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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第129話:責任と共に生きる

 颯人がソラと遭遇し、激闘の末引き分ける事になるよりも少し前の事……

 学校が終わり下校する調と切歌は、今だ顔や頭に絆創膏や包帯を巻いた状態で日が傾いた街を歩いていた。
 何時もは仲良く隣り合って歩く2人だが、この日は精神的にも物理的にも距離が空いている。先日の共同溝での戦いで、互いに互いの戦い方に不満を抱き仲違いをしてしまったからだ。

 冷え切った関係を引き摺りながら、歩く2人の足は何処か重い。それでも帰る場所は同じだからと、少し距離を離して歩いていたが重苦しい沈黙に耐えられなくなった調が遂に口を開いた。

「…………私に言いたい事、あるんでしょう?」
「! それは調の方デス!」
「私は……」
「うっ……」

 やっと口を開いたかと思えば、互いに口から出るのは棘のある言葉。お互いにそれを自覚したからか、2人は共に口を噤み言葉を飲み込んでしまった。

 またしても2人の間に嫌な沈黙が下りてくる。それを払ったのは、2人にとっても馴染み深い男の声だった。

「ん? 切歌に調じゃないか? 学校帰りか?」
「あ、ガルド……?」
「こんな所で何してるデス?」

 声を掛けてきたのはガルドであった。彼は肘に食材の入ったビニール袋を下げ、手にはたこ焼きの入ったパックを持っている。

「見ての通り、買い物帰りさ。ここに来たのは偶然だ」
「手にタコ焼き持って?」
「前から興味があってね。日本は食材や料理が豊かだ。料理人として、興味が尽きない」

 そう言ってガルドは楊枝にたこ焼きを刺して一つ口に放り込む。たこ焼きは出来立てなのか、ソースの上に掛かった鰹節が踊り口に入れたガルドは熱さに口元を抑えてハフハフと息を吐いている。

「むぐ……うん、なるほど美味い。それで? 2人はまだ喧嘩中なのか?」
「う……」
「むぅ……」

 たこ焼きの味に満足したガルドからの唐突な問い掛けに、切歌と調は言葉に詰まった。そしてどちらからともなくお互いの顔を見ると、直後に同時にそっぽを向いた。
 その様子にガルドはやれやれと溜め息を吐く。

「全く、ついこの間まであんなに仲良かったのにどうして……いや、だからか? まぁいい。お前達――――」

 このままではいかんだろうと、ガルドが2人の仲違いを直す為アドバイスしようと口を開いたその時、近くから爆発音が響いた。

「ッ!?」
「はっ!?」
「何だッ!?」

 見ると空から何本もの赤い結晶が降り注ぎ、3人が居る境内を空爆している。境内に居るのは3人だけでなく一般人も居るので、そこかしこで悲鳴が上がり人々が逃げ惑っていた。

「これは――!?」

 一早く状況を察した調だったが、直後に3人の傍に結晶――カーボンロッドが1本降って来た。カーボンロッドが地面に突き刺さると爆発が起こり、爆風が3人に襲い掛かる。

「危ないッ!?」
〈ディフェンド、プリーズ〉

 それを咄嗟にガルドが防いだ。2人を守る様に爆風の前に立ち、魔法の障壁で2人を爆風から守った。

「ガルド!?」
「問題ない! 2人こそ大丈夫か?」
「平気デス!」
「それより、これは……」
「私達を焚き付けるつもりデス!!」

 切歌も状況を察した時、視線を感じた3人が上を見上げるとそこには半壊しかけた鳥居の上にオートスコアラー・ミカが立っているのが見えた。

 ミカの視線を調は辿った。奴は3人を見ているようで、その実視線は1人にのみ向いている。そう、ガルドだ。ミカはガルドを狙っている。少なくとも調はそう思った。
 周囲を見渡せば、今回は相手側の魔法使いの戦力が1人も居ない。ハンスは勿論、ジェネシスの魔法使いも1人も居なかった。それはガルド1人を潰すなら、ミカ1体で十分と考えての事だろう。

