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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第10章 アルバレス帝国編
  第52話 禁忌の魔法

マグノリアの街で、バルファルクとの戦闘を行っているフェアリーテイルのメンバーや他ギルドの魔導士たちは、ミネルバの持つ護符に潜んでいたカリンの魂に助けられたのち、持ちうるすべての力をもって戦いに挑んでいた。
途中、スノードロップ村にて村人の避難誘導をしていたミラ、エルフマン、リサーナに加えて、ゼレフを打ち破ったナツ、そんなナツの生還を待っていたルーシィ、グレイ、ハッピーも参戦を果たす。
しかし、バルファルクの強さは尋常ではなく、全ての魔導士が徒党を組んでも大きなダメージを与えるには至らなかった。
「くそっ…バルファルク…なんて奴だ…」
「アレンはこんな奴を相手に…」
「たった一人で戦ってたっての…」
ラクサス、ギルダーツ、ウルティアが苦悶の表情を見せる。バルファルクは、槍翼を大きく広げると、先ほどまでの速度では考えられないほどにゆっくりと地上へ降り立つ。
「しかし、驚いたな…。まさかあのゼレフをやっちまうとは…」
「………」
バルファルクは、ゼレフの死を感じ取り、ナツに向けて畏怖を込めた声を放つ。そんな言葉を掛けられたナツは、じっとバルファルクを睨み、言葉を発しない。
「だが、お前含め、もう全員限界か?」
バルファルクの言葉に、皆が苦悶の表情を浮かべる。バルファルクの言う通り、もう皆殆ど身体が言うことを聞かなくなってきている。正直言って、立っているのがやっとといった状況であった。故にバルファルクの問いに対し、否定することができず、苦悶の表情を浮かべるに至ったのだ。
「まあ、スプリガン12共とやり合ったんだ…。俺を相手によくここまで持ったと言える…。竜人族の女2人と分解魔法と雷の滅竜の男は中々だ…。まあ、ゴミにしては…だがな…」
バルファルクの言葉に、先の4人はキッとバルファルクを睨みつける。
「しかし、拍子抜けも良いところだ…これだけ集まって、アレン1人にも届かないとは…滑稽の極みだな…」
「…ちっ、好き勝手言いやがる…」
「まあ、事実だな…それに関しては…」
「…どうする…。さすがにもう…」
グレイ、ギルダーツ、カグラがそれぞれに小さく呟いて見せると、一人の男が意を決したように集団の前に躍り出る。
「…エルフマン?」
バルファルクに近づくように歩を進めたエルフマンに、ミラは疑問を投げかける。
「皆…ここは俺に任せてみてはくれねえか?」
エルフマンの言葉に、皆は目を見開いて驚きを見せる。
「なっ…何馬鹿なこと言ってんだ!」
「皆で束になっても勝てないのよ?」
「一人でどうにかなるわけないじゃない!」
ラクサス、ウルティア、エバーグリーンが酷く困惑した様子で口を開く。…だが、この場にいる4人だけは、目を見開きつつも、些少の希望を見出したような表情を浮かべていた。
「確かに…エルフマンならいけるかもしれねえ…」
「お兄ちゃん…まさか、あの魔法を…」
「っ!やってみる価値はあるわね!!」
「エルフマンっ!頼んだよ!!」
ナツ、リサーナ、ルーシィ、ハッピーが口々にエルフマンへと声を掛ける。そのメンバーは、かつて、エルフマンと共に、首都クロッカスにて、雷狼竜ジンオウガと相対し、戦闘を行った者たちであった。
「しょ、正気か、お前ら!!」
「何をするつもりだ!!」
ギルダーツ、フリードが激高したように声を漏らす。瞬間、圧倒的な力の波動が、エルフマンを包み込む。その波動に、皆は魚のようにパクパクと口を動かす。
「な、なんだ…この力は…」
「ほ、本当にエルフマンなのか…だゾ!!」
リオン、ソラノが酷く驚いた様相を見せる。エルフマンは、その波動を感じ取るようにして、一気に力を拡散させる。
「はああああっっ!!!八門、遁甲!!!!第7驚門…かああーいぃ!!!!」
