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不可能男との約束

作者:悪役
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小さな意志

 
前書き
余りにも脆く

余りにも小さいものだが

それは何よりも強靱だ 

配点(想い)
 

 

『ようし、じゃあ全国の皆! こんばんはあー!!』

その言葉は言葉通り世界に届く言葉であった。
どうやら共通通神帯で全国に放送中みたいなので、世界各国にこの映像と言葉が伝わっているだろうと熱田は思った。
表示枠から見える人間は知っている人間だ。
総長連合の人間としても知っているし、個人的にも一応知っている人間である。
松平・元信
字名は"傀儡男(イエスマン)"と呼ばれている男だ。
学帽を頭に乗せ、白衣を纏い、ギャグのつもりか、右手にはマイクを持っている。しかも、暴走寸前の統括炉の前に立っているので彼の背中からはまるで後光かと思われるような光が漏れている。

『この放送! 共通通神帯で全国に放送中だからね! よい子の皆、これから先生の一挙手一投足を見逃しちゃいけないよ! ではチャンネルはそのままでね! 変えちゃいけないよーー!』

つい、反骨心で目の前の表示枠を手刀で割ってしまった。

「あ! シュ、シュウ君! 何やっているんですか!? そんな事したら、今、三河がどうなっているのか解らなくなっちゃうじゃないですか!? 確かにちょっとイタそうなおじさんに見えましたけど、蔑むのはもうちょっと後から!」

「この巫女ダイレクト過ぎるぞ!!」

智は周りのツッコミを俺を盾にすることによって無視しやがった。
この女……! と思うがまぁ、事実は事実だったので今回だけは癪だが聞いといた。

「ああ、わりぃわりぃ。つい、あの爺、何ほざいてんのぷぷーっと思ってつい割っちまったんだ。他意はねぇから怒んなよ馬鹿ども」

「こいつもこいつで反省してねーーー!!」

俺は空を指すポーズをとることで無視した。
はいはいと浅間は呆れたように呟きながら新しい表示枠を出して、俺に見せてくれた。そのせいで少し智と距離が近くなり、智の甘い匂いが鼻に付いて、ちょっとだけ顔を逸らした。
待て俺。今はセンコー気取ってる爺の話を……

『はーーーい! ちなみにーー! チャンネル変えた奴は先生にちゃんと告げ口するんだぞーー!』

「あ! てめえら!! 何、思いっきり告げ口を大量に送ってんだ! やるなら内容はかなり派手にするんだぞおい!!」

「さっすが俺の親友!! まさかそこで止めるんじゃなく煽るなんて! 思考回路に俺様回路とかあるんじゃね!?」

『おーー! 色んなところから告げ口が来てるねーー。じゃあ、先生が罰を言うから実行するんだぞー? 武蔵在中の某剣神君は迷わず廊下で自分の好きな変態行為をやりなさい。そしてP.A.Oda在中の小物君は先輩のパシリをやりなさい。以上だよーー!』

「シュ、シュウ君! 何でじりじりと私のむ、胸を睨んで近寄ってくるんですか!?」

「すまねぇ……智……でも、俺が悪いんじゃねぇ……! そう。これは罰なんだ……だから仕方なく……! 仕方なくお前のオパーイを揉みまくるんだ……!」

間髪入れずに矢が股間に命中した。
ふぬぅ! と思わず呻いた。周りの男性陣も全員おおう……! という顔になってこっちを見た。
思わず内股になって股間を手で抑えた。

「と、智……お、お前……しょ、しょ、将来俺の子供を、生むために必要な器官を、な、何の遠慮もなく撃ち抜くか普通!?」

「大丈夫ですシュウ君なら───剣神ですから一つくらい剣が折れても大丈夫ですよね?」

「平然と下ネタを吐きやがった……! この淫乱巫女!」

二発目が同じ場所にクリティカルヒットした。
おぶぅ! と流石に耐えれずにその場に女の子座りで崩れ落ちた。ひぃっと周りの皆が智を恐ろしいものを見るような目で見るが、本人は物凄い笑顔だ。

……こ、これ…! 人の命を奪うことが出来る笑顔だぜ……!?

「ひ、必殺の一撃が二撃で高(コー)カ(ウ)ントというか……! だ、大丈夫! 生成機能は生きているはずザマス……!」

「……何故にザマス語尾……?」

しかも微妙にカラダネタだし……というツッコミは無視して腹に力を込めて何とか立ち上がる。
その行動に周りの男共が尊敬の眼差しでおお……! と驚いている。
とりあえず今は体を張っている場合ではないと目尻から大人になった成長を流しながら表示枠の方を見る事にした。