 調は1人、歯を食い縛った。奴は自分と切歌の事等敵ではないと考えている。足手纏いの1人や2人、居ても関係ないと思っているのだと……調と切歌の2人はミカの視線をそう捉えた。

「足手纏いと、軽く見ているのなら!!」

 馬鹿にするなと言わんばかりに、調と切歌はシンフォギアを纏った。

「Various shul shagana tron」

 改修されたシュルシャガナとイガリマを纏う切歌と調。その2人の後ろで、買った物をコネクトの魔法陣の中に放り込んだガルドが遅れて変身していた。

「変身!」
〈マイティ、プリーズ。ファイヤー、ブリザード、サンダー、グラビティ、マイティスペル!〉

 ガルドが変身している間に、既に戦端は開かれていた。調の「α式・百輪廻」がミカに放たれるが、ミカは片手に眺めのカーボンロッドを持ち手首を文字通り回転させることで飛んできた丸鋸を全て弾く。そして調からの攻撃が止むと、ミカは鳥居の上から飛び降りてきた。

 そこに切歌が鎌を手に突撃していく。

「待て切歌! 無策で突っ込むな!」
「分かってるデス!」

 口ではそう言う切歌だったが、やってる事は傍目から見て力押し一辺倒にしか見えない。何も分かっていないではないかと喉の奥から呻き声を上げつつ、ガルドは切歌を援護すべく自身も槍を手にミカへと飛び掛かる。

 そこに耳に掛けておいた通信機から弦十郎の声が響いた。当然あちらでも状況はモニターしているらしい。

『今から応援を寄越す! それまで持ち堪えて、うっ!?』
「!? おいどうした司令部? 大丈夫か!?」

 突然通信機の向こうが俄かに騒がしくなる。どうやら司令部へも敵からの攻撃が行われたらしい。あちらも少々忙しいようだ。援軍はあまり期待できないだろう。

――最悪、新しい力をここでお披露目とするか……――

 ここが修行の成果の見せ所になるかと考えるガルドだったが、そんな事を悠長に考えている暇は無かった。

 調と切歌にミカの猛攻が襲い掛かる。まるでガルドの始末の邪魔になる2人をさっさと蹴散らそうとしているかのようなミカの攻撃を、何とか潜り抜けた調が「Δ式・艶殺アクセル」で膾切りにしようと迫った。スカートを一つの大きな丸鋸にして相手を両断する調の技を、しかしミカはカーボンロッド1本で防ぎ逆に弾き返してしまった。

「あぁっ!?」
「調ッ!」

 弾き飛ばされた調を、ガルドは咄嗟に受け止める。
 その間に調を弾き飛ばして隙が出来たと見た切歌が鎌を振り下ろすが、ミカは素早く切歌の背後に回ると彼女を蹴り飛ばした。

「ぐっ!?」
「切歌! くそ、これ以上は――!!」

 これ以上奴の好きにさせてなるものかと、ガルドは改めて槍を構えミカに勝負を挑んだ。

「ハァァァッ!!」
〈ブリザードエンチャント、プリーズ〉

 高温を持つミカのカーボンロッドを、低温の氷の槍で冷やして破壊しようと目論むガルド。先端を氷で覆われた槍をミカに振り下ろすと、ミカは予想通りそれをカーボンロッドで受け止めた。すると接触部分から氷が解けつつあるのか水蒸気が上がる。

「そんな冷たさじゃ、カーボンロッドは壊れないゾ!」
「そいつはどうかな!」
〈ブリザードエンチャント、プリーズ〉

 ガルドは再度右手をハンドオーサーに翳し、二度目の氷属性の付与を行った。すると槍の先端の氷が先程よりも鋭く、温度も更に冷えたのか水蒸気が凍り雪の様に
散った。そして槍と接触しているカーボンロッドは、激しい温度差に耐えきれなくなったのか罅割れて砕け散った。