その瞬間、周囲に青いオーラのようなものが発生し、それは地面を割って暴風を齎す。その力を受け、魔導士たちだけでなく、バルファルクも身を震わせ、目を見開いて驚きを見せる。
「っ…!青い蒸気…いや、魔力か!?」
エルフマンを中心に発せられる青い魔力と暴風は、辺り一面に吹き抜ける。
「くっ…おいおい、マジか!!」
「なんだ、これは!!」
グレイとカグラは、自身の顔を腕で覆いながら、その暴風に耐えるようにして見せる。
「…エルフマンッ!!」
エルフマンから発せられる凄まじい暴風と力に、目を見開きつつも、ミラは困惑したように口を開く。
バルファルクは、強大になっていく青い魔力と暴風を見据えながら、ニヤッと笑みを浮かべて声を発した。
「八門遁甲…禁じられた膂力魔法の一つ…だが、死門の一つ前か…」
暴風は砂を巻き上げながら、バルファルクの元へと到達する。視界が不明瞭になったことで、バルファルクは小さく目を凝らしながらも、続けざまに言葉を発した。
「くっ…赤い魔力にならぬとは…舐められたものだっ!ッ!!」
バルファルクがそう言い終えた瞬間、目の前に、一瞬で青い魔力を纏ったエルフマンが肉薄する。と同時に、エルフマンは拳を振り下ろしてバルファルクを攻撃する。それを見たバルファルクは、全力で後方へと回避行動をとる。
エルフマンが攻撃を加え、バルファルクがそれを済んでのところで回避する。そんな様相を何度か繰り返して見せる。あのバルファルクのスピードをもってしても、全力で回避しなければ避けられないようなスピードを有するエルフマンの姿に、皆が驚いたのは言うまでもないだろう。だが、些少の冷静さを取り戻したヒノエは、そんなエルフマンに対し、アドバイスをするように言葉を言い放つ。
「っ!槍翼の伸縮に気を付けてください!!」
エルフマンはそれに対して返答はしなかったものの、バルファルクの攻撃を警戒している様子であった。拳だけでなく、足と身体…全身を用いて柔軟かつ高速で動き回り、バルファルクに攻撃を仕掛ける。
「まさか…エルフマンが…」
「こんな魔法を…」
エバーグリーンとミラは、まるでアレンの戦闘を見ているような様相を見せるエルフマンに驚愕の意を示していた。
「っ…俺より、速い!」
ラクサスが、どこか悔しそうに呟いたそれは、周りにいるものを更に驚愕させる。いや、目の前で起こっている応酬を見れば、それは手に取るようにわかる。だが、当の本人が…。フェアリーテイルのメンバーであれば、ラクサスはアレンに次いで圧倒的な速度を誇った魔法と身体能力を持っている。そんなラクサスが「自分より速い」と認めたということは、それはつまり、アレンにも肉薄する程の速度であるということだ。…現に、音速を超えるともいわれているバルファルクが、済んでのところで何とか躱しているのを見ても、それは事実としか言いようがなかった。
そんな風にして驚いていた皆であったが、その驚きの元凶であるエルフマンは、両手の指を絡めながらバルファルクへと突進していく。
「喰らえ…」
先ほどまでとは違う動きを見せたエルフマンに、バルファルクは目を見開いて警戒する。
「昼虎ぁ!!!!」
エルフマンがそう呟くと、瞬きをする間もなく真っ白な気弾のようなものが現れ、それは虎を思わせるものへと形作られる。
バルファルクは猛虎を思わせる白き気弾の速度に驚きつつ、回避が難しいことを悟ると、両の槍翼でもってそれを防ごうとする。
刹那、白き猛虎はバルファルクへと衝撃を果たすと、一気に拡散する。それによって生じた暴風が、白き煙のようなものが、圧倒的な力を振りまきながらマグノリアの街を駆け巡った。

首都クロッカスからエグルに乗ってマグノリアに向かっていたエルザ達は、あともう少しと言ったところで、強大な青い魔力と暴風に揉まれる。その暴風に一瞬身体を持っていかれたエグルであったが、即座に体勢を整えて飛翔を安定させる。そのエグルの背に乗っていたエルザ達も、その暴風に驚きつつも、その発生源へと視線を向ける。