『ではではーー! 今日は先生は地脈炉がいい感じに暴走しつつある三河で実況をしていまーーす!!』

最初からふざけたことをと言いたくなるが、松平元信の背景の光は正しくそれの事だろう。
つまり、目の前の男は死を背後にしながら、このようなふざけたことを言っているという事になる。
ふざけたことをともう一度だけ考えて、ただ目の前の男の語りに耳を傾ける。
そうしていると新しい動きが生まれた事に気付いた。
新名古屋城の入り口から松平元信の居場所までの隔壁の陰に隠れていたのであろう自動人形が大量に姿を現した。
そして逆光で見えづらいが各々がそれぞれ何か楽器らしきものを持っているのが見えた。
そんなものを持っているのならば次にすることも解る。楽器を持っているのだ。ならば、その音を作り出すものを使って、音楽を作るのが当たり前だ。
そして予想通り、楽器は使われ、そして無手の自動人形は己が機能を使って、一切乱れない、リズムもコンマ一秒単位で揃った正しく自動人形だからこそ出来る音楽が生まれた。
肝心の歌は通し道歌。
今日の昼も聞いたとある自動人形がよく歌っている歌であり、とある少女が良く歌っていた歌でもある思い出の歌というには少し血生臭い歌。
その歌に当てられたのか。
馬鹿の顔色が少し変わった。気付いたのは喜美と俺だけだろうと思う。周りは既に松平元信の事に熱中している。
こういうのに気づくのは俺じゃなくてネイトの出番だろうがと内心毒づくが今の俺や馬鹿ではこういう構図しか生まれないという事に知っているから、俺は周りに気付かせないように溜息を吐いた。
とりあえず、喜美が見ているから大丈夫だろうと思い、見なかった振りをして再び表示枠の方を注視する事にする。

『ハーイ皆さん! これ! 今唄っていたこの歌、これから末世を掛けた全てのテストに出ます(配点:世界の命運)。じゃあ、皆さん。先生に何か質問はありますかあー?』

そりゃ誰もが質問してーだろうがと内心で呆れるが、その行動は目の前の表示枠に映っている人物が代理となった。
西国無双の名を持ち,"神速"の字名を持ち、そして八大竜王の異名を持つ立花宗茂である。
しかも,宗茂の前には東国無双の本多忠勝がいる。
東西無双が同じ場所に立っている.それだけで少しちっと舌打ちをしたくなる気持ちが多々あるのだが,意地でも表に出すつもりはなかった.

………剣神の業かねぇ………?

どっちにしろどう思うかは自分の勝手だ。
なら,そんな事を考えずに今しかえられない情報を得るべきだろう。だからこそ、表示枠から目も耳も絶対逸らさないと思い、行動に移す。

『元信公……! 一体何のために地脈暴走と三河の消滅を行い、極東を危機に追いやるのですか』

貴方は

『ただ徒に人々を死なすつもりですか……!』

その一言で立花宗茂の性格がどういうのか大体解った気がする。
格好いい男だぜと本心から思い、松平元信の返答に意識を向ける。

『良い質問と良い気迫だね。ならば、先生はその質問に本気で答える事で君への返事とさせてもらおうじゃないか!!」

それはね

『危機って面白いよね?』

普通に聞けば不謹慎すぎる一言だと誰もが思うだろう一言である。
ただでさえ、今年は末世という世界の終りが迫っているのだ。そんな時に危機が面白いだなぞ不謹慎極まれないと言う人間は多いだろうけど

『先生、よく言うよね? 考えることは面白いって。じゃあ、やっぱり、どう考えたって、―――危機って、面白いよね?』

………確かに否定はできねぇな……。

熱田個人としてはその意見は否定できるものではない。
元来の性格か、剣神としての性質なのかは自分でもわからないが、危機に対して挑むという事は恐怖もあるが、それを乗り越える時の達成感などを考えれば面白いと言っても良いだろう。
そこまで考えてこの男が言いたい事が大体推測出来た。
俺が推測出来たのだから文系のシロジロやネシンバラとかも絶対推測出来ただろう。

『危機って言うのはとても面白いものだ───だけど私達にはもっと面白い危機があるよね? それが何だか。解るかな?』

『───意味の解らない問答は止めてください!』

『はい、残念。立花宗茂君。君はこの時点では不合格だ。何故かって? 君は理由はどうあれ考える事を止めた。いや、それよりも酷いね。君は考えなかったんだ。でも、人間としては正しい行為だね。誰だって嫌な事や悪い事は考えたくないものだもね』

でも

『それでは君は危機以上のモノに遭遇した時、君は目を逸らして死んでしまう』

『───』

表示枠の中で沈黙をする立花宗茂。
悪いとは微塵とは思わないが、意見としては確かに松平元信の方が正しいと心の中で首を縦に振る。
恐怖に震えるの仕方がないが、その恐怖がこちらに能動的、もしくは自動的に襲い掛かってくるものならば対処しなければならない。
それは老若男女平等である。
震えるだけでは待っているのは当たり前の結果である。だから、松平元信はこう問うたのだ。
考えろ。
考え、考え、考え、考え、考え、考え、考え、考え、考え、考え、そして生き残る方法を模索しろと。
それをしなかった立花宗茂は失格だと言ったのだ。