「おぉっ!?」
「ハッ!」

 自慢のカーボンロッドが正面から砕かれた事に気を取られたのか、ミカの動きが一瞬鈍った。その隙を見逃さず、ガルドは体を回転させその勢いを石突に乗せてミカの腹を突いた。

 腹を突かれて体勢を崩すミカにガルドの猛攻が放たれる。縦横無尽に振るわれる槍が、ミカを滅多打ちにしてどんどん押していった。

 このままガルドが勝負を決めるかに思われたが、彼はある事を失念していた。今相手にしているのは所詮人形。人と同じように感情を見せ自分の意志で動いているように見えるが、奴らには痛みを感じると言う事が無い。

「トドメだ!!」
「…………ニヒッ!」

 これで終わりと、ボロボロになったミカに大きく振りかぶった槍を振り下ろそうとするガルド。その瞬間、ミカはガルドの懐に入り込み両手を彼の胸に押し当てた。

「あ――――」

 そこはカーボンロッドの発射口。ガルドは超至近距離からのカーボンロッドの射撃を喰らい吹き飛ばされた。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「「ガルド!?」」

 吹き飛ばされたガルドは絵馬を掛けてあるところに直撃し、大量の絵馬と崩れた柱や屋根の下敷きとなった。切歌と調が彼を助けようとするが、ミカがそれを許さない。

「他人の心配してる場合じゃないゾ!」
「うあっ!?」
「きゃぁっ!?」

 何時の間にか傍に来ていたミカが振り回すカーボンロッドが、調と切歌を別々の方向に殴り飛ばす。

「これっぽっち? これじゃあ魔法使いの方がマシだし、ギアも強化する前の方が良かったゾ」

 本当に人形なのかと疑いたくなるほど、ミカは心底失望したと溜め息を吐く。2人を殴り飛ばすのに使ったカーボンロッドを肩に担ぐ様に持って、完全に舐め切った態度だ。

 そんな態度を取られて、黙っていられるほど切歌は大人ではない。

「そんな事、あるもんかデス!!」
「! ダメッ!?」

 調の制止も聞かずに切歌はミカに斬りかかり、ミカが飛び上がった所に切歌は3枚に増えた刃を飛ばす「切・呪りeッTぉ」をお見舞いした。

[切・呪りeッTぉ]

 飛来する3枚の刃。空中に居ては自慢の素早さも活かせないミカに出来る事は、それを防ぐことだけであった。

 刃が直撃しミカの姿が爆炎で見えなくなる。奴は既にガルドの手により大分ボロボロだった。恐らく今のが致命傷になるだろう。

「どんなもんデス!!」

 勝ち誇った切歌が見ていると、唐突に吹いた突風に黒煙が吹き飛ばされる。

 突風の正体はミカの髪から噴き出すバーニアだった。ミカはバーニアで滞空しながら、大量のカーボンロッドを精製し切歌に向けて降り注がせようとしていた。

「こんなもんだゾ!」

 切歌に向けて次々と降り注ぐカーボンロッド。切歌はそれを何とか回避していくが、このままではジリ貧なのは明らかだった。そもそも攻撃がミカに通じていないのだから、地力を上げる意味でもイグナイトの起動は必要不可欠であった。

 それを分かっているからか、ミカは誘う様に空中から声を掛けた。

「変形しないと無理だゾ!」

 ミカは挑発するが、切歌と調はまだイグナイトの起動テストを行っていない。イグナイトの必要性は理解しているが、先輩装者が悉く最初の起動で躓いているからか切歌はイグナイトを起動させる事よりも今の状態で対処する事を優先させた。

