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Fate/WizarDragonknight

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見滝原中央駅崩壊

 ムーンキャンサー。真名、邪神イリス。
 女神の名前にそぐわず、見る者を魅了する美しさを全身に浮かび上がらせながら、それは見滝原の夜空を滑っていく。
 その目的地は、見滝原の中心地、見滝原中央。その駅ビルは、見滝原でも五本の指に入るほどの巨大建造物として、見滝原の象徴としても栄えている。
 音もなく、その屋上に着地したイリス。
 その重量に、見滝原中央駅の駅ビルはきしみ音を立てるが、イリスは構うことはない。
 全身から雨による雫を垂らしながら、イリスは静かに見滝原の街を眺める。
 やがて、イリスはその咆哮を上げた。クジラの鳴き声にも似たそれは、見滝原全土に行き渡る。
 だが、イリスが望んだ反応はない。イリスはより完全な姿を求め、融合相手を探していたのだ。
 あの少女が持っていたはずの勾玉。本来であれば、それを通じて彼女を操ることができたのだが、異世界における神の樹が遣わした妖精によって粉々にされたことはイリスが知る由もなかった。
 逃げ惑う人間たちには目もくれることもなく、イリスは見滝原の街並みに目を光らせる。
 そして___見つけた。
 この見滝原中央駅から少し離れた場所で、ライダーのサーヴァントと一緒にいる。離れているが、イリスの速度であればあっという間に到達できる。
 今まさに向かおうとするその時。
 イリスに追いつくほどの速度を持つ刀使が、その斬撃をイリスへ飛ばしていたのだった。



「無双神鳴斬!」

 可奈美の虹色の刃が、夜空を彩っていく。
 祭祀礼装によって強化された可奈美の主力技が、イリスの体を切り裂いていく。
 だが、ヤマタノオロチを倒したこの技でさえも、イリスの驚異的な再生能力の前ではほとんど役に立たない。
 即座に回復し、再び可奈美へ触手を放つ。

「っ!」

 可奈美は減速して触手から離れる。体を回転させ、迫って来る触手を全て弾き返す。
 さらに、可奈美はさらなる速度で動く。
 イリスの触手を全て切り裂き、その本体にも何度も斬撃を与えていく。
 その巨体からすれば大したダメージではないだろうが、こちらに注意を向ける事には成功した。
 イリスは可奈美へ集中して触手を放つ。もはや可奈美の体で間に通って避けることさえも許されないほどの密度。
 だが。

「よく見る、よく聞く、よく感じ取る!」

 可奈美は、次々に狙ってくる触手を次々に弾き返していく。さらに、顎下から隙を狙う触手に対しては、体を大きく反らしてバラバラに動く触手を避け切る、さらに、時折千鳥を振り回し、周囲の太い触手を次々と切り裂いていく。
 さらに、のけ反った触手に飛び乗り、そのまま駆ける。一気にイリス本体へ辿り着き、その巨体を次々に切り裂いていく。
 イリスの悲鳴を耳にしながらも、可奈美はさらにその巨体を足場にジャンプ。イリスの頭上より、千鳥で斬りつけた。
 無論、それも威力は足りない。イリスにとっては、蚊ほども感じないだろう。
 だが。

「っ!」

 イリスは、完全に可奈美へ敵意を向けている。

「こっちだよ!」

 少なくとも、イリスを人口密集地から引き離すことは出来るかもしれない。

「行くよ、迅位斬!」

 可奈美の千鳥から、雨粒を切り裂く刃が放たれる。
 イリスは触手の間に虹色の幕を張り、可奈美の攻撃を防いだ。
 切り取られ、飛んで行く触手たち。それらを見送りながらも、可奈美はさらにイリスへ接近。

「可奈美ちゃんッ!」
「遅れてごめん!」

 そして、イリスの頭上より、友奈と響がその姿を現わす。二人はその巨大な拳で、イリスの両肩を叩く。
 いきなりの不意打ちに、イリスは体勢を崩す。その隙に、可奈美はイリスの首へ日本刀を振り下ろす。
 だが、まだ有効打には程遠い。
 起き上がったイリスは、全身より音波を放つ。
 体に集まっていく可奈美、響、友奈を同時に吹き飛ばすそれは、三人を近隣のビルの屋上に墜落させた。

