| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第10章 アルバレス帝国編
  第53話 八門遁甲の陣

 
前書き
お久しぶりでございます。
コロナ、だいぶ長引いてしまいまして、更新も遅れてしまいました…。
ストック話数、ほぼない状況ですが、とりあえず上げさせて頂きます。 

 
エルフマンが真っ赤な様相を見せた瞬間、ギルダーツとマカロフの表情に苦悶ともいえるものが浮かび上がる。
「エルフマン…まさか本当に…」
「なんて…ことじゃ…」
2人の驚きように、他の魔導士たちも酷く困惑して見せる。
「おい、じじい…エルフマンは一体…ッ!」「一足ッ!!!!」
ラクサスが、2人の驚きようと、人が変わったような力を放つエルフマンの様相に疑問を投げかけようとするが、それは強大な咆哮に似た声に遮られる。その声と同時に発せられた砲撃のような攻撃に、皆が大きく目を見開く。
まるで、巨大な象の足のようなものが出現し、それがバルファルクに襲い掛かっていたのだ。加えて、その攻撃を受けたバルファルクが一切の余裕がないと言った様子で耐えている。
…驚きなどというモノではなかった…。先ほどまで、皆が束になってもまるで歯が立たなかったバルファルクを、エルフマンがたった一人で抑え込んでいるのだ。
「なんなんだ…これは…」
「あのバルファルクを…」
「押している…」
「ほ、本当に勝っちまうんじゃねえのか…これ…」
グレイ、リオン、エルザ、ナツがエルフマンの放つ夕象の威力に、目を見開いて狼狽する。そんな風にして驚いていると、両者の鍔迫り合いに進展が見られた。エルフマンが叫ぶと同時に、バルファルクはゆっくりと空中で後退して見せ、ある時を境に耐えきれなくなったのか、一気に押し出される。そして、地面へと衝撃を果たすのと同時に、地面を押しつぶすようにして象の足のようなものが大地を揺らした。その揺れは当然、マグノリアを、魔導士たちの立つ大地にも瞬時に届き、大地震を思わせるような振動に、皆がふらつきを見せ、剰え転倒する者も見て取れた。
「くっ…これが、八門を開いたものの力…」
ギルダーツは大きく揺れる地面に体勢をととのえながら、戦いの行く末を見据える。地面へと衝撃を果たしたバルファルクに、追撃を辞めたエルフマンは、ゆっくりと地面へと落下し、着地して見せる。暫くたっても地面から現れないバルファルクに、ミラとリサーナは些少の歓喜を表情に漏らす。
「も、もしかして…ッ!」
「た、倒したのっ!!」
だが、そんな2人の言葉を覆すようにして、大穴からバルファルクが飛び出し、大きく槍翼を広げる。
「ふふふっ!八門遁甲の陣とやり合うのはまれだっ!!!折角だ、相手をしてやる!!!」
バルファルクは、地面へと足を預けるエルフマンに対し、楽し気に言い放って見せた。その様相を見て、ギルダーツが苦悶の表情を浮かべる。
「くっ…やはり、まだ倒せはしないか…」
「エ、エルフマンは何をしたんだ…ッ!」
ギルダーツのそんな言葉に、ラクサスは酷く狼狽した様子で口を開く。そんなラクサスの言葉を受け、ギルダーツは一つ息を付くと、他の皆にも説明するように口を開いた。
「八門遁甲の陣…禁じられし膂力魔法の一つ…己の魔力のリミッターを外し、極限まで力を引き出す魔法だ…」
「禁じられた魔法…リミッターだと?」
ギルダーツの呟きに、エルザは低く唸るようにして口を開いた。すると、今度はマカロフがその疑問に答えるようにして口を開く。
「わしらが使う魔力…それが流れる魔導士の身体には、魔力の流れを制御する8つの弁がある。それを己の魔力で無理やりこじ開け、常人離れした力を発動させる…それが八門遁甲」
「…つまり、火事場の馬鹿力を意図的に発動させる魔法…」
マカロフの簡単な説明に、ヒノエが一つの例を挙げる。その捕捉もあり、皆はようやくエルフマンが発動した魔法の一端を知ることができた。