『それが嫌なら今度こそ考えなさい。では、本多君は───どうせ解らないだろうから罰として首から自動人形をぶら下げて街道に立ってろ』

『おい先生。扱いが全然違うじゃねーーか!!』

『Jud.実に正しい判断だと思います』

おいこら! と何故か微妙に和んでしまった雰囲気に梅組全員で半目で表示枠を睨む。
まさか俺の周り以外もあんな風にシリアスシーンにギャグを言い合う雰囲気、通称共食いをする環境があるとはなぁ……まさかこれが末世だったりしたら面白いぜ……。
そしてコホンとわざとらしい咳でさっきまでのお馬鹿雰囲気をとりあえず消しておいて、そしていいかい? という前置きを作って話を続けた。

『極東の危機よりも恐ろしいのは今の世ではただ一つ』

それは

『───末世だよ』










そこから先は謎の解明であった。
そのなぞというのはただ一つ

大罪武装(ロイズモイ・オプロ)と役割とそれの素材に付いての。

大罪武装の役割は末世を救うための物。
どういう風に使用するかは自分で考えろみたいな答え。そういう意味では解決法を提示していない。
それは自分で考えろという事なのだろう。
だが
そんな事は今はどうでもいい。そんな事は小事だ。今だけはそんな事はどうでもいいことだ。今だけは三河の事も世界の事も考える気が起きない時だ。
曰く、大罪武装は六つの国に送られたのだが、実際は七つという事。
それ自体はどうでもいい。それが嫉妬を司っている事とか、何やらをK.P.A.Italia総長のインノケンティウスと何やら揉めていたがそんな事はどうでもいい。
問題はその後だ。
大罪武装には人間が材料とされているという噂。
それをあろう事か、それは事実だとほざいたのだ。
いや、それ自体もまだ良かった方の事実なのかもしれない。悪く言えば友人以外はどうでもいいと極論。
他人がそうなっているとは思いたくはないのだが、やはり人間はそれでも自分や周りの人間の大事が一番なのである。
自分は聖人君子でもなければ正義の味方というわけでもないのだから仕方がない。
だけど、その後の台詞がいけなかった。

『その人間の名はホライゾン・アリアダストという』

こんな状況では聞きたくなかった名前であった。

『ホライゾン。十年前に私が事故に合わせ、大罪武装と化した子だ。───今は自動人形の体とP-o1sという名を持って武蔵の上で生活している』

梅組の誰もが目を見開き、現実に驚嘆するしかない。

『そしてその子の魂こそが───"嫉妬"の大罪武装"焦がれの全域(オロス・フトーソス)"なんだよ』

ああ。
もう駄目だ。何もかもを破壊したくなるような衝動が胸の内で鼓動を打っている。
やはり、十年前に■しにいくべきだったか。
既に拳は握られている。
否。
そもそも自分の戦いは拳を握って戦うものではない。そも剣神なのだから、剣を使ってやらなきゃ意味がない。
ああそうだ。
失った物は尊い。なのに、この男はその失った物を弄ったというのか。
もう沸点を突破し、そして───

『今日、ホライゾンを見たよ……私に手を振ってくれた───手を、振ってくれたよ……』

一瞬で鎮静した。
地が出るくらい握りしめていた手はもう緩く開いているし、血走っていたであろう目は既に平常通りになってしまっているし、何時の間にか地面に亀裂を入れていた足には力が籠っていない。

……だから、俺はこの爺が嫌いなんだよぉ……。

最後まで悪人らしく振舞ってくれよなぁ……そうじゃなきゃ思いっきり憎めねぇじゃねぇか……。
だからこそ最悪だ。
最後の最後に親としての顔を見せられたら何も言えなくなる。
だからこそ、俺はトーリの疾走に付いて何も言わなかった。








……! トーリ君……!

急な彼の行動に最初に気付いたのは多分、彼の姉である葵喜美と密かに気にしていた熱田シュウを除けば恐らく向井鈴だろう。
視覚がない代わりに、最早進化していると言っても過言でもない聴覚で彼女はトーリ君がぼうっとした顔をしているが内心はかなり焦っている事も解っていた。
だから彼が駆け出したことについては本当のことを言えば驚いたわけではなかった。
だから驚いたのは別の事で。
トーリ君は走ったのはいいが、途中で立ち止まってしまったのだ。

何故なら目の前には後悔通りが広がっているのだから。

……駄目…な、の……?

彼がホライゾンが死んでから一度も通ったことがない後悔通り。
トーリ君だけではなく誰もがその通りの名を自分に刻んだ。
誰一人として忘れた事はないと思う。誰もがホライゾンの死を悲しんだと思う。少なくとも梅組の皆は悲しんだ。
そしてトーリ君が一番悲しんだことは誰もが解っている事だと思う。
だから、彼があの日以降、後悔通りを通れなくなったのは仕方がないと誰もが納得した。悲しいけど誰もが納得した。

……一人を除いて。

「───行けよ、親友」

ポツリと今度こそ鈴以外には聞こえない声が聞こえた。
鈴は条件反射でその声が聞こえる方に向いた。本当ならばトーリ君の方を見なきゃと思っていたのだが、だけど、その声には強さはなかったけど

……力、があ、る……?

