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竹の間から

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第四章

「その通りです」
「ですから今宵は」
「舞楽を楽しみ」
「そしてです」 
 そのうえでというのだ。
「和歌もです」
「詠むのですね」
「そうしましょう」
「竹と月を見て」
「夜の。そうしましょう」
「それでは」
 紫の上は笑顔で応えた、そうしてだった。
 この日は供の者達と共に夫婦で月に照らされる竹とだった。
 その竹の間に見える月を見て楽しんだ、そうして都に戻ったが。
 その話を聞かれた帝は源氏の君を御前に召し出されこう言われた。
「お話は聞きました」
「竹と月のお話ですね」
「察せられますね」
「はい、帝のお耳にも届きましたか」
「左様です、一度です」
 帝は源氏の君に期待する素振りで言われた。
「朕もまた」
「はい、では帝にもです」
「見せて頂きますか」
「僭越ながら」
 源氏の君は帝に笑顔で応えてだった。
 今度は帝を別邸に招いた。そうしてその竹と月を見て頂いたが。
 帝はその中で源氏の君に悲しい顔で言われた。
「竹取物語を思い出しましたが」
「竹と月なので」
「はい、あの話の中の帝も五人もかぐや姫と結ばれたかったでしょうね」
「そうでしょう、ですが」
 源氏の君は帝に畏まって答えた。
「月はこの世のものではありませぬ」
「そしてかぐや姫はその月の者ですね」
「この世の者でないので」
「帝も五人もですね」
「結ばれなかったのです、月はこの様にしてです」
「見て愛でるものですね」
「そうかと」
 こう言うのだった。
「言うなら」
「そうですか、では」
「はい、今宵はですね」
「朕は月を見て楽しみます」
「お供致します」 
 源氏の君は帝に応えて彼もまた竹と月を見た、どちらも見事にそこにある。だが源氏の君は月には手に届かぬものを感じていた。この世にはないものを。


竹の間から   完


                2022・4・18 
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