「簡単に言えば、そうなる…。だが、そもそも努力で習得できるような魔法じゃねえんだ…」
「…どういう意味だ?」
ギルダーツの含みある言葉に、ウルは怪訝な様子で口を開く。
「…そのままの意味だ…。この八門遁甲は…あのアレンですら、習得できなかった魔法だ…。エルフマン…あいつは、はっきり言って天才としか言いようがない…」
ギルダーツの言葉に、皆は大きく目を見開く。
「ア…アレンが習得できなかった魔法…」
「そ、それをエルフマンが扱って見せてるっての…?」
「マ、マジかよ…」
カグラ、ウルティア、ガジルが引きつったようにして口を開く。そして、話しを戻すかのようにしてマカロフが再度口を開く。
「そして、その力の全開放、つまりは8つの弁…門をすべて開いたものは、聖十大魔道…イシュガルの四天王をも大きく上回る、何十倍もの力を引き出すことができる…」
「なっ…聖十大魔道をも上回るだとっ!」
その言葉に、ラクサスが今までにない驚きを見せる。だが、ルーシィは一つの疑問を抱くことになる。
「だ、だったら、最初からそれを使えばよかったんじゃ…」
「ダメなんだっ!!!!!!」
ルーシィの呟きに、ギルダーツは大きな怒号を放つ。ルーシィだけでなく、その声を聴いた魔導士たちは驚いた様子で目を見開く。
「一時…一回きりなんだ…この力を引き出せるのは…」
「ど、どういう…意味…?」
ギルダーツの震えるような声に、思わずリサーナが疑問をぶつける。だが、ギルダーツはその問いに答えようとせず、ただただエルフマンとバルファルクの様相を眺めている。そんな様子のギルダーツに、皆は怪訝な様子を見せていたが、ラクサスの狼狽したような声に、それを驚きのモノへと変えていく。
「お、おい…何を…何を泣いてやがんだ…じじい…」
ラクサスの言葉を聞き、皆がマカロフを視界に捉える。マカロフの頬には涙が伝っていた。そして、ボロボロと涙を流すマカロフに、皆は焦ったような様子を見せる。
「この…この魔法を発動した者は…発動後…ッ!!」
皆はマカロフの言葉を、目を見開き、酷く驚いた様子で待っていた。…だが、その驚きが序章であったことに、すぐに気づかされることになる。
「発動後…必ず死ぬんじゃ…ッ!!」

マカロフの言葉を聞いた瞬間、皆はまるで魚のように口をパクパクさせて、驚愕の表情を浮かべていた。…なぜギルダーツが口を紡いで説明をするのと拒んだのか…。なぜマカロフが大粒の涙を流していたのか…。それを知った皆は、驚愕の感情の中に、徐々に絶望を滲ませていくことになる。…だが、一人だけ、他の皆よりも先に絶望を滲みだす人物がいた。その人物は、目に生気をなくし、意識を失うようにして膝から崩れ落ちる。それを見たリサーナが、驚いたようにその人物を支える。
「ミ、ミラ姉ッ!!!」
リサーナは、今にも倒れこんでしまいそうなミラをぎゅっと抱きかかえ、心配そうに声を張り上げた。…続けて、ナツが酷く狼狽したように口を開く。
「ちょっと待てよ…どういうことだよ…ッ!!」
ナツの言葉に、誰も答えようとしない。ミラが倒れこむのと同時に、皆は理解してしまったからだ。もちろん、声を張り上げたナツも同様であったが、それが信じられず、思わず言葉を漏らしたのだ。
「そのままの意味だ…つまり…」
ギルダーツは拳をぎゅっと握りしめ、目尻に涙を浮かべる。
「つまり…エルフマンに残された時間は…あと…数分だってことだ…ッ!」
その言葉に、ミラは声を上げて泣きじゃくる。そんなミラを抱きしめるリサーナも、呻き声を漏らしながらドパドパと涙を流す。
…レヴィやルーシィ、エバなども困惑したように小さく涙を流して見せ、それはその場にいるもの全員…。特にフェアリーテイルの魔導士たちに伝染し始めた。

エルフマンは大穴から大きくその身を空中へと戻したバルファルクを、睨むようにして見据えていた。先ほどエルフマンが放った『夕象』は本来、1足から5足までのギア上げ連続攻撃である。先ほど、その1足を放ち、その後に2足に繋げなかったのは、あれでバルファルクを倒せたと過信していたわけではなかった。2足へと移行しようとした際、ありえないほどの激痛が自身の腕に走り、連撃を止めるに至ったのだ。