「これは…マグノリアの街から…」
「一体なんだ…」
ウェンディとエルザが目を見開きながら驚きを見せる。徐々にマグノリアの街が大きくなっていく中で、その様相の詳細を理解することになる。
「白い…虎か…?それにこの魔力…エルフマンか!?」
「ッ!それにあれって!?」
「くっ…バルファルクか!!」
ジェラール、ウェンディ、エルザがそれを認識すると、再度圧倒的な暴風が襲い掛かってくる。それは、エルフマンが発動した昼虎の余波であった。
「な、なんて力だ…!」
「エルフマンの仕業なのか…」
エルザ、ジェラールは、圧倒的な暴風に驚きつつも、大きく言葉を発して見せる。暴風が収まりを見せ、些少の静けさを取り戻したことで、皆が冷静さを取り戻していく。
「っ…!急ぎましょう!!エグルさん!!」
ウェンディの言葉を聞いてか、エグルは「キィィッ!!」と鳴き声を漏らすと、先ほどの様相を見せていた場所へ向けて、翼をはためかせて向かっていった。

首都クロッカスにおいてアクノロギアとの戦闘を行っているアレンは、スサノオを展開して迎え撃っていた。
アクノロギアは、アレンのスサノオの力に驚きつつも、戦闘を楽しんでいるような様相を見せていたが、何度かスサノオの攻撃を受けたことで、それを怪訝な表情へと変える。
「貴様…なぜ…」
アクノロギアは目を細めながら、問うようにしてアレンへと声を放つ。それを聞いたアレンは、ふっと小さく笑いかけると、アクノロギアと距離を取り、一時攻撃を中断する。
「気付いたか?…まあ、気付かない方がおかしいわな…」
アレンはアクノロギアの言葉を噛みしめるようにして口を開く。アクノロギアは、アレンの動きに警戒を見せつつも、自身も攻撃を中断し、続けて問いかける。
「なぜ…なぜ我の魂に攻撃を…」
アクノロギアは酷く困惑していた。アレンの力は絶大だ…。人間の身でありながら、竜の王である自身と互角の戦い…いや、上回る戦いを見せてきた。剰え、敗北を喫したこともある。だが、アレンがいくら強くとも、滅竜の力を持たぬアレンには、自身の魂を気付つけることはできない…。故に、アクノロギアからすれば、アレンといくら戦闘を行おうとも、本当の意味での消滅、死を迎えることはない。
それこそが、例えアレンの力の方が上だと理解していても、アクノロギアが今迄アレンとの戦闘を幾度となく繰り返していた理由であった。
アクノロギアにとっては、アレンとの戦いで自身が本当の意味で死することはない。幾たびも戦闘を続けていれば、いづれアレンの命を刈り取るチャンスを得ることができる。例えそれが不可能でも、戦闘を行えば行う程、アレンの寿命を奪い取ることができる。
将来的に見れば、アクノロギアに敗北はなかった。
だが、今のこの状況は、上記の内容を悉く打ち壊すものであった。…アレンの攻撃が、アクノロギアの魂に届いているのだ。それも、滅竜とは違う、自身の知りえない力によって。
「これは…スサノオの力ではないな…黒き稲妻のようなオーラ…それが我の魂に傷を…」
アクノロギアは目を細めながら、アレンの、スサノオの様相をその目に写す。アレンの発動しているスサノオの両の手に携わる魔力の剣は、赤黒いオーラのようなものを纏っていた。それは、前回の戦い、天狼島でのアレンとの最後の衝突の際に見たものと同じであったが、その力と様相は、その時のモノとは比べものにならない程の力と畏怖を抱かせるものであった。
「ああ、お前の予想通り、お前の魂に傷をつけているのは、この黒きオーラの力だ…」
アレンはそう呟くと、少し俯いて見せる。そして、少しの間をおいて、再度小さく呟く。
「…お前には、一切の魔法が効かない…故に、お前を倒すには膂力での攻撃しか…お前を消滅させるには滅竜の魔法しかない…そう思っていた…」
アレンの言葉を、アクノロギアは静かに聞き入っていた。
「…1年前まではな…」
「…なんだと?」