そして振り向いた先にいたのは───シュウ君であった。
顔はまるで仕方がないなとでも言いたげな表情で、でも、その顔には優しさも含まれていて、その口から洩れたものだ。
余りにも小さくて、彼の直ぐ傍にいる人間ですら気づいていない。
そして恐らく、彼も誰にも聞かせる気がない言葉なのだと思う。
そんな言葉を聞いてもいいのかと思い、鈴は罪悪感に駆られるけど、彼の言葉は止まらなかった。

「お前の言葉は今はきっと届かないだろうがよぉ。でも───行けよ。出来ないお前の代わりに俺がそれを言ってやんよ。」

掠れる様な声だが、その小ささには不思議と温かみが感じると鈴は思った。
そこから何故か鈴は違う人を連想してしまった。

……トー、リ君……?

そう。
まるで彼が二人いるような錯覚を覚えてしまった。顔も声も背丈も全然違うのに何故か今、後悔通りの前で立ち止まっている彼みたいに思えてしまった。
何でかなと思ったら直ぐに答えが出た。
彼みたいに何故か自信に溢れていたからだ。
何についての自信かはそれは違うと思う。でも、その何かに対しての自信の質としてはトーリ君と同じくらいだと思う。
だから、つい彼と似ていると思ったのだろう。
そしたらまた違う音が聞こえた。

「十年前の後悔を」

聞き覚えはある。

「十年前の約束を」

毎日聞いている音である。

「果たす為に」

誰もが必ず聞いている音である。

「通す為に」

人間、魔神、妖精、神、竜。誰もが持っている鼓動の音。

「行っちまえよ。何も出来ない馬鹿」

だけど、その鼓動は普通のリズムだけを刻むものではなかった。

「行きたいと思う気持ちに従えよ」

そのリズムの名は───期待。

「何も出来ないお前だろうけどよ……」

ただ未来に、親友に期待する音が彼の声と一緒に聞こえた。

「お前が出来る唯一の誇らしい事だろ、それが」

そしてトーリ君は振り切るかのように背を縮めながら、後悔通りに入っていった。







予定時刻は本日午後六時。

三河君主 ホライゾン・アリアダストの自害が決定された。










雰囲気が暗いという事が嫌でもわかってしまいます……。

浅間は教室で自分の席に座りながらはぁと息を吐いた。
今日は予告通りならばホライゾンが自害される日。本当ならばトーリ君の告白で楽しい一日を、いつもの一日を迎えられるはずだった一日。
だけど、たった一日でそれらは全部木端微塵に破壊された。
またとか何時もと思っていたものがここまで簡単に壊されるものとは思ってもいなかった。何度も繰り返されているものだから大丈夫だと思っていた。
それこそ時の流れくらいしか壊せるものはないのではと馬鹿なことを思っていたくらいだ。
なのにと思い、浅間は窓際の席の方を見る。
そちらの方にはトーリが俯せで倒れている姿があった。
さっきから身じろぎ一つもしていない。俯せでいるから表情も読めない。そして誰もそれを起こそうとしない。
もしくは

……誰も見たくないからでしょうか……?

元気のないトーリ君など見たくもないと。
嫌、確かに元気がないトーリ君なんて逆に気持ち悪いだけですけど、逆に元気がありすぎるトーリ君も厄介というか、あれ? 実はトーリ君。元気があっても無くても厄介な存在じゃないんですか?
ここまで敵どころか味方? にすら思われるなんてやっぱりトーリ君ですね……。
あ、思考が逸れてしまいました。
危ない危ない。
ここで真面目思考をしないと周りの外道達と同じ考えをしているっていう事になってしまいますよね。じゃあ、ここは真面目路線に走らないと……!
そう思い、次に見るのはトーリ君の目の前の席に座っている少年、シュウ君。
そこにある姿はトーリ君とは正反対だ。
何せ、鼻歌を吹きながら、メスを鑢で削っているのだ。はっきり言えば、この十年で一番(・・)のハイテンションかもしれない。
ここが梅組じゃなきゃ不謹慎だと思われてもおかしくない態度。
相変わらず鼻歌は最悪だけど。というかそのメス、どこから持ってきたんですか?
とりあえず何故かハイテンションだ。昨日にあんなことがあって、そして今日もホライゾンが自害するかもしれないって日なのに……。

何を……考えているんでしょうか……?

