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チートゲーマーへの反抗〜虹と明星〜

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R5話 顕現するEnemies【敵対者】&Colors【虹】








「カワイイコワイカワイイコワイカワイイコワイ……」
「あ、歩夢?」


呪文のようなモノを唱える歩夢———ことの次第は、かすみによるスクールアイドルとしての「カワイイ」を訓練した際にアイデンティティが崩壊してしまった……いわゆるキャラ崩壊である。

そもそも歩夢が守ってきたキャラ自体が果たして個性的なモノではなかった……故に、キャラ崩壊した際の落差はとんでもないことになる。そしてその後の転げ落ちる勢いも———おっと、少し喋りすぎた。

さてそんなこともお構いなしにかすみは歩夢をさらに追い詰める。


「週末に動画をアップするのでちゃんと自主練しておいてくださいね?」
「カワイイコワイ…カワイイコワイ……」
「カワイイって大変なんだね〜」


侑は高みの見物……とは少し出過ぎた真似であるが、歩夢とかすみが座る段に足を組んでいる。

さてそんな侑にかすみは反応する。


「はい!アイドルの基本ですから!」
「でもせつ菜ちゃんはカワイイって面もあったけど、カッコよかったなぁ〜!」
「え…先輩、せつ菜先輩のこと知ってるんですか?」
「うん。一度遠くで見ただけだけどね———ところで、同好会ってなんで廃部になったの?」
「———元はと言えばせつ菜先輩が熱くなりすぎるからいけないんです……!」
「ん…?」


かすみは『そのこと』について語ろうとした————その時、背後から男性の声が発せられる。


「どうやらうまく巡り会えたようだな……3人とも。」
「あ、社長〜!」
「げっ!」


背後にあるジョイポリスから出てきたのは伊口ファウンデーションCEO 伊口イフト。理由なしであるが苦手としているかすみは思わず汚い声をあげてしまう。

歩夢は突如とした彼の登場に疑問を持つ。


「どうしてここに私たちがいるって…?」
「知らなかったなら教えてあげよう———ここは私の傘下企業が運営する会社だ。」
「へぇ〜!そうなんですか!!」
「ああ、今度遊びに来るといいよ侑。」
「行く行く行きます!!」
「ちょ、ズルいですよ!かすみんも侑先輩とゲームしたいです〜!」
「————『かすかすちゃん』……じゃなくて、かすみちゃんは私の動画をアップするんじゃないのかな?」ニコニコ
「うぐっ…」


さて、かすみが精神ダメージを受けたところで一同はそろそろ帰ろうとしていた————その時だった。


うわぁぁぁぁ!!

キャー!!