エルフマンは自身から距離を取るようにして空中へ駆けるバルファルクを見据えると、地面を蹴り割り、後を追うようにして空中を翔る。更に空中へと身を乗り出したエルフマンは、空気を蹴り上げるようにして空を舞う。
そんなエルフマンの姿を見て、バルファルクは小さく怪訝な様相を見せる。
「驚いたな…。まさか空中を蹴り上がってくるとは…それに…」
バルファルクは更に怪訝な様相を見せる。それは、最高出力に近い、いわゆる音速に近い速度で飛翔している自身に、少しずつ近づいてくるエルフマンに対して向けられたものであった。
「我の飛翔速度より速いとは…ッ!」
バルファルクは自身へと近づき、その後一定の距離を保って自身がいる周りを旋回し始めたエルフマンの姿を確認し、その身を飛翔から滞空へと変化させる。真っ赤な魔力を纏い、音速を超える速度で円を描くようにして旋回していることで、バルファルクの周りを包み込むようにして、まるで真っ赤な輪が生成される。
バルファルクはそんな真っ赤な輪を眼球を激しく動かして視界に捉えようとする。確かに速い。だが、捉えられない程ではない。そう判断したバルファルクは、エルフマンの行動を認知しようと全神経を集中させる。
…そして、暫くしてその視線を前方へと座らせる。何とかエルフマンの姿を捉えたとき、エルフマンは拳を大きく振り上げ、今にも攻撃を仕掛けようとしていたのだ。
「一足っ!!!」
瞬間、先ほど自身を地面へと落とした白き象の足が圧倒的な速度で襲い掛かってくる。
「ッ!やはり速いっ!」
バルファルクは先ほどと同じように槍翼を、だが、先ほどよりは龍気をその槍翼に充填させ、受け止めるようにして前方へ振り下ろす。縦のようにして前方へ折り重ねた槍翼は、エルフマンの夕象を防ぎ、バルファルクを空中へと滞空せしめる。
バルファルクは、耐えきれる程度の攻撃力であったことに些少の安心を漏らす。だが、それはすぐに驚きのモノへと変化させる。…先ほどまで前方に捉えていたエルフマンの姿が掻き消えていたのだ。
「2足っ!!!!」
エルフマンは目にも止まらぬ速さでバルファルクの斜め後方へ移動して見せ、連撃を放って見せる。バルファルクがそれに気づき、視界をその咆哮へと向けたときには、すでにエルフマンの攻撃が眼前へと迫っていた。
「ガッ!!」
エルフマンの攻撃は、バルファルクの頭部を横から振りぬくようにして襲い掛かる。
「3足っ!!!!」
「4足っ!!!!」
バルファルクの斜め前方、真横へと移動し、更にエルフマンは連撃を重ねる。
「ぐっ…がはっ…う、動けんっ…!」
4方向から圧倒的は力の波動をその身に受けたバルファルクは、空中で固定されるようにして身体を拘束させる。
「っ!!5足!!」
バルファルクの身体の自由を奪ったことを理解したエルフマンは、空中を蹴り上げ、バルファルクに向けてその身を移動させる。それを見たバルファルクは、一気に苦悶の表情を見せる。
「(くっ…これほどの風圧を生む拳を、直接受けるのは…さすがにまずいっ…)」
バルファルクは、少しずつ力の弱まりを見せる1足から4足までの力により発生していた風圧を何とか自身の身体から引きはがし、こちらへ向かってくるエルフマンへと赤き龍弾を数発、発射させる。その龍弾は、向かってくるエルフマンと相対するようにして、徐々にその距離を詰める。
これで倒せるとは思っていない…。だが、いくら力の増強が為されているとはいえ、この龍弾を、これだけの数の龍弾を受けて怯まないはずないと確信していた。故にそれが生じたすきに、バうファルクは体勢を整えようとしたのだ。
…だが、それはバルファルクとエルフマン、その2人が相対する真横から飛来した何かによって遮られることになる。