「躱せないなら、受け止めるだけデス!」

 何本も飛来するカーボンロッドを切歌は防ごうと身構える。しかしそれは誰が見ても無謀な挑戦に他ならない。能力的にも、またギアの性能的にも、切歌は防御を得意としていないのだ。

 それでも意地で攻撃を防ごうとする切歌の前に、調が躍り出てツインテールを覆うギアから出した4枚の丸鋸でカーボンロッドを受け止めた。

 九死に一生を得た形になる切歌だが、彼女が調に対しまず抱いたのは反感であった。

「何でッ!? 後先考えずに庇うんデスか!?」

 切歌は不満を口にしながら調を思わず突き飛ばしてしまう。そうなると今度は調が切歌に反感を抱く。

「やっぱりッ!? 私を足手纏いと――――」

 敵や大人達だけでなく、切歌ですら自分を足手纏いと扱うのかと睨む調だったが、少なくとも切歌が抱いているのは別の感情であった。

「違うデス!? 調が大好きだからデス!!」
「……え?」

 切歌の口から出た言葉に唖然とする調を置いて、切歌はミカと切り結び始めた。ミカも切歌に合わせるように、長い棒状のカーボンロッドで迎え撃つ。

 距離が近ければ対抗できるのか、切歌はミカと何度も打ち合い相手の攻撃を回避した。
 その攻防の最中、切歌は調への想いを口にした。

「大好きな調だから! 傷だらけになる事が、許せなかったんデス!」

 切歌の口から放たれる言葉は乾いた砂に水が浸み込むように調の心に響いた。

「じゃあ、私は……」
「私がそう思えるのは、あの時調に庇ってもらったからデス。皆が私達に怒るのは、私達を大切に思ってくれてるからなんデス!」

 一見大人しく大人びて見えるのは調の方だが、物事を思慮深く捉えているのは切歌の方だった。周囲の反応を悪い方にばかり捉え、自分を卑下する調と違い切歌は大人たちの考えを正しく捉えていたのだ。

「私達を、大切に思ってくれる……優しい人達が……」
「そうだぞ、調……」
「ガルド!」

 気付けば調の傍には、自力で瓦礫の中から脱出したのかガルドが槍を杖代わりにして立っていた。その顔は傷だらけとなった仮面に隠れて見えないが、それでも優しい目を自分に向けてくれている事だけは分かる。

「お前や切歌が焦る気持ちは分かる。そう言う気持ちは誰もが一度は抱くもんだ。だが、どう足掻いてもお前達がまだまだ子供なのは動かしようのない事実だ。分かるな?」
「うん……」
「だから、俺達大人がお前達を大事に守るんだ。お前達が一歩一歩、着実に進んで立派になれるようにな!」

 調を優しく諭したガルドは、言いたい事は言い終えたと切歌に加勢してミカと戦い始めた。今度は切歌を援護するような戦い方に、ミカも反撃する隙を失い顔から余裕が無くなっていく。

 それでも戦闘力最強のオートスコアラーと言う評価は伊達ではないのか、一瞬の隙を突かれて切歌が調の傍まで吹き飛ばされる。

「うあぁぁぁぁぁっ!?」
「切歌ッ!? くっ!?」

 吹き飛ばされた切歌に追撃が向かわないようにと、ガルドは節々が痛む体を無理矢理動かしてミカの攻撃を受け止める。

「ぐぅ、くっ……!?」
「そんなボロボロで、勝てる相手じゃないゾ!」

 先程の一撃はガルドの芯にまで届く一撃だった。そのダメージは深く突き刺さり、最初の頃の様な動きのキレも踏ん張りも利かなくなってきている。劣勢に立たされつつあるガルドだったが、彼は仮面の奥で笑みを浮かべていた。