近くで聞こえる大勢の悲鳴にその場にいる4人は、本能的にその悲鳴が聞こえる方向を向く……

そこにあるのは———夥しい量の怪人。いわゆる三下怪人なのだが…種類を列挙するのは時間の無駄。ざっと30体程度か。

当然怪人を見たことのないかすみは戦慄し、腰を抜かしてしまう。


「な、何なんですかあれ……!」
「!——歩夢、かすみちゃんを連れて行って!」
「侑ちゃん…怪我は大丈夫なの?」
「うん!この通り!」
「えっ…」


侑は大胆にも自分のお腹を躊躇なく見せた……そこには今朝までついていたアザがすっきりと消えている。

おかしい再生力だ———しかしそんなことを考えている暇はない。

歩夢はかすみを連れてその場を離れようとする……が、その場にいたイフトが歩夢に通せんぼする。


「ちょっと何するんですか!」
「これからスクールアイドルを共にやろうって仲間なんだ…侑、『その姿』を曝け出してこそ絆は深まるんじゃないか?」
「……わかった。」


【ジャンプ!】

【Authrorize!】


「変身!!」


【プログライズ! ライジングホッパー!】


巨大なバッタが装甲と化し、侑を仮面ライダーゼロワンへと変身させる。


「ウソ……あれって——仮面ライダー?」
「ああそうだ、かすみ。あれは仮面ライダーゼロワン......『始まりのライダー』さ。」



悠長にひとりひとりを捌いていくわけにはいかない。


【ブレードライズ!】

【ブリザード!】

【Progrise key confirmed. Ready to utilize】

【Polar bear’s Ability!】


【フリージングカバンスラッシュ!】


アタッシュカリバーから放たれる絶対零度の一閃……たちまち怪人たちを凍らせ、その姿を元の人間へと戻していく。

今までならここまでの大胆な技は使えなかった———あのムテキゲーマーの重い一撃が、侑の潜在能力を解放したのだろう。

怪人を一掃した———これでは終わらなかった。


「仮面ライダーゼロワン。ちょっと見誤ったねぇ。」
「あぁ、前よりもかなり成長している…!」


怪人を一掃した後にその奥からやってきた男女———その手には見たことのないバックルがある。


「誰だ…?」
「ま、そろそろ怪人だけじゃ物足りないし——俺たちもひと暴れしますか!」
「賛成!」


2人は持っているバックルにカードを差し込み、腰に装着する……そして———


「「変身!」」


【【OPEN UP!】】


カード状のスクリーンを通過する……赤と緑のAをモチーフにしたライダー。一方はボウガンを。もう一方は槍を。

その名も…仮面ライダーラルク。仮面ライダーランス。



「さ、いくぜ〜!」
「ち、ちょっとちょっと!」
「はぁっ!」


躊躇なしに突っ込んできたランスはゼロワンに自分の背丈ほどある槍 ランスラウザーで薙ぎを見せる。困惑するもゼロワンはなんとかスレスレで後退する。

しかし…….


「はっ!」
「うわっ!!」


連携の取れたラルクのボウガン ラルクラウザーがゼロワンに2発命中し、歩夢たちのいるベンチまで吹き飛ばされる。


「「侑ちゃん(先輩)!」」
「ぼ、僕たちが戦う理由なんてない……だから攻撃をやめて!」
「僕…?」


かすみは侑の一人称が変わっていることに気づく。いわゆるボクっ娘になっているわけだが、ここではその話は割愛しよう。

しかし……


「俺たちにもこだわる理由なんてない。ただ俺はこんな退屈な社会ぶっ壊して、暴れてぇだけだ!!」
「コイツの言う通り、退屈しのぎよこの程度。」
「そんな……」


ラルクとランス———その言動はとても普通の人間のものとは思えない。まるで何かを渇望する……倫理観を破壊してしまうような、抑えがたい衝動。

ゼロワンは拳を強く握る……


「間違ってる……そんなの間違ってる!!」
「あぁ?」
「今だけでも、君たちのせいでどれだけの人が傷ついたと思ってるんだ!!」


珍しく怒声をあげる侑に後ろに控えていた歩夢は驚く。しかしラルクはそんな怒りを一蹴するように言い放つ。


「そんなヤツら知らないわよ。力のないヤツらが何をしようと結局は死ぬんだから……一緒でしょ?」
「だったら———君たちをここで……倒す!!」


腹の底から出したような冷め切った声が響き渡る。侑が本気で怒っているのが、考えずともヒシヒシと伝わってくる。

ゼロワンの体から黄色い斜線のオーラが発せられる。


……次の瞬間。


「はぁっ!!」
「きゃっ!」
「!!—いつの間に…!」


先ほどとは比べ物にならないスピードで、ラルクの背後に回ったゼロワン。そのままハイキックを顔面に直撃させ、地面を体で抉らせる。

慌ててランスはゼロワンを槍で突こうとするが、アタッシュカリバーを盾にされて防がれ……そのままスライディングで足を取られる。宙に浮いたランスをゼロワンは膝蹴りでさらに空中へと押し上げる。

そのまま必殺を放とうとした……が。


「!?」


滞空していたランスを何者かが回収する———地面に着地した存在……同じくAをかたどった金色のライダー。同じく地面に着地したゼロワンと対峙する。


「誰だ…?」


金色のライダーはそのまま地面に臥しているランスとラルクに見下ろしながら声をかける。


「………全く、未熟者が変に戦いを挑むのは悪手だ。慎、亜紀。」
「で、でも淳一…!」
「撤退と言ったら撤退だ。」


撤退という言葉が聞こえたゼロワンは急いで金色のライダーの元へ駆け寄る。


「誰だ!!」
「おっとこれは申し遅れました……私は仮面ライダーグレイブ 羽田淳一。そして我々は……解放結社 タイフォン。」
「タイフォン……?」
「私たちの目的は箱庭に囚われた者たちを解放して、暴力が支配する世界へと導くことです!」
「何だって…?」
「ま、前置きはこの辺にしておきましょう……ではまた会う日まで。」
「ちょ、ちょっと待って……!」



