君の事を見守っているような感じもするんだ」
「きっとその包丁が父様の形見だからだと思います。そんな大事な形見を折っちゃったんです……」
「そうか、それは気の毒に……」


 メルク殿は包丁に込められていた魂……?を感じ取ったらしい。私には分からないがG×Gの職人ならそう言ったことが出来ても不思議じゃないだろう。


 包丁に込められていた魂のメッセージを聞いた小猫は嬉しそうにしたが、同時にそんな大切な包丁を折ってしまったという現実を思い出して落ち込んでしまった。


「どうだ、メルクさん。その包丁を直せないか?」
「……難しいね、直すことはできるがこの包丁は折れてしまっている」
「どういうことだ?」


 イッセーはメルク殿の言葉に首を傾げた。折れたなら直せばいいのではないのか?


「俺にとって包丁は料理人の腕だと思っている、だからこそ魂を込めるように作るんだ。包丁が折れるという事は魂が死んだも同然だ」


 メルクは職人としての自らの理論を話し始めた。


「人間の腕は折れても治るが包丁は直らない、見かけは直っても魂は消えてしまう。そんな包丁じゃ食材たちは心を開かないよ」
「そうか……」


 メルクの言葉にイッセーは落胆した様子を見せる。


「小猫ちゃん……」
「先輩、ありがとうございます。でもいいんです、寧ろメルクさんの話を聞いて決心がつきました」


 イッセーは小猫に声をかけるが、小猫は涙を拭いて笑みを浮かべた。


「決心?」
「はい、私は心の何処かで父様に甘えていました。父様の包丁を使う事で何処かで父様が側にいてくれるって思ってたんです」


 小猫は自らの心境を語り始めた。


「でもそれじゃ私は成長できません。節乃さんや姉さまに鍛えてもらっている内に思ったんです、父様を超えるような料理人になりたいって……私にとって世界一の料理人は父様だったから……」
「そうだったのか……」
「この包丁が折れたのも私にいつまでも甘えてはいけないよっていう父様のメッセージだったのかもしれません。だから私、自分の包丁を買います!父様のように自分の包丁を買って大切にしていきます!そうすれば父様のような料理人になれるって思ったんです!」
「そうか、小猫ちゃんが決めた事なら俺は反対しないよ。強くなったな、小猫ちゃん……」
「はい……!」


 イッセーは小猫を抱きしめて小猫も笑みを浮かべて抱き返した。小猫は凄いな、私もあの強い精神を見習わないといけないな。


(私もどこかでデュランダルを譲り受けただけと思っていた。だがそれではデュランダルにも託してくれたストラーダ猊下にも失礼だ。私もストラーダ猊下以上の聖剣使いになって見せる!)


 私は心の中でストラーダ猊下を超える戦士になって見せると決意を新たにした。


「メルクさん、ありがとうございます。貴方の言葉で小猫ちゃんは成長できました」
「そうか、力になれたのなら良かったよ。その包丁も喜んでる、『頑張れ』ってそう言ってるよ」
「父様……」


 メルク殿の言葉に小猫は愛おしそうに折れた刃を優しく抱きしめた。


「さて、なら帰ったら小猫ちゃんの包丁を買いに行くか」
「えっ、俺に新しい包丁を作ってほしいと依頼はしないのか?」
「そうしたいのは山々なんだけど時間が無いからな。3年も待てないんだ」
「そうか、ぜひその子の包丁を作ってみたいって思ったんだがそういう事なら仕方ない。順番は順番だからな」


 GODが現れるのは近いと言われているからな、3年は長すぎる。


 メルク殿にオーダーメイドできる貴重な機会を無碍にするようで残念だが小猫の包丁はデパートで買うことにしたのだろう。


「そうだ、メルクさん、俺は貴方にもう一つ聞きたいことがあったんだ」
「なんだ?」
「メルクの星屑って知ってるか?」
「ッ!?」


 イッセーはもう一つの目的であるメルクの星屑についてメルク殿に聞いた。だがそれを聞いたメルク殿は何か驚いた顔をしていた。


「……どこでそれを?」
「えッ?あっいや、俺が受けた依頼の中にメルクの星屑があるんだ。俺はどうしてもソレをゲットしないといけないんだ。メルクさん、この食材について教えてくれないな?」
「……」
「メルクさん?」