「そうかもしれないな。だが、お前の相手をしているのは俺だけじゃない!」

 彼は信じていた。切歌と調の底力を。あの2人はこんな所で何時までも躓いているような子達ではないと。

「マムが残してくれたこの世界で、カッコ悪いまま終わりたくない!!」
「だったら、カッコ良くなるしかないデス!」
「自分のした事に向き合う強さを――!!」

 2人は今、己と向き合う覚悟を決めた。それは魔剣の呪いを打ち払う、唯一の力。

「イグナイトモジュール……」

「抜剣ッ!!」「抜剣ッ!!……デス!」

 2人同時のイグナイト起動。魔剣の呪いが2人を苛むが、己の弱さと向き合った2人はそれを跳ね除ける。

 それを見てミカは楽し気に笑みを浮かべた。

「底知れず、天井知れずに高まる力!!」
「うおっ!?」

 嬉しそうなミカに呼応する様に、ミカの体から炎が広がりガルドの体が吹き飛ばされる。
 その間に切歌と調は己の弱さと向き合い、受け入れた。

「ゴメンね、切ちゃん――!?」
「いいデスよ。それよりも皆に……」
「そうだ……皆に謝らないと! その為に強くなるんだ!!」

 呪いを己の力とし、2人のイグナイトモジュールが正常に起動する。黒く変色したギアを纏った2人が、炎に吹き飛ばされたガルドに代わりミカに挑みかかる。

 全身から高温の熱を放つミカは、来ていた衣服を全て焼き払い人間でいう全裸と同じ姿となっていた。カールしていた髪は下ろされ、球体関節が剥き出しになり赤熱化した体で2人の攻撃を受け止める。

 恐ろしい事に今のミカでもイグナイトモジュールを起動した2人と互角に渡り合っていた。切歌は攻撃を弾かれ、調の攻撃を受け止め投げ飛ばしてしまう。

「うっ!?」
「調ッ!?」
「サイキョーのアタシには響かないゾ! もっと強く激しく唄うんだゾ!!」

 切歌を狙って放たれたカーボンロッド。ギアの出力が先程よりも上がったイガリマでも受け止めるのが精一杯なのか、切歌はその場に釘付けにされる。そこに接近したミカからの殴打が切歌を捉え、彼女は木の柵まで吹き飛ばされてしまった。

「あ゛ぁっ!?」

 柵に叩き付けられたダメージで切歌の動きが止まる。そこに無数のカーボンロッドによる追撃が放たれたが、その前にガルドが立ち塞がった。ミカの攻撃を受け止める気の様だが、今の彼で先程よりも出力を上げたと思しきミカの攻撃を受け止められるとは思えない。

 どうするのかと思えば、彼は右手をハンドオーサーに翳し槍に別の魔力を付与させた。

〈グラビティエンチャント、プリーズ〉
「オォォォォッ!」

 槍に付与するのは重力の魔法。全てを引き寄せる魔力を持った槍を彼が振り回すと、飛来してきたカーボンロッドは磁石に引き寄せられる鉄屑の様に槍の先端に向け軌道を変え次々と引っ付いていった。

「えぇっ!?」

 まさかの展開に驚いていると、投げ飛ばされたダメージから回復した調が空中に飛び上がりポニーテールとなったギアから無数の丸鋸を雨霰と降り注がせた。

「向き合うんだ! 出ないと乗り越えられないッ!」

 調から放たれた丸鋸を、しかしミカはなんと後ろ髪だけで防いでしまった。

 だがそれは悪手だった。足を止めた事でガルドからの反撃を受ける事になる。

「こいつは返すぜ!」
「いっ!?」

 大量のカーボンロッドがくっ付いた槍をガルドが振り回すと、先程とは一転し今度はカーボンロッドが大量にミカに向けて飛来した。重力の向きを変えて弾き飛ばしたのだ。自分の攻撃を自分で食らう事になり、ミカも顔を引き攣らせる。

 それでもミカは何とか攻撃をやり過ごすと、大きく空中に飛び上がり空に魔法陣を展開させるとそこから今までにない大きさのカーボンロッドを精製し下に降り注がせた。
 あんなものを喰らっては一溜りもないと逃げ惑う3人だが、逃げながらも彼らは反撃の機会を伺っていた。