彼とはおそらく梅組の中で一番付き合いが長いと自負している。
彼とは神社の付き合いで小さい頃から会っている。昔はこんなヤンキー少年ではなくて、本当にどこにでもいるような少年だったのだけど。
でも、急にといった感じで彼は熱田神社からこっちに来た。てっきり、出雲の方の教導院の方に行くと思っていたから来た時は本気で驚きましたけど……本当に驚いたのはそれの事ではなかった。

武蔵に来た彼には笑顔が無くなっていた。

何かあったかなんて一目散だった。
だけど、何かあったかなんて聞けなかった。聞いたら傷つけるかもしれないし、嫌われるかもしれないという子供みたいな感情で聞けなかった。
そして年月が経ってしまったことで余計に聞き辛くなった。
聞きたいという思いはまだあるけど、踏み込む勇気がない。
駄目ですねと自嘲のような思いを胸に秘めるけどそれだけで終わってしまうのが自分の悪いとこだと思っている。

……トーリ君や喜美とかならばさり気なく雰囲気を作って聞けるんでしょうけど……。

いや待て。
あの二人だから目的ではないものを聞かせるような雰囲気を作っていらん事を聞くのではないか。
いやいやいや。
一応、付き合いはかなり長いのだ。シリアスな部分で異世界の旅立つようなことをする二人では……ない……は……ずなわけがないですね……。
駄目だこの人達。

「浅間ーー。ちゃんと書いてるーー? さっきから進んでいないようだけど?」

「あ、す、すみません……少し考え事をしてて……」

「んーー。まぁいいわよ今回は。でも、次からは気を付けてね。そしてさぼっている熱田はちょっと外に飛んで来い」

処刑予告をされて汗をかく。
そしてシュウ君は有無を言わさずに窓を突き破って外に飛ばされた。
おお……!? と本人の叫び声が聞こえたが、周りは窓が……と呟くだけで飛ばされた本人についての心配は一切なかった。
というか黒板消しで人を吹っ飛ばすなんて人間技じゃないです。
ハイディが壊れた窓の勘定をしているのを無視して今やっている作文の方に意識を向ける。シュウ君の方は大丈夫だろう。
何だかんだ言って彼も体育の授業は出席日数分は取っているのである。ここは三階だけど、それくらいならば彼は大丈夫だ。
現にもう戻ってこようとしているのか廊下から音が聞こえ、そして何事もなかったように扉を開けてきたので意識から外した。
それにしても

自分がして欲しいことって……何ですかこの致命的かつ根源的な命題は。

時々目の前の暴力教師はこっちがどういう役職を持っているのかどうかを無視して問うているのではないんじゃないでしょうかと思う時がありますけど、今回は特に顕著です。
いえいえ、今はどっちかというとホライゾンの話に付いてであって、自分はおまけみたいなものだという事は解ってますよ?
それでも巫女相手にこんな質問何て……いやいや、自分に対してにだけに注目するからいけないんです!
本当ならばトーリ君がホライゾンに告白してハッピーになるはずだった日になるはずだったんです。
だからそう、彼にはホライゾンとやるはずだった告白をしてほしい。
だからそう、まずは彼らしく胸を揉んで……って最初から振られるナンパ男みたいなストーリーが出来上がってますよ!? 駄目駄目駄目! もっとそういうのは段階を踏んでからで、やっぱり、最初はそのぅ……や、優しい言葉で告白して、それをホライゾンがピッチャー返しをして……ってまた駄目な方向に! だ、駄目ですよ! もっと明るい方向に! そ、そうだ! こういう場合はまず明るくなれそうなカップルでまずは想像してみれば……! えっと、ナルゼとナイトは……でも、女の子同士だからちょっと違う気がしますし、他は……あれ? 想像できませんよぅ? ええと、じゃ、じゃあ、こ、ここは仮想かつ、つ、その、願望じゃなくて! そ、そう! 周りの人間を勝手な想像に付き合せるのは駄目だと思うから、ここは仕方がなく! 仕方がなく私とええと点蔵君とウルキアガ君と御広敷君とネンジ君とハッサン君は論外ですし、ペルソナ君はちょっとそういうのではないでの仕方がなく! シュウ君との妄……もとい想像で! えっと、やっぱり最初はああで……次はえ、えっとこ、これくらいいいですよね? え、ええ!? そ、そこまで行っちゃいますか! で、でも、わ、わああああ! そ、そんなとこまでやってもいいんですか!? 倍プッシュでいいんですか!? いいんですよね!? 止まらないから止まらないんですよ! 理論的ですよね!? じゃあ、仕方がありませんよね!? じゃあ。私は正しい事をしているんですから、もっとクリティカルにゴーゴー……!

「……浅間。新しい原稿用紙あげようか?」

「……え?」

先生に言われてふと机の上を見てみる。
そこには最初から最後までぎっしりさっきの想像をぎっしり書き込まれている原稿用紙。そして各場所がないから、机の上にまで文字は及んでおり、それでも足らずに今は虚空に文字を書いている。
あ……! と思わず書いている内容と行為に顔を真っ赤にする。

こ、こんなところでエロ小説を書いてしまうとは……!