 イッセーはそう言うが何故かメルク殿は黙り込んでしまった。


「……悪いが君たちにメルクの星屑を教えるわけにはいかない。帰ってくれ」
「はぁ!?」


 急に私達を拒絶し始めたメルク殿、あまりの態度の変化にイッセーも驚いていた。


「いやいや待ってくれよ!そんな……いくら何でも納得できねえよ!理由を聞かせてくれ!」
「理由を話すことはできない。とにかくアレは誰にも教える事は出来ないんだ」
「それじゃ困るんだよ!メルクの星屑をゲットしないと俺達はグルメ界に行けないんだ!」
「グルメ界?あんな地獄に行きたいのか?」
「ああそうだ!俺はGODをゲットしたいんだ!」


 頑なに理由を喋らないメルク殿にイッセーはしつこくお願いする。それも当然だ、グルメ界に行くには一龍殿の依頼をこなさないといけないんだ。私達だって困る。


「貴方も職人なら挑戦しようとする意志を止められないって分かるはずだ!貴方にだってあるだろう、そういうのがよ!」
「ッ!!」


 イッセーの言葉にメルク殿は何かを感じたようで目の色を変えた。


「……そこまでいうのなら教えるよ。ただしメルクの星屑は相当危険な場所にあるんだ。そこに行きたいのなら俺にお前の実力を示してみろ」


 メルク殿はそう言うとイッセーを強く睨みつけた。先ほどまでの口調とは違い『お前』といった荒い言葉使いになっているな。もしかして怒っているのだろうか?


「……分かった。そういう事なら俺もやってやる」


 まさかイッセーとメルク殿が決闘することになるとはな。イッセーの力は信頼してるがそれでも謎の多いメルク殿に勝てるのだろうか?


 ただ今まで凄まじい達人たちを見てきたからかメルク殿に負けるイッセーを想像できないんだ。


 ……いやこんな風に思うのは彼に失礼だし、もしかしたら戦ったらすさまじく強いというタイプかもしれない。


 とにかく私達はイッセーとメルク殿の決闘を見守ることにした。


―――――――――

――――――

―――


 工房の外に出た私達は、対峙するイッセーとメルク殿の動きを注目していた。


「折角だ、新しい包丁の切れ味を試させてもらうよ」


 メルク殿はどう猛な笑みを浮かべてそう話す。やはり噂どおり包丁の切れ味を猛獣を斬って試すという猟奇的な一面を持っているのだろうか?


「さあ、いつでもこい」
「いや、そっちから来な」
「なに?」
「別に舐めているわけじゃないさ。どちらから攻めたって別にいいだろう?」
「……後悔するなよ?」


 メルク殿はイッセーにかかって来いと言うが、イッセーは先手を譲ると話す。それを聞いたメルク殿は不快そうな顔をするが直ぐに切り替えて戦闘モードに入った。


 因みにイッセーも戦闘に入ったからか口調が荒くなっていた。


「ウロコ切り!」


 メルク殿は先程スケイルコングの鱗をはぎ取った技でイッセーに攻撃を仕掛けるが、イッセーはフォークシールドで斬撃を消した。


「なに!?」


 自身の技が通用しなかったことに動揺したメルク殿は一瞬動きを止めた。その隙を見逃さなかったイッセーは彼の腹部に重い一撃を放った。


「がはっ!?」


 膝をつくメルク殿だったがイッセーは追撃しなかった。


「なんで攻撃しない?舐めてるのか!?」
「……」


 怒るメルク殿にイッセーは何も返さなかった。


「ふざけやがって!『半月切り』!」


 メルクは起き上がると縦に鋭く走る斬撃を放つ。イッセーはそれを右手のナイフで払い打ち消した。


「これならどうだ!『いちょう切り』!」


 今度は十字にそろえた斬撃を放つがイッセーはこれも左手のナイフでかき消してしまった。


「『小口切り』!」


 メルク殿は突きを連続で放った。その突きは小さな斬撃となってイッセーに襲い掛かるがコレもナイフで切り払って防がれた。


「はぁ……はぁ……なんで攻撃してこない!?メルクの星屑が欲しいんじゃないのか!?」」
「まだやるのか?」
「お前っ!!」


 全く攻撃しようとしないイッセーに怒りを見せるメルク殿、しかしイッセーは何をしているんだ?どうして攻撃しないのだろうか?


