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展覧会の絵

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第九話 聖バルテルミーの虐殺その十五

 そしてパンだ。雪子はそのパンを見て言った。
「御飯じゃないのね」
「御飯も嫌いじゃないよ」
「そうなの」
「けれど。主にね」
 主食にしているのはだ。何かというのだ。
「パンを食べるね」
「その辺りイタリアらしいわね」
「そう思うよ。自分でもね」
「そうね。それで日本のパンはどうかしら」
「美味しいね」
 とはいってもここでもだ。感情のない声を出す十字だった。
「それもとてもね」
「そう。気に入ってくれたのね」
「美味しいね。それでだけれど」
「それでって?」
「君は食べないのかな」 
 見れば雪子はそのテーブルの上に何も持って来ていない。食堂にいるのにだ。
 そしてそれを見てだ。十字は問うたのである。
「御昼御飯は」
「あっ、もう食べたのよ」
「そうなんだ。もう」
「そうなのよ。サンドイッチと牛乳をね」
 それを食べたというのだ。
「だからね」
「今はないんだ」
「それで友達に会って」
 事実を隠してだ。雪子はこう言った。
「その時にね」
「僕に会ったんだ」
「奇遇ね。それでだけれど」
 こう話してだ。テーブルの上に肘をつきそこに体重を軽くかけて十字に顔を向けてだ。
 雪子はその黒い目を見てだ。こう問うたのだった。
「それでね」
「それで。何かな」
「今日は時間があるかしら」
 こうだ。十字に対して問うたのである。
「どうかしら。今日は」
「悪いけれど」
 またしてもだ。断る十字だった。
「今日もね」
「部活っていうの?」
「うん」
 その通りだとだ。十字は雪子に対して答えた。
「だから無理だよ」
「つれないわね。部活なんてね」
「休めっていうんだね」
「そうよ。一日位どうなのよ」
「部活好きだから」
 十字は表情のない声で答えていく。
「だからいいよ」
「いいの?私から誘ってるのに」
「いいよ」
 また言う十字だった。
「特にね」
「本当につれないわね。あくまで部活にこだわるのね」
「部活だけでいいよ」
 十字は言っていく。
「それだけでね」
「あのね。女の子から誘ってるのに」
「僕は。神にお仕えする人間だから」
「女の子に興味はないの?」
「あるよ」
 それはあるというのだった。
「女の子は嫌いじゃないよ」
「それでどうして誘いに乗ってこないのよ」
「部活があるから」
 十字の返答は変わらない。何処までも。
「だからだよ」
「本当につれないわね、佐藤君って。そんなのだろね」
「そんなのだと。何かな」
「女の子にもてないわよ」
 いささか脅しを込めてだ。雪子は十字に対して告げた。
「嫌われるわよ。それでもいいのかしら」
「構わないよ」
 相変わらず声に表情はない。しかしだ。
 そこには我関せず、明らかにそうしたものもあった。そしてそこからだ。 
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