「闇雲に逃げてたらジリ貧だゾ!」
「知ってるデス! だから!」

 一際大きなカーボンロッドを切歌を狙い放つミカ。その勢いのまま切歌に襲い掛かるミカだったが、切歌は途中近くに突き立ったカーボンロッドに鎌を食い込ませて急制動を掛けた。1人失速しその場に残る切歌の横を、勢いに任せて飛んでいたミカが通り過ぎていく。

「ゾなもし!?」
「はいいらっしゃい!」
「がっ!?」

 急制動した切歌に気を取られている間に、別のカーボンロッドに登っていたガルドが振り回した槍が直撃しミカは地面に叩き付けられる。

 叩き付けられたミカに切歌のギアからチェーンの様な物が伸ばされるがミカはそれの間を縫う様に避けた。攻撃を躱せたと笑みを浮かべるミカだったが、その後ろからはギアを近未来の一輪バイクのように変形させた調が迫っていた。

 その調のギアと、切歌のギアから伸ばされたチェーンが合体し互いに引き寄せ合う。

 これは不味いと逃げようとするミカだったが、逃走はガルドが許さない。ミカが逃げるよりも先に魔法で奴をその場に縛り付けた。

「逃がさない!」
〈バインド、プリーズ〉
「うぁっ!?」

 身動きが止められたミカの前後から、切歌と調が迫る。

「足りない出力を掛け合わせてッ!?」

[禁殺邪輪][Zあ破刃 エクLィプssSS]
 前後からの必殺の刃。2人の必殺技がミカを細切れにしようとした寸前…………

「――――へへっ!」

「ん?」

 ガルドは一瞬、ミカの顔に笑みが浮かんだように見えた。いや、確かに見た。絶体絶命のその瞬間、ミカが会心の笑みを浮かべていた。

 その光景に彼は既視感を覚えずにはいられなかった。

――まただ。……何だアイツら? ガリィに続いてミカも……何を喜んでいる?――

 またしても謎が残ったが、オートスコアラーがまた1体減ったのは事実。それもオートスコアラーの中で最強の戦闘力を持つと言うミカを倒せたのは、間違いなく快挙であった。

 そんな戦果を挙げた、切歌と調に待っていたのは弦十郎とクリスからの説教であった。

「こっちの気も知らないで!」
「偶には指示に従ったらどうだ?」

 応援が到着するまで待てと言われたのに、2人は構わずそのまま戦闘に突入した。これは言うまでも無く独断専行である。如何にガルドが居たとは言え、勝手に戦闘を始めたのは2人の落ち度だ。2人にクリスと弦十郎の厳しい視線が突き刺さる。

「まぁまぁ、2人とも。この子達も頑張ったんだし、俺が一緒だったからという事も考慮して……」
「お前はこの2人に甘過ぎなんだよ! 何時までもガキじゃねえんだから甘やかすな!」
「お前が居たと言うのであれば尚の事、2人を宥めて応援が来るまで待たせてほしかったんだが?」
「うぐっ……も、申し訳ない」

 切歌と調を庇った事で、矛先がガルドへと向いた。考えてみれば今回は敵の魔法使いが出てこなかったから良いようなものの、もしビーストやジェネシスの魔法使いが出張って来ていたら最悪各個撃破されていたもおかしくは無かった。
 そう考えるとガルドの行動にも問題はあったと言えるかもしれない。故に彼は、己のミスを受け止め素直に頭を下げる。

 するとそれを手本としたかのように、調と切歌の口から謝罪の言葉が出た。

「独断が過ぎました……」
「これからは気を付けるデス……」
「お、おぅ……?」
「ぉ……珍しくしをらしいな?」

 今までであれば何かしら反論してきていた筈だが、今回は素直に謝ってきた2人にクリスと弦十郎は意表を突かれ鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