アレンの含みある言葉に、アクノロギアは怪訝な様相を見せる。
「…だが、それが間違いだった…。魔法が効かないのであれば、魔法以外の手段で攻撃すればいい…そしてそれを、お前を滅するだけのモノへと高めればいいだけの話だったんだ…」
アレンはそう言葉を言い終えると、スサノオに纏っていた赤黒いオーラを更に強力なモノへと変化させる。そして、それを纏った剣をアクノロギアに向けると、畏怖を込めた言葉を言い放った。
「この力は『覇気』…。全ての人間に潜在する『意思の力』…。引き出すのは容易ではないが、身に着ければ圧倒的な力の強化を得ることができる…。そして何より…」
アレンはそう言ってアクノロギアへと覇気を纏ったスサノオの両の剣を振りぬく。アクノロギアは避けきれずに些少の切り傷とダメージ負う。…身体だけでなく、魂にも。アクノロギアはそれを感じ取り、再度驚きを浮かべる。
「この力は…竜の身体を、魂を…あらゆるものへと届きうる力を持つ…。そう…神にすらも…」
「なるほど…意思の力…か。そんなものが存在していたとはな…。アレン・イーグル…やはり貴様は別格だ…」
アクノロギアは、久しく感じなかった命の危機を前に、今までにない警戒を張り巡らせる。それは、アレンという本当の意味で自身の存亡を脅かす存在を意識してのことであった。…だが、その警戒が、全く別の力を、波動を感じ取ることになる。それは、先ほどアレンが言った『意思の力』のようなものであり、アレンと同じ自信を滅しかねない力であった。
「っ!これは…一体…東の方向か…」
「…っ!マグノリアの方向…!まさか…この感覚…昼虎…エルフマンか!!」
アクノロギアはその畏怖を覚えた力を発する方向を察知すると、怪訝な様相を見せる。加えて、アレンもその力に気付き、狼狽して声を発する。…そう、修行期間中に、エルフマンに伝えた禁じられた膂力魔法の力であったからだ。
「ま、まさか…第7門まで開いたのか…。俺でも習得できなかった力を…」
アレンはその力に、それを解放しているであろうエルフマンのことを思い浮かべながら、酷く困惑して見せる。だが、対してアクノロギアの反応はまったく別のモノであった。
「…相対しているのは…天彗龍か…ふふふっ…これは好都合…」
アクノロギアはそう言い終えると、翼を大きく広げ、空中へと飛翔する。それを見たアレンは大きく目を見開いてアクノロギアを見つめる。
「…アレン…うぬとの戦いは一時お預けだ…。我は、天彗龍を喰らいにいく…」
「ま、まて!アクノロギア!!」
アクノロギアの発言と行動に、アレンは酷く驚いて見せる。
「うぬとの決着は…天彗龍を喰らってから、じっくりと楽しむとしよう…」
アクノロギアはそう言い残し、目にも止まらぬ速さで空中を翔る。
「くっ、くそっ!!!」
アレンは、そんなアクノロギアの後を追うようにして、地面を蹴り割って空中へと身を投じた。

エルフマンの発動した八門遁甲第7驚門による『昼虎』を受けたバルファルクは、激しい砂ぼこりをあげながら後方へと押し出される。だが、昼虎の直撃を両の槍翼で受け止めたバルファルクは、ゆっくりと自身の前で折り重ねた槍翼を元の位置へと戻す。
ダメージはある…。だが、部位破壊にすら至っていないダメージに、バルファルクは小さく笑いかけ、晴れ始めている砂ぼこりの中から、エルフマンの姿を捉えるに至る。
エルフマンは、先ほどの昼虎の反動からか、先ほどまで放っていた青い魔力は一切の消滅を見せ、地面に身体の所々を埋めるようにして地に伏していた。
「ぐっ…うう…」
息はあるようであった。呻き声を漏らしながら、エルフマンは地に伏したままの体制を取っていた。それを認識したバルファルクは、赤き龍弾を放ち、エルフマンへと攻撃を仕掛ける。
「ッ!エルフ兄ちゃん!!」
「まずいッ!避けろ!エルフマン!!」
先ほどまでエルフマンの攻撃の応酬、そして昼虎の威力に目を見開いて驚いていた魔導士たちであったが、バルファルクの攻撃が放たれるのを見て、いち早く冷静さを取り戻したリサーナとラクサスが張り上げるようにして声を放つ。
