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馬鹿息子

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第三章

「そうなったんだよ」
「そうですか」
「遊ぶのもいいさ」
 吉原でとだ、若旦那は話した。
「けれど遊びも過ぎるとな」
「こうなるんですね」
「花魁はいつも急にいなくなるだろ」
「へえ、それは」 
 亀吉は彼女達もと答えた。
「ちょっとしたら」
「あれは酒にな」
「瘡毒ですか」
「どっちかにやられてだよ」
 鉛もあったが彼等はこちらの害は知らずこう話した。
「それでだよ」
「死んでくんですね」
「そうさ、花魁がそうなるんならな」
「花魁と遊ぶ奴もですね」
「同じさ、お前さん達は知っていてもな」
「この目で見たのははじめてです」
「だったらな」 
 若旦那はさらに話した。
「遊ぶにしてもな」
「瘡毒のことはですね」
「知っておくんだよ、瘡毒で死ぬこともあるってな」
 それは常にあるというのだ。
「いいな」
「ええ、わかりました」
 亀吉だけでなくだった。 
 他の者達も頷いた、そうしてだった。
 亀吉も他の者も吉原には行かなくなった、そして数年後亀吉は所帯を持ったがこの時に両親に言われた。
「所帯を持ってよかったな」
「遊郭通いをぴたりと止めてね」
「それで瘡毒にもならないでな」
「花柳の病気にならなくてよかったよ」
「それだよ、実は俺見たんだよ」
 亀吉は身を固めかつ病も得ていないことを喜ぶ両親に話した。
「瘡毒になった人をな」
「そうか、それでか」
「ああ、和太の兄貴だよ」
 父に彼のことを話した。
「兄貴が瘡毒になった姿を見てな」
「そうしてか」
「もうな」
「瘡毒になるならか」
「絶対に嫌だと思ってな」
 そう考えてというのだ。
「それでだよ」
「そうか、いことだ」
「そうなんだな」
「ああ、吉原に行くならな」
 それならとだ、父は亀吉に話した。
「もうな」
「瘡毒になることはか」
「覚悟してな」
 そうしてというのだ。
「行かないと駄目なんだ」
「それが嫌ならな」
「最初から行くな」 
 父は強い声で話した。
「そうなるんだよ」
「そうなんだな」
「だからな」
「俺はか」
「そう思うならな」
 瘡毒が怖いと、というのだ。
「もうな」
「吉原は行くな、か」
「あれは酷いからねえ」
 母も言ってきた。
「和太さんもだね」
「ああ、親の目盗んで吉原に行ってな」
「そうなったんだね」
「鼻が落ちて身体のあちこちに瘡蓋が出来ててな」
 そうしてとだ、亀吉は母にも話した。
「それでだよ」
「頭もおかしくなってたね」
「母ちゃんも知ってるか」
「知らない筈がないよ、多いんだよ」
 瘡毒になる者はというのだ。
「だからだよ」
「知ってるんだな」
「見たしね、なった人も」
「瘡毒にか」
「だから言うんだよ」
「お前がなってもいいから行くって言うのなら止めなかった」
 父はこれまた強い声で話した。
「しかしそこで思い止まって行かないならな」
「それならか」
「それでいい、もうな」
「ああ、吉原には行かないさ」
 亀吉は確かな声で話した。
「女房と一緒にな」
「暮らしていくか」
「そうするな」
「ならそうしろ」
「それで店の仕事やっていくな」
 亀吉は真面目な声で言った、そして実際にだった。
 彼は二度と吉原には行かなかった。それは彼の仲間達も同じだった。だが毎年だった。
 和太の命日には彼の墓に皆で参った、そうしてだった。
 亀吉は手を合わせてから仲間達に話した。
「いい人だったな」
「全くだ」
「だからこそ残念だ」
「余計にな」
 仲間達も言った、瘡毒になった彼のことを思って。


馬鹿息子   完


            2022・4・18 
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