 一方ガルドは、素直に謝る事が出来た2人に笑みを浮かべていた。

「私達が背伸びしないで出来るのは、受け止めて受け入れる事……」
「だから、ごめんなさいデス」

 頭を下げる2人を前に、弦十郎が視線をガルドへと向けた。その目は彼が2人に何かしたのかと問い掛けていたが、ガルドは小さく首を横に振った。

「んんっ。分かれば、それでいい。……ガルド、2人を家まで送ってもらえるか?」
「了解した。さぁ2人とも、そろそろ行こう」

 ガルドに優しく促されて立ち去る2人の後ろ姿を、弦十郎とクリスが見送った。

「全く……」
「……先輩が手を引かなくたって、いっちょ前に歩いていきやがる」

――アタシとは、違うんだな……――

 着実に自立への道を歩んでいる後輩2人の姿に、クリスは何処か負けたような気持になった。

 もし仮に、自分から手を引いてくれる者が居なくなったら? 透が自分の前から居なくなってしまったら、自分は前に進む事が出来るだろうか?
 答えは無理だ。透や、近しい者が居なくなってしまった世界なんて考えられない。

 クリスは離れていく切歌と調の後ろ姿に、自分が2人よりも弱い人間であると気付かされずにはいられなかった。




 クリスが1人気落ちしている何てこと知る由も無く、2人はガルドと共に夕日に照らされた道を歩いていた。

「……足手纏いにならない事。それは強くなる事だけじゃない。自分の行動に責任を伴わせる事だったんだ」
「責任……自らの義に正しくある事…………でもそれを正義と言ったら、調の嫌いな偽善っぽいデスか?」
「……ずっと謝りたかった。薄っぺらい言葉で、響さんを傷付けてしまった事を……」

 浅はかな過去の行いを悔いる、いや悔いていた調。今になれば、あの時颯人に言われていた言葉も理解できる。豪い目に遭わされはしたが、過去に自分がどれだけ酷い事を響に言ったのかを考えるとあれでもまだ甘い罰の様に思えた。
 尤も颯人は罰を与えたなんて微塵も思っていないだろう。彼は純粋にあの場で調の勘違いを正そうとしてくれただけなのだ。ただやり方が飛び抜けていただけで。

 そんな調の肩に、切歌が手を当てて正面から向き合った。

「ごめんなさいの勇気を出すのは、調1人じゃないデスよ」

 そう言って切歌はコツンと調の額に自分の額を当てると、安心させるように笑みを浮かべた。

「調を守るのはアタシの役目デス!」
「切ちゃん……ありがとう――!」

 微笑み合う2人を見て、ガルドは肩から力を抜くと2人の肩に優しく手を置いた。

「こらこら2人とも。俺やセレナ達を忘れてもらっちゃ困るぞ」
「ガルド?」
「2人とも、今回は多くを学べたな。責任を取る事、誰かに素直に謝る事は大事だ。だがそれは誰かに甘えちゃいけない事を意味する訳じゃない。お前達の後ろには、2人を支える俺やセレナみたいな大人が居るって事を忘れるな?」

 ガルドが指さした先には、先程ガルドが魔法で送り届けた買い物袋を持ったセレナが手を振っていた。

「さぁ、帰るぞ。今日は2人とも頑張った事だし、俺とセレナが腕によりをかけてご馳走を作ってやる!」
「ホントデスか! わーい!」
「ガルドとセレナのご飯、楽しみ!」

 喜び勇んで駆け出しセレナの元へ向かう2人の背を、ガルドは父親の様な目で見守っていた。 
 

 
後書き
という訳で第129話でした。

今回は終始ガルドが切歌と調の子守り役みたいな立ち回りでしたね。セレナと合わせて、何だか2人のお父さんみたいな立ち位置に定着しつつある。多分今後もガルドは2人に対しては甘いかもしれません。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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