「ぐっ……」

 イリスはそのまま、可奈美が墜落したビルの屋上へ、触手の雨を降らせる。
 だが。
 触手の先に、無数の漆黒の魔法陣が現れた。
 それは、触手を数か所に分けて拘束し、その動きを封じている。それを行っているのは、上空のキャスター。

「キャスターさん!」

 可奈美は驚く。
 キャスターはさらに、拘束した触手を動かす。
 伸ばすよりも早く動かしたそれは、イリスを見滝原中央駅の駅ビル屋上に投げ戻した。
 イリスの重量を受け、一部が潰れる駅ビルの屋上。
 さらにキャスターは、右手を頭上に掲げた。
 彼女の傍らの本が勢いよくめくられ、ページを示す。漆黒の魔法陣が記されるそれ。
 それは、彼女が幾度となく広範囲へ攻撃を放ってきたものだった。

「ディアボリックエミッション」

 通常ならばより広い空間ごと攻撃していくものだが、今回はそれを収束。キャスターの手のひらから球体状に大きくなっていくそれを、キャスターはイリスへ叩き落とす。

「えっ!?」
「待ってキャスターさん!」
「まだ中に人がッ!」

 後ろの三人が口々に叫んでいる。
 だが、キャスターはどうやらその言葉に従うよりもイリスへの攻撃を優先したようだ。
 ディアボリックエミッションに圧され、イリスの体が見滝原中央駅の駅ビル、その屋上から落ちていく。
 見滝原中央駅の駅ビルは、高さも広さも大きい。イリスの体は、そのまま天井を突き破り、
駅ビルの吹き抜け、そのフロアに激突する。
 破壊されたコンクリートの欠片が、雨のように施設内に降り出していく。あちらこちらに散らばる小さき者たちを圧し潰さんと落ちていく。

「「いけないっ(ッ)!」」

 敵を目の前にして、愚かにも奏者と勇者は敵であるイリスではなく、下に散らばる人間たちのもとへ駆けつける。
 それぞれが、巨大になった腕で瓦礫から人間たちを庇う。

「友奈ちゃん、響ちゃん! 急ごう!」
「うんッ!」
「そうだね!」

 イリスが落ちていった天井の穴から、可奈美、響、友奈は次々に突入していく。
 中心が吹き抜けとなり、各階のテナント店舗が一望できる構造の見滝原中央駅の駅ビル。
 その中心で、イリスは落ちながらもキャスターと光線を打ち合っている。
 それぞれが、人間など容易く破壊できる威力を持つ。一撃一撃が発射されるたびに、誰かが命を落としかねない。

「みんな、早く逃げて!」

 可奈美は両者の流れ弾を相殺させながら叫ぶ。
 地上階に降り立った可奈美は、そのまま吹き抜けの中心から全フロアを見渡す。
 目を凝らすと、可奈美の目が緑色の光を帯びていく。途端に、可奈美の五感は研ぎ澄まされ、壁の向こうであっても視認することができた。

「……! 友奈ちゃん! そこのフロア、洋服屋の試着室に二人! 上の本屋に三人いる!」
「ここに? 任せて!」
「響ちゃん! 最上階の玩具屋と、向かいのオーディオ屋にそれぞれ二人ずついる!」
「了解ッ!」

 響と友奈は、それぞれ可奈美の指示に従い、それぞれの店舗に突入する。
 煙が立ち込めるたびに、数秒で彼女たちは要救助者を連れ出し、外へ逃がしていく。
 可奈美はその場に立ち止まったまま、さらに続ける。

「友奈ちゃん! 響ちゃん! 二人とも、それで全員だよ!」
「オッケーッ!」

 絶唱と満開。それぞれ共通する巨大な腕に、より多くの人々を乗せ、二人のサーヴァントは地上の入り口へ降り立つ。
 それぞれから降りた人々は、助けてくれた者へ礼を言い、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「お前……その力は?」

 可奈美の隣に降り立ったキャスターが、祭祀礼装を目深く凝視した。

「あの素早さ……通常の刀使では、到達しえないもの……一体何だ?」
「えへへ。これは尊敬する人から受け継いだ、私の新しい力だよ!」

 可奈美は笑顔で応える。
 さらに、響、友奈も可奈美の隣に並ぶ。
 三人は顔を合わせて、頷き合う。
 そして。
 屋内という狭い領域の中で、イリスは参加者達を潰そうと、再び唸り声を上げたのだった。 
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