赤き複数の龍弾がエルフマンへと直撃する少し手前…真横から矢のような、暴風のような衝撃が飛来し、バルファルクが放った赤き龍弾の軌道をずらされる。それにより、龍弾はエルフマンへと衝撃を果たすことはなく、エルフマンの横を掠めるようにして虚空へと流れていく。
「なっ…!!」
その様相をみたバルファルクは、一瞬冷静さを失う。一瞬であった…。だが、その一瞬が命取りであった。音速に迫る勢いで自身へと迫っていたエルフマンは、その一瞬で一気に距離を詰め、バルファルクの胸部にその一撃を決め込んだ。
『バキャ…ブキャ…ッ!!』
エルフマンの拳が、バルファルクの胸部へと衝撃したと同時に、バルファルクの胸元から異様な、形容しがたい破壊音が発生する。
そして、空中へと滞空せしめていたバルファルクの身体は、その攻撃によってその場から剥がされ、エルフマンに押されるようにして空中を滑空する。
「ぐはっ!!!!」
胸部への直撃、そして破壊…。衝撃と痛み、ダメージによって、バルファルクは嗚咽を漏らしながら小さく血を吐き出す。
瞬間、空中を滑空していたバルファルクは、押し流される形で地面へと衝撃し、フェアリーテイルの魔導士たちのいる少し前方を横切るようにして、地面を抉りながら吹き飛ばされていく。
その攻撃により、マグノリアの街に巨大な溝のような傷跡が残ったのは、言うまでもない。

エルフマンの圧倒的な速度、そしてその速度をもってして放たれる圧倒的な力に、その様相を見据えている魔導士たちは、驚愕の表情が浮かぶ。
エルフマンの発動した『八門遁甲の陣』。そしてそれが齎す『死』というリスク。それによる絶望を、皆の頭から一時的に吹き飛ばせざる負えない驚異的な戦いに、皆は視線を固定させるように狼狽していた。
「さっきの技の連撃…っ!」
「っ!ただの連撃じゃない…一回ごとに威力が増してる!!」
「それってつまり…」
「…バルファルクを墜としたあの一撃は…もっとも弱い一撃だったってことか…」
ウェンディ、カグラ、ルーシィ、グレイが言葉を漏らすようにして口を開く。先ほどまで大粒の涙を流して泣き叫んでいたミラやリサーナ、エバもエルフマンの凄まじい攻撃に、目を奪われていた。
エルフマンの連撃による攻撃…『夕象』により、バルファルクが一切の身動きを取れないような様相を見て、皆はまたも大きく目を見開く。そして、そんなバルファルクを直接攻撃しようとするエルフマンと、それを阻止しようと何とか身体を動かすバルファルクの姿を捉える。
「や、やべえぞっ!」
「赤い弾がっ!!」
バルファルクから放たれた数発の赤い龍弾を見て、皆が怪訝な表情を浮かべる。それと同時に、弓と槍を構える2人の女性が現れる。それに気づいたエルザとラクサスが、驚いたように声を上げる。
「ヒノエッ!」「ミノトッ!!」
2人は自身の名を呼称する声に反応することなく、空中へ向けて矢を入り、槍を振りぬく。
ヒノエの放った数本の矢と、ミノトが振りかぶった槍から発せられる暴風が、圧倒的な速度で空中を飛翔し、それがエルフマンへと肉薄する赤き流弾を捉える。赤き流弾を消滅させるには至らなかったが、その軌道をずらすことには成功し、エルフマンへと襲い掛かるのを阻止する。
その後、エルフマンの攻撃がバルファルクへと直撃し、バルファルクを地面に叩きつけ、引きずる様にして大きな砂ぼこりを上げる。それにより地面に、マグノリアの街中に、まるで川が流れていた跡地のような大きな溝が形成される。
ゆっくりと砂ぼこりが晴れると、真っ赤な魔力を身に纏い、大きく息を荒げてバうファルクが吹き飛んでいった方向を見据えているエルフマンの姿を確認するに至る。
「っ!エルフマン!!」
「エルフ兄ちゃん!!」
その姿を確認したミラとリサーナが、目尻に涙を浮かべながら声を張り上げる。だが、エルフマンはその言葉に反応せず、変わらず砂ぼこりが立ち込める方向へと視線を預けていた。
「や、やったのか…」
「なんという…」
