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展覧会の絵

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第七話 老婆の肖像その十一

「じゃあおっさんから話があってからか」
「俺達がそのお下がりを頂くか」
「今度もヤク使って楽しくやるか」
「あれやったら最高にいいからな」
 こんな話をしながらだ。四人は深夜のゲームセンターでたべりつつだ。これからの話をしていた。だが闇の中での話は表にいる者達にはわからない。
 雅はだ。猛にこんなことを話していた。
 空手部の部活が終わり今日は塾がないのでそのまま猛の道場に向かう途中にだ。雅は言ったのだ。
「理事長さんに呼ばれたのよ」
「塾の?」
「そうなの。何かお話したいことがあるって言ってね」
「じゃあつまりは」
「そう。十階にね」
 誰も入ることのできないだ。その場所にだというのだ。
「呼ばれたのよ」
「あの階ってどうやって入ることができるの?」
 実は猛はこのことを知らなかった。それでだ。
 首を捻りだ。そしてこう言ったのである。
「エレベーターだって。十階には」
「行かないわよね」
「しかも階段さ。十階に行くことは」
「鍵かかってるからね」
「行けないじゃない。どうやって行くんだろ」
「それは案内してくれる人がいるのよ」
 雅は猛にこのことを話した。
「ほら、清原さん」
「ええと。清原さんっていうと」
 その名前を聞いてだ。猛は己の記憶を検索した。そのうえでだ。
 少し自信なさげな顔でだ。こう言ったのである。
「あの人だよね。料理部の」
「そう。清原先生の妹さんでね」
「そうだよね。それで理事長さんの姪御さんです」
「あの人が案内してくれるらしいのよ」
「十階になんだ」
「あの人理事長さんの親戚でよくしてもらってるらしいから」
 血縁関係、それ故にだというのだ。
「だからね。十階に案内してもらえるのよ」
「そうなんだ。それで何で理事長さんに呼ばれたのかな」
「何かね。入塾テストの成績がかなりよかったらしくて」
「ああ、あのテスト」
「それでらしいのよ」
 雅はその辺りの事情はあまりわからなかった。それでだ。
 首を傾げつつだ。そしてこう言ったのである。
「理事長さんが私に会いたいって」
「成績優秀だから」
「そうみたい。けれどおかしいわよね」 
 ここでだ。雅は直感的に何かを感じて述べたのだ。しかしだ。
 感じたものは具体的な形ではなかった。悪いものもだ。それで今はこう言ったのである。
「私だけ呼ばれるのって」
「ああ、そういえばあの転入生の」
「教会にいるね。彼ね」
「佐藤君だったかな。イタリアから来た」
「彼。私より遥かに成績いいらしいけれど」
「この前の中間テストの結果見たよね」
「見たわよ」
 真剣な面持ちになってだ。雅は猛に答えた。
「一番だったわよね、学年で」
「それも全学科でね」
「殆ど満点で」
「絵に描いた様な。彼は美術部だけれど」
 この辺りは駄洒落めいたものになっていた。美術部は絵を描くものだからだ。
「それでもね」104
「ええ、本当にそんな感じの秀才よね」
「天才っていう感じはしないけれど」
 十字が人に与える印象はそちらだった。彼は雰囲気からも秀才タイプとわかる感じなのだ。
「それでも。抜群の秀才だよね」
「そうよね。けれどあの人はね」
「呼ばれてないんだ」
「そうみたい」
 今一つはっきりしない感じでだ。雅は話した。 
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