 その後も攻撃を続けるメルク殿だったがイッセーには一向に当てることが出来なかった。


「ねえゼノヴィア、メルクさんってそんなに強くないのかしら?失礼だけど私たちとそう変わらない強さにしか見えないわ」
「ああ、あくまで包丁を作る職人として一流で戦闘の方はそこまでなのかもしれない。所詮は噂にしかすぎないと言う所だろう」


 イリナも疑問に思ったのかメルク殿の戦闘力はそこまで高くないと話す。私も彼の実力は私達と同等くらいに見える。


 何より対人戦に慣れていないのかフェイントに弱い。イッセーが攻撃しようとして防ごうとするが直ぐに防御の裏をかかれて攻撃されている。イッセーは全く当てていないがな。


「煩いぞ!外野は黙っていろ!」
「わわっ!」


 私達の会話が聞こえていたのかメルク殿が怒鳴ってきた。イリナは驚いて私の背後に隠れてしまう。


「おちょくってるのか!?なんで攻撃を当ててこないんだ!?」


 最初の一撃以降イッセーはかたくなに攻撃を当てようとしない。そんなイッセーの態度にメルク殿の怒りは強くなっていくばかりだ。


「『さいの目切り』!!『せん切り』!!」


 細かく縦と横に揃えた斬撃の壁と、縦に無数にも見える程揃えられた斬撃を放つがやはりイッセーには通用しなかった。両手でのナイフですべての斬撃をかき消されてしまったからだ。


「もういいだろう?お前じゃ俺には勝てないよ」
「そんなことはない、俺はメルクなんだ!お前如きに……!」
「俺は別にお前の正体を暴きたいわけじゃない。メルクの星屑について教えてくれれば余計なことは言わない」
「っ……!?」


 うん?イッセーが小言で何かを話したようだが聞こえなかったな?何を話したんだ?


「お前、まさか……!?」
「……」
「違う!俺がメルクだ!」
「ならどうしてメルクって言う度に顔をこわばらせるんだ?」
「えっ……」
「お前はメルクって自分の名を言う時、必ず少しだけ顔をこわばらせるんだ。自分の名前なら堂々と名乗ればいいだろう?お前の姿を見てるとまるでメルクって名乗ることに罪悪感を感じてるように見えるんだよ」
「だ……だまれぇぇぇぇぇぇっ!!」


 イッセーとメルク殿の会話は声が小さくて聞こえなかったが、なぜか激高したメルク殿が包丁を大振りで振るった。


「ナイフ!」


 だがイッセーの放ったナイフがメルク殿の包丁を大きく弾き飛ばした。彼の包丁はクルクルと軌跡を描き地面に突き刺さった。


「チェックメイトだ」


 そしてイッセーはメルク殿の喉に自身の右手を突きつけた。


「メルク、俺はさっきも言ったがお前の正体に興味は無いんだ。俺がここに来たのはあくまで小猫ちゃんの包丁を直してもらう事とメルクの星屑を手に入れるためなんだ」
「……」
「お前から悪意は感じない、何か事情があるんだろう?俺はお前が守ろうとしている物を暴こうとなんてしない。だから頼む、メルクの星屑について情報をくれ」
「……負けたよ」


 イッセーに何かを言われたメルク殿は、まるで憑き物が落ちたかのように笑みを浮かべていた。


「済まなかった、いきなり戦いを申し込んで。どうしてもメルクの星屑について話すわけにはいかなかったんだ。その在りかを話せば必ず真実に気が付いてしまうから」
「真実?」
「……工房に戻ろう。長い話になるからお茶でも出すよ」
「いいのか?お前が今から話そうとしている話の内容はお前が隠したいことだろう?」
「もういいんだ、これ以上は隠せない。気を使ってくれてありがとうな」


 よく分からないが決闘はイッセーの勝ちでいいみたいだな。私達はメルクに案内されて工房に戻った。


―――――――――

――――――

―――


「ええっ!?貴方研ぎ師メルクじゃないのっ!?」


 静かな山にリアスの大きな絶叫が響いた。だが無理もない、何故なら私達がメルクだと思っていた彼はメルクじゃないと言う衝撃の事実を知ったからだ。朱乃ですら驚いた顔をしていた。


「ああ、俺の名はルキ。メルクの弟子だ」
「メルクさんのお弟子さんだったんですか?でもお弟子さんでもこんな素敵な包丁を作れるなんて凄いです!尊敬します!」
「あ、ありがとう……」