ナツとミネルバが小さく驚いた様子で呟く。その驚きには些少の歓喜が含まれていたが、それは一気に絶望へと誘われる。
砂ぼこりの中から、巨大な翼をもった影が、ゆっくりとその身を動かしたからだ。その巨大な影は、一気に翼を振りぬき、巨大な咆哮を上げる。と同時に、立ち込めていた砂ぼこりが晴れ、視界が明瞭と化す。それを認識したエルフマンは、目を見開き、小さく呻き声を漏らす。
「…アレンの時と同じものだ…。この高揚感は…」
バルファルクの含みあるいい様に、魔導士たちは苦悶の表情を浮かべる。
「そ、そんな…」
「野郎…まだ…」
「あれでも…ダメなのか…」
ユキノ、ギルダーツ、カナ、がこれまでにないほどの困惑を滲ませる。
「まだ…立っているな…。更に別の技はないのか?…もっと楽しませてくれ…」
「(…連続の夕象を喰らってもまだ…っ!!)」
エルフマンは、悪態を付くようにして心の中で呟く。…エルフマンの顔に、じっとりとした汗が滲み、それが落ちていく。エルフマンはギッと歯を食いしばる。そんなエルフマンの様子を見ながら、バルファルクは荒げていた息を一度止め、ゆっくりと口を開く。
「我が名は『奇しき赫耀のバルファルク』…稀にみる強きものよ…名乗ってみせろ…」
バルファルクの言葉に、エルフマンは大きく前後に開脚し、両手を地面へとつけ、次なる攻撃の準備を始める。
「フェアリーテイルッ!『エルフマン・ストラウス』ッ!!!」
「エルフマン…ストラウスか…貴様のその名…生涯覚えておこうっ!!」
バルファルクはその名を噛みしめるようにして言葉を発すると、大きく咆哮して見せる。対してエルフマンは、先ほどの態勢を維持したまま、圧倒的な魔力をその身に纏わせる。
「積っ!!!」
そう呟くと同時に、エルフマンの周りには赤き魔力が半球のような形を作り、その半球の中心からは、天を突かんばかりの赤き魔力が放出される。
その様相を斜め横から眺めるようにして、魔導士たちは目を大きく見開く。
「くっ…あの構え…さっきの技じゃない!!」
「まさか…」
「あれ以上の技があるってのっ…だゾ!!」
「…エルフ兄ちゃん…」
一夜、リオン、ソラノが酷く驚いた様相を見せ、リサーナが目尻に涙を浮かばながら小さく呟く。
再度息を整えるようにして、大きく息をしているバルファルクは、そんなエルフマンを見て、一つの予測を立てていた。
「あの魔力からして…次が最後の攻撃となるな…ッ!」
そう呟いた途端、エルフマンの顔が自身へと向けられる。その顔には、まるでマグマが血走ったような文様のようなものが見て取れる。更に皮膚は茶色に近い黒い色を有していた。
バルファルク含め、皆がその様に驚いた様子を見せていたが、更にそれ以上の驚きが生まれる。
先ほどまでエルフマンを覆っていた赤き魔力は、強大な何かを形どる。そしてそれは徐々に明瞭な者へと変貌を遂げ、それが何を形作っているのかを認識することになる。それを見た魔導士たちが、特にその生物との関りが深い者たちが驚愕の意を示す。
「あ、あれは…」
「ドラゴン…ッ!!」
「魔力が…!!」
「竜を…」
「形作ってるってのかっ!!!」
ウェンディ、ガジル、スティング、ローグ、そしてナツが続けざまに声を発する。
エルフマンが形作った、赤き猛虎を思わせるような竜は、エルフマンを包み込むようにしてその魔力を安定させ、唸るような咆哮をバルファルクへと向ける。それを見たバルファルクはニヤッと笑みを浮かべる。魔力を感じ取る…。確信する…。そして、エルフマンへと今までにない声を張り上げる。
「ッ!この力認めてやろう!!人間において、俺の戦ったもので、お前の右に出るものは、一人としておらんっ!!!」
バルファルクの言葉を聞きながら、エルフマンは今にも飛び出さんと足と手に力を籠める。そして、バルファルクが続けるようにして口を開いた。それによって発せられた言葉は、魔導士たちを震撼させ、酷く納得させるものとなる。
「この奇しき赫耀のバルファルクがっ!!!…エルフマン・ストラウス!!!。お前を、アレンをも超える最強と呼んでやるッ!!!!!!」
