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展覧会の絵

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第七話 老婆の肖像その十六

「今回はまさにです」
「そうした輩達が集りそのうえで」
「悪を為していっていますね」
「小悪党が為すことは何処までも小悪で」
 雪子や由人といったサイコパスと思われる者達をだ。十字は小悪党と看破した。
 そしてそのうえでだ。彼等の為すその悪について言うのだった。
「幾ら集ってもその悪は小悪だよ」
「そして醜い悪ですね」
「そう。小さな悪は醜いものだから」
 そこが大悪と違うというのだ。人間の負の感情が様々に入り混じるからこそ。
「僕は大悪はすぐに裁きの代行を下すけれど」
「小悪にはですね」
「僕の権限で。最大限の裁きを下すよ」
 こう言うのだった。ここでも淡々と。
「そうする考えだからね」
「そうですね。それが枢機卿のやり方ですね」
「汚物は消毒するしかないよ」
 この言葉にも感情はない。だが。
 そこにあるものは冷徹であり残虐、そして執拗だった。そういったものを含みつつだった。
 十字は神父にだ。今度はこう述べたのだった。
「ではね」
「今度は理事長の屋敷にでしょうか」
「調べようか。それにしてもね」
「はい。また一人ですね」
「毒牙にかかるね。止めたいけれど」
「それはできるでしょうか」
「できる限り努力はするよ」
 悪を止めること。それもだというのだ。
 だがそれについてはだ。十字はこう言うのだった。
「けれどそれはね」
「難しいですね」
「神が定められた運命なら」
 神、十字が絶対の信仰を捧げるその神の意志があった。
「それは防げるけれど」
「運命がそうでないのなら」
「僕にそれはできないからね」
「それも常ですね」
「悪が裁かれるのは絶対の運命」
 これは絶対だった。
「しかし。悪が未然に防がれることは」
「それはですね」
「不確かな運命だからね。そして」
「そしてですね」
「悪は。誰もが乗り越えるものだから」
 十字は自身の信じる悪の定義をだ。また述べた。
「神はあえてその悪を用意される」
「悪辣な輩を介して」
「人はその悪を乗り越えてね」
「枢機卿が悪への裁きを代行される」
「そうした役割になっているからね」
「悪を防ぐことはですか」
「僕には出来ないことが多いね」
 具体的にはだ。彼は悪を裁く者であり悪を防ぐ者ではないというのだ。
「残念だけれどね」
「そうですね。それぞれの役割がありますから」
「うん。そう思うよ」
「では」
 あらためてだ。神父は十字に述べた。
「枢機卿のできることをですね」
「するよ。そしてだね」
「はい、私もです」
 神父自身もそうするとだ。彼はこくりと頷いて答えた。
「そうさせて頂きます」
「そしてそのうえで悪の裁きをね」
「神に代わり行いましょう」
「これは法皇庁が神に与えられた務めでもある」
 バチカンの存在と務めの根拠がだ。ここで述べられた。
「だからこそね。僕もね」
「務めを果たされますか」
「神の定められたことなら」
 それならばだというのだ。
「必ずね」
「そうですね。だからこそ」
「共に働こう」
「わかりました」
 こう言葉を交えさせてだ。そのうえでだった。
 十字も神父もそれぞれ動くのだった。神父も教会を留守にする様になった。一つ一つだが確実にだ。十字はその時に向かっていた。彼がその務めを果たす時に。


第七話   完


                  2012・2・27 
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