 私は小猫がルキ殿が本物のメルクではなかったことにショックを受けると思ったが、落ち込むどころか素晴らしい包丁を作ってると彼を誉める。よほど良い包丁なのだな……


「……」


 それを見ているイッセーは凄く不機嫌になっていた。まあ包丁とはいえ恋人が別の男を褒めていたらいい気はしないだろうな。


(……らしくないな。ルキは女性だって俺は分かってるのに嫉妬してしまうなんて)
「イッセー、そう怒るな。小猫だって料理人だから凄腕の研ぎ師に懐いてるだけだ」
「うん?」


 私はイッセーを励まそうとしたが思っていた反応とは違うな、何か考え事でもしていたのか?


「えっと……ルキはメルクの弟子だったのか。まあなんか一流の職人にしては自信がなさそうに見えたから腑に落ちたよ。技術は文句なしの一流だったけどな」


 彼の本当の名はルキでメルクの弟子らしい、イッセーだけは最初から彼がメルクではないと分かっていたように話す。


「イッセーは彼がメルクじゃないって知っていたの?」
「あくまでそうなんじゃないかって思っただけさ。例えば……」


 ティナがイッセーにルキ殿がメルクじゃないって知っていたのかと尋ねると、彼は立ち上がって大きな入り口に向かった。


「ここをよく見てみな」
「あっ、看板があるわ!」


 イッセーが向かった先は工房の入り口の一つだったが、よく見ると上に立派な看板が立っていた。


「職人っていうのは自分の名前に誇りを持ってるものだ。だから看板が無いのはおかしいと思っていたのさ。ただメルク本人が意図してやったのかは分からないが登山道とは反対の方に正面玄関を作ってしまったみたいだな。それでこの入り口、ルキが使うにはデカすぎないか?もしこの工房を作ったのが本物のメルクなら自分に合った大きさの入り口を作るはずだ。俺はこれを見て少しおかしいなって思ったんだ」
「じゃあさっきの入り口は……」
「あれはルキ、お前専用の出入り口だろう?いちいち裏に回るのは面倒だろうしな」


 なるほど、さっきイッセーが席を外したのはこれを確認していたのだな。


「でもそれだけだと大きい素材を運ぶために入り口をデカくしたって思わないですか?」
「確かに俺もそう思った。そこで出てくるのが二つ目の疑問だ」
「二つ目の疑問?」


 ルフェイの指摘に私は確かにと思ったが、イッセーは今のとは別にメルクが本物じゃないと思ったことがあるらしい。


「さっき小猫ちゃんが落とした刃、ワーナーシャークの歯で作ったって言ったな?ワーナーシャークは捕獲レベル55だ。失礼を承知で言うがルキ、お前じゃ捕獲は出来ない」
「……」


 イッセーの言葉にルキ殿は悔しそうに顔を歪める、だがこの世界に来てそこそこの私でも捕獲レベル55という壁がどれだけ大きいのかは分かる。私も彼ではワーナーシャークは捕獲できないと思った。


「ただコレも実は材料の調達は委託してると言われればそこまでだ。メルクが自分で素材を調達してるっていうのは噂でしかなかったからな。信憑性がない」
「確かにルキさんの職人としての腕は素人の私でも凄いって分かるくらいですから、そう答えられたら納得してしまいますね」


 イッセーの言葉にアーシアも同意する。確かにその問題も美食屋に依頼してると言われればそこまでだろう。噂はあくまで噂でしかないからな。実際は人付きあいがあって頼んでいてもおかしくない。


「俺がルキを本物のメルクじゃないと察したのは親父の言葉があったからだ」
「親父?それって一龍さんの事?」
「ああ、実は俺は親父からほんの少しだけメルクについて話しを聞いていたんだ。ただ容姿や性格は一切教えてくれなくてな、面白い男だから実際に会うまで楽しみにしておけって言われたんだ」
「一龍さんらしいわね……」


 イッセーの話を聞いてリアスが一龍殿らしいと笑みを浮かべる。


「あれ?でもイッセー先輩の話を聞いていてもおかしい所はありませんでしたよ?」
「ギャスパー、俺はメルクを男って言ったよな?」
「そうですけど、それはおかしくないじゃないですか。ルキさんは男……えっ?」


 ギャスパーは続けようとするが、驚いたルキ殿を見て言葉を止めてしまった。


「どうして俺が女だって分かったんだ……!?」
「え……ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?ルキ、貴方女の子だったのぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 リアスは大いに驚くが私達も同様に驚いてしまった。ルキ殿は女性だったのか!?