そんな折であった。
どこからともなく現れた強大な翼をもった影が、その足をもってエルフマンを掬い上げ、済んでのところで赤き龍弾を避けるに至る。その巨大な翼をもった影は、エルフマンを救ったのち、魔導士たちのいる目の前に移動し、エルフマンをそっと地面へと預ける。
「ッ!あれは…アレンの口寄せの…」
「エグルか!!!」
その陰の正体を理解したガジルとナツが、驚いた様子で声を張り上げる。そのエグルの背中から、3人の仲間がシュッと飛び降りてくる。
「エルザ!ジェラール!!それにウェンディ!!」
「無事だったのね!!」
「…アレンは一緒じゃないのか?」
ルーシィ、ウルティア、カグラがその3人の姿を見て、大きく口を開く。
「アレンは首都クロッカスでヒスイ王女と会っている!」
「時期にここに来ます!」
その問いに、ジェラールとウェンディが答えると、エルザが激高した様子で口を開いた。
「これは一体どういう状況だ!!」
「エルフマンがバルファルクと戦ってたのよ…」
エルザの問いに、ウルが少し苦しそうに言葉を発した。
「エルフマン!!」
「無事なの!!」
ミラとエバーグリーンは、ゆっくりと身体を上げるエルフマンに、心配そうに駆け寄る。
「姉ちゃん…エバ…ああ、右腕と肋骨数本にヒビが入った程度だ…」
エルフマンは、痛みに耐えながら声を絞り出す。そして、先ほどまで戦闘を繰り広げていたバルファルクへと視線を移す。ダメージを与えることに成功はしたものの、致命傷には遠く及ばず、ピンピンとした状態で鎮座しているのが見えた。他の皆もそんなバルファルクの様相に気付き、苦悶の表情を上げる。
「…あれだけの攻撃を受けてもまだ…」
「…どうすれば…」
レヴィ、ミネルバが小さく呟くように答える。それを聞いたヒノエとミノトも、万策尽きたように表情を硬いものにする。
「奇しき赫耀のバルファルク…」
「奴は…強すぎる…」
ヒノエとミノトの言葉に、他の皆も目を細め、バルファルクの姿を睨むようにして視線を固定する。
「…まだだ…望みを捨てちゃならねえ…」
そんな皆の不安を払拭するように、エルフマンが呟く。
「で、でも…あのジンオウガですら怯ませた…いや、それ以上の技をもってしても倒せないんだよ…」
ハッピーはエルフマンの言葉に、酷く狼狽して口を開く。エルフマンがかつて、ドラゴンレイドの際に戦った雷狼竜ジンオウガ。その際に発した第6景門による朝孔雀以上の技をもってしてもバルファルクを追いこめていない状況に、絶望の色が滲み出ていた。
エルフマンは、ハッピーの言葉をしっかりと噛みしめながら、何かを決意したような表情を見せる。
「…エルフマン…」
ラクサスは、そんなエルフマンに向け、心配そうに言葉を投げた。
「…確かに、望むことすべてができるわけじゃない…。しかし、やるべきことは、いつも望んでから出なければ始まらん…」
エルフマンのその言葉に、一人の男が大きく目を見開いて見せる。
「ッ!ま、まさか…最後の死門を…ッ!!」
その男はギルダーツであり、酷く困惑しながら声を発した。それを気にも留めずに、エルフマンは小さく息を吐いたかと思うと、真剣な様相でゆっくりと口を開いた。
「…どうやら、最後の門を開くときが来たみたいだ…」
そう言い放つエルフマンの背中は、いつも以上に、どこか大きく見えるようであった。

エルフマンの昼虎を真っ向から受け、それでも未だ強大な畏怖を覚える様相を見せているバルファルクは、魔導士たちを見下ろすようにして滞空している様子を見せる。そんなバルファルクの様子をじっと眺めながら、エルフマンは睨みつける視線を崩さない。そんなエルフマンの背中に声を浴びせるようにして、ギルダーツとマカロフが口を開く。
「まさか…最後の死門を…ッ!」
「それはダメじゃ!!このわしが許さん!!何より、ここにいる誰も、それを望んではおらんッ!!…アレンですらきっと…ッ!」