しかも、題名は私がして欲しい事。
これが暴露された日には私はお日様の下を歩くことが出来ずに、知ってしまった人を射たなければいけない日々が続いてしまうと本気で恐れた。
どうしよう? ここでいきなり破りだすと絶対周りは不審がって破った紙を再生させる。そんな面倒な事をするかなどという疑問は思わない。
周りの外道達は絶対人の弱みになるであろうという情報に関しては死に物狂いでゲットしようとする真性なのだから。

……その情熱をそれこそもう少しまともな方に向けましょうよ……。

このまま、もしも末世が来なくてもこの外道達が世界に進出されたら、やはり末世になるんじゃないでしょうかと本気で不安になるが自分にはどうしようもない事である。

「はいはーい。大体出来たようだから締めるわよー。じゃあ、浅間」

「はい?」

「それ。読んでくれる」

言われ、気づいた。
そういえばこれの処分を考えるのを忘れていました。
不味いという思いが条件反射で体で原稿用紙を隠す動きをして、そして慌てて何とか回避しようと口を開く。

「だ、駄目です! こ、これ───実は作文じゃないんです!」

「ほう……新説ね。じゃあ、何なのそれ?」

「ええと、これはですね……」

何とかしなけばという思いが視線に宿り、周りを見回して打開策を入手した。

「こ、これはそう! 御広敷君からロリコンという邪念が漂っていたので、クラスメイトとして急いで禊がないとと思い、邪念を文字に変えたもんなんです! だから先生が聞くと呪われます!!」

「あっれーー!! 何故に飛び火が小生に来たんですか!? 大体小生はロリコンではありませんぞ! 小生はただ生命礼賛という、つまり幼い命、つまり幼女を信仰しているだけで決してロリコンでは……先生? 何故に拳に息を吹きかけているのでしょうか? そんな事をしても肌の艶は治りません───」

御広敷君は教室の後ろの壁を突破して吹っ飛んだ。
御広敷君は戦闘系じゃないからキツイかもしれませんねーと思っていると、ウルキアガ君が仕方なさそうに飛んで行った御広敷君を拾いに行き、机に戻した。
空いた穴はペルソナ君がいそいそと窓のカーテンを一つとってそれで応急処置をした。
閉める前に向こうの教室の人にお辞儀をするのが礼儀正しいなぁと浅間は見習わなきゃと思い、密かに焼却炉焼却炉と思い、教室を出て行こうと席を立とうとするが

「浅間。外に出ていくのは授業が終わってからね」

……ええ!? じゃあ、授業が終わるまでこのまま!? と戦慄する。
周りの皆が既に怪しいなこやつという目で見てきている。

この授業が終わったら、私の行動如何で人生が決まってしまいます……!

勝とう……! と本気で浅間は心に誓った。

「じゃ、鈴。貴女の読んでも大丈夫?」

「……は、い。だ、大丈夫です」

……本当に? とそう思うのはただのお節介なんでしょうか……?
そう思う事こそがお節介だろうと考え直して鈴の方に視線を向ける。

「……自分で読める?」

先生の言葉に鈴は首を横にふるふると振った。
無理もないと思う。鈴さんは聴覚などは優れいているが、その代わり視覚が閉じている。だから、書くことなどは出来るが、それを読み上げることはできない。

「あ、の……誰か、代わ、り、に、お願いしま、す」

「ん……浅間代わりに読んであげて」

「───はい」

先生に言われ、立ち上がり、鈴さんの方に歩く。
鈴さんも立ち上がり、こっちに件の原稿用紙を渡す。

「……いいんですか?」

自分が代わりに読んで。
本当ならば自分で伝えたいだろうと、悔しいだろうと知ったかかもしれないけど、きっとそう思っているだろうと思い、それ故に私が読んでもいいのかと聞いた。
貴女の思いを私が代わりに告げてもいいのかと。
その問いに鈴は
首を縦に振った。
だから、私もそれ以上、何も言わずに自分の役目を果たそうと思った。