「あっ!?本当です!仙術で氣の流れを見たら本来ある男性のアレの部分に氣が流れていません!間違いなく女の子です!」
「ね、猫耳が生えて背が大きくなった!?」


 小猫は仙術を使いルキ殿の氣の流れを見て女だと話す。男のアレの部分とは一体何だ?


 そしてルキ殿は急に猫耳を生やして大人に成長した小猫を見て驚いていた。小猫が自分は妖怪だと説明すると「グルメ界に妖怪の集落があるって聞いていたけど本物を見たのは初めてだな……」とルキ殿が呟いた。


 実際は少し違うのだが今はそのままにしておこう、話が進まないからな。


「イッセーはどうしてルキ殿が女性だと分かったんだ?」
「最初は分からなかったけど、戦ってる最中に汗をかいただろう?その中に女性にしかないフェロモンを感じ取ったんだ。本来フェロモンは無臭だが進化したグルメ細胞と『直感』で感じ取ることが出来るようになったんだ」


 私の質問にイッセーはフェロモンを嗅いだと話す。


 なるほど、そのフェロモンというものを感じて女性だと分かったのだな。ところでフェロモンってなんだ?美味しいのか?


「まさかフェロモンを嗅げるなんて……君は一体何者なんだ?」
「俺はイッセー、美食屋だ」
「イッセー……もしかしてあの4000種類もの食材を見つけたという若きカリスマ美食屋の!?」
「俺を知ってるのか?」
「ああ、俺なりに世間の事を調べているからな。でもあのイッセーが俺より年下だとは思わなかったけど……」
「ははっ、何か照れるな」


 イッセーの正体を知ったルキ殿は驚いた様子を見せる。イッセーはテレビや雑誌などの取材は断ってるみたいだが、功績などは新聞に載ったりするので知ってる人は知ってるらしい。


 ふふっ、親友が有名人だとなんだか嬉しくなってしまうな。


「じゃあイッセーと一緒にいる君たちは『超新星(スーパーノヴァ)』のメンバーかい?」
「えっ?なにそれ?初めて聞いたんだけど……」


 だはルキ殿が言った超新星の意味が分からず私達は困惑してしまった。リアスの言う通り初めて聞いたぞ?


「そういえば言ってなかったわね。最近貴方たちを注目してる美食屋や料理人が増えているのよ。あのカリスマ美食屋のイッセーと行動を共にする期待の新人たちって。最近ではオゾン草をゲットしたことで話題になったわね」
「そうなのか!?」
「ええ。特に小猫ちゃんはあの美食人間国宝の節乃さんのお店に出入りしてるって事でかなり注目されているわよ?イッセーが一緒だから取材とかは控えているらしいけど……」
「そうだったんだ!私達も有名人になったんだね!」


 ティナの説明に私は驚きイリナは嬉しそうに飛び跳ねた。まさかそんな呼ばれ方をしていたとはな。


「俺も初めて知ったな……」
「でも考えれば納得ですよね。師匠や四天王、一龍さんに節乃さんと有名人ばかりと一緒に行動を共にしてるんだからそりゃ私達も注目されるのは当然です」


 イッセーも今知ったみたいで驚いていた。だがルフェイの言う通りイッセーを始めとしたG×Gの有名人たちと知り合っている私達が注目されないわけがないか。


「えっと……話を戻してもいいかな?」
「ああ、済まなかったな」


 そうだ、今はルキ殿の話の途中だった。気を切り替えないといけないな。


「それでルキ、お前の師匠である本物のメルクは何処に行ったんだ?」
「……師匠はここから北へ約30㎞に向かった場所にある『ヘビーホール』と呼ばれる地下洞窟に向かったんだ」
「ヘビーホール?」
「ああ、そこは深い地下につながっているんだが特殊な磁場と気圧の関係で人間界で地球の引力の影響を最も強く受ける場所なんだ。もし足を踏み外せば増加する重力によって体は押しつぶされてしまうほどに……」