「ッ!!流ッ!!!!」
バルファルクがそう言い放った瞬間、エルフマンは地面を蹴り割って駆け出す。それと同時に、エルフマンが纏っている赤き竜も大きく、咆哮を上げ、巨大な翼を広げながら地面を這う様にして進撃する。
バルファルクは、そんな様相を見せるエルフマンを見据えながら、槍翼に限界まで龍気エネルギーを充填させて迎え撃とうとする。…だが、とある違和感を感じる。
自身が突き出した両の槍翼が、一瞬にしてあらぬ方向へと曲げられる。攻撃を受けたてのモノではない…。もっと、概念的な者が変化していることに気付く。バルファルクはそれを察すると、冷や汗を流しながら、酷く困惑した様子で口を開く。
「バ、バカなっ!!!空間が…捻じ曲がっただとっ!!!!!!!!」
そう言い終えた瞬間、バルファルクの目の前に、エルフマンが現れる。自身を飲み込むほどに強大な竜の口を思わせる魔力を見て、バルファルクは大きく目を見開く。
「ま、まず…」
バルファルクは、失態を犯したように言葉を発するが、それはエルフマンの怒号と、ありえないほどの威力の蹴りによって遮られる。
「『夜ガイッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』」
エルフマンのとび膝蹴りが、バルファルクの槍翼に直撃し、バキャッという破壊音を生み出して根元から粉砕していく。それだけにとどまらず、槍翼を破壊したエルフマンの蹴りは、そのままバルファルクの胸元へ誘われ、バルファルクはまるで『く』の字のようにして身体を大きく曲げる。
「がっ!!!!!!」
先ほどの夕象など比べ物にならない威力のそれは、今まで上げたことのない悲鳴を、バルファルクに齎す。
エルフマンによって生み出された赤き竜は、マグノリアの街を完膚なきまでに破壊していきながら、音速にも迫る勢いで突き進んでいく。
それによって生み出される余波も言葉で言い表すのも難しいほどであり、それだけで幾千もの命を奪い去る様な力を有していた。
「ス…スサノオッ!!」
故に、エルザはその余波を感じ取り、その場にいるもの全員を包み込むようにしてスサノオを展開して見せる。
「ぐっ…!!」
「いやっ!!!」
「うわあっ!!!」
「キャーっ!!!」
全員が、それぞれに大きく悲鳴をあげる。10mを優に超えるスサノオの姿を、一瞬にして包み込むほどの衝撃と余波、砂ぼこりがマグノリアの街を駆け巡る。
エルフマンは、自身の右足にバルファルクの胸元を捉えた感覚を得ると、全ての力を出し切るようにして、全身をもってバルファルクを穿つ。
「ぬううううううううああああああああっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
エルフマンがそう叫ぶのと同時に、バルファルクと赤き竜を纏ったエルフマンはその進路少しずつ空中へと変え、天に届きそうな勢いで空高く舞い上がる。
一体どれほどの時間であっただろうか…。後から言われればたかが数十秒の攻撃…。だが、それをまじかで見ていた者たちにとっては、それはとてつもなく長い時間であった。
…赤き竜は、徐々にその力を衰えさせ、最後の最後にバルファルクを空中に投げ出すようにして見せると、一瞬で飛散し、その姿を消した。
それによって、真っ黒に焼けこげたような姿を露にしたエルフマンが見て取れた。
エルフマンは、閉じかけた目で空を眺めたかと思うと、小さく笑いかけて、地面へと落下し始める。引き飛ばされるようにして空中へ身を預ける形となったバルファルクは、エルフマンよりも高い位置から地面へと落下する。
…そして、一部が完膚なきまでに破壊つくされたマグノリアの街に、些少の時差をもって、エルフマンとバルファルクが地面に衝撃して見せた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