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頭の柿

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第四章

「椎茸でも大儲けさせてもらったしな」
「もういいか」
「お陰で大きな屋敷を建てていい田畑を広く買えた」
 それで村どころかこの辺りで一番の金持ちになっていたのだ。
「お宝も沢山買えたしな」
「それでか」
「もう満足だからな」
「株を抜かれてもいいか」
「金は取られなかったしな」
 柿売り達とそれは同じだった、茸売り達もそこまではしなかったのだ。
「だったらな」
「もうこれでいいか」
「ああ、いい」
 満足して言ってだった。
 与太郎は百姓仕事に専念する様になった、だふぁ今度は。
 切り株の跡の穴にやがて雨水が溜まり何時しかそこに鯉が住む様になった、その話を聞いた政宗はまた彼を自分のところに召し出して彼を見てだった。
 その大きな頭の中に池が出来てそこに鯉が泳いでいるのを見て隻眼を丸くさせた、そのうえで与太郎に言った。
「お主只でさえ大きな頭で目立つが」
「はい、今度はです」
「その頭に鯉を飼う様になったか」
「そうなりました」
「そうなった理由は聞いたがな」
 政宗は袖の中で腕を組みつつ述べた。
「おかしな話だな」
「柿の木が生えた時からですか」
「左様、それでお主その鯉と共にか」
「これからは生きていきまする。こうした頭なので」
 あまりにも大きなというのだ。
「わしは寝ることも頭を傾けることも出来ぬので」
「そうしたらこけて起き上がれないか」
「ですから座って休んだり寝たりしていまして」
 自分のその暮らしのことを話した。
「そうであるので」
「頭の水が零れてか」
「鯉がそこから出ることもありませんので」
「これからもか」
「鯉と共に暮らしていきまする」
「そうか、それでそれを見世物にして儲けることはせぬか」 
 政宗は与太郎に問うた。
「柿や椎茸の時の様に」
「もう充分儲け屋敷も田畑もお宝もありますので」
 与太郎はその政宗に笑って応えた。
「もう充分です」
「そうか、ではな」
「はい、後は鯉と畑仕事をしながら暮らしていきまする」
「わかった、では幸せに暮らすがよい」 
 政宗は与太郎に笑顔で話した、そうしてだった。
 与太郎は末永く幸せに過ごしていった、その頭にはずっと鯉がいて彼と共に仲良く暮らした。宮城県に伝わる古い話である。


頭の柿   完


                  2022・5・12 
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