追跡虚しく、彼ら3人は何処かへと転移してしまった…………



そして……それを陰ながら見る者たち。


「嘘……これって現実?」
「現実——否定しようがない。」


「仮面ライダー……ゼロワン。高咲侑さん……」




————※————



「ふぅ……」


次の日……歩夢は深呼吸しながら、学校の影になっている大きなガラス窓に向かい合う。

侑は言った。傷つける者は許さない……そのために怒った。自分を守ると誓ってくれた彼女に改めて感心した。同時にそんな彼女に対して報いなければならないとも感じた。


彼女は手でウサギの耳を作る。


「新人スクールアイドルの上原歩夢♪歩夢だぴょん♪臆病だから…寂しくて泣いちゃう〜ぴょーん♪」


こんなこと言うととある女神様にこっぴどく怒られるのだが、自分でやってて恥ずかしくないのか?という言葉が真っ先に浮かぶ。当然カワイイのかもしれないが……

————そんな歩夢に……後ろから気配。


「そんな事やったってお前の望みは叶わないわよ。」
「ええっ!!————え?」


誰かに見られたことを本気で後悔する歩夢………だが振り返ると、それ以上の衝撃が待ち受けていた。

ミディアムヘアをハーフアップにし、右サイドに三つ編みシニオンでまとめている———自分を生写したかのようで、髪色が対照的な銀のような群青の…女。

彼女は歩夢を小馬鹿にするように続ける。


「お前も一途だなぁ……歴史は繰り返す。そしてお前は裏切られる———あの侑に。」
「侑ちゃんが裏切る…?何言ってるの?そんなわけ——」
「現に見たでしょ?あの中須かすみという女に……お前は少なからず嫉妬している。」
「うっ……でも、それが侑ちゃんが裏切る理由には——」
「はぁ…全く、優しさもここまで来れば病気だよw」


群青色の彼女は歩夢にさらに近づいて、その距離を無くしていく。


「お前はそうやって指を咥えて見ているだけ……優しさを振りまくだけで、誰にも気づいてもらえない。」
「そ、そんなこと……」
「そうやってお前は全て失ってきたんだ……神に見捨てられ、笑われてw」


小悪魔っぽく笑う彼女はとても歩夢とは似ても似つかない。まさに対極。そんな侮辱のような言葉に歩夢は確固たる意思を持って返す。


「そんなことないよ……侑ちゃんは言ってくれた。私を応援してくれるって———だから私は好きなことを諦めない!!」
「……ま、今はいいよ。いずれハッキリする。侑はお前を裏切って他の女に夢中になる。その時を楽しみにしてるわ。」


ピカっと太陽が歩夢の目を一瞬眩ませる……次の瞬間には———


「えっ……いない!?」


白昼夢———そうとしか言えないが、それにしてはあまりにリアル。

しかしそんなことを考えている暇はない。歩夢は顔を両手で叩く。


「よし…練習しなきゃ———!」


もう一度鏡に向かい合う。


「新人スクールアイドルの、上原歩夢!あゆぴょんだぴょん♪臆病だから…寂しいと泣いちゃうぴょ……!」


鏡に向き合っていたことで見えてしまった———日向にいる青いウルフヘアの妖艶な女の子……朝香果林。

当然歩夢はギョッとなる。


「はわわわわ……!こ、こ、これはその——!」
「ふふっ♪」
「れ、練習をしてて…す、す、す、すっ
「あぁ…スクールアイドルの?」


果林の補った言葉に歩夢は犬のように肯定する。すると果林は微笑みながら陳謝する。


「あら…それはごめんなさいね。可愛かったからつい———」
「え////」
「でも……それがあなたの言葉?」
「どういうことですか?」
「伝える相手を意識して言わないと、本当の想いなんて届かないわ。」
「————頭ではわかってるんですけど……大体私にファンなんて。」