 そ、そんな危険地帯にメルク殿は向かったというのか……


「師匠はただ優れた職人という訳じゃないんだ。腕っぷしも強くてワーナーシャークすら簡単に捕獲できるくらいに強い。そんな強い師匠がもう6年も戻らない……!」
「そ、それって死んでるんじゃ……」
「そんなことはない!……そう信じたいよ。でも俺は怖いんだ、だから君たちに話したくなかったんだ、もしメルクの死が明らかになったら俺は……」


 ルキ殿の話を聞いてイリナが死んでしまったと言うとルキ殿は大声で死んでいないと叫んだ。だが実際は不安で仕方ないようだ。無理もないな。


 でも真実を知るのが怖くて私達にメルクの星屑の場所を教えたくなかったようだ。


 ルキ殿が頑なにメルクの星屑について話さなかったうえにケンカまで吹っ掛けてきたのはこういう事情があったのだな。私達を行かせないようにしたかったのか。


「俺は弟子としてメルクの生死を確かめないといけなかった、でも俺じゃヘビーホールの最深部には行けないんだ……自分の弱さがこんなにも恨めしく思ったのはあの時が初めてだった……」
「ルキさん……」


 ルキ殿は悔しそうに涙を流す。自身の大切な人の安否を確認しに行けないとはなんと苦しいことだろうか。小猫は複雑な表情でルキ殿を見ていた。


「師匠が戻らなくても仕事はやってくる。もし研ぎ師メルクに何かがあったと知れば世間は大騒ぎだ、何より師匠の名に傷がついてしまう……そう思った俺は師匠の代わりに包丁を研ぎ続けた」
「……ルキ、お前は師匠の名を守るために6年も一人で頑張ってきたんだな」
「いや一人じゃないよ。ポチコっていう『ヴァンパイアコング』の師匠のペットがいるんだ。今は手紙や依頼された包丁を取りに行ってるからいないけど彼には凄く助けられているんだ」
「そっか、俺とテリーみたいなもんだな」


 イッセーはそう言ってテリーの頭を撫でる。ルキ殿にも心を許せる存在がいるのだな。


「よし、そのヘビーホールにメルクがいるのならメルクの星屑を取りに行くついでにお前の師匠の安否も確認してくるよ」
「いいのか?」
「ああ、乗り掛かった船って奴だよ」
「……分かった、お願いするよ。俺も覚悟を決める、師匠が生きているのかどうか確認してきてくれ」
「任せてくれ」


 イッセーはそう言ってルキ殿と握手をした。


「ねえルキさん、仮にメルクさんが亡くなっていたらどうするの?」
「世間にちゃんと話すよ」
「えっ、でもそんな事をしたら……」
「このまま隠し続ける方が駄目だよ。俺は自分で師匠の安否を確認しに行けなかったから隠したけど、真実がハッキリとしたのならちゃんと話すべきだ。じゃないとお客様に失礼だよ」
「……」


 リアスはもしメルク殿が死んでいたらどうするのかと聞くと、ルキ殿は真実を公表すると話す。もしメルク殿が死んでいたら世間は大騒ぎだろうな……


「それならルキ、お前が二代目を継いだらどうだ?お前の腕なら全然問題は無いと思うが……」
「そんなことはできないよ。師匠は偉大な人だ、あの人から託されたのならまだしも勝手に名乗るなんて俺が自分を許せない!」
「……そうか」


 イッセーはルキ殿に二代目になったらどうだと言うが、彼女は強く否定した。イッセーは何かを言いたそうだったが結局は何も言わなかった。


「じゃあ直にヘビーホールに向かうぞ。目指すは最深部、そこにメルクの星屑とメルク本人がいるはずだ!気合入れていくぞ!」
『応っ!』


 こうして私達はメルク殿を探しに、そしてメルクの星屑を得る為にヘビーホールに向かうのだった。

 
 

 
後書き
 イリナだよ。まさかメルクさんが別人で女の子だなんて思ってもいなかったわ。でも女性なのにあんな凄い技術を持っていて憧れちゃうわねぇ~。


 さて次回はいよいよ修行の場所に向かうよ!聞いた話だと重力がすっごく強い場所なんだって!きっと過酷な修行になるけどイッセー君や皆と一緒なら絶対に乗り越えられるよね!


 次回第99話『重力の魔窟に向かえ!ヘビーホールを攻略せよ!』で会おうね。


 次回も美味しくいっただっきまーす!! 
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