「浅間智───代理に奏上いたします」










それは告白の手紙であった。

───私には好きな人がいます。

ずっと昔からいます、ずっと昔の事でした。

初等部入学の時でした。

私は嫌でした。

教導院に行くのが嫌でした、私のお父さんもお母さんは朝から働いています。

二人は来られませんでした。

私の入学式は一人でした。

お父さんもお母さんも心配するので泣きませんでした。

本当はおめでとうと言って欲しくて、笑って欲しかったです。

教導院には私の嫌いな階段も長くあります。

だから、階段の前で考えました。

おめでとうと言われないなら登らなくて良いかと思っていると、他の人達は私に気づかずお父さんもお母さんと一緒に登っていきます。

私は一人でした。

だけど、私の好きな人達も二人でした。

その二人は私が立っているのを見ると、一緒に行こうと言って、私の手を引っ張ってくれました。

私は覚えています。風の匂い、桜の散る音、気づけば私は一人で階段を登って言いました。

家に帰ってお父さんとお母さんに話をしたら、喜んでおめでとうと言ってくれて、頑張ったねと言ってくれて、私はまた泣きました。

中等部は二階層目で階段がありませんでした。

高等部は階段がありましたがもう一人で登れました。

でもトーリ君は一度だけ入学式の日に手を取ってくれました。

それはかつてホライゾンが取ってくれた左手です。

でもそこにはホライゾンはいませんでした。

誰もが黙って聞いていた。
普段はどんな時でも馬鹿をやっているクラスだが、それでもこういう時に外さないからこそ、誰もがまぁ、良いかと思って、一緒にいるのである。
授業中でも金の計算をしているシロジロとハイディも、小説を書いているネシンバラも、同人誌を書いているナルゼも、さっきまでメスを磨いていた熱田も。
誰も彼もがその告白を黙って聞いていた。
覚悟を決めた女の子の一世一代の告白を誰も絶対に邪魔はしないという意志を持って、この場でただ黙って続きを聞いた。

私には好きな人がいます。

私はトーリ君の事が好き。

ホライゾンの事が好き、皆の事が好き、そしてホライゾンと一緒のトーリ君が一番好き。

だからお願いです。

だからわたしの手を取ってくれたように───

わたしの手を取ってくれたように……

「お願い!ホライゾンを助けて……トーリ君!」

そして叫んだのは代わりに読んでいた浅間ではなく
何時も、声を掠らせ、たどたどしく喋っていた鈴であった。
その小柄な体のどこからそんな大きな声が出たのだろうと思うような大きな声。
でも、誰もその事について驚いたりなんてしない。彼女がどんな思いを抱いていたのかはさっきの告白で誰もが理解したのだから。
だから誰もが思った。
立てよ主人公と。
女の子をこれだけ泣かせて懇願させて、それでいいのかと誰もが思った瞬間。
その声が聞こえた。

「おいおい、ベルさん。舐めちゃいけねぇぜ」

はっと鈴が顔を上げる。
すると、そこにはさっきまで机の上で俯せになって倒れていたはずの葵・トーリが何時もの表情で立っていた。

「俺は最初からそのつもりだぜ」

「……トー、リ君……?」

「おお。そうだぜ。俺、葵・トーリはここにいるぜ」

ようやく───不可能を背負う男が立ち上がった。
さっきまでの落ち込みはどうしたのだと思わず周りは問い詰めたくなったが、ここは我慢だと思い、皆沈黙を選んでいる。

「トーリ、君……」

「おお、そうだよぉ。トーリ君だよぉ」

「あ、のね……」

「ん?」

その後、鈴は何を思ったのか、彼の方に近づき、彼の両手を手に取る。
そんな彼女にトーリは彼女に合わせて膝を着く。
その様子だけ見れば、まるで姫に忠誠を誓う騎士のように思えたのだが……その後にまさか鈴がトーリの両手を自分の胸に持ってきたのは意外だった。
はぅあ! と周りが仰け反るのを無視して二人の空間は時間を進める。

「私、ね……ちゃん、と、大きくなって、るよ……?」

「ああ。衝撃的事実だ」

その事に周りがひそひそ声で思わずその実況を語る。

「あれれ? さっきまで確か物凄いいい雰囲気を吸っていたはずなんですが、何時の間にこんな摩訶不思議空間に転移しているのでしょうか?」

「シッ。確かに一見、騎士の忠誠シーンに見えるようだけど、これから、もしかしてメインヒロインを救うかもしれないっていうルートに進むとは思えないね。僕的感想だと、絶対これ後ろから刺されるパターンだよね」

「くくく。流石は愚弟ね。まさか昨日のミトツダイラの経験をここで持ち出す事で側室フラグを立てるだなんて……BADエンディングには気を付けるのよ!?」

「おいおいおいお前ら! 俺は今、ベルさんとのオパーイ忠誠を立てている所なんだから、邪魔すんなよー。」

そこで周りに梅組の皆がいる事を思い出したのか顔を真っ赤にしてトーリの両手を胸から遠ざける。
その事に解り易い絶望の表情を顔に張り付けて、トーリは懇願する。

「ちょ……! 待ってベルさん! もう少し! もう少しだけ……! もう一度ロードさせてーーー!!」

「お前、最悪だよ!!」

「ああ!? そんな事を言ってるけど、お前ら! 本当に俺の立場になったら、こうしねぇって断言出来んのかよ! こうやってベルさんが恥ずかしがりながら、オパーイを触らしてくれてんだぞ! それでお前らは何もしねぇって断言出来んのかよ! なぁ、御広敷!」

「さ、最後に何故に小生だけが名指しで指されているんですか! 大体小生は幼女にしか興味がないので、向井君には悪いですが……あれ? どうしたんですか女性陣の皆さん。そんな怖い顔をして……」

御広敷が再び吹っ飛んで行ったが全員で無視した。
とりあえず、元の空気に戻させるために全員で無言にトーリに視線を向けた。
それに対して、少年は解っているという感じで鈴に再び向き合う。