2人の狼狽した様子に、エルザやミラたちは一体何が起こっているのか理解できないと言った様子で疑問を投げかけようとするが、それは遮られることとなる。
「いや…俺が望んでいるんだ…」
エルフマンはそう小さく呟くと、とある過去の記憶を思い出す。約8年前…ミラやリサーナと共にアレンに救われ、フェアリーテイルに加入して間もない頃の記憶であった。
何かを悩んでいる様子を見せる幼いエルフマンの頭を、アレンがそっと手を添えている…。
『いいじゃないか…。例え臆病で小心者でも、立派な魔導士になりたい…か。ふふっ!!頑張る価値のある、いい目標だ…』
アレンのそう言い放った言葉に、幼いエルフマンは目を見開きながらアレンを見つめる。
『エルフマン…。俺はいつでもお前の味方だ…。だから、お前は自分の信念のもと、自分の道を突っ走ればいい…』
アレンはそう呟くと、ニカッと笑って見せる。
『…俺が笑ってみてられるくらいの…強い男になれ…!!』
…エルフマンは、そんな記憶を噛みしめるようにして、ゆっくりと口を開く。
「魔導士としての力は…アレンからもらった…。家族との幸せな時間は、姉ちゃんとリサーナからもらった…。敗北の悔しさは、ラクサスからもらった…。愛する女がいることの楽しさは…エバからもらった…。そして…」
エルフマンの言葉に、ミラ、リサーナ、ラクサス、エバーグリーンがどこか感慨深そうにしている。…そして、些少の不安の色も、4人からは見て取れた。
「仲間がいることの喜びは…フェアリーテイルから…みんなからもらった…!」
その場にいる魔導士、特にフェアリーテイルの魔導士たちは、目を見開き、感動するような表情を浮かべている。
エルフマンは些少の恥ずかしさを持ちながらも、決心したように言葉を続ける。
「満足だ…。あとは、それを最後まで守り通す…!」
エルフマンは、そう言い放つと、一瞬で身体に緑色の魔力を放出させ…第6門である景門をこじ開け、バルファルクへと走って向かっていく。
「ま、待つんじゃ!!エルフマン!!!」
「よ、よせーっ!!」
マカロフ、ギルダーツが制止するように声を掛ける。だが、圧倒的な速度をもって走り去るエルフマンを捉えることはできず、その制止は虚空を漂うこととなる。
「い、一体何だってんだ!!」
「何をする気なのっ!!」
「エルフ兄ちゃん!!」
「エルフマン!!」
ナツ、エバ、リサーナ、ミラも状況が理解できずに、先の2人と同様に声を張り上げる。
エルフマンは、そんな声を背中で受け止めながら、心の中で自身の思いを打ち明けるようにして言葉を浮かべる。
「(心よ燃えよ…魂よ咆えよ!!)」
エルフマンを纏う緑色の魔力が、徐々に赤いものへと変貌を遂げる。エルフマンは自身の両腕を顔の前でクロスさせながら、バルファルクとの距離を更に詰める。
「(…今こそ、自分の大切な者を…死んでも守り抜くときーっ!!)」
「第八死門ッ…かあぁーーーいぃ!!!!!!」
そう言い放ち、両の腕を左右へと振りかぶった瞬間、先ほどまで纏っていた緑色の魔力は完全に真っ赤に染め上がり、まるで爆発でも起こったかのような轟音と様相を見せる。
「八門遁甲の陣っ!!!!!!!」
エルフマンの放つ赤き魔力を目にしたバルファルクは、ゆっくりと目を見開いたかと思うと、口角を上げ、不敵に笑って見せる。感じる魔力…そして畏怖…。それがアレンと対峙した時と似たものであることに、武者震いを感じたからだ。
「ッ!面白いっ!!!!」
「はあぁっ!!!…ッ!『夕象』!!!!!!」
バルファルクがそう言い放ったと同時に、エルフマンは疾風の如き速度で、拳を振り下ろした。 
 

 
後書き
ストック話数は3話分となっております。
次回の投稿日の予定は未定となっておりますが、体調が順調に回復に向かえば、10月2日ごろを考えております。
暫し、お待ちいただければと思います。  
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