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二つの結婚指輪

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第一章

               二つの結婚指輪
 子供の頃だ、原口直哉は同じ幼稚園の久保田実夕に夏祭りの夜にばったりと出会った。二人共浴衣姿だった。
 お互いの親が傍にいて二人は一緒に歩いた、その中で。
 直哉は出店の輪投げで指輪を一つ当ててだ、実夕に言った。
「当てたのこれだけか」
「残念だったね」 
 実夕はその直哉に横から微笑んで声をかけた。
「またやる?」
「いや、次は射的しよう」
 隣りの店を見て話した。
「そうしよう」
「射的ね」
「うん、あと僕指輪は女の子にあげるといいって聞いたから」
 それでと言ってだった。
 直哉はその指輪を実夕に差し出してそのうえで彼女に言った。
「実夕ちゃんにあげるよ」
「そうしてくれるの?」
「うん、嫌かな」
「頂戴、私指輪好きだし」
 実夕は直哉に笑顔で応えた。
「それじゃあね」
「うん、あげるよ」
 こう話してそうしてだった。 
 直哉は実夕に指輪をあげた、幼い頃の一幕だった。
 二人は小学校までは一緒だったが中学では実夕は私立に直哉は公立に進み。
 やがて直哉は東京の高校で寮暮らしに入り大学でも同じだった、それで実夕のことは完全に忘れていたが。
 就職は地元でそこで働いて数年経ってだった。
 父にだ、ある日こう言われた。
「お見合いしてみないか?」
「お見合い?」
「ああ、お前もうここで暮らすつもりだな」
「会社ここだしな」
 直哉は父に答えた、黒髪をショートにしていて面長ですっきりとした顔立ちだ、背は一七五位ですらりとしている。
「そうするよ」
「だったらな」
「お見合いもしてか」
「そしてな」
 そのうえでというのだ。
「ここで家庭持って暮らしたらどうだ」
「だからお見合いか」
「ああ、どうだ」
「それもいいかもな」
 直哉もそろそろ結婚しようかと考えていたので頷いた、こうしてだった。
 決めたが相手の名前を聞いて何処かで聞いたなと思った、そうして。 
 お見合い当日ニダ、彼は一張羅のスーツを着て地元の料亭で相手と会った、その相手は見事な振袖来ていて。
 黒髪をロングにしていて切れ長のはっきりとした大きな目で細く奇麗なカーブを描く眉に小さな楚々とした唇と高い鼻それに面長の顔を持ち。
 背は一六六程で着物の上からでもわかる艶やかなスタイルだった、二人は顔を見合わせたその瞬間にだった。
 思い出した、そうしてお互いに言った。
「久保田実夕ちゃん!?」
「原口直哉君!?」
 お互いに驚いて言い合った。
「小学校まで一緒だった」
「幼稚園で指輪あげた」
「何処かで聞いた名前と思ったら」
「僕もだよ」
「まさか貴方だったなんて」
「意外だったよ」
「あれっ、知り合いだったのか」 
 仲人の人は驚く二人を見て笑って言った。
「なら話は早いね、後は二人きりにしてあげよう」
「そうですね、それでは」
「私達はこれで」 
 お互いの両親は席を外した、そうしてだった。
 二人は会食の後料亭の庭で茶道のしきたりでお茶を共に飲んだが。
 ここでだ、直哉は言った。
「あの、指輪のことだけれど」
「思い出したわ」
 実夕は顔を真っ赤にさせて答えた。 
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