「ちょっとだけ、訂正いいか?ベルさん。」

「……? な、何……?」

ああと前置きを置いてトーリは静かに彼女を労わる様に告げる。

「俺がベルさんの手を取るのは別に気遣ってじゃねぇさ、ベルさん可愛いし優しいから手を繋いでみたいのさ。そうすると楽しいってそう思えるからさ」

そしてくるりと周りの俺達に視線を向け

「なぁ───お前らもそうだろ?」

「───Jud.」

審判の答えで誰もが返答した。
鈴は周りの暖かな声に、暫く驚いたようにおどおどしたが、直ぐに彼女の表情は柔らかくなっていき

「あ、りが、とう……」

笑ってくれた。
その事に、トーリも含めて、安心したように笑う。

「で、どうすんだ馬鹿。無駄に時間を使いやがって……そこまで大言を吐いたんなら、何か手があんだろうな?」

「同感だ。無駄な泣き寝入りばかりしたな」

「あーん? 俺は泣き寝入りなんかしてねぇぜシュウ、シロジロ。よく見ろよ、俺の机を」

「ふふふ、愚弟。何かしらこのエロゲ雑誌。銀髪キャラ特集みたいだけど」

「ああ。ホライゾンもジャンルはそれだろ? だから俺はそれを見て益荒男ゲージをさっきからずっと貯めていたんだぜ! 今の俺は超必殺技を三回くらい連続で出せるぜ!」

「───っしゃああああ! その台詞貰ったわ! ネームを大量に切らなくちゃ! ああ忙しい忙しい! 何よもう! 時間が足りないじゃないあんたら!」

「お前の都合で世界は動いてんのかよ!?」

まぁまぁと何人かの人間で軌道修正をする。
とりあえず、代表のトーリに何か言えという視線を向けて、先を促せる。
視線を向けたら、何故かバッチコーイというアイコンタクトをしたので皆で一度殴ったが問題はない。

「いやー。ホライゾンを助けるっていう事は明確なんだぜ。でも、俺、馬鹿だから何をどうすればいいのかは解んねぇんだわ。つーわけで、シロジロ。説明頼むわ」

「何だ馬鹿。何故私がそんな事をしなけれいけない。」

「だって、さっきお前、これは経済活動だって言っただろ? つまり金の話だ。じゃあ、お前の専門じゃねえか。金しか言えないお前なんだからちゃんと出番を作れよ」

「待て待て待て。それではまるで私が金の事しか何時も言ってない人間にしか聞こえないではないか」

「その通りだよ!!」

皆のツッコミにシロジロは視線をハイディに向ける。

「私は金の事だけか?」

「……いや~ん! シロ君! それは私の口からは言えないかな~」

うむと謎の頷きをしてから真っ赤になってくねくねしているハイディから視線を逸らし、再びトーリの方に向く。

「聞いたか、つまり、私は金の事しか話していないわけではない───本当に貴様はそんな事も理解できない馬鹿だな! 一円の価値もない馬鹿め!」

「偶にお前の芸風、俺を超える時があるよなぁ」

確かにと思うが、そこはそれ。
いい加減真面目にやりなよという視線に流石に答えるシロジロ。

「───臨時生徒会を開く」

この場合権限者の不信任決議。
生徒会は勿論のこと、総長連合ですら力を取られている。
だからこそ、唯一、権限をまだ持っている本多正純の不信任決議をし、呼び寄せ、そして出来るならこちら側に引き込む。
それが唯一の方法だと。

「つまり、お膳立てはしようと思えば、既に何時でも出来るという事だ。解ったか馬鹿」

「Jud.Jud.まぁ、何だ? つまり───」

その時に全てを決めろって言うわけだなとトーリは言葉にはせずに、視線でシロジロに問うた。
それに対して、シロジロは沈黙を選ぶことによって、答えた。
ふぅとトーリは溜息を吐きながら、次にシロジロから窓際の席で足を組んで目を閉じている少年───熱田の方に視線を向けた。

「そうだな……そろそろお前との約束も始めなきゃいけねぇよな」

「……ああん? 何、意味あり気に呟いてんだよ?」

そして二人が苦笑する。
その事に何も知らない周りのメンバーが疑問を抱くが、熱田が手の平をひらひらと振るだけで何でもないという意思を作った。

「ま……やるんなら、とっとと早めにするんだな。時間は待ってくれないし、それに剣神は気が短けぇんだよ」

「へいへい───だが一つだけ言わせてくれよ」

「……何を」

ああと何故か意味深な真面目さを発揮したトーリ君を皆、気持ち悪いものを見るような目で見ながらトーリの行動を注視する。
そして何を思ったのか、トーリは急に窓際のカーテンを取って、自分に巻いて、そのままぴょんぴょんと跳ねながら教卓の上に横たわって、そして言った。

「んーー! ぎょーーーざっ」

全員でトーリを殴り飛ばした。





 
 

 
後書き
次で臨時生徒会ですね。
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