歩夢はふと頭に浮かぶ————いるではないか。


「1人だけ……私の大事な人が———」
「ふふっ。お節介したわ……じゃあね?」



————※————



お台場海浜。夕焼け空を眺めながら、かすみは昼に合流した侑に告げる。


「かすみんには大切にしたいことがあって……だからスクールアイドルがやりたくて、それはみんなも同じだと思うんです——けども自分のやりたいことを押し付けるのは嫌なんです。なのに……」
「?」
「かすみん、歩夢先輩にそれをしちゃって……」


かすみの呟きのような悩みを聴く侑。その結論をバッサリと言ってしまう。


「うーん。つまりスクールアイドル同好会のみんなそれぞれ、やりたいことが違ってたってことでしょ?それで空中分解するのは仕方ないんじゃないかな?」
「仕方ないじゃ済まないんです!このままだと再び同好会が…!」
「ふふっ♪悩んでるかすみんもカワイイ♪」
「えっ……って!冗談じゃないんです!かすみん本気で悩んでるんです!」
「わかってるってわかってる♪」


ポカポカ叩かれながらもかすみの健気さをしみじみと感ずる侑———と、そこに足音が。


「遅れてごめんなさーい!!」
「お、歩夢!」


息を切らしながら歩夢はかすみに告げる。


「あの、自己紹介なんだけど……いま!撮ってもらっていい?」
「あ…はい。」



〜〜〜〜〜




歩夢は先ほどまでの飾り気満載の自己紹介をやめた。

飾り気のない素の自分。引っ込み思案で、それでいて芯のあるヒロイン像をそのまま反映させた自己紹介。


「ふぅ…どうかな?」
「ふぁ〜!すっごくカワイイ!!トキめいちゃったよ歩夢!!」


侑は感想を隠すことなく歩夢に伝え、そのまま歩夢に抱きつく。イチャつく2人をかすみは咳払いする。


「コホン……かすみんの思い描いたモノとは違いますけど———カワイイから合格です!」
「本当!?よかった〜!」


歩夢は安堵したように深呼吸する。

侑は歩夢から離れると、かすみの方へと歩き始め、やがて彼女を通り過ぎる。


「多分、やりたいことが違っても大丈夫だよ!」
「え?」
「うまく言えないけど……自分なりの1番をそれぞれに叶えるやり方ってきっとあるよ!」
「そ,そうでしょうか……?」


かすみは自信なさげに俯く———が、そんな不安は次に吹き飛ぶ。


「探してみようよ!!」
「…!」
「それに、そっちの方がきっと面白くそうな未来が待ってる……そう感じるんだ!!」


侑が描く未来……スクールアイドルは基本的に団体として描く未来がある。しかしそれでは他の色が塗りつぶされてしまう———いわば、黒か白に染まる他ない。しかしそれでは虹は描けない。

虹を描けるような……そんな世界へ。


「はい……そう思います!!可愛いし…そっちの方が楽しそうです!!」


かすみは胸の中が躍るような感覚で、ありえないような段差をジャンプで飛び越える。突然のことに侑と歩夢は呆然とするが、かすみんは構いなく歩夢を指差す。


「歩夢先輩!今回のはさすがでしたが……この世界で1番可愛いのは———かすみんですよ!!」





Poppin'Up!(歌: 中須かすみ)





Fin


————※————





『そうだ……自分だけの理想の世界は自分こそ叶えられる。』


歩夢と侑、かすみを陰で見ていた……ハイパーロード2人。ハイパーロードMがいう言葉に彼の伴侶——右にシニオンを作った輝く虹髪のハイパーロードAは言い返す。


『あなた……「力」を使ったわね!?』
『あぁ。希少な「ただの人間」が物理無視のジャンプをした方が、面白いだろ?』
『法則を作り出したのもこの私!それを最も簡単に破壊されたら困るよ!!』
『………なぁ、そろそろ口調直さないか?』


ハイパーロードMはウルトラマリンの瞳をするハイパーロードAに提案する———


『冗談はよしなよ。不自然を嫌うまーくんらしくもない……」
『俺はそうだが読者がなぁ——』
『ちょ、メタイからやめなさいよ!』


2人は沈みゆく太陽